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第三話 村を【ねこにゃん】から救いやがれ!

 それぞれの最も大切にしていただろうスキルが、全くの反対の効果になってしまっているみたいだった。


「みんな他のスキルは? この際バラしちゃうけど、スキルスロットが三つしかなくてさ。一つの枠がさっきのしょうもないスキルで確定埋まりしてる……」


「あたしも」

「僕もそうですね」

「我もだ」


 やっぱり。ここにいる四人はスキルは違えど大体同じ状況のようだ。となると、俺を含めて全員が元の世界に変える術など知ってないと考えるのが妥当だろうなあ。


「あの……皆さん、元の世界に戻りたいんですよね?」


 信彦が小さい声で切り出す。


「俺はまあそうだね」


 だが神に転移させられるのなんて最初に死んだ時以来だし、他に誰かがとかも聞いたことがない。


「あたしだって王子と婚約直前だったし」

「我もやり残したことだらけだからな」


 スラインさん、あなたの野望はついえたままの方がいいと思いますよ……


「もとの世界に戻りたいし、俺らをこんなふざけた目に合わせた神の野郎にギャフンと言わせてやりてーわ」


「そうですよね。僕も同じ気持ちです。では、これはどうでしょうか。ここはどこかも分からない土地、ずっととは言いません、しばらくはこの四人で協力して、戻る方法、神に逆襲する方法を模索する、というのは」


 信彦の提案は現実的だ。俺はゴミスキルしかないし、スラインに至っては俺らの協力なしに、この牛舎から降りることすら出来ないだろう。魔王が牛舎から落ちるだけで死ぬのは少し笑える。


「いいっすよ」


 俺には拒否する理由がない。とくに信彦のスキル【異邦人の耳】はこの世界で生きるためには有用そうだ。情報収集は異世界転生の基本のキだよね。


「我も、我の身を守ってくれると約束してくれるのなら協力は惜しまない」


「ま、あたし一人で隠れて過ごしても仕方ないしね」


 俺ら四人がこうして一時的な協力を約束したその時、真下から小さな女の子の声が聞こえた。


「あの……皆さん、もしかして神の使いの方々ですか?」


 下を覗き込むと金髪でショートカット、青いオーバーオールを着た十二歳くらいの女の子が、水のたくさん入ったバケツを持って、上を見上げていた。


………………

…………

……。


「おお、なんと異世界の勇者様、妃様、学者さま、そして魔王様がこの村にいらしてくださるとは! この窮地を神がお見捨てにならなかったということですね! ありがたやありがたや!」


 ヒゲモジャの爺さんが俺らの前に泣きながらひざまずく。俺らの前に用意された大量の晩ご飯。パンとか牛肉のスープとか素朴なものばかりだけど、この村としては最高のもてなしなのだろう。


「あ……あの、あたし達、そんなに強くなくて」


 かのんが困った顔で説明するも「そんなご謙遜なさるなんて、なんと心の謙虚なことか」と封殺されてしまう。


「勇者様、明日の夜。私達の村に【ねこにゃん】が襲来するらしいのです。このままでは、家畜の牛や馬を奪われてしまいます。どうか助けてください」


 俺たちを最初に見つけた少女も俺の両手を握り、必死に頼み込む。瞳は涙に溢れ、声も震えている。本当に困っているのだろう。しかしな。しかしだな。


 頼るべき相手が違うんだよ!


 心の中で俺も涙を流す。そんな顔で頼られても困るんですッ! ここにいる四人はみんなゴミスキル持ちなんです!


 この雰囲気で口が裂けても言えないけどな。


「その【ねこにゃん】というのは、どういうものなのでしょうか」


 信彦がショタボイスで質問をした瞬間、彼の身体が緑色にぱぁーっと光る。おそらく、これが【異邦人の耳】が発動してる証拠だろう。


「【ねこにゃん】は凶暴なモンスターで牛や馬の肉を好みます。酷い時は、若い人間も捕食するのです。私達をどうかお守りください! どうか、どうかお願いします!」


 お爺さんがかのんの足元に突っ伏して額を床に擦り付ける。かのんは「どうする……?」といった風な気まずそうな顔でこっちを見ている。こっち見られても困るんスよね!


