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第二話 現状把握しやがれ!

「えっ、僕なんかやばいこと言ったかな?」


 信彦が可愛い声、かつ上目遣いで言った。見え目がショタエルフだからなんか許される気がするけど、中身はおっさんなのだ。なんて罪深いんだろう。


「あー、佐藤さん。それやばいと思うわ」


 かのんは引き笑いをしつつ若干信彦から距離をとる。女の子ならなおさら引くよね。当然。黒いスライムは微動だにせず、表情すら変えない。さすが魔王だ。


「俺は、勇者としてチーレム作って一度に沢山の奥さんと結婚しようとしたから、まあそれを調子に乗ったと取られたのなら分かる」


「あんた、ほんと見た目のまんまな奴ね」


「そりゃどうも。そういうお前はどうなんだ?」


 実際の年齢が少し歳上なせいか、かのんは俺に対してだけは少し口調が厳しい。嘘でも三十歳とか言っとけばよかったな。


「あたしは……邪魔者を蹴落としてイケメン王子と婚約しようとしただけだもん……」


「あほくさ。だいたい俺と一緒やん」


「あたしは浮気なんてしないの! 揺らぐことはあっても一途なの!」


 ちょっとムキになってかのんは口先をとがらせる。揺らぐことはあるんだ。まあ俺も巨乳美少女に言い寄られたら揺らぐけどさ。あと聞いてないのは一人だけ。真っ黒スライムのスラインさんだ。


「んで、スラインさんは?」


「我は百万の魔族を率いて人間を皆殺しにしようとしていた」


「「「……」」」


 なんてこともない様子で口調も変えずスラインは言った。俺と二人は苦笑いして固まるしか無い。


 いやいやいやいや。これさ。おかしいって!


 一人だけ悪のスケールが違いすぎるでしょ! 俺とかのんとおっさんは性欲に負けてうひょうひょしてるだけなのに、人間皆殺しにしようとしている魔王と罰が一緒ってどういうことやねん!


「それはせっかくのタイミングに残念でしたね……」


 空気を読んだ信彦がスラインの顔色を伺うように共感を示す。こいつ意外と適応力高えな。ブラック企業で培われた奴隷力だろうか。


「うむ。我の悲願であっただけに、現状は満足ならぬ」


 残念そうにスラインはため息をつく。ほんとに口調は魔王だなーとしみじみと思う。まあそれも当然か、日本人やってる時間より魔族として過ごしてる時間のほうが数百倍も長いんだもんな。


「何にせよ、俺たち四人とも客観的に見れば落ち度があるわけだ」


 俺がさらりとまとめようとすると、スラインがギロリと俺の方を睨む。


「我はないぞ」


 あああ、こいつめんどくせえなあ。同じ日本人といっても、世界の時間の流れが同じなら、数百年前の人間ということになる。なんとか分からせるように丁度いい例えを考える。


「魔王基準ではそうですけど、今はとりあえず日本人基準で考えてください。京都で十万人皆殺しにしたらまずいでしょ? そういうことっすよ」


「なるほど。京の都か。ひどく懐かしい言葉の響きだな。たしかにその通りだ」


 ふぅ……心の中で大きなため息をつく。彼らにはまだ話していないが、俺はどうやらスキルを使うことが出来ない。そんな状態で魔王とやらに暴れられたら命がいくらあっても足りない。


「あの……それで皆さん、もとの世界にも戻る方法とか知ってるんですか? 私はただの技術屋ですし」


「俺は少し試したけどダメそうだった」


「あたしは、そもそも貴族生活してただけで。魅了スキルとかはあったけど、他は何もないし」


 四人の間に悲しい沈黙が流れる。こんなにいい天気でのどかな場所なのに、悲壮感だけは強烈だ。三人がしょんぼりしていると、スラインが静かに語り出す。


「我のスキル【絶対防御】を破った時点で、世界の中で暮らすものよりも上位の存在、つまり神の仕業と考えて間違いないだろう。であるがゆえに、その手紙も神からのものと考えるのが妥当だ」


