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月影の星座治し  作者: 雛月織
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プロローグ

昔から、友達が少なかった。





「そうそう、三組の小口さん、最近様子がおかしいんだって〜

あとね…聞いてる?鏡香ちゃ〜ん」



「ああ、聞いてる」

ペラリ、とページをめくる。



「そう?じゃあ続けるね。今日からこのクラスの副担任の先生が来るでしょ?

その先生ね〜、天文学の先生らしいんだけど、すっごくイケメンなんだって〜!」


キャー、と盛り上がる彼女を横目に、ページをめくると、白鳥の挿絵が描いてあった。



正直なところ、私はイケメンとか心底興味がない。顔が美しいからなんだと言うんだ。

そんなことよりも有意義なことがこの世の中にはごまんとあるのに、たくさんの人がそんな恋愛話に花を咲かせる。全く理解ができない。



今読んでいるのはギリシャ神話、白鳥座の話だ。

たいそう美しいと噂のレダという女神が水浴びをしているところに、その美しさに魅せられたゼウスが白鳥になって降りていく。



…貴様もかゼウス。



はあ、とため息をつき本を閉じる。



楽しそうに喋っていたクラスメイト(藻塩さん?)は、いつの間にかいなくなっていた。



この本の裏表紙には銀色の糸で蟹の刺繍がしてある。

ギリシャ神話なんて蟹の話よりメジャーなものがあるのに、なぜ蟹なのだろうか。


ゆっくり蟹の刺繍をなぞりながらそんなことを思っていると、机に影が差した。



「あ、あの、きょう…華倉さん…お、おはよう…」


聞きなれた声がした。幼馴染のみなだ。


「おはよう」


それだけ返して、視線を外す。もうあなたと喋ることなんて何もないわ、と言うように。




「その、……いや、なんでもない…」




案の定みなは何か言いたそうに口を開いたが、うつむいて口を閉じると自分の席に戻っていった。




ゆっくり歩くみなをちらりと見る。



その瞬間、呼吸が止まった気がした。




みなの背中に、蟹がぶら下がっていたのだ。



頭ほどの大きさの蟹が、髪に掴まってぶら下がっている。




…なんだアレ。



どう見たっておかしいだろう、私は疲れているのだろうか。



そうだきっと疲れているんだ、昨日だってよく眠れなかった。



目をつぶって深呼吸をし、再びみなの方を見る。



…居る。



幻覚でもなんでもなかった。蟹は見間違いではなくそこにいた。


私が目を白黒させているうちに、蟹はみなの髪の毛に隠れてしまった。



「はあ…」



静かに頭を抑える。やっぱり私の見間違い?



心なしかただでさえ低血圧でひどい頭痛がさらにひどくなった気がする。




「あーあ、朝月さんかわいそー!折角ぼっちちゃんに声掛けてあげたのに!」



突然、甲高い声が響いた。




あっはは、マジそれな!と最初に話した子に同調するように彼女たちはキャピキャピした声で笑う、笑う。



彼女たちは心底私が気に食わないらしい。何かにつけああやって騒ぎ立てられる。

ズキズキと痛む頭にキャハハハ!と笑う声がガンガン響いた。



「…何か用?」



私がきゃあきゃあと騒ぐ彼女たちに声をかけると、一斉に笑い声がやんだ。




「べ、べっつに〜?」



私が話しかけるのは想定外だったらしい、随分とおどおどした返事が返ってきた。



「そう」




私がそう答えると、彼女たちは自信過剰かよキモッ、とひそひそ囁く。



気づくと、教室内で楽しそうに喋る人は誰もいなくなっていた。



誰もがチラチラとこちらを見ながら囁き合っている。



居心地が悪い。息の詰まるこの感じ、おばさんの家と同じだ。





ホームルームまでまだ時間がある。



頭痛は未だ治る兆しを見せない。確か、部室に頭痛の薬があったはずだ。



取りに行くか、と立ち上がる。それに正直、この嫌な雰囲気から逃げ出したかった。



教室を出て、扉が閉まる直前。



絶対あいつ母親殺してるって、目、やばかったじゃん!という話し声が確かに聞こえた。


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