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始まりの物語  作者: ユウキ
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 そこは静かな場所だった。


 何もない部屋のように音一つせず周りを見渡せば道に落ちているゴミのように死体や武器が転がっている。肉の腐った臭いや焼き焦げた臭いが気分を不快にさせる。仕事でなければ誰も来たくないだろうこの場所は二週間前に始まった戦争の戦場だ。


 家族を守るため、金を稼ぐため、国を守るため、それぞれの目的は違うが多くの戦士と傭兵がこの土地に来ては死んでいき今生きている人間は二人だけになった。


 一人は戦場にいた人間を虐殺した黒髪の男。もう一人は戦うのが怖く逃げ回っていた金髪の戦士。


 黒髪の男は血の付いた不気味な仮面で顔を隠し血で汚れた剣を握りながら汚れ一つない立派な鎧を着た戦士の前までゆっくり歩く。

 

 茜色の中男の足音が不思議と大きく聞こえ男の足音と共に戦士の命が終わりに近づいていく。


「頼む殺さないでくれ。大切な家族がいるんだ」


 血で汚れた剣を握る男が歩いて来るのを見て戦士は懇願する。


 出征した戦士のなかで一番弱い彼は男と戦う前から負けることを理解していた。なぜなら目の前にいる男は彼より強い仲間を次々殺し、それを彼は何もできずに見ていたのだから。


 それに仮面をつけた男は「始まりの一族」の唯一の生き残りと言われ世界中の人間から二十年以上命を狙われている人だ。


 生きている人間すべてが命を狙っているのに男は常に戦場に現れるのだ。逃げるのがとても上手いのかそれとも全ての兵を返り討ちをできるほどの力をもっているのか。怯える下級戦士はたぶん後者だろうと考えていた。


 どちらにしろ下級戦士である自分が勝てるような相手ではないと分かっていた。


 だから戦士は男に同情してもらうことにした。


「悪魔だの忌み子だの言われているあんたにだって大切な人はいるだろう。俺にも大切な妻と娘がいるんだ。身体の弱い妻では一歳の娘の育児が大変で俺が死ぬと稼ぎがなくなり生きていけなくなる。俺が二人を守らなくてはいけないんだ、こんな場所で死ねないんだ。頼む、見逃してくれ」


 戦士は土下座をして頼むが男の意思は揺るがない。戦士の事情がどうあれ戦場にいる。それだけで男は彼を殺すことにためらいはなかった。

 

「すまない」


 彼が戦場に来なければ殺さなくてよかった。男だって人を殺したくて殺しているわけではない。目的を達成するために殺すしかないのだ。


 男は謝罪の言葉を口に出す。初め戦士は何で謝られたのか分からなかったが、すぐに見逃せないと言っていると理解した。


 歴史上もっとも高額の賞金を懸けられた男が戦士の前に辿り着いた。それが死を意味することを戦士の端くれである彼でさえ分かっていた。


 彼の握る手と男が握る手の力が強くなる。


 戦士の思考には抗うという文字はなくただ願っていた。皆が一瞬で死んだように自分も苦しんで死なないように願っていた。


 しかし、戦士の妻と娘にたいする愛情は深かった。戦士が死ぬ間際二人の顔を思い出してしまったのだ。


 愛した人、愛してくれた人。家族のいなかった戦士にはそれがとても嬉しかった、誇らしかった。


 だけど、幸せな生活は今日で終わってしまう。そう考えてしまうと戦士の心に怒りが込みあがってきた。


 目の前にいる男が現れなければ生きて帰れたかもしれないのだ。男が生まれなければ男によって殺された人たちの命は助かったかもしれないのだ。


 全て目の前にいる男が悪い。


「憎んでやる」


 震える声で男を睨みつける。妻と娘がいる家に帰るんだ。そのためには怖くても立ち向かう。


「悪魔、お前を殺す」


 戦士は近くに落ちていた剣を取ろうと手を伸ばした瞬間心臓を貫かれた。運が良かったのか悪かったのか戦士はすぐには死なずまだかろうじて息があるが、体が痛く、熱く思う通りに体を動かせない。戦士は体を動かせなかったから口を動かした。


「なぜ生まれてきた?」


 それが戦士の最後の言葉となった。


 戦場で唯一生きのこった男は先刻殺した男の表情を見ていた。今まで敵が死ぬ直前に負の感情をぶつけられたことはあったが質問をされたことはなかった。


 目の前にいる戦士が男に対して初めて死ぬ間際に質問をしたのだ。男には謎だった。殺されると分かったのなら敵を呪ってから死ぬのが当たり前だと思っていた。それが男の中では当たり前だったのに戦士は質問をしたのかが分からなかったからだ。


