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75話 王たる覚悟

 謁見の間は、人で溢れかえっていた。


 ルゥルゥ国からは

 王が最も信頼する男

 元帥、ジェンガ

 王が最も頼りにする男

 宰相、ボード

 王を玉座へと誘った立役者

 近衛大将、ミサゴ

 この三人を筆頭とした政府と軍の高官達


 その横にいるのは東方各国の王

 ルゥルゥ国に忠誠を誓った王達が勢揃いだ

 特にタキダ王、ゲンシン

 大陸最強の騎士団を率いる若き王が耳目を集めている


 一人の少女

 そして彼女に付き従う多くの人々

 少女の名は、馬路倉貝那

 いや、この世界でその名を呼ぶのはただ一人

 今の彼女は魔法王、ランシェル・マジク

 世界一の魔法使いが、西方の王達を従えやってきた


 少し目をやると、南方の人々の姿が見える

 周囲から頭二つ飛び抜けた、鋼の如き肉体の持ち主

 大戦士、ウェルキン

 その大戦士を支えるように寄り添う麗人

 大首長、アスパシア

 周りには各都市の代表と巫女らしき一団

 その中には戦舞の舞姫、シェザの姿もあった


 一人一人が一国を代表するような大人物。

 彼らは、ただ一つの目的のためにこの場へ集まった。


 目的とは、一人の男に会うこと

 その男の言葉を聞くこと


 男の言葉で、この場の全員が動き出す

 男の意思が、この場の全員の意志となる


 この場にいる全員を従える、その男

 世界の行く末を決める力を持つ、その男こそ


 東方、西方、南方を統べる盟主

 人呼んで、英雄王


 英雄王、リク・ルゥルゥ



 ---



「お腹が痛い…」


 現在進行系で胃に穴が開いているのではないだろうか。

 そう思えるくらいキリキリ傷んでくる。


 元来、俺は人前に出るのが得意な性格ではない。

 だからこっちの世界に来る前は大勢の前で話すことを極力避けてきた。

 そんなことをしないですむ人生を歩んできた。


 生徒会に立候補する人達とは住む世界が違った。

 クラス委員にすら手を挙げることなどなかった。

 誰にも選ばれず余った委員会にひっそりと名前を書き込み、余った仕事を黙々とやっていた。


 余っていた仕事は、どれも面倒くさいが大事なものばかりだった。

 誰かがやらねばならない仕事だった。

 だから思ったんだ。

「誰もやらないなら、俺がやるしかない」


 誰にも感謝されなくても

 誰にも褒められなくても

 誰にも認められなくても

 自分だけは、自分の頑張りを知っていた。

 それで、満足だった。

 それが、自分の性にあっていた。



 なのにこっちの世界に来てかはどうしたことだろう。

 何もしてないのに感謝されて褒められて認められ、王様にまで祭り上げられてしまった。

 もはや人前で話すとかいうレベルではない。


 謁見の間で今か今かと俺の話を待っている人たち

 今から俺が前に出て話をする人たち

 あの一人ひとりが、あの全員が、一国の代表なのだ。


 普段なら人を待たせるような立場の人達。

 会うために多大な労力と時間が必要な人達。

 それがわざわざ俺を待っている。


 一つの国の頂点に君臨する人達。

 文字通り言葉一つで国家を動かす人たち。

 それが俺の言葉で動こうとしている。

 

 今から俺が話す言葉で、この世界の行く末が決まる。

 大勢の人の、命運が決まる。


 これから行われるであろう決戦。

 もしかしたら、こちらが勝利するかもしれない。

 そうすればうちの国民は、東西南の連合軍は、生き残る。

 だがそのとき、連邦軍の死者は多大なことになっているだろう。


 それは当然、逆も然り。

 勝っても負けても人は死ぬ。

 俺の言葉で、俺が始めた戦争で、人が死ぬ。


 もちろん俺が始めなくても、遅かれ早かれ戦争は起きていただろう。

 話を聞けば聞くほど、連邦は戦争の準備を整えていた。

 むしろやつらの横っ面を張り倒すようなあの宣戦布告。

 意外と効果的だったかもしれない。


 …そう割り切れたら、どれだけ楽だったか。



「兄様、大丈夫?」


 銀色の瞳が心配そうに覗き込んでくる。

 精一杯の笑顔をつくって「大丈夫だよ」と返事をしたら、さらに心配そうな顔をされた。

 そんなに引きつっていたのだろうか?


