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73話 ジェンガの帰還

「リク様!!」


 宮殿中に響くような大声。

 少しウトウトとしていたが、すっかり目が覚めてしまった。


 ドタドタと走る音

 あとなんかワーワーと声も聞こえる。


「リク様!ご無事ですか!?」


 勢いよく開かれる扉

 蝶番が壊れたんじゃなかろうか。


 死にかけてた人間の部屋に来る態度ではない気がする。

 いや、逆にこれぐらい急いで来るべきなのだろうか?


 間違いなく言えるのは、この声が聞けて少し元気が出てきたこと。

 無事で、本当に良かった。


「俺は大丈夫だよ」

「リク様…」


 先ほどまでの勢いが嘘のよう

 ずいぶんと心配させてしまったようだ

 安心して一気に力が抜けていく

 そのままその場にへたり込みそうだ。


「お前こそ、無事で良かったよ

 おかえり、ジェンガ」


 まるでその言葉が魔法だったかのように、効果は劇的だった。

 起き上がり小法師のごとく跳ね起きる。


「はい!!」


 頭に響くので声量を加減して欲しい。

 そんな想いをよそに、いつも以上の元気さを見せてくれる。


「ジェンガ、ただいま戻りました!!!」


 思わず意識が吹っ飛びそうなくらいの元気さだ。



 ---



「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」


 カルサを起こさないようにゆっくりと上体を起こしてると、少し遅れてボードが到着した。

 ずいぶん走ったのだろう。

 めちゃくちゃ疲れてる。


「お館様、申し訳ございません…

 はぁ…はぁ…はぁ…」


 少し息を整える。


 その間にアルカが帰ってきた。

 もちろん疲れなど微塵も感じさせない。


「何とか止めようとしたのですが…

 いかんせん無駄に動きが早く…」

「俺は元帥だぞ?

 そもそもどうして止められなきゃいけないんだ?」

「阿呆!

 何がそもそもだ!

 城門をすり抜けたあげく、正規の順路を無視して最短経路でお館様の部屋を目指す元帥がどこにいる!?」

「ここにいるじゃん…」

「何がここにいるだ!

 完全に賊ではないか!!」

「そ、それは…あれだ

 賊一人止められないような警備の方が、問題じゃないか?」

「耳が痛い話であるな」


 ミサゴとハイロも部屋に入ってきた。

 こいつらも涼しい顔してる。


「み、ミサゴ様!?」


 そしてジェンガはミサゴに弱い。


「そなたの侵入を許したこと、確かに近衛大将である妾の落ち度である。いかような処分でも甘んじて受けよう」


 落ち度があった人間とは思えないほどでかい態度だ。

 さらに慌てるジェンガがおもしろい。


「いえいえいえいえ!とんでもありませんミサゴ様!

 ちょっと急ぎすぎた俺が悪いんです!

 すいません!」

「そう言ってもらえると助かるぞ

 そなたを止められる警備体制など、考えるだけで冷や汗ものだ」


 ジェンガの体力は折り紙付きで、しかも頭もまわるからな。

 確かにたいへんそうだ。


 ってか警備体制といえば北の国境!

 どうなったかちゃんと聞かないと!

 あそこ破られてたら、うちの国を連邦軍が…


「じぇ、ジェンガ?」

「はいっ!」


 一瞬でこちらへ振り向いて直立不動


「北の国境は、大丈夫だった?」

「もちろんです!!」


 めちゃくちゃいい返事だ。


 そして語られ始める報告

 いや、自慢話だろうか?



 迫り来る連邦の大軍、その数およそ一万

 対するこちらはわずかに五百

 彼我の兵力差は十倍以上

 圧倒的な戦力差に、逃げることしかできなかった


 しかし、一人の男が全てを覆す

 その名はルゥルゥ国元帥、ジェンガ!


 元帥自らの出陣に沸き立つ兵士たち

 多勢に無勢だろうが恐れはない

 国のために華々しく散ろうと喜び勇む


 しかし、そんなことは元帥が許さない

「お前たちは逃げろ

 ここは俺が一人で守る」


 無茶だ無謀だとすがる兵士たちを優しく諭し

 男はただの一人で戦場へ


 戦力差、一万倍

 象に踏み潰される蟻のごとく

 それは戦闘にすらならない


 ()()()()()


「奇跡とは、起こすもんさ」


 男のその言葉は、現実になる。

 絶好の立地

 敵将の慢心

 伝説の宝剣

 そして、男の実力


 全ての歯車が噛み合い、全てが逆転する。

 たった一人で一軍を壊滅させる。


 そんな奇跡が今、ここに降臨した。



「というわけで敵将もパパっと討取り、見事凱旋いたしました!!」


 誉めて誉めてと言わんばかりに迫ってくる。

 しっぽがあったら振り回していることだろう。


「ジェンガ、お前…」


 話の間中絶句していたボード。

 何か言おうとしてるが、二の句が続かない。


 まあ、それもそうだろう。

 法螺にしても桁違いすぎる。

 突っ込む気も起きないのだろう。


 だが、その気持ちがとても嬉しい。

 俺を元気づけるために大げさに話してくれているのはわかっている。

 それほど心配させてしまったのだろう。

 本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 さすがに結果で嘘をつくはずないので、敵が壊滅したのは本当だろう。

 何かしら自然災害とかがけ崩れとかを利用したのかな。

 その隙に敵将も討ち取ったわけだから、桶狭間みたいなものか。

 いや、うまくいったものだ。


 ここで突っ込むのも野暮というものだし、素直に誉めるだけなのもつまらないし、俺もちょっと乗ってやろう。


「ジェンガ、俺は驚かないよ」

「リク様…?」

「俺はお前が一万倍の敵を倒したと聞いても、別になんとも思わないって言ったんだ」


 ジェンガが絶句してる。

 ボードやミサゴ、ハイロもびっくりしてるぞ。

 いい感じだ。


「だって俺は、お前にとって一万倍程度の敵なんてなんともないって、信じてたから」

「!!!」

「もしジェンガあと十人いたら、連邦はすでに俺たちの軍門に下っていただろうさ」

「リク、様…」

「ジェンガ 俺はお前がそれほどの男だと、知ってるんだよ」

「ありがとうございます!!!」


 今度こそ一瞬意識が飛んだ。


「リク様の信頼に、期待に答えられるよう、不肖ジェンガ、身命を賭して尽くして参ります!!!」


 そのまま「うおおおおおー!!!」と叫びながらどっかに行ってしまった。

 今からボードに全体の情勢について話を聞くはずだったのに、あいつは聞かなくていいんだろうか?


 ちょっと褒めすぎたかもと反省する。

 折を見てちゃんと話をすべきかもしれない。


 まあ、何はともあれ最新情勢だ。


「ボード、説明を頼む」

「は、ははっ!」

珍しくリクが勘違いしている話でした。

ジェンガのことは身近すぎて、彼が世界最強クラスということに現実味が持てていません。


そして世界情勢の話が次回になって申し訳ありません…。

週一更新はなんとか守れるよう頑張ります。

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