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オリエンタル鈍行の別人  作者: 真山砂糖
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5 正義のヒーロー覆面バイカー

さあ、捜査開始かな。

 私と大村さんは先頭車両から出て、三号車の個室客車へ向かった。二号車から三号車へつながる通路から三号車を覗くと、高木が四号車の方へ向かうのが見えた。高木が三号車から出たのを見てから、私たちは三号車へと入った。

 私は高木の個室の前で足を止めた。すると、右隣の部屋から男性が出てきた。私はこの男に尋ねてみた。

「すみません、警察です」

「……え……あ、はい……」

「この列車に不審な人物が乗っているという情報がありましたので、個室の乗客を調査しに来ています。ご協力をお願いします」

「……」

 男性は目が泳いでいた。何か事情がありそうだった。私はこの男性をじっと見た。彼は弱々しく口を開いた。

「……はい、どうぞ中へ」

 私と大村さんは個室の中へ入った。そこにはボブヘアの女性と小学生の男の子がいた。

「……警察の方だ」

「えっ!」

 女性は警察だと聞いてひどく驚いた。男性も深刻な顔をしていた。

「今の驚き様、普通ではありませんね。皆さん、何か理由があるようですが、話していただけますか?」

 家族三人とも黙り込んだ後、女性が悲痛な顔で訴えてきた。

「……実は、家族が、平蔵が誘拐されたんです」

「誘拐っ!?」

 大村さんは思わず大声を上げて驚いた。

「落ち着いて下さい。お話を伺いますので。大村さん、乗務員室に連絡して。今から事情を聞くのに使わせてもらいたいの」

「はい、わかりました」

 私たちは先頭車両へ向かうために個室を出た。そこで、特撮ヒーローものの衣装を着た青年が近づいてきた。

「どうかされましたか?」

 私は、この青年がいきなり話しかけてきたので警戒した。

「いえ、大したことではありませんが、何か? 別に心配されるようなことではありませんが?」

「あ、いや、アテンダントのお姉さんが部屋から飛び出してきて、血相変えて電話してるし、何かあったのかなって」

 確かに何か起きたと勘違いされても仕方がない状況ではあった。

「お客さまから体調がすぐれないという申し出がありましたので、これから乗務員室へ行って休んでいただきます。どうぞご心配されませんよう、お願いいたします」

 私が鉄道会社の関係者のふりをしてそう言うと、この青年は一瞬私の言動を訝るような目つきをした。

「そうでしたか。失礼しました。何かお手伝いしましょうか?」

 青年はお節介をやくように話してきた。

「いえ、われわれ係員がやりますので、ご心配なく。こちらのご家族と何かご関係でもおありでしょうか?」

「いえ、特に」

「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「名前ですか。僕、中林といいます。コスプレ同好会で活動しています。怪しい者ではありませんので、お手伝いしますよ」 

「中林さま。お客様にお手伝いいただかなくても、係員が対処しますので大丈夫です。失礼ですが、少々お節介が過ぎるのではないでしょうか?」

 私は中林さんに疑いの目を向けた。

「いやあ、ほら、僕、正義のヒーローだから」

 そう言うと、中林さんは覆面をかぶってポーズを取った。

「変身! 覆面バイカー、とうっ!」

 青年と同時に小学生の男の子も同じセリフを言いながら同じポーズを取った。

「……あっ、ああ、そうですね、正義の味方ですもんね。でも大丈夫ですので、お気持ちだけ受け取らせていただきます。それでは」

 私と大村さんはこの家族を誘導しながら先頭車両へ向かった。男の子が正義のヒーローに手を振っていた。振り返ると、中林さんもこちらに手を振っていた。

おや、変なヒーローが登場しましたね。

単なるヒーローのコスプレなんですけどね。

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