表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

ACT17 魔剣骨喰

「本当にびっくりしたわよ。ずぶ濡れで老虎の裏口から入ってくるんですもの」

 戸口の向こうから、シェルフィンの声が聞こえる。

「ごめんなさい、シェル姐さん。

 ここに駆け込むしか、とっさに思い浮かばなかったから」

 サキは、老虎の二階にいた。

 特別な上客用の長期逗留用個室の一つに、サキはいた。老虎は酒楼であって宿屋ではないが、リュードのような居候が泊まる程度の部屋はいくつかある。

 運河に飛び込んだサキは、運河から陸に上がり、人気のない夜道を走って老虎に駆け込んだ。

 老虎の仕事を手伝う娘達も、天狼だった。客の求めに応じ、歌舞音曲を何でもこなす器用な娘達だった。

 挨拶を何度かかわした程度だが、サキを覚えていてくれた。裏口から飛び込んできたずぶ濡れのサキの姿を見るなり、子細も聞かずに酔客の人目に付かないようサキを二階へ通してくれた。

 店の面倒を娘達に任せたシェルフィンが、最初にしたことは乾いた布をサキに渡すことだった。

 サキは、シェルフィンに渡された乾いた布で、愛刀を拭いていた。

 水につかった刀は、すぐに手入れが必要だった。

「違ーう! そっちが先じゃないわ!」

 サキは、シェルフィンの呆れ声に振り返った。

 シェルフィンが、乾いた衣類を抱えて戸口に立っていた。

「風邪引くわよ。早く自分を乾かしなさいな」

 シェルフィンが呆れつつも、微笑みを見せた。

 サキは、頭から布を被せられた。渋々、頭の後ろで金髪を束ねていた紐を解き、自分のびしょ濡れの髪を乾かし始める。

「ここに逃げ込んだのは、賢明な判断だったわ」

「この近くで知ってるところが他にないし、あんな奴が相手だったらここに相談するしかなかったもの」

 まだ、愛刀の手入れに固執するサキは、シェルフィンに無理矢理濡れた衣服を脱がされた。さすがにいったん愛刀の手入れを中断し、シェルフィンが持ってきてくれた衣服に袖を通す。

