プロローグ:神様お怒り
ドタバタヒーローもの目指してます よろしくです
井上竜也、十八歳。身長百七十一センチ、フツメン。元ニートだが、交通事故にあって死んだら異世界転生しちゃってた。転生した世界は、どうやら俺がやり込んでいたテレビゲーム・ファフナリィファンタジアに似た世界観だった。
神様の悪戯なのか、転生した俺はどんな相手のスキルでもコピーしちゃうチートスキルを持っててさ。この世界の中でどんどんレベル上げ、名誉を我が物にしていったわけ。当然だけど、かわいいヒロインたちも出てきちゃってさ、最強のスキルを持った勇者の俺にメロメロだよね。なもんで異世界チーレム作っちゃったわけ。
この世界で最強スキルを持つ俺に歯向かうやつなんていないからさ、魔王をぶっ倒してその城を俺のものにしたんだよね。それでパーティメンバーの姫様のお父さんに頼んで、俺専用に改装したんだよ。
いやー、毎日が最高だったね。うまいもん食って、チーレムでちやほやされて、ぐうたらベッドで過ごして。たまーに頼まれて魔物退治したりして。それでついに一夫多妻制を導入して、みんなまとめて結婚式! そんなタイミングだった。
俺の頭の上に雷が落ちたのは。
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氷見かのん、二十三歳。毎日毎日コンビニバイト。悲しいことに可愛い見た目に生まれなかったあたしは、生まれてこの方彼氏なし。そんな日々に嫌気が差しスマホ歩きでバイトから帰ってたら、不思議なゲートに飲み込まれてた。そしてなんと気がついたら、あたしは中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で貴族令嬢に生まれ変わっていたの!
そっからの日々は最高だったなあ。十八歳くらいに若返ってるし、かっこいい王子様に詰め寄られるし、イケメンの盗賊風の男と身分違いの恋もしそうになっちゃった。もともとこの国の王子には許嫁がいたみたいなんだけど、あたしの彼を取ろうとするから、泥をかけてやったり、貴族女子の仲間と結託してハブったりもしたの。それで、笑えることにあいつ精神を病んじゃたみたいでさー。最高に気持ちいいね!
もちろんそれで王子はあたしの虜! ついに彼から呼び出されて将来を誓い合おうとした。その時だったの。
あたしの頭の上に雷が落ちたのは。
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佐藤信彦、四十五歳。独身。僕はいわゆる底辺社畜ってやつでさ、この年までずっと真面目に働いて、彼女の一人もできたことがなかったんだ。技術はそこそこあるかもしれないけど、自分ひとりで食ってくだけで精一杯。もちろん養える余裕なんて無いから、婚活しても相手なんていないよね。僕は自分の人生にうんざりしてさ、一人で富士の樹海に行って……。あとは言わなくてもわかるよね。
でも神様が哀れんでくれたのか、死んだはずの僕は死んでなかった。気がついたら、獣人やエルフの沢山住む異世界に転移してしまってたんだ。どうやら僕は、エルフの美少女に召喚されたみたいでさ、体も十五歳くらいの少年に若返ってた。僕は彼女に良くしてもらったお礼に、僕が知っている現代日本の技術を沢山教えてあげたんだ。
この世界は科学的に発展していなかったから、まるで僕は神様みたいな扱いを受けたよ。人生の中でこれほど他人に必要とされたことはなかったね。あとこれは恥ずかしい話なんだけど、僕は童貞だったからね。少しでも僕を必要とする女の子には大体関係を迫ったよ。断れないからね。ああ、気持ちよかったなあ、とくに僕の本来の年齢なら犯罪になるような子とも楽しめたよ。
でも僕の一つの願望だけはなかなか達成できてなかったんだ。それは十歳前後の子と……その、することだよ。でもやっとその機会が来たんだ、ある種族の族長が自分の娘を僕に捧げてね。
喜び勇んでパンツを脱いだ。その時だったんだ。
僕の頭の上に雷が落ちたのは。
