72話 目覚めた王様
気づくと、眼の前にはいつもの天井があった。
頭の下にはいつもの枕。
体を包むのはいつもの布団。
いつもの、俺のベッドの上。
なるほど。
俺にとっての”いつもの”は、もうあの安アパートではないんだ。
この宮殿の部屋が、今の”いつもの”部屋なんだ。
ずいぶんと王様生活に馴れたものだと自嘲する。
態度も偉そうになってないか心配だ。
だが王様の自覚が出てきたおかげで南方との同盟も成立した。
悪いことばかりではない、と思いたい。
「よっこらしょ…」
と起き上がろうとしたが、左半身が重くて起き上がれない。
まだまだ本調子ではなさそうだ。
あれだけボコボコにされれば当然か。
大戦士、ウェルキン・ゲトリクス
めちゃくちゃ強かった。
めちゃくちゃ痛かった。
いや、確かにボコれと言ったのは俺だ。
そこは弁明しようもないし、するつもりもない。
でもあそこまで痛めつけてくる必要はあったのだろうか。
少しは手加減してくれてもいい気がする。
だけど、もしかしたらあれでも手加減してくれていたのだろうか。
だとすると…
「生きてるのは、奇跡かもしれん…」
「本当にそうですよ」
ベッドの横に人が座っていたようだ。
首を向けると、そこにはいつもの顔。
俺をいつも死の淵から救い出してくれる、恩人の姿があった。
「アルカ、今回もありがとう
助かったよ」
「どういたしまして
でも、もうこんな無茶しないでくださいね?」
「そんなやばかったの?」
「めちゃくちゃ、やばかったですよ」
珍しくちょっと怒っている。
本気でやばかったのだろうか。
「呼吸は止まってるし心臓も動いてないし血は止まらないし、本当の本当に死ぬところだったんですからね?」
「…マジで?」
「マジもマジ。大マジです」
「マジか…」
「急いで治癒魔法で傷を治して血を止めて、あと南方に伝わる心臓蘇生法というもので心臓を動かすよう懸命に試みましたし、人工呼吸もしたんですから」
え?人工呼吸?
「心臓が再び動き出したときなんて、私も嬉しくて涙出ちゃいましたよ」
心臓も大事だけど、ファーストキスの行方も大事
「カルサなんて、心配でずっと離れなかったんですよ?
今も、ほら」
アルカの指の先
俺の左半身に寄り添う銀髪の少女
ファーストキスなんかより、ずっと大事な俺の妹
「カルサ…」
「寝かしておいてあげてください
リクさんのことが心配で、寝ずに付き添っていたんです」
「…」
「リクさんとほぼ入れ違いで寝ちゃったんですよ」
きれいな銀の髪をそっとなでる。
柔らかでさらさらだ。
でもいつも整っているその髪が、少しだけ乱れている。
「…俺は、どれくらい寝てたんだ?」
「三日間ぐらいですね」
「色々、動きがあったろうな」
「今はそれより、自分の体のことを心配してください」
「いや、そういうわけにもいかないよ」
だって、俺は王様なんだから
「すぐにボードを呼んでくれ
話が聞きたい」
「動かないって、約束してくれますか?」
「もちろんだよ」
ちょっとおどけてみる。
「動いたらカルサを起こしちゃうじゃん
今の俺は、動けないよ」
「ふふ、そうですね」
ようやく笑ってくれた。
「じゃあ、ボードさんを呼んできます
時間がかかるかもしれませんし、少しでもいいからまた目をつぶっててくださいね。約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
部屋を出ようとするアルカの背中を見て、ふと以前の言葉を思い出す。
”私、リクさんが王様の国に住めるのがとっても楽しみなんです”
「アルカ」
思わず呼び止めてしまった。
キョトンと振り向くその顔に、俺は何を言うべきなのだろうか。
何を問うべきなのだろうか。
少しだけ逡巡する。
いろいろ考えたが、やっぱり素直に聞いてしまおう。
気になったことをそのままに
俺は、俺らしく。
「俺が王様の国に住めて、幸せ?」
それは、輝くような笑顔だった。
「もちろんです!」
久々の本編です。
リクが目覚めるのに一ヶ月近くかかってしまいすみません。
さすがに番外編が多すぎたかと反省しております。
短くて申し訳ないのですが、今週も土日が怪しいので本日の更新となりました。
次回こそ、現在の情勢等々の話題となります。