 サキには少し大きいが、木綿の柔らかなシャツとズボンだった。

 シャツの袖をまくり、ズボンの裾を巻き上げれば、サキでも着られる。

 藍色の上下は、シェルフィンが普段身に付けているものだった。

「どお? ちょっと大きいけど、ずり落ちたりしないでしょ」

「ありがとう、シェル姐さん」

 シェルフィンが、脱ぎ捨てられたサキの衣服を抱えた。

「この時分の陽気なら、朝までには乾くわ」

 シェルフィンの言葉と同時に、階段を上ってくる足音がした。

「よぉ、姫さんが上に居るって聞いたんでね」

 リュードが、戸口から姿を現した。

 リュードの姿を認めるなり、サキはリュードをにらんだ。

「こんの野郎ぉお! あたしが死にそうな目に遭ってたのに、どこフラフラ徘徊してたのよ!」

「そう簡単にやられちまうほど、ヤワには見えんが」

 リュードは、小脇に何やら布包みを抱えていた。

「ほら、お土産だ」

 机の上に長細い布包みが置かれた時、重く鈍い音がした。

「きゃぁ!」

 解けた布包みの間から転がり出たものを見た瞬間、サキは悲鳴を上げた。それは、サキに切り落とされた騎士の腕だった。

「どこで、これを拾ってきたのよ?」

「北の墓場の近くを散歩してたら、運河沿いの道ばたに落ちてた」

「馬鹿……嘘ばっかり」

 サキは、少し目頭が熱くなった。

 あの時、助けてくれたのはリュードに間違いない。

 リュードが素知らぬ顔をして、サキを影から守っていてくれたことに初めて気が付いた。

「それにしても、よく出来てる」

 腕を持ち上げたリュードが、サキの前に腕を突きつけた。

「ちょっと! これ生きてるじゃない!」

 サキは、慌てて椅子から起ち上がった。

 甲冑の指が、ぴくぴくと動いている。

「生きちゃいないさ」

「だって! 動いてんじゃないのよ!」

「そりゃ、俺が動かしてるんだから」

「リュード、いい加減になさいな! お姫さんが怖がってんじゃない」

 シェルフィンの一喝に、リュードが首をすくめた。

「作り物の腕だよ」

「作り物?」

「ほら、切り落とした部分から中を覗くとわかる」

 リュードが、騎士の腕をひっくり返した。

 甲冑の小手の内部は、空洞だった。

 生身の腕など入っていない。

 入っているのは、数十本の鋼の糸の束だった。髪の毛より少し太い鋼の糸が中からぶら下がっている。

「これを、こう引っ張ると……」

「きゃっ!」

 サキは、再び悲鳴をあげた。

 糸をつまんだリュードの指の動きにつれて、甲冑の手が開いたり閉じたりしている。

「これって、からくり仕掛けだね」

 シェルフィンも興味深げに、からくり仕掛けの腕を観察する。

「このあたりの技術じゃないな……南の奥地の方に似た技術がある」

「でも、これをどうやって操ってたのかしら?」

 サキの疑問は当然だった。

 サキは、甲冑の騎士と刃を合わせたからわかる。とてもからくりの動きではない。鋼の糸で動かしているとしても、甲冑の中に何かいなければ動かない。

「俺だって、詳しい方法を知ってるわけじゃない」

 リュードが顔をしかめた。

「方術だけじゃない、魔道や南方の呪術にも似たような術があるって聞いたくらいだ」

 騎士の腕がある机に近い椅子から逃げ出し、少し離れた寝台の縁に腰を降ろしたサキは、リュードの話に寒気を感じた。

「方術じゃ、反魂法って言うんだが……この鋼の糸を動かすには、中にろくでもないものを潜ませるしか思い付かない」

 リュードが複雑な顔をした。

「禁忌に触れるんだよな」

 リュードの声に嫌悪感が混じった。

「禁忌?」

 以前にも、リュードが同じ言葉を呟いたのを、サキは思い出した。

「やり方を知っていても、決して使っちゃいけない術ってのがある。

 死人を蘇らすとか、こういった人形に命を吹き込んで動かすって類いの術だ」

 リュードが、もてあそんでいた騎士の腕を机の上に置いた。

