最終話 人の振り見て我が振り直しやがれ!
その時、突然天地に響き渡る声がした。
「じいじ、この世界こわしていい?」
「あ? 好きにしていいぞきよし。なんせお前が作った世界なんじゃなから」
なんだこの腑抜けた声は? 色ぼけしていられないような、おぞましい内容をしゃべってるし。
「じゃーあー。この大陸を海に沈めちゃう!」
ゴゴゴゴゴゴ、凄まじい轟音ともに上方向への加速度を感じる。
「ちょっと、なんなのこれ!」
かのんも動揺しているけど、おれにはさっぱり分からない。
「壊したら、ちゃんと後片付けするんじゃぞ」
「はーい」
上方向への加速が終わったかと思うと、今度はした方向に加速する。猛烈な勢いで体が浮きそうになるのを、ベッドのシーツをつかんでこらえる。
「なんだこれはーーー!」
「きゃあーーーーー!」
俺たちだけでなく村中阿鼻叫喚である。風車は倒れ、崩れた牛舎からは牛がそこら中に逃げまどっている。
ズドーーーンと凄まじい音が響いたかと思うと加速度を感じることはなくなった。
「ひとまずどうにかなったか?」
俺はかのんの手を引いて家の外に出てみる。いくつかの建物が倒壊している以外は何も変わりがなさそうだった。
信彦とスラインは? 当たりを見渡してみると、こめかみ辺りに怪我をした信彦が部屋から出てくる。彼の腕にはスラインが大事そうに抱えられていた。
「大丈夫か?」
「うんなんとか」
「すさまじい魔力の波動を感じる。これはただごとではないぞ」
いつものことだけど、スラインが滝のような汗を流している。いつものことだけどね。
「さっきの声って?」
「我にも分からぬ。子供の声と老人の声に聞こえたが」
その時、村の向こうから大勢の叫び声が聞こえる。あるものは神に祈り、またある者は恋人とあきらめの境地で寄り添っていた。
「なんだ!?」
おれがそちらに駆け付けると、東の方、遥か彼方に巨大な水の壁が出現し、こちらの方へ向かってきていた。その高さは西の山脈よりも高く、人知を超えた勢いですべてを飲み込んでいる。
「勘弁してくれよ……」
抗いようのない圧倒的な理不尽に、俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。
………………
…………
……。
こたつが真ん中にある和室。そこに一人の老人と小学一年生くらいの少年が仲睦まじく座っている。
「じぃじ、この世界めちゃめちゃになっちゃった。直してー?」
爺さんはみかんを剥く手を止めると、テレビのスイッチを押しチャンネルを合わせる。するとありとあらゆる天変地異に満たされた世界が映し出された。
「こら、きよし! 片づけをちゃんとすると言ったじゃないか」
「ごめんなさい。じいじ」
少年はしょんぼりとした様子で下にうつ向く。それを見た爺さんは少年の頭を優しくなでた。
「まっ、次からきをつければいいんじゃよ。この世界はもう消去するしかないがな」
ポチッとな、爺さんがリモコンのカバーの下の赤いボタンを押すと、モニターに映った世界が真っ白い光に包まれその後すぐに真っ黒になった。
「ほれ、じゃあまた一緒に新しい世界でも作るか、きよし」
「うん!」
儂が孫にそう言って、新しい世界を作ろうしたその時だったのだ。
儂の頭の上に雷が落ちたのは。
………………
…………
……。
目を覚ますと、空が広がっている。立ち上がるとそこは誰もいないマンションの屋上じゃった。晴れた空の向こう側には青白い富士山が見える。眼下に広がるのは無機質な箱型の建物ばかり。一部の建物は儂のいるマンションよりもずっと高かった。
空気は澄んでいるようで、少しよどんでいて、下の方からは車の音、雑踏の音、そしてたまにクラクションの音が空気を震わせる。
儂は儂が寝ていたところに一枚の羊皮紙が落ちてるのを発見した。そこにはこう書いてある。
『せっかく私が転生させてやったのに、お前は調子に乗りすぎた。自分の傲慢さを反省し、もう一度最初からやり直し(弱くてニューゲーム)しやがれ!』
END
もともと短編として書こうと思っていたネタを長編にして書き始めたら、やっぱりうまくいかなくてこういうオチになってしまいました。いつか短編として書き直したいです。