16話 ケイタイ販売始動②
ドンドンドドドン ドンドンドドドン
バラック小屋に太鼓の音が鳴り響く。
その音は、一台のケイタイから鳴っていた。
困った事にトキジロウが作るケイタイの呼び出し音は電話っぽくなかった。
「あ… 出来たか」
トキジロウが、ケイタイを手に取り受信ボタンを押す。
ケイタイから男の声が聞こえてきた。
☎「ど… どうも ご注文の金型が出来上がりました」
☎「おう これから取りに行く」
☎「ありがとうございます これ… 便利ですね」
☎「ん? ああケイタイな 便利だろ 取引先とかにあると便利だよな」
☎「はい! 良かったら売っているところとか知りませんか? 」
☎「ああ 近いうちに販売するそうだ その時に買えよ」
トキジロウは、ケイタイの切断ボタンを押し会話を切った。
今まで使っていた金型に、ストラップ用の穴を細工した金型に作り直してもらっていたのだ。トキジロウは、金型が出来上がったら連絡をしろとケイタイを店主に預けていたのだ。
「誰か乗せていってくれ 金型屋まで」
「あたしが行くわ 行きましょう」
メイサが、カウンターで名簿を見ていたが乗せていってくれるという。
金型屋に到着したトキジロウ。
馬車を降り、金型の代金を支払う。
預けたケイタイを返してもらい馬車に戻ろうとするが店主が引き止める。
「何だ? どうした」
「お客さん… ケイタイの販売は何時頃になりますかね? 」
「近いうちとは聞いているが 何でだ? 」
「欲しいんですよ ケイタイは私にとって非常にありがたいものです」
(このオヤジ… ケイタイの便利さに気付いたか)
「わたしは見ての通り歳も若くはありません 取引先にケイタイを置き商談を済ませられたらどんなに楽か… 」
トキジロウは鑑定した。
(歳は六十八か… そんなに辛いのか? )
「オヤジ… このケイタイ いくらなら買う? 」
「一台、ハーフト銅貨一枚くらいでしょうか… 」
「取引先は何軒だ? 」
「頻繁に取引するのは三軒ほどです」
(親機一台とプラス子機三台か… ハーフト銅貨一枚で出すと銀貨二枚か)
二台のケイタイを作るのも四台のケイタイを作るのも然程の手間でもない。
(待てよ!? 試作した1+3があったな って、止めとこう 売る時は一気に売らないとな… )
「オヤジ 販売日が決まれば教えに来てやる それまで待ってろ」
「はい よろしくお願いします」
トキジロウは、馬車に乗り込むとハンター協会に向かった。
「ハンター協会に何か用事なの? 」
不思議そうにメイサが質問した。
ハンター協会に到着したトキジロウ達。
「ここで、ケイタイの宣伝をする 中に入ったらケイタイを鳴らしてくれ」
「宣伝? うん わかったわ 協会に入ったら鳴らせばいいのね? 」
トキジロウは、ハンター協会の中に入るとフロアーを進む。
依頼掲示板の辺りで立ち止まる。
今日もハンターが百名ほど協会にいた。
カウンターを覗きこむとソフィアがハンターを相手に接客中だった。
ドンドンドドドン
ケイタイの着信音が鳴り出した。
依頼を探すハンター達が一斉に振り返った。
カウンターで業務をしているソフィアもトキジロウに気がついた。
トキジロウは、上着の内ポケットからケイタイを取り出した。
受信ボタンを押し会話をはじめた。
☎「おう 俺だ どうした? 」
☎「ちょっ!? どうしたって… ああ なるほど」
☎「何だよ…… 」
☎「フフッ 顔に似合わず芸が細かいのね」
☎「ひとこと余計だっつーの! 後でかけ直す」
電話を切るトキジロウの様子に周りがざわつく。
「ねえ… 今のって精霊電話? 」
「たぶんな 凄いな 持ち歩いて会話も出来るのか」
「おい にーさん それは、なんだい? 」
突然、ハンター達の質問攻めに合うトキジロウ。
「ああ これな これはケイタイっていうのさ あれ? 知らねえの? 」
「はじめて見たぜ… 」
「かわいい… アクセサリーもいいわ」
「まあ これはペアケイタイだから一人としか会話出来ないけどな」
「「「ペアケイタイ… 」」」
「なっ!? 複数同時に会話が出来るのがあるのか!? 」
「あるぜ? 俺が知ってるのは五人同時会話が可能だ」
「「すげぇ! ちょっと! どこで売っているんだ 教えてくれよ!! 」」
(かかったな! いい鴨だぜ…… )
「何でも、近いうちに販売があるらしいぜ 一台銀貨一枚かハーフト銅貨一枚で売るらしい 詳しい事は知らないけどな」
「販売日が決まったら教えてくれないか? あんた名前は? 」
「俺? トキジロウだ 用事があるならメイサのところに来な」
再び驚くハンター達。
「メイサって あのメイサか? 」
「あ!? あのメイサって… 何人もいるのかよ? 」
「ダンジョンマスターのメイサのことか? 」
「そうだ 今、しゃべっていたのもメイサだ」
「メイサのダンジョンはハンター仲間の間じゃ有名さ」
「ああ メイサとハーグのダンジョンだけだよ 三十階層あるなんて」
「そうそう ヘルパーも雇っているし、あの若さでたいしたもんだよ」
(ふーん… あいつ有名人かよ)
メイサの知名度をはじめて知ったトキジロウ。
そんな会話をしているとカウンターのソフィアが近付いてきた。
「何の騒ぎです? トキジロウさん」
腰に手を当てトキジロウをキリッとみたソフィア。
「いや、もう終わりだ んっ そうだ! 」
「――!? 」
トキジロウは、内ポケットから別のケイタイを取り出す。
会話をはじめたトキジロウ。
☎「おう 何してんだ? 」
☎「トキジロウさん どうしました? 」
☎「いやな ちょっと聞かせたい声があったんでな 今変わるよ」
トキジロウはケイタイをソフィアに渡した。
ケイタイを眺めるソフィア。
「何ですか これ? 」
「しゃべってみな」
不審そうにケイタイを見つめるソフィア。
ソフィアが長い耳にケイタイを当てると声が聞こえた。
☎「ソフィー!? ソフィーなの? 」
アマンダが呼びかけていた。
☎「――ねっ!? ねえさん!? 何で姉さんが」
☎「ソフィー たまには飲みに来なさいよ って、なんでトキジロウさんと」
☎「トキジロウさんが協会に来ただけで 何でもないわよ」
☎「そう? それならいいんだけど」
☎「何それ!?」
☎「彼は私の大事なお客様よ? 」
☎「ふーん そうですか… じゃあまた」
ソフィアは切断ボタンを押しケイタイをトキジロウに突き返した。
キリッとトキジロウを睨むとカウンターの奥に戻る。
ハンター達の反応は素晴らしかった。
通信手段に疎いであろう、この世界の住人達。
(仕込みは終わりだ 販売日前日に張り紙でもしてやるか)
メイサの元に戻り小屋に戻る。
今日から数日間、ケイタイを作る日々がはじまった。