 心臓を貫かれた戦士は他の人たちとは違う。そうでなければ最後に質問をするわけがない。他の人たちと違うのなら死んだ後の表情だって違うはずだ。そう思い男は殺した戦士の表情を見ていた。



 男は今の自分になりたくてなったわけではない。現実と環境が今の男を創り出したのだ。一族が殺され、自分を助け養ってくれた人が殺さた。



 男に関わった人たちは皆死んでいった。大切な人の死ほど男の前で起こるのだ。嫌気がする。なら誰ともかかわらずにいれば少しは人の死を見なくなるのではないかと。



 だが、それは叶わなかった。別れ際に言われた母の言葉が呪縛となって悪魔を戦場に駆り出していた。 














「お母さんも一緒に逃げようよ」

「私は逃げられない。一人で逃げるの。そして無事に逃げられたら誇れることして、決して負の感情に負けないこと。お母さんとの約束だからね」


 目が覚めて、周りを見渡す。また同じ記憶だ。


 怠い身体を動かして椅子から立ち上がり、ロウソクに火をつける。暗闇が支配していた部屋に一つの光が灯る。小さな部屋なのでロウソク一つで十分明るい。


 棚から干し肉と栄養剤を取り出し机の上に置く。


「またあの時を思い出したよ」 


 蝋燭の隣に置いてある紫色の髪ゴムへ言う。約一年ぶりに男は十歳の頃の記憶を思い出した。


 植物が雄々しく生きる飼育所での母との最期の会話。母が死んでから二十年以上経つが今でも約束を忘れていないか確認するかのように母との最後の約束が夢の中に現れる。


 そして、この記憶を思い出した時は必ず母の形見に話しかてから食事をする。


 たくさんの戦場に行っては戦争を終結させてきた。男はたくさんの命を救ってはそれと同じぐらいの命を奪っている。


 その行いを母に胸を張って誇れない。なぜ誇れないのか考えてしまう。それはきっと自分が誇れることだと認めていないからだろう。


 しかし、目的のためにもこの行為を止めるわけにはいかない。全ての戦争を失くすことが男の夢に大きく近づく。


 男の目的は戦争を止めることであって人を殺すことではない。男が初めて参加した戦争では参加した国の人々は殺さす敵国だけの人間を殺した。戦争さえ終わればそれでよかったのに人間と言う生き物は愚かだった。


 条約で戦争をしないと約束した国々名誉だの権力だの領土だのと雄たけびを上げ戦争を始めた。地獄が終わってから2年しかたっていなかった。


 その時男は戦争を始める理由を理解できず、疑問だけが頭に浮かんでいた。



 お前たちは何故地獄を生み出すんだ?



 人間が約束を必ず守り、誰かと戦うことに恐怖を抱く生き物なら男は冷酷非情の人間にならずにすんでいた。夢を叶えるためだけに生きることができたのに現実は甘くなかった。


 戦場で生き残った人々はそれぞれの国に帰り喜ばれ尊ばれる。家族の元に変える者がいれば酒場で食い散らかす者もいる。その時、語るのだ。いかに自分が凄いか、いかに戦争で勝つことが凄いのか。名誉や金、権力はすべて手に入ると豪語し若者に幻想を見せる。その若者たちが新たな戦力となり各々の欲求を満たすために戦争を起こす。


 戦場に恐怖を抱かないのは生き残った人がいけないのだ。


 なら「一人残らず殺せばいい」と男は考えてしまった。その日から男の心は完全に壊れた。一族を呪う声に痛くはならず、相手を殺すことに負い目を感じることはなくなった。


 母の形見に二十五回目の今の状態になった経緯を話し終えた。 


 母に話し終えるのと食事が終わるのは同じだった。席を立ち、ロウソクの火を消す。


 暗闇の中でも物がある位置がわかる。戦場で付けていた仮面とは別の仮面をつけ五つの袋へ違う薬を入れる。今は寒い時期なのでコートを羽織る。仮面を付けているが、顔を見られないようにするためコートにはフードがついている。フードを被り紫色のゴムをチラッと見てから階段を()()


 戦争の情報を集めるため傭兵や犯罪者が多く集まる無法地帯へ向かったのだ。

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