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月影の星座治し  作者: 雛月織
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1話 かに座の守りたいもの 1


私の学校には、いくつかの部活動が存在する。私が所属する天文学部もその一つだ。

創部から100年の歴史を誇る天文学部も、今では活動が緩そう、という理由ですっかり幽霊部員の巣窟となっている。

きちんとした部員も私だけで、私は一年の頃からこの天文学部の部長を務めていた。




とは言っても、私も特に積極的に活動をしているわけではないが。




それはともかく、昨年定年退職していった天文学部顧問の木村先生の代わりにに顧問を務めるはずの教師は、なぜか一ヶ月学校に来ていない。

担任の教師の説明では、やむを得ぬ事情で休暇を取っているらしい。




なので、ここ一ヶ月この部室を使用するのは私だけで、実質私の私室と化していた。こんな事情も相まって、部室は私にとって、とても都合のいい逃げ場所だった。



だから、少し油断していたのかもしれない。



確か、薬は三つ目の棚に置いたな、と考えながら扉を開けると、部室に見覚えのない男が立っていた。



その男は、



「あれ、君が華倉鏡香さん?」



と聞くと、薄く微笑んだ。



「今日からこの天文学部の顧問を務めることになりました、月影八雲と言います。どうぞよろしく」



黒い髪に翠の瞳、そして、顔の造形が気持ち悪いほど整った男が、作り物のような笑顔でそう言った。





「あぁ……」



数時間後、私は家でぐったりと机に突っ伏していた。外はすっかり暗くなり、空には美しい月や星が瞬いている。



それらをぼんやりと眺めて考える。



今日は散々だった。あの胡散臭い教師はそれはそれはモテた。



教室に入ってきたときの女の反応は、思い出しただけでも頭が痛くなる。



自己紹介の後に微笑んで黄色い悲鳴、横の髪を耳にかける仕草で黄色い悲鳴。挙句に普通に歩いていても黄色い悲鳴。




薬と私の努力でやっと治した頭痛が、女どもの黄色い悲鳴のせいで再発した。

おかげで一時間目の物理の内容がほとんど頭に入らず、物理教師の穂住先生に何度も小突かれた。




〜「頭痛ってお前な…薬常備してるくせに何言ってんだ。もうそろそろ楽しくなってくる頃だろ?」


「ふざけてますか、あなたちょっと楽しんでるでしょう。

わざわざ誤解を生むような発言やめてください。」


「はいはい」〜



さらに追い討ちをかけるように、あの男は私に構った。

それはもう、嫌という程。



〜「華倉さん、何読んでるの?」


「…本です」


「ギリシャ神話か、いいね、僕も好きだよ」


「はあ」〜



〜「華倉さん、今日の部活動は何する予定?」


「特に予定はありません(そもそも活動できるほど意欲のある部員は私含めいません)」


「それじゃあ、今度の天体観測の計画を立てようか」


「……………はい」〜



…あ、なんか胃まで痛くなってきた……


なんというか、所々私の考えを読んでいるように行動するところが普通に怖い。

みなには通用していた構わないでオーラも、この男には一切効かなかった。



「…あぁ…」



明日もあれと顔を合わせなきゃいけないなんて…



私は本日二度目のうめき声をあげ、静かに目を閉じた。




ガタガタッ



そんな物音で目を覚ました。



「…ぅ………何…?」


私がすんでいる部屋は、上の階の住人がいない。私の叔母が、何かあっては面倒だからと最上階の部屋を借りたのだ。



物音は、天井の方から聞こえた。つまりは、屋根の上から。



「…なんだ…?」




カラスが出すような音じゃなかった。このマンションにはベランダがあるので、泥棒も屋根の上まで登る必要がない。



低血圧でズキズキ痛む頭を抑えながら立ち上がる。


ベランダで屋根の上を確認しようと窓の鍵に手をかけた瞬間、人影が落ちてきた。


「…は……」




いや、降りてきた、といったほうが正確だ。

その人影はひらりとベランダに着地すると同時に、バタバタともがく物体を押さえつけた。


改めて見ると異様なほど大きな月を背景に、人影が立ち上がる。




「………」



一瞬、それが何かの景色に重なったような気がしたが、その男が振り返り、異質なほど輝く翠の瞳と目があった瞬間、一気に現実に引き戻された。



その翠の瞳の持ち主は、あの天文学教師だった。





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