 こんなふざけた内容で、なおかつ汚い字の送り主が神様だなんてなあ。にわかに信じられないが、数百年の時間を過ごしてきた魔王様が言うのなら正しいのだろう。


「まずは、スキルを確認せねばならないな。サモン・スキルブック」


 スラインが呪文を唱えると薄い幼児向けの絵本みたいな本が、彼の目の前にぶわんと現れる。これは俺の元いた転生先でもあったシステムコール的な呪文だ。それは、かのんも信彦も同じみたいで、俺たちもスラインと同様に「サモン・スキルブック」と自分のスキルブックを召喚する。


 もともと俺の世界ではスキルブックは分厚い魔導書みたいな見た目をしていた。けれども、奇妙なことに、今俺の眼の前に現れたのは、どっからどうみても薄い絵本なのだ。


「「「「!!」」」」


 その中身を確認した俺たち四人は硬直する。なぜかって? まず第一に習得できるスキル欄が三つ分しかない。そしてその一つだけがすでに埋まっている。俺の場合は、【スキル複製】。ここまでは良い。なぜなら【スキル複製】は、元の世界では俺のチートさの源たるスキルだったからだ。


 しかし問題は、その説明文にある。


 ――【スキル複製】自分が持っているスキルを一つ対象に複製する。コピーされた対象のスキルスロットが埋まっている場合、ランダムに対象を書き換える。またこのスキルはいかなるスキル・操作でも削除・コピーすることができない。――


 つまり、俺は二つしか無いスキルスロットのうち、一つを誰かにコピーしてあげられるというだけのスキルなのだ。


 うわあああああん! せっかく集めた俺のスキルがあああああ!


 それに控えめに言ってゴミすぎるっしょ! どう考えても弱い! ソシャゲでこんな弱体化ナーフ来たら課金した人発狂して消費者庁に訴えるレベルだ。


 ちらりと他の三人の様子を見る。俺と同様に酷く青ざめていた。とくに冷静を気取ってたスラインが一番動揺しているのが笑える。スラインは震える口で急に弱気なことを言う。


「我は、ここから動けぬ」


 彼はふかふかの干し草の上で完全に硬直している。


「どういうことっすか?」


「お前たち。同じ日本人として我を殺さぬと誓うか?」


「うん、まあ。好き好んで人を殺すやつはいないよな?」


 俺がそう言うと。かのんや信彦も「ウンウン」と同意して頷いてくれる。スラインは覚悟を決めたように無い喉をゴクリとならした。


「我がもともと持っていた【絶対防御】のスキルがなくなり、【絶対防御貫通】になっている」


「なんか強そうじゃん」


 かのんが何も考えてなさそうに言うが、スラインはそうでないという意味で頭を横にふる。


「説明文が問題なのだ。今の我はどんな敵も一撃でたおせる。しかし、その代償として防御がゼロ。どんな攻撃でも一撃で死ぬというのだ。つまり、我は、この牛舎の屋根から飛び降りるだけでおそらく即死する。これが神の言う反対の能力の意味か」


 こいつもスキルが悪い意味で反対になってるのか。俺は普通に生きる分にはなんら問題はないが、こいつはなかなか可哀想だ。


「僕ももともと持ってたスキル【異邦人の口】が、【異邦人の耳】に変化してしまっていました。【異邦人の口】は知っている技術を効率的に伝えられるスキルだったんです。でも【異邦人の耳】は、質問したらなんでも教えてもらえる。ただし何かを教えることができない。とほぼ正反対のものになってしまいました……」


 こいつもそうか。


「俺は、スキルをコピーして自分の物にできるスキルが、自分のを他人にコピーしてあげるスキルになってた。しかもこのスキルブックはなんだ? まるで幼児向けの絵本だ」


「なんか注釈できよし(六歳)でも分かるように作りました、とか書いてあるね。スキルが三つまでなのもきっとそのせい、ほんと余計なお世話」


 かのんが大きなため息をついて肩を落とす。言われ通り本の隅っこにそんな事が書いてある。ちなみにスキル説明も全部漢字にふりがなが振ってある。そういう配慮いらないから……


「お前のスキルも反対になってたのか?」


「そうだよ。あたしの【魅了チャーム】は【気配遮断】になってる。しかもイケメンに効果大、とかいうしょうもない但し書きまで。はぁーーー」



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