「生け贄……それも死んだばかりの奴が必要なんだ」

 さらに話題が薄気味の悪い方に転がった。

 オバケとか大嫌いのサキにとって、一番苦手な内容だった。

 サキは、顔をしかめた。

 聞くのも嫌になる。

「それも、なるべく恨みを抱いているような奴の心臓をえぐり出して、それを中心にして泥人形を作る。

 魔法陣なのか、呪文で起動するのか知らんが、一定の手順を踏むとその泥人形に命が宿るらしい」

「その泥人形が、中に入っているってことね」

 シェルフィンが合点したような顔になった。

「こいつは、その類いの呪術に、からくりを組み合わせた代物だ。

 命を吹き込んだだけじゃ人形は大して動けんが、こいつは自由に歩き回れる分やっかいだぞ」

 甲冑や錬金術に使う薬品を盗んだ意図は、おそらくこのためだろう。そのくらいは、サキにも見当が付いた。

「甲冑に命を吹き込んだ奴は、誰だろ?」

 シェルフィンの言葉に、リュードが首を横に振った。

「このあたりの魔道士や方術士にゃ、絶対に無理だ。

 力が強すぎる術は、使い方を誤ると自分に跳ね返ってくる」

「心当たりは、いるのかい?」

「こんな真似が出来る奴は、俺にゃ一人しか思い浮かばねぇぞ」

「グルジェフね」

 シェルフィンの言葉に、リュードがうなずいた。

「奴が絡んでいるなら、納得できるが……こっちも、そのつもりで掛からなきゃならねーぞ」

 リュードの表情が、いつになく真剣になっている。

「グルジェフって?」

 サキは、たまりかねてリュードに聞いた。

 リュードは複雑な表情を浮かべ、シェルフィンに視線を移した。

 シェルフィンが、リュードに変わって口を開いた。

「グルジェフってのはね……不死身の魔人よ」

「魔人って……」

 話が飛躍しすぎていて、サキの理解がついて行かない。

 リュードが、長いため息をついた。

「奴なら、禁忌の呪術なんざ、ためらわずに使うだろうな」

 サキの疑問の答えになっていなかった。

 取り残されたようになったサキが、口を開こうとしたのをリュードが身振りで制した。

「そのうち、否応なくわかるさ」

 忌まわしい話題を打ち切ったリュードが、シェルフィンの方に向いた。

「ところで、シェル姐さん? 準備は出来てるのかい?」

「もちろん。手勢の中でも腕利きを集めてるよ」

「じゃあ、これから俺も行く」

「頼んだよ」

 謎めいた短い会話で、リュードが立ち上がった。騎士の腕の話題などどこにもなかったような快活な動きだった。

 サキの視線に振り向き、片目を閉じて笑う。リュードのいたずらっぽい目の輝きは、ろくでもないことを企んでいる証拠だった。

「今夜、奴等をあぶり出してやる」

「どーやって?」

「これから、夜通しで天狼が色々とやるのさ」

 そう言っただけで、リュードが扉を開いた。

 あっけにとられてリュードの背中を眺めていたサキは、我に返った。

「ちょっと! これどーすんのよ!」

 サキが、悲鳴を上げた。

 机の上に、騎士の左手首が置き去りにされていた。

「こんなもん、ここに残していくんじゃない!」

 だが、リュードの姿はどこにもない。

「リュードの馬鹿ぁあッ!」

「まぁ、大切な証拠だから預かっといて、って意味かしらね」

 シェルフィンが、サキの狼狽ぶりに苦笑を見せた。

「夜中に刀と手首がまた喧嘩されちゃやっかいだから、手首はあたしが預かるわ」

 シェルフィンが、鋼の手首を持ち上げた。

「確かに、よく出来てる細工だわねぇ」

「シェル姐さんは、怖くないの?」

「夜中にこいつが動き出したら、って?」

 サキを見つめ返したシェルフィンが、不意に何かを思い出したように笑い出した。

「大丈夫だよ、老虎の物置にはこれよりもっと危ないものが転がってるから」

 シェルフィンが、ふと騎士の手首を見つめ直した。

