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オリエンタル鈍行の別人  作者: 真山砂糖
1/13

1 始まり

刑事が休暇を取り、鉄道旅行「オリエンタル鉄道悠悠プラン」に申し込みました。

まずは事件に巻き込まれるまでのお話です。

 私は、香崎小春。職業は刑事。階級は巡査。T県警の刑事課でバリバリ活躍していると言いたいところだったが、その実そんなことはなく、暇を持て余していた。半年前に私が解決に導いた某旅館の男湯露天風呂で起きた殺人事件以来、管内で大した事件は起こっていなかった。もちろん、事件など起こってほしくはない。むしろ、起こるな、と口を酸っぱくして言いたい。警察が暇なのは世間にとっては良いことだ。そう思っていた矢先、なんと、事件が起こったのだ。またしても前回のような不可思議な事件が。

 6月下旬、私は休暇を取り、一人で他府県へ旅行に出かけた。もしも事件発生の報があれば、直ちに旅行を中止して仕事に戻らなければならない、刑事の宿命である。その覚悟あっての旅行だった。しかし、事件が起きたのは、私の旅先だった。前回のように、以下に、その事件の詳細を記す。


 その日、私はN県のローカル鉄道会社が期間限定で運行している「オリエンタル列車」に乗車していた。その会社が提供する「オリエンタル鉄道悠悠プラン」に申し込んだからだ。全長29キロの路線を往復する、豪華客車を模したオリエンタル列車に乗って、山、川、渓谷などの自然あふれる景色を堪能するプランだ。その路線はローカル鉄道として営業中であり、地域住民の足として機能していた。だからオリエンタル列車は鈍行として通常列車の合間を走るのだ。しかし、オリエンタル列車はどの駅にも停車せずに往復58キロを2時間かけて走り続ける。ゆえに、その間、豪華客車オリエンタル列車は密閉された空間となるのだ。

 私が選んだのは、「午前11時発/昼食/午後1時着」のプランだ。私はゆとりを持って出発の30分前に乗車できるように駅に到着した。バス停から徒歩で20分かけてたどり着いた駅は小高い丘の上にあり、山々に囲まれていた。景色も空気も新鮮だった。乗車開始時刻にはすでに乗客が駅の待合室にぞろぞろと集まり始めていた。私は列に並んで、30番目くらいに乗車できた。

 オリエンタル列車は思っていたよりも内装が豪華で、天井が高く広々と感じられた。7両編成での運行だった。先頭車両には運転室と乗務員室があり、二番目の車両は展望車で、三番目と四番目の車両は乗客用の個室客車コンパートメント・コーチになっていた。五番目はラウンジカー、六番目が食堂車、そして最後尾の七号車が展望車という編成だった。

 二、五、七号車から乗車できるようになっていた。私は七号車から乗車した。その際に鉄道会社の職員から、特製手提げ袋に入った手土産を渡された。フォトブック、クリアーファイル、カレンダーなどが入っていた。

 私のは個室のない最安値プランだった。だが個室を取っておけば良かったと若干後悔してしまった。なぜなら、桜や紅葉の時期とずれているし、その上、平日であるにもかかわらず、乗客が100名以上いることがわかったからだ。

「あの、乗務員さん、今の車内アナウンス、100名って言ってませんでした?」

「ええ、そうです。本日この便には100名を超えるお客様がご乗車される予定です」

 私の質問にアテンダントのお姉さんが笑顔で答えてくれた。お姉さんといっても、私より4、5歳下に見えるのだが。

「100人以上ですか?」

「ええ、乗車料金が無料のお子様も何名かいらっしゃいますので、100名を少し超えると思われます」

「あ、の、ホームページでは今は閑散期だということでしたが……」

「申し訳ございません、お客様。なぜか本日のこの便だけご予約がたくさんありまして。一応ホームページには、最大定員は120名だと記載しております。今回は運が悪かったということで、何卒ご理解をお願いいたします」

「はあ、そうですね。こういう運が悪い時もありますよね。すみませんでした」

「あ、いえ、こちらこそ。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

「いえ、とんでもありません。すみません、文句を言ったみたいで。どうぞ、気になさらないで下さい」

「……はい……うっ」

 アテンダントのお姉さんがどういうわけか涙ぐんだ。

「あの、ごめんなさい、なんか私が変なことを尋ねてしまって……」

「いえ、違います。そうじゃないんです。ありがとうございます……私、この仕事始めてまだ三カ月なんです。昨日もミスしてお客様から怒鳴られたばかりで……それで、優しい言葉をかけて頂くと、なんか涙腺が……」

「あ……、あの、私も実は仕事で新しい部署に移ってからまだ半年くらいかな。そういう気持ち、わかります。だから、全然気にしないで」

「……ありがとう……」

 彼女は少し気持ちを落ち着かせてから私に一礼し、仕事に戻った。私は彼女のネームプレートをチラッと見た。

「えっと、大、村。大村さんか」

 乗客が次々に乗ってきたので、私は最後尾の展望車へ移動した。

次に続きます。

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