あなた
私にはとても愛おしくてたまらないほど、とっても好きな恋人がいます。彼と付き合ってもうすぐ一年です。一年の記念でどんなプレゼントをするかを悩んでます。彼のためであるからかな、とっても楽しい時間のように感じられます。本当に彼と出会ったのは生涯で一番の幸運です。
あ、電話が鳴ってます。彼氏の着信メロディです!
「もしもし?」
「うん。俺だよ。今帰って急に電話したくなってね。寝てた?」
「ううん、まだ寝てなかったよ。ってか、今日は遅かったね、仕事。」
「ああ、今がね、会社で大事な時期なの。これが出来たらうちの会社はまた前に進めるよ。俺、ここで働くのすごく気に入ってるからなんか。。心から嬉しくなっちゃうよね。俺、頑張って君に良い思い出を沢山作ってあげる。絶対に。仕事が好きで頑張れることも事実だけど、きみがいるからそれ以上頑張れる。ありがとう。僕と出会ってくれて。」
「ううん。違う違う。礼を言わなきゃってのはこっちだって。私、付き合う前まではこんなに毎日が楽しく思えたことなかったよ。生まれ変わったよ。ある意味でね。だから、ありがとう。もうすぐ一年だからね、その日には楽しいことふたりでいっぱいやろう!。いや、絶対にやるの。思い出作り。かけがえのない。期待していいよ?」
「うん。じゃあ、期待しとくよ。でも、僕だって負けずにすっごいもの見せてあげるからさ。アイちゃんも期待してて。」
なんだか、彼がすごく可愛い。子供っぽいっというか。。張り切ってるのが可愛い。別になにもしてくれなくても、私を会いに来てくれること自体が世の中で一番なんだけどね。可愛い彼の抱負を無視は出来ません。
「うん。わかったよ。期待するよ!。今日疲れたでしょう?早く寝るのがいいよ。体壊しちゃだめよ。わかった?」
彼が少し笑っている表情が画面越しで見えているようでわたしの頬が綻びる。
「うん。寝るよ。通話出てくれてありがとう。アイちゃんも寝て?」
「うん。じゃあ切るよ。」
「うん。おやすみ。アイちゃん。」
どっちも切ってない。綱引きみたい。この切る前の何秒間が、電波ではなく彼と私の間だけに結ばれてる赤い糸がその姿を現してくれる。その赤い色はほかの赤いものよりもはるかに濃い色をしてて、心の手で触ることが出来そうにも思えた。そんな、幸せの時間が続く。とってもスローなビートで。彼氏が心配で、おやすみと最後にもう一回言ってから切ってあげた。きっと楽しいしやる甲斐あって嬉しいよっと言ってたけどそれでも結構な疲労が溜まってるはずだから。自分が好きなものに頑張る姿すきだけど、でも頑張りすぎて体壊すのは倍以上に嫌だった。
携帯の背景画像を眺めた。彼とのツーショット。彼の苦手なウインクが可愛い。何秒間をもっと眺めてから携帯を閉じて、四角いテーブルに置いた。それから玄関の下駄箱に足を向けた。彼には寝るように言われたけどやることがまだ残ってる。下駄箱から鍵束を持ち出した。それをシャツの胸ポケットに入れて台所に足を動かした。ビニールの手袋を出しては、これはダメと思ってもとのところに納めておいた。それから部屋に向かった。自分の部屋って結構汚いけど、革の手袋ぐらいはすぐ探せる。寝床の枕元に隠れてあった。それを引きずり出して手に填めた。黒い手袋がやはり良い。だって彼は黒が好きだからさ。
そして引き出しから今日新しく買ってきたツールボックスから握る心地のいいハンマーを手に取った。
足早にベランダに行った。なんだか心が跳ねて鼻歌を歌い出した。彼の好きな歌だから
いい歌に思える。ベランダの倉庫の前で立ち止まり、鍵束の中の一つで解錠した。もうすぐ終わりと思ったら嬉しくてつい倉庫の中に閉じ込められたヒトに話しかけた。
「心地よく寝た?わたしは彼とまた電話をしたの。本当に幸せだったの。うん?声?ふふ。それぐらい。あんたを追ってはじめた頃から少しづつ練習しといたの。だめだったら音声変造したらいいしね。そんな目で見ないでね。ねぇ。聞いてる?」
テープで封じられた口はなにを言ってるか分からなかったけど、目のところからの眼光からわたしへの恨みがよみ取れた。足で床を激しく叩いてる。
「あぁ。ダメって言ったでしょ?足は動いちゃだめ。音聞こえるんじゃない~。」
わたしはハンマーを振り下ろした。悲鳴を上げようとするので血で染まりはじめた右側の靴下をよそに左側の足にまたハンマーを振り下ろした。悲鳴は途中で止み、苦痛で気を失ったようだった。
「えっ、寝ちゃダメって。」
手前のホースで冷たい水を振りまいた。起きるといいのに。もうすぐだからもっと耐えて欲しいと思った。少しの間を置いて唸り声が聞こえた。わたしはハンマーをまた手に取り、こいつの後ろに行き、無駄足掻きをするのを見ながら頭の真上からハンマーを振り下ろした。すぐ椅子が横に倒された。終わったと思ったら知らぬ間に口元に笑みを含んでいた。
「さよなら。アイちゃん。これからはわたしがアイちゃんよ。」
これを言ったからなぜか横に倒された椅子に座ってたアイちゃんの目から水滴が落ちたように見えた。一滴だけが。頬を濡らしながら。でも気にしなかった。これから私がアイちゃんだもん。倉庫から出て、その門を固く閉めた。
その時だった。ベルが鳴った。わたしは出ますといい、自分の部屋に行って血がついちゃった服を脱いで上にバスローブを着て玄関に行った。
「どなたさんですか?」
「宅配なんです。瑠美さんですね。」
「はい。」
「実家からのお花です。その。。。時間がなくてこれ置いて行ってもいいんでしょうか?」
「はい。お疲れ様です。」
「どうも。」
それから宅配の足音はそそくさと離れていった。
そうだね。早く引き上げなきゃ。わたしはこれからアイちゃんだから。隼人くん。これからも良い夢を見よう。一緒に。