69話 会談 VS大戦士
”大戦士”
それは南方で最も偉大な戦士のこと。
当代の名は、ウェルキン・ゲトリクス。
年齢は初老といったところだろうか。
髪に白いものが混じり始めている。
肉体も全盛期からは劣っているのだろうが、今なおその筋肉ははちきれんばかりに膨れ上がっている。
俺など一撃で殺せそうな肉体。
だが、彼は南方最強の戦士ではない。
大戦士は力で決まるものではないのだ。
彼よりも強い戦士は他にいる。
彼より若く前途有望な戦士はたくさんいるだろう。
彼より年配で尊敬を集めている戦士だっているかもしれない。
彼以上に面倒見のいい戦士や心優しい戦士だってきっといるだろう。
だが、それら全員を差し置いて彼こそが大戦士と選ばれた。
最も”偉大”な戦士として選ばれた。
その偉大な男を説得し、この戦争を終わらせる。
俺だけができること。
俺がやらねばならないこと。
戦場で戦った経験も指揮をとったこともなかったが…。
今ここが、俺の戦場だ。
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「連邦の者共は我らの利用価値がなくなればあっさり切り捨てるだろう。そんなことはわかりきっている」
苦虫を噛み潰したような顔。
「だがそれでも、だ。それでも、お前たち西方を滅ぼせるならば悔いはないという者たちが、我らの同胞には数多いるのだ」
滅びに進んでいるのがわかっているのに、止めることができない顔。
「奴隷となっている者たちが解放されるとしても?」
「当然それは諸手を挙げて歓迎されるだろう。誰もが理性では理解できるのだ。連邦に与することに理はなく、貴様らと手を結ぶべきだということは」
「それならば…」
「だが、それでも」
ダンッ
会談が行われている建屋全体が揺れるような衝撃。
「それでも、受け入れることは不可能だ。頭ではわかっていても、感情がそれを否定する」
音の発生源は眼の前にある拳と机、だったもの。
「相互に積み重なった数百年、幾世代にも及ぶ我らの我らの遺恨。そうそう簡単に消え去ることはできないと、理解していただこうか英雄王よ」
なるほど。
大首長と大戦士
前者は理性でもって冷静にときに冷酷に、利益不利益で物事を判断する。
それに対して後者は感情で判断を行う。
本人たちがそういう性質なのではなく、そういう役割分担なのだろう。
理性でもって理詰めで物事を決めることができればそれが一番だ。
だが、人間というものはそんな簡単なものではない。
ましてや、それが国となればなおさらだ。
どんなに理屈の上では正しいことであっても、国民感情がそれを否定していてはその手段をとることはできはしない。
そんな手段を選んでも実現はされない。
国民がそっぽを向くか、それこそ指導者達がすげ替えられてしまうだろう。
だが、感情だけで行動してはそれこそまたたく間に国は滅ぶ。
己の欲望だけで国を傾けた偽王のように。
理性と感情
大首長と大戦士
すでに大首長との話し合いは終わり、彼女は我々の案を承諾した。
ならば次は大戦士を説得しなければいけないわけだが…
「では、そろそろ表へ出ようか」
「…どういう意味だ?」
「話し合いの時間は終わりだということだ」
「ほう…」
立ち上がり、外套を羽織る。
目に見えるような殺気を放つ大戦士と、戸惑うような顔で俺と彼を見比べる大首長。
うちのメンバーも同じく理解できていないようだ。
どよめきが聞こえてくる。
「話し合いをやめるということは、戦うということか?」
「そうだ」
だが、それは開戦という意味ではない。
「俺とお前の、一騎打ちだ」
戦争を行わせない為の、戦いだ。
「武器は?」
「使わない。己の肉体だけでの勝負だ。当然魔法も使用禁止だ」
「…意味がわからない。英雄王、あなたがそんなことを提案する理由がない」
南方の民の感情は理解できても、俺の考えは理解できないらしい。
この場で俺の考えを理解できてるのは…、カルサぐらいか?
そんなことをするな!と一生懸命首を振っている。
だが、やめるつもりはない。
「俺はさっき大首長と言葉で話し合い、理解し合った」
「大首長は、な」
「そうだ。だから、次はお前と話し合わなければならない」
「なのに表へ出よ、と?」
「ああ」
精一杯強く拳を握り、突きつける。
「お前とは、この拳で語り合う」
物事は単純に
「男同士、これが一番わかりやすいだろう?」
肉体言語で、語り合おう
次回は大戦士との会談、本番となります。
なかなか時間とれず、短くてすいません。