 スラインに至っては冷や汗だらだらで完全に硬直している。


 俺は信彦にこっそりと耳打ちする。


「使えるスキルが一個でもあれば、それを俺はお前たちにコピーできる。【異邦人の耳】でスキルを覚える方法を聞き出してくれ」


 信彦はうんうんと頷くと、さっそく身体を緑色に光らせて切り出してくれた。


「僕らはまだこの世界に来たばかりで、教えてもらいたいのですが、スキルを覚えるにはどうすればいいのでしょうか?」


 何の違和感もなく彼の質問に村人は答えてくれる。


「スキルは、高価なスキル書か、レアなモンスターを倒した時に偶然覚えますよ。この村にもファイアボールのスキル書が一枚あるはずです」


 きゅぴーん、いいこと聞いたぜ。高価ならなおさらだ、今ここで手に入れておきたい。スキルコレクターの俺の血が騒ぐ。


「よし任された、俺達が【ねこにゃん】を倒してやろう。だがな条件がある。そのスキル書を先に渡すんだ」


「ええ、あんた何言ってるの? 本気でイケルと思ってんの?」


 かのんが焦りだすが、考えがあるからと耳打ちして納得させる。


「我は隠れているぞ」


 あんたは魔王なのにビビリすぎだよ!


………………

…………

……。


 辺りはもう暗い。俺たち四人は、さながら正義のヒーローみたいに村の入口に立つ。実際にはスラインだけ一歩下がったところに立っている。こいつビビってるから。


 松明の元で、【ねこにゃん】とやらの襲来を待つ。ファイヤボールのスキルは俺がスキル書で覚えて、かのんと信彦の二人に複製した。スラインには、「我は少しでも火がついたら死ぬ。ゆえにいらぬ」と言って断固拒否された。


 俺らの作戦はこうだ。俺と信彦でファイヤボールを撃ちまくる。ファイヤボールは野球ボールくらいの火球を勢いよく飛ばす魔法スキルだ。二人のファイヤボールで弱らせたら、【気配遮断】を使ったかのんがファイヤボールで痛そうなところを狙う。


 もしそれでも倒れなかったら、俺がビビリなスラインを持って特攻する。当たれば死ぬ。完璧。


 【ねこにゃん】って名前だけあってどうせ、猫系のモンスターだろう。余裕余裕!


 村から離れた丘の向こうに三つの大きな影が現れる。月は明るい。そいつらは土埃を上げてどんどん俺たちの方に近づいてくる。


「「「ぱおーーーん!」」」


 不穏な雄叫びが村付近に響き渡る。どんどん近づいてくるシルエットは首がめちゃめちゃ長い。


 俺たちはやつらを迎え撃とうと腰を低くする。スラインは後ろに、カノンは左の建物の影に隠れている。


 そしてとうとう俺らの前に現れたのは、……でかい! 三匹のキリン型のモンスターだった。


「「「ぱおーーーーーーん!!!!」」」


 力強い雄叫びで肌が振動する。想像だにしていない姿に俺は言葉を失う。いやだって思うでしょ?


 なんで【ねこにゃん】が「ぱおーん」って鳴くんだよ!


 それで、象の姿なら分かるけどよ! ああ、名前つけるの間違えちゃったんだなあって。


 なんで姿はキリンなんやねん!


 ぱおーんって鳴くキリンの姿の【ねこにゃん】ってなんやねん!


「竜也くん!」


 信彦の言葉で現実に戻される、俺たちはこのキリンもとい【ねこにゃん】を倒さねばならぬのだ。俺は頷いて、手のひらを【ねこにゃん】に向けると呪文を叫んだ。


「コールスキル! ファイヤボール!」


 勢いよく射出された炎の弾は、真ん中の一番でかいやつの胴体に直撃する。当たった所が少し焦げているみたいだ。


「ぶわおおおおおおん!」


「こ、コールスキル! ファイヤボール!」


 信彦の魔法もやつの頭に命中した。真ん中の【ねこにゃん】は長い首を振り回してすごい怒ってる。近づかれる前になんとかしないと。


「うおおおお、コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール! コールスキル! ファイヤボール!」


 この際勇者の威厳とかどうでもいい。ただがむしゃらに火球を出しまくるだけだ。

 


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