「それにしても、きれいに斬ったわね。これ、一撃で真っ二つにするのは、あたしでもかなり骨が折れるわ」

「あたしの刀、刃が付いてないんだけど」

「えっ? 刃引きなの?」

「うん、最初から刃がつぶしてあって切れないの。

 まぁ、神殿警護官は殺生するわけじゃないし、ぶん殴れば十分に破壊力あるから……気にしてなかったわ」

 確かに、サキも不思議に思ったことがある。

 だが、神殿の宝物庫に納められていたから、刃をつぶしてあるんだろうくらいですっかり忘れていた。

 それでも並の剣と打ち合えば、相手の剣の刃が欠けるほど強靱な刀身だった。

「不思議なこともあるもんだねぇ」

 シェルフィンが、鞘を乾かすために抜き身のまま刀掛に横たえられたサキの刀と鋼の手首を交互に見つめた。

「さぁ、もうお休みなさいな。

 どうせ刀の鞘や、あなたの衣服が乾くには朝まで掛かるから、今夜はここに泊まっておゆきなさい。

 でも、ごめんなさいね。老虎は宿屋じゃないので、こんな粗末な寝台しかなくって」

「ううん、シェル姐さんありがとう。

 寝台で眠るのは久しぶりだわ。

 ここ最近、刀術の工夫に忙しくて、ほとんど夜通し起きてるの」

「えっ、寝台で寝てないの?」

 大概のことには動じないシェルフィンも、これにはさすがに呆れ声だった。

「ここしばらくは、昼寝程度しか眠ってないから」

 サキは深夜まで刀術の工夫に明け暮れ、そのまま朝になることもしばしばだった。気が付いたら石畳の床で寝落ちしていることも時々ある。

 たまに寝台に潜り込んでも、夢の中で影法師が刀を抜く姿に飛び起き、その影法師の動きを忘れぬようにその場で刀を抜いてみるという日々だった。

 結局、起きているんだか寝ているんだか、自分でもよくわからない状態だった。

「それじゃあ、酔いつぶれて老虎の土間で眠ってるリュードと変わりゃしないわ」

「あんな酔っ払いと、一緒にされたくないわ!」

「今夜くらいは、ちゃんと寝台でお眠りなさい。夜中に寝ぼけて、刀を振り回してたりしたらイヤですからね」

 そう言って、鋼の手首をぶら下げたシェルフィンが、部屋を出て行った。

 サキは、刀掛に横たわった愛刀に頭を下げ、寝台に潜り込んだ。

 不思議なことに、その晩は夢も見ずにぐっすりと眠れた。


       ◆


 店の中に、誰か侵入した気配があった。

 調度類は動かされてはいないが、長年の直感でわかる。人が息を殺して潜んでいる気配はない。数刻前に立ち去った気配だった。

 ドーンが、店の裏手の金蔵に急いだ。日が昇り始め、東の空が明るくなり始めていた。

 錠前はそのままだった。だが、不吉な予感が強くなる。

 扉を開けて、中を確認する。

 胸騒ぎは的中した。

「やってくれる……」

 扉を開いたドーンが、不意に笑い出した。

 中は空だった。

「盗人が仕事中に、逆に空き巣にやられた、とはねぇ」

 戸口から吹き込んできた一陣の風に、残された魔除札が風に舞った。

「方術士、か……なめていたようだ」

 ドーンは、金蔵の魔除札を一瞥し、奇妙な呟きをもらした。

「これは、急いだ方がいい」

 店にとって返したドーンは、もはや商人の芝居をかなぐり捨てていた。

「今夜、決着を付けてやる……一人として生きて返すな」

 朝から店に集まってきた配下に指示を飛ばす口調は、暗黒街の住人のものだった。

「得物は?」

「アンガス候の屋敷に、剣を隠してある」

「結構、一人一殺で充分とは思うが、念のため三人ずつで掛かれ!」

 配下の全員も、普段の商人然とした態度ではない。その眼光や表情に凶暴さが浮き上がっている。

「丁寧に、お迎えさせて頂こうじゃないか……丁寧にな」


       ◆


 朝から老虎の中が騒がしい。入れ替わり立ち替わり、様々な職業の人が老虎を訪れ、シェルフィンに報告を残しては去って行く。老虎の二階でサキが目を覚ました時には、天狼の調査結果が続々と集まり始めていた。

