第104話 『 その執事、不死身につき 』
「僕ら二人を相手に一人で戦うつもりですか?」
……ノエルと名乗った男が軽薄な笑みを浮かべ、灰色の建物の上からこちらを見下ろす。
「無論、勝つつもりだよ」
「思い上がりもここまでくれば清々しいですね」
ノエルはルシアと目を合わせる。
「ここは僕一人で十分です、ルシアは先程の侵入者を追ってください」
「わかりました――〝黒扉〟」
ルシアと呼ばれた黒いドレスの女が黒い空間を展開する。
――銃声が鳴り響く。
「 行かせないよ 」
「――なっ!」
……僕は既にルシアの真横に立っていた。
「――がっ」
僕に殴られ、ルシアが吹っ飛ばされる。
「ルシアッ! 無事ですかっ!」
「――っ! この男、瞬間移動使いかっ」
「 ハズレ 」
――銃声が鳴り響くと同時に僕はルシアの背後に回り込み、拳を振り抜く。
「 〝蛹〟 」
――ノエルがルシアの前に割り込み、僕の拳を受け止めた。
「これは硬――ィッ!」
鈴 虫
――衝ッッッッッッッッッ……! 僕は衝撃波を打ち込まれ、堪らず吹っ飛ばされた。
そのまま僕は空中を滑走し、建物に叩きつけられ、瓦礫に呑み込まれる。
「今のは間違いなく直撃しましたね」
ノエルが安堵の息を吐く。
「いや、直撃しただけだよ♪」
――僕は既にノエルの背後いた。
「――無傷!」
「今は、ねっ」
僕はノエルを羽交い締めにする。
「絞め殺すよ♪」
「――っ」
一度絞めてしまえば硬度を変えても関係ないであろう。
「――ぐっ……〝甲〟っ!」
「かはっ……!」
――ドッッッッッ……! ノエルの背中から強靭な角が飛び出し、僕の腹を貫いた。
「どうですかっ! 今度は確実に殺りましたよっ!」
腹から大量の血液が吹き出す。
「……なっ!」
それでも拘束を解かない僕にノエルが驚愕する。
「言ったろ、君は絞め殺すって♪」
「――っ!」
「ノエル様っ!」
徐々に酸素が足りなくなってきたのか、ノエルの表情に余裕が無くなってくる。
「――〝蟷螂〟っ!」
――斬ッッッッッッッッッ……! ノエルが両腕を刃に変え、僕の腕を切り落として離脱する。
僕は落下しながら口内に仕込んでいた即効性の毒薬を噛み砕く。
「……消えた」
突然姿を消した僕にノエルが驚愕する。
「 ここだよ、ここ 」
『――ッ!?』
僕は小銃を構えていた男達の真ん中に立っていた。
「うっ、撃
――パンッッッ……。誰かが引き金を引くよりも早く、僕は自分のこめかみに弾丸を撃ち込んだ。
「……じっ、自害だとっ」
兵士の一人が困惑する。
――そこで気がつく。
「…………手榴弾?」
自分等の足下に手榴弾が何個も転がっていたことに……。
――轟ッッッッッッッッッ……! 大爆発が二個小隊を吹き飛ばした。
「……これで雑魚は片付いた、と」
僕は既に幾つもある建物の内の一棟の屋上に立っていた。
「……貴方の能力、大方予想は付きましたよ」
ノエルが蝿の翼で飛翔しながら、微笑する。
「 不死身 」
……そして、とノエルが付け加える。
「死亡して蘇生する場所を選択できる〝奇跡〟、って所ですかね」
「……」
……正解だ。ノエルの予想は当たっている。
僕の〝奇跡〟――〝絶対蘇生許可証〟は如何なる死からも蘇生する力である。
そして、蘇生するタイミングや場所は彼の言う通り選択することが出来るが、必ず選択できる訳ではない。
蘇生するタイミングや場所を選べない日と選べる日が交互に訪れ、選べる日であれば無制約で時・場所を選択でき、選べない日であれば蘇生する時・場所はランダムに抽選された。
……そして、日付が変わる一時間後までは〝選べる日〟であった。
「素晴らしい力ですね、ですがあまりにも非力過ぎます」
「……」
そう、彼の言う通り、僕は彼等に決定打と呼べるダメージを与えきれていなかった。
「所詮は時間稼ぎ用の能力、その程度では雑兵は殺れても、我々〝超越者〟は殺れませんよ」
「 それはどうかな? 」
……僕は微笑し、ノエルは笑みを消す。
「確かに僕自身は非力だ。だけど、力等工夫や準備でどうにでもなるんだよ」
――パンッッッ……。僕は自身の頭を撃ち抜き、十数秒後に建物の横に瞬間移動した。
「……それは?」
ノエルが僕に訊ねる。
「これかい? これは――……」
一度、ペルセウス王宮に行き、再び戦場に戻った僕の手には、禍々しいオーラを放つ刀が握られていた。
「 〝魔王〟 」
――〝魔王〟。
……ペルセウス王宮の武器庫に眠る、伝説級の魔剣である。
その黒い刀は全てを斬り裂く。
しかし、その代価として使用者に凄惨たる死が訪れるとされている。
故に、僕以外に使用する者は今までいなかった。
(……まっ、僕には関係のない話さ)
僕は不死だ。凄惨たる死など恐くはない。
「……」
――スッ……。僕は静かに〝魔王〟を薙ぐ。
次 の 瞬 間 。
――斬ッッッッッッッッッ……。僕の隣の建物が斜め一線、崩れ落ちた。
「さて、決着と行こうか」
……〝魔王〟が月光に照らされ、妖しげに光を放った。