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我はスライン。転生したのはもう何百年も前だから人間だった頃の名前は覚えていないな。とにかく、人間だった気がする。その程度の意識だ。我は確か転生したての頃はひどく弱かったが、スライムの特性か知らないがスキル【絶対防御】を覚えてて負けることはなかった。
それで何年も何年も少しずつレベルを上げて、それこそ人間だった頃のことなんか忘れて数百年、ついに我は魔物の王になった。
もう人間のことなんかどうでもいいし、魔物の繁栄のために人間界へ攻め込もう。そうやって大群を率いて、ついに開戦の合図、鬨の声をあげようとした。その時だった。
我の頭の上に雷が落ちたのは。
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眼の前が真っ白になる。爆ぜるような強烈な雷鳴で、耳ではキーンと言う音しか聞こえなくなる。
「「「「どうして」」」」
「俺が」
「あたしが」
「僕が」
「我が」
「「「「こんな目に!?」」」」
突然の落雷に思考する間もない。痺れる体にただ混乱しながら、俺、あたし、僕、私、の意識は深い闇に落ちていった。
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「はぁ……だらけるのは、やっぱこれが一番じゃなあ」
四畳半くらいの小さな和室で、こたつに入って寝っ転がる。手元には開いたポテチ。コンソメ味の厚切りで食いごたえのある系のやつ。だらけきった爺さんは人差し指と親指でつまみ、そいつを口の中に放り込む。汚れた指もぺろり。ああ、うまいんじゃ、一人呟く。
こたつの上には五つくらいみかんが置いてあって、ティッシュの上に食べ終わった剥きカスが散乱している。
目の前には、四画面の巨大モニター、こたつの上には四本のリモコン。ところがそいつはただのリモコンじゃない。なんとボタンが大量にある。チャンネル数はそれぞれのモニターなんと百以上あるみたいだった。
その爺さんは上半身を起こして、そこらへんに放り投げてあった黄金色の甚兵衛を羽織る。そして、リモコンを手に取ると、自分の気になるチャンネルを探す。
「はー、ぽちぽちぽちっとな。あーそれ、ぽちぽちぽっちーな!」
謎の作り歌を口ずさみ、次から次へと画面を変えていく。画面に映るのはハイファンタジーみたいな竜の世界から、和風ファンタジー、中世ヨーロッパ、近未来、ギャグ漫画の世界、世界大戦、宇宙戦争まで本当に多種多様。それぞれの歴史が四つのモニター上に一瞬で映り変わってゆく。
「む」
爺さんのボタン連打が止まる。四つの画面にそれぞれ映るのは一人の人物。どいつもこいつもイキりきって調子こいた悪そうな顔でニヤニヤしている。
「こいつらわしに救われた身のくせに調子に乗りよって……。しかもどれも結構お気に入りの世界だし、世界観台無しじゃ」
爺さんは険しい顔で白い口ひげを撫でる。あ、そういえば、と爺さんは最近孫と一緒になって適当に作った世界のことを思い出す。そして、いいことを思いついたみたいに、にっしっしと笑う。
孫のきよし(六歳)も「悪はぜったいにゆるせましぇん」とか言っておったしなー。
あれ、いっちょかましちゃいますか。ほっほっほ。
「天誅タイムッッ!」
テンションが高くなった爺さんは天上の蛍光灯を指さして叫ぶ。
「花吹竜也、氷見かのん、佐藤信彦、スライン。お前たちをわしと孫の合作【てきとー界】へ、ザコ能力再転生の刑に処すっ!」
そしてリモコンの一際大きくて紅いボタン、中心には天誅と漢字で書いてあるそれを、腕を振り下ろし人差し指で押す。
「ぽちっとな」
するの画面の向こう側の人物たちの頭の上で、もくもくと黒い雲が湧き出し、神の雷の一撃が彼らに降り注ぐ。そして彼らの姿が一瞬で消え去る。
「あー、すっきりした。これで今日も快眠できそうじゃ」
爺さんがスイッチを切るとモニターは真っ暗になる。急に静かになった部屋で、そのまま横たわると、こたつの幸せを堪能するかのように、爺さんはすやすやと眠り始めた。