 だが、口に出して再確認できた。

 そう、大丈夫なのだ。


 祭り上げられるようになって、ついには王様にまで持ち上げられ、ずっとずっと悩んでいた。

 だが、ようやくわかった。

 南方との同盟のとき、ついに理解できた。


 ()()()()()()だって。


 何百年もの間、こじれにこじれた関係の修復。

 憎しみの連鎖を止めるため、誰かが責任をとらねばならなかった。

 

 誰もやらなかったこと

 誰もやりたがらないこと

 でも、誰かがやらなきゃいけないこと

 俺がいつもやってきたこと


 それが求められてるんだと、わかった。

 もちろん今まではずいぶんスケールが違うが、本質は一緒だとわかって腹にストンと落ちてきた。


 だから全力を尽くすことができた。

 これが皆のためになると信じてがんばれた。

 死ぬかと思ったけど、それに負けじと死に物狂いで立ち向かった。


 結果、同盟は成った。

 もちろんまだ感情の行き違いはあるだろうが、一歩前進することができた。

 俺は、俺の仕事を成したのだ。



 これから起きる決戦も、同じだ。

 誰かがしなければいけないことだったのだ。

 時を選び、準備を整え、皆を鼓舞し、勝利する。

 敵も味方も大勢死ぬ。

 命を失わせる決断を下す。


 誰もやりたがらないそのその決断。

 いつか英雄が現れ、自分たちを導いてくれると思っていたのかもしれない。

 ”英雄王”

 その呼称に思わず苦笑する。

 俺はとても英雄なんて呼ばれる存在ではないが…


「誰もやらないから、俺がやるしかないんだよ」

「兄様…?」


 カルサの表情も心配そうなものから怪訝なものへと変わっている。

 さっきまではうるさいぐらいだっと謁見の間の人々もずいぶんと静かになった。

 ずいぶんと待たせてしまったようだ。

 そろそろ、覚悟を決めるか。


「じゃあ、行ってくるよ」

「”行こうか”の間違いでしょ、兄様」


 確かに

 俺の横にカルサがいなかったことなど、あっただろうか


「じゃあ行こうか、カルサ」

「うん!」


 その笑顔と共に、大広間へと足を踏み入れる。

 胃の痛みなど、どこかへ行ってしまった。



 ---



 万雷の拍手に迎えられる。


 各国に君臨する王侯貴族

 数百年の歴史を誇る名門

 巨万の富を抱える大富豪

 民に選ばれた南方の指導者


 その全員が目を輝かせて俺の一挙一投足に注目している。


 いつまで経っても自分がそれに値するような人間とは思えない。

 実際、何の能力もない一般人なのだ。

 彼らの国の一市民と何も変わらない。

 むしろ俺と彼らで立ち位置が逆じゃなかろうか。

 そんなことを思ってしまう。


 だが、現実は違う。


 壇上に立つのは俺

 見上げるのは彼ら。


 後ろのカルサに勇気づけられつつ、できるだけ堂々と歩みを進めた。



 玉座の前に到着した。


 解放王が座っていたと言われる玉座。

 強大な力で持って大魔王すらねじ伏せて人類を救った真の英雄。

 自分と違いすぎて、もはや笑うしかない。

 偉大な先輩はどんなことを考えながらこの椅子に座っていたのだろうか。


 そんなことを考えながら椅子に手をやる。

 するとそれを合図にしたかのように拍手が止んだ。


 皆の方に顔を向けると、数百数千の瞳が俺を見つめていた。

 思わず腰が引けそうになる。

 一瞬で喉がからからになった。


 だが俺がやらねばと、必死でつばで喉を潤し声を出す。


「待たせたな、諸君」


 俺の仕事を、始めよう。

思わずガルガの幕間を書きそうになりましたが、本編更新となります。

リクの内面の話となりました。


ブクマや評価をいただき、本当にありがとうございます。

もうすぐブクマが1000、総合評価が3000に到達しそうです。

これを励みに頑張っておりますので、気に入ったらぜひブクマと評価をどうぞよろしくお願いいたします。

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