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74話 兄王と王妹

「大前提として、連邦軍の全軍が東方に押し寄せるということはなくなりました」


 ボードの説明が始まった。

 いつもなら悪いニュースから始めるのだが、さすがに今回はいいニュースからのようだ。

 まあ、国家存亡の事態だったからね。

 まずはここを聞かないと始まらない。


「じゃあ、とりあえずの危機は過ぎ去ったということかな?」

「御意にございます、お館様」


 うんうん、そうだよね。


「あくまで、()()()()()にございます」


 そっちかー


「連邦軍の西方方面軍と南方方面軍は分離しましたが、依然東方方面軍および中央軍は我らの国境沿いに集結しております

 そしてその数は我らの倍以上

 まともに戦えば勝ち目はありません」


 相手は三分割したのに、まだ倍以上って…。

 ひどすぎだろう。


 ジェンガが百人ぐらいいて欲しい。

 そうすればきっと雰囲気はもっと明るくなる。


 思わず天を仰ぐが、いつもの天井だった。

 青い空が恋しい。

 この前嫌ってほど見せられたのに。


 そんな絶望的な状況なのに、ボードは笑顔。

 お、もしかして…?


「ですが、悪い報せばかりではございません」


 待ってました!!


「連邦軍は現在二つの事象で大混乱に陥っています

 一つは当然、軍を三分割する必要となったこと」


 元々別の部隊だったからといって、一旦くっつけた軍隊を分けるのはずいぶん手間らしい。

 しかも急に真反対へと戻らされるのだ。

 兵站を含めて何の準備も行われていないし、そう簡単に帰れるわけではない。


 だが西方も南方も無防備な現在、国境を死守するためにもそんなことは言っていられない。

 連邦軍は死に物狂いで大転進を行っているようだ。


「とても我らを攻められるような状況ではございません

 これだけでもしばらくは安心です」


 がんばったかいがあったね!


「そして二つ目、まさにお館様の意図通りにございます」


 何のことだろう?


「さすがはお館様です

 全てはお館様の意のままでございます」


 笑みを浮かべているが、全くついていけていない。

 尊敬の眼差しを送ってくれているが、全く心当たりがなくて嬉しくもなんともないぞ。


 たいへん大きな誤解があるようなので、ちゃんと訂正しておかねば。


「あのー… 何のことだかさっぱりなんだけど…」


 恐る恐る言ってみると、逆に頭を下げられた。


「たいへん失礼いたしました

 お館様の深謀遠慮は遙か先のことでございましたか」


 別の誤解が発生した。

 遙か先どころか直近でもなにもないです。

 とりあえず自分の頑張りで南方と同盟組めて、大満足しております。


 とは言ってもこのままでは埒が明かなそうだし正直に聞いてみよう。


「二つ目について、詳しい話を聞かせてくれる?」

「承知いたしました

 では僭越ながら、説明させていただきます」


 僭越ながら、拝聴させていただきます。


「ご存知の通り、連邦軍は大量の奴隷を使役しています」


 そうだったのか。

 全然知らなかった。


「大量の奴隷が酷使されております

 それはまるで、牛馬のごとく」


 …他国のことに口を挟みたくはないが、やな話だ。


「ゆえに不平不満も溜まっていましたが、連邦の強大な力によって押さえつけられていました

 今までは」


 ほほう?


「お館様による奴隷解放宣言

 その効果は劇的でした

 こちらが喧伝する必要もなく、瞬く間に連邦軍中に広まっていたのです」


 そういえば”全ての奴隷は解放される”って宣言したっけ。

 あのときは連邦のことなど意識していなかったが…

 結果的には、いいこと言ったな!


「待遇改善を要求するぐらいならまだ良かったのでしょうが、連邦軍から逃亡する者や反逆する者が続出しております

 連邦軍の土台を支えていた奴隷たちがいなくなり、もはや軍の体をなしておりません」


 なるほど


「好機到来というわけか」

「御意にございます」


 数の上ではまだ負けているが、相手が大混乱しているのならば話は違う。

 今ならば数の不利も問題にはなるまい。

 実戦に投入できる人数ならば我々が上回る可能性すらある。


「全て任せる、と言いたいところだが…」

「皆、お館様の御下知を待っております」

「だろうな」


 こういう大事なことは、やっぱトップが締めないと。


「皆を大広間に集めてくれ

 俺もすぐ向かう」

「ははっ!」


 準備のために皆が部屋を出ていく。

 あっという間に人はいなくなり、残っているのは横で寝ているカルサだけとなった。



 ---



 さて、俺も準備するか

 とベッドから出ようとすると、服が引っ張られた。


「兄様、また戦場に行くの?」

「カルサ、起きてたのか?」

「うん」

「いつから?」

「ジェンガが部屋に入ってきたときから」


 あー…

 あれだけうるさければねえ


「それで兄様、また戦場に行くの?」

「たぶん、そうなるかな」


 自分だけ安全な場所にいるのは、どうも性に合わない。


「今度こそ、死んじゃうかもしれないんだよ?」

「もう、あんなことしないよ」


 さすがに二度はきつい。

 だが、どうも信じてもらえていないようだ。

 カルサはギュッと俺を抱きしめてくる。


「わかんないよ

 兄様、優しいもん

 また困ってる人たちがいたら、命を投げ出そうとしかねないもん」

「別に命投げ出してるつもりはないんだけど…」

「でも、実際死にかけたもん」

「まあ、それは…」


 かなり心配をかけてしまったようだ。

 優しくカルサを抱きしめ返す。


「大丈夫だよ。約束する」

「…何を?」

「命を投げ出そうとなんかしないって」

「…本当に?」

「本当だよ

 俺は王様だけど、同時にカルサのお兄ちゃんなんだ

 カルサを置いていったりしないって、約束する」


 返事はなかった。

 だが返事の代わりのように、強く強く抱きしめられた。


 しばらくの間、そうしていた。

 その間、俺はずっとカルサの頭をなでていた。


 少し力が緩んでくる。


「じゃあ、皆のところに行ってくるよ

 カルサはもう少し寝てる?」

「ううん。あたしも行く」


 ハグが解かれる。

 もうその顔は、いつものカルサだった。


「あたしがいないと、兄様が心配だし」


 間違いない

カルサはリクが最強でも何でもないと知っているので、気が気ではありませんでした。


最近はブクマ、評価、感想、どんどん増えておりとても嬉しいです。

なかなか時間が取れなくなってきていますが、これをモチベに頑張っております。

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