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66話 期待と覚悟

 西方と連邦の軍隊がにらみ合うその中間地点。

 緩衝地帯といえば聞こえはいいが、いざ戦端が開けば最も多くの血が流れるであろう場所。


 俺たちは今、そこに向かっている。

 南方諸国との会談を行うために。


 ---


 ボードはうちの国では宰相として強大な権限を持っている。

 しかしここは国外で、しかも周りは王族ばかり。

 物事を進めるのはなかなかたいへんだろうが、それでも俺の願いを叶えてくれた。


 みんなの力で、実現してくれたのだ。



 まず馬路倉


 南方と会談を開くということに対し、当然西方各国の王族は難色を示した。

 蛮人と蔑む南方と対等に話すことなど、彼らにとってはありえないこと。

 俺が直接言えば違ったのかもしれないが、ボードでは説き伏せることが困難だった。


 そんな彼らを説得してくれたのが馬路倉。

「不満がある者はボード宰相ではなく、私に言いなさい」

 こう言って彼らを黙らせてくれた。

 馬路倉のおかげで、ボードは自由に動くことができたのだ。



 次にミサゴ


 会談を行うことになっても、そもそも南方は西方に強い敵愾心を持っている。

 使者を送っても話も聞かずに切り捨てられる恐れすらあった。


 そんな中、彼女は自ら使者を買って出てくれた。

「これでも解放王の直系なのだ。さすがに彼らも、妾のことを無碍にはするまいよ」

 そんな風に笑いながら。

 命の保証もなく南方の陣地へと出向き、そして見事会談の約束を取り付けてくれたのだ。


 ハイロにはずいぶんと心配をかけさせてしまったようだが…。

「このようなことは、金輪際御免こうむります。本当に」

 すまん。



 いつものようにカルサ


 そもそもボードが寝室の前で待機してくれていたのはカルサのアドバイスだった。

「兄様が、きっとボードの力を必要とするから」と。

 馬路倉もミサゴも、カルサが「今夜何かあるかも」と話をしてくれていたからすぐ動くことができた。


 俺がシェザと出会って何かせずにはいられなくなると予想してくれていた。

 そのために、動いてくれていた。


「兄様のことなんて、お見通しなんだから」

 そんなふうに、いつものように。



 そして、ボード


 カルサが皆へと声掛けをしてくれた。

 馬路倉が西方の王たちを抑えてくれた。

 ミサゴが南方と会談の調整をしてくれた。


 一見するとこれで全部片がつくように思えるかもしれない。

 でも違う。

 物事というのは積み重ねの結晶だ。

 細かな調整や準備といったものがなければ、動くものも動かない。


 カルサが馬路倉やミサゴ達と連絡がとれたのはなぜか?

 ここは最前線でしかも重要人物が集結している。

 だから当然のごとく屋敷の外も中も守備兵だらけ。

 いくらカルサでも国外では顔パスとはいかない。

 カルサが自由に動けるようにと、ボードが事前に通行手形を準備してくれていたのだ。


 馬路倉が西方諸国の王達と話す機会を作れたのはどうしてか?

 そんな深夜に都合よく王達が起きているはずもない。

 ボードが王達に頭を下げて大広間に集め、場を整えたからだ。


 ミサゴはどうやって南方の陣まで行ったのか?

 そもそも南方諸国にとってもここは最前線。あちらも当然厳戒態勢だ。

 だがボードは前線に到着してすぐに話し合いの可能性もあると事前に話を進めてくれていた。

 俺が歓迎会に参加している間も、動き続けてくれていた。

 そのツテにより、ミサゴは正式な使者として会談を申し込むことができたのだ。


 ボードのやることに派手さはない。

 今回だって表面上は馬路倉とミサゴの手柄と言われている。

「こんな短時間で会談までの道筋をつくるとは、さすが魔法王陛下。さすがミサゴ・イヅル様」と。


 でも俺は知っている。

 ボードがどれだけ裏で頑張ってくれているかを。

 彼がいなければ、会談など絵に描いた餅で終わってたということを。


 お礼を言っても恐縮した顔で

「私は当然のことをしたまでです」

 なんて言われるだけだろう。


 だから俺は感謝を口にはしない。

 そのかわり、絶対実現しないといけない。

 かつてルゥルゥ国の貧民街の子どもたちを救ったように。

 ボードの弟や妹たちを闇からすくい上げたように。


 南方の民というだけで差別される人々を救ってあげなければならない。

 いまだ各国で奴隷として虐げられる人々を開放しなければならない。


「お館様ならば、可能でございます」


 そんな彼の期待を

 俺を信じる心を

 実現しなれければならないんだ。


 ---


 俺にできることなんてほとんどない。


 剣と魔法の世界に来た転移者なのに、魔法も使えない

 もちろん剣だって全然だ


 百戦百勝の智将なんて言われてるが、俺の作戦で勝ったことなんて一回だけ

 しかも元の世界のパクリときたもんだ


 王様になっても全然自分で政治なんてしていない

 優秀なみんなが自主的に頑張ってくれ、それでうまいこと国が回ってるんだ


 そんな俺を、なぜかみんなが慕ってくれる。

 俺なんかを王様と持ち上げて、全部俺のおかげと言ってくれる。


 正直、いまだに違和感しかないし自分の手柄だなんて思えない。

 でも、こんな俺でも

 人の役に立つことができるなら


 だったら


「やるしかないじゃないか」


 俺は、みんなの期待に応えたい

前回の後書きで心配してくださり、ありがとうございます。

感想、ブクマ、評価、とても励みになっております。


今回はちょっと短くリクの内面だけの話でした。

次回は会談に入る予定です。おそらく土日に更新できる、かと…。

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