 天狼の協力が「微々たるもの」というシェルフィンの言葉は相当に控えめな表現だった。

 天狼の調査網の広さと、情報伝達の早さはサキの度肝を抜いた。

「凧、鏡、狼煙、灯火、鳩とかを使うのさ」

 凧は、子供のおもちゃではない。

 おそらく、戦争時には凧も使いこなすのだろう。天狼の特殊技術に戦慄を覚えた。

 天狼が恐れられる理由がよくわかる。

 嘘に真、虚実何でもありの連中だった。味方にすればこの上なく頼もしいが、敵に回すと実にやっかいな相手だった。

 しかも、天狼の情報網は大陸全域に拡がっている。大陸各地から集まってきた情報は驚くべき量だった。

 徹底的に、それも広範囲に渡る詳細な調査を数日でやり遂げる天狼の怖さが身に染みる。早馬でも片道七日は掛かるアンガス候の領内からの情報も、わずか二日で届いた。

 そして、届けられた全ての情報が、魔除札の盗賊の正体として一人の男を示している。

 交易商ドーン・バルザック。

 サキ達がにらんだ通り、この男が魔除札の盗賊の正体だった。

 だが、その目的がわからない。


       ◆


 老虎に一泊したサキは、昼前にいったん神殿に戻り、詰め所に集まる魔除札の盗賊の情報を確認した。

 だが、昨夜は何事もなかったのか、神殿警護官の詰め所には何も新しい情報は届いていなかった。

 届いていたのは、ドーンからサキに宛てられた一通の招待状だった。

 サキは、招待状を読むなり、神殿を飛び出した。

 長い石段を駆け下り、老虎へと急ぐ。


       ◆


 招待状を握りしめ、サキが老虎に飛び込んだ時、シェルフィンも同じ招待状をつまらなそうに眺めていた。

「シェル姐さん、それは?」

「さっき、ドーンの店の下っ端が届けに来た。

 池のお屋敷が完成したので落成記念にご招待、だってさ」

「あたしのところにも届いたわ」

 サキは、手にした招待状をシェルフィンに見せた。

「招待状ねぇ」

 シェルフィンが、不快そうに鼻を鳴らした。

「それも、あたしとお姫様だけってのが気になるね」

「いよいよ焦ったかな?」

 リュードが呟いた。

 昨夜、何をやっていたのか知らぬが、午前中の老虎にはリュードは姿を見せなかった。

「まぁ、この間の天狼からのお見舞いに対する返礼に、って名目で池の御殿落成のお披露目ってなってるけど、これはあたしを誘き出す口実だねぇ」

「招待状、って名前の挑戦状?」

 サキの言葉に、シェルフィンが片目を閉じて見せた。

「たぶんね」

「あたしに届けられた招待状の口実は、池の御殿落成のお披露目、になってるわ」

「リュードも行くんだろ?」

「俺は呼ばれちゃいないが、従者がくっついてくるなとは書かれてないからな。御殿に入れちゃもらえないだろうが、敷地に入れりゃなんとでもなるさ」

「これが、決着かしらね」

「そりゃそうだろう。おそらくドーンは、自分の正体がばれたことに気が付いて、俺達と決着を付ける気満々だ」

 シェルフィンとリュードの会話から、サキは昨夜のリュードの動きが気になった。

「昨夜、リュードは何をしたのよ?」

「ドーンの金蔵に忍び込んだ」

「えっ?」

「あの金蔵は、工匠レオが設計したからくり仕掛けになってるんだ。

 重りで床が上下する。盗まれたはずのお宝を、いったん地下に隠したのさ。

 大げさな奴だぜ……わざわざ、俺達に消失の術を見せて挑発したのが命取りだ」

 ドーンは、リュードが辻占いで行う手妻を大規模にやって見せたに過ぎない。方術士のリュードと術比べをしたのが、尻尾を掴まれた唯一の失策だろう。

「どうやら、今夜が勝負になりそうだねぇ」

 不意に、サキは、池の離れで遭遇したブランという老人とリュードの会話を思い出した。

骨喰(ほねばみ)リュードとまで呼ばれた剣客が、何を呑気に丸腰でフラフラしてやがる』

 リュードが剣を捨てた剣士だったことを、サキも忘れていた。

「あ、そーだ! リュード、剣は?」

 サキの言葉に、リュードが手を打った。

「そうだ、すっかりと忘れてた」

「あのねぇ、相手は一筋縄でいかないわよ」

「まぁねぇ」

 リュードが、一瞬困ったような顔を見せ、懐を探った。

「シェル姐さん、五枚だっけ?」

「利息が付いて、六枚」

「厳しいねぇ」

 リュードが、机の上に金貨を六枚並べた。

「ドーンが占いの支払い分としてよこした金貨が、幸いにも手付かずで残ってた」

「ちょっとは、倹約しなさいな。あんたは、金が入るとすぐに酒とバクチに金を使っちまうから」

 金貨を受け取ったシェルフィンが奥に入り、布袋に包んだ剣を持ってきた。

「まだ、売り払われてなかったか」

 リュードが剣を包んだ布をめくり、中から一降りの剣を取りだした。

「こんな代物、売り払えるわきゃないわ。国一つ買えるような魔剣なんざ、高すぎて買い手が付かないよ」

 サキは、シェルフィンの言葉に驚いて、その剣を見つめた。

 黒と白の装飾の剣だった、黒い鞘の中に骸骨をかたどった白石が埋め込まれている。

 リュードがゆっくりと、鞘を払った。

 両刃の鋭利な刃が、青黒い輝きを見せてきらめいた。

 ぞっとするような寒々とした青黒い色をした刃だった。たくさんの血を吸ってきた剣だということが、一瞥しただけでわかる。

 驚くほど薄い刃だった。

 刃の角度によっては、刃が全く見えなくなる。

 サキの愛刀に比べ、それほど長い刃渡りではない。二尺三寸近い刃渡りの剣だった。

 リュードが刃身を改め、鞘に刃を納めるのを見届けてから、サキは口を開いた。

「リュード、その剣って?」

「長いこと使っちゃいないが、骨喰(ほねばみ)って異名の剣だよ」

骨喰(ほねばみ)ぃ? それって伝説の魔剣じゃない!」

「伝説も何も、こうして現実に目の前にあるのでね」

 天下の名剣十振りに入るという、伝説の魔剣が目の前にあった。

「あっきれた……そんな魔剣を、借金のカタに使ってたの?」

 サキにとって、愛刀は親友だった。

 愛刀を肌身離さないサキには、愛剣を借金のカタに使うリュードの行状は理解の範疇を超えている。

「使わなけりゃ、無用の長物なんでねぇ。

 それにこいつは、隙あらば持ち主を骨の髄までしゃぶり尽くそうって危ない奴さ」

 リュードが左手に剣を提げ、サキを促した。

「さっ、行こうじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