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65話 王様と奴隷

 今頃ジェンガはどうしてるだろうか。


 ちゃんと帰ってくると本人は言っていた。

 あの言葉を信じたいが、やはり心配だ。


 ジェンガは実はすごくすごく強いらしい。

 大陸最強と呼ばれるぐらいの剣の使い手らしい。

 だけどそれは一対一の世界の話。

 今回あいつが対峙しようとしているの軍隊なのだ。


 万に届くかもしれない敵を前にして、今頃ジェンガは何を考えているのだろう。

 遠い北の地で、あいつは今頃どうしているのだろう。


「ご主人様?」


 そう、ジェンガは万倍もの敵を相手にしているのだ


「いったいどうされましたか?」


 それに比べれば


「どうかシェザを可愛がってやってくださいませ」


 美少女一人、どうということがあろうか!?


 ---


 そう決意したものは良かったものの、やはり俺には無理だった。

 さすがに即位当日オウラン達が来たときのようにいきなり逃げ出すことはなかったが、だからと言って何かできるわけでもない。


 手を出す?

 そんなことができればそもそも思い悩んだりはしない。


 軽妙なトークで出ていってもらう?

 そんなトークができれば元の世界でもっとモテていた。


 やっぱり逃げ出す?

 俺の不興を買ったと周囲に誤解させてしまう。絶対に避けねば。


「申し訳ございません…」


 ん?なぜ謝罪?


「シェザは蛮人です。なのに、ご主人様のような偉大な方に触れていただこうなど、おこがましかったですね…。たいへん失礼いたしました…」


 とんでもない誤解をさせていた!!


「いやいやいやいや、そんなことはない!絶対にそんなことはないよ!」

「でも…」

「でもも何もないさ。ほ、ほら!」


 とりあえず肩を抱いてみる。

 そしてその細さに驚かされる。

 先程の踊りで見た荒々しさからは考えられない華奢な体。

 これが女の子の体かとドキドキしてくる。


 邪念よ、去れ!

 これはもう王様モードで強行突破だ。


「お前の気持ちは嬉しい。だが、私は誰でも抱くような男ではないのだ。今宵は寝室に戻り、ゆっくり休むといい。誰かに何か問われれば、私の命だと答えるのだ。そうすれば、誰も何も言うまい」


 決まった…!

 自分でも完璧な受け答えだと惚れ惚れする。


「ご主人様、でも」


 しかし、彼女の答えは俺の想像を超えてくる。


「シェザはご主人様の()()です。そのようなこと、気にされる必要はございません」


 そんなことを、笑顔で言ってきた。


 絶句。

 自分を人ではなくものと言い切った。

 先程の命も俺のものというのは誇張でも何でもなかった。

 彼女は文字通り、俺の所有物となるために、ここへ来たのだ。


 ---


 とりあえず二人でベッドに座った。

 いったい何を言えばいいのか。

 頭の中がグルグルしている。


「えーっと、シェザって南方生まれなの?」

「いえ、西方で生まれ育ちました」

「じゃあ、お父さんかお母さんが南方生まれ?」

「いえ、母も祖母も西方生まれです。遠い先祖が南方より連れてこられ、ハッティ国の王族の方のお世話になったと聞いております」

「そ、そうなんだ…」


 つまり遠い先祖からずっと奴隷になってるってこと?

 マジ?


「シェザ、とっても嬉しいんです」


 本当に嬉しそうに笑っている。

 そしてその笑顔にはまだ少しあどけなさがある。

 美人でスタイル抜群だから大人っぽく感じていたが、実はまだ子供なのかもしれない。


「ようやく我が一族から、献上品として採用していただける者が生まれたから」


 自分を献上品と言っている。


「とっても誇らしくて、とっても嬉しいんです」


 彼女はそれを喜んでいるという。


「母もきっとすごく喜んでくれます」


 さらに、親までも。


「ご、ご主人様?」


 何もかもが理解できなかった。

 かける言葉すら見つけられなかった。

 だから、ただ黙ってこの子を抱きしめた。


 温かい。

 当たり前だ。

 心臓の音が聞こえる。

 当たり前だ。

「ご主人様?ど、どうされたんですか?」

 わけも分からず問いかけてくる。

 当たり前だ。


 全部全部当たり前だ。

 この子は、人間なんだから。



 ハグを解き、目と目を合わせる。

 吸い込まれそうな碧眼。


「ちょっと待っててね」


 返事も待たず、部屋を出た。

 そこには待っていたかのようにボードがいる。


「俺は、自分がこの世の全ての人を救えるなんて驕っちゃいないよ」

「お館様ならば、可能でございます」


 ボードはいつも俺のことを買いかぶってくれる。


「そんなことはないさ。でも」


 それでも


「眼の前にいる奴隷の女の子を見捨てられるほど、落ちぶれちゃあいない」


 貧しい人々のことを遠い世界の出来事とテレビで見ていたあの頃

 何もできない一般人だった自分


 だが、今の俺は違う。

 今の俺には力がある。


「ここで何もしなかったら、俺は俺が許せない」


 一国の王としての、多くの同盟国の盟主としての力がある。


「ボード、南方と話をする場をつくってくれ」


 連邦としての決戦が迫り、時間がないのはわかっている。

 だが、ここは俺のわがままを貫かせてもらう。

 俺が俺でいるために。


 今の俺ならば実現し得うる何かを起こすために。


「万難を排して事にあたってくれ。全責任は俺がとる」

「全てはお館様の御心のままに」


 驚くこともなく、ボードは頭を下げる。

 命令を疑う様子もなく、ただ指示に従おうとしてくれる。


 その信頼に、応えよう。

 この困難に、立ち向かおう。


 ---


 ボードが早速動き出してくれたのだろう。

 屋敷の中が慌ただしくなってきた。


「ご主人様、どこへ行かれていたのですか?」


 何も知らず、キョトンとしている。

 そんなシェザの頭をなでる。


「何も心配いらないよ。そういえばシェザは南方の話は聞いたことあるかな?」

「へ?も、もちろんです。母や祖母からたくさん聞かせてもらってます」

「じゃあ、今夜はそれを俺に聞かせてくれるかな?覚えてる限り、全部ぜーんぶだ」


 一瞬ポカンとする。

 しかし、次の瞬間


「はい!」


 それは、弾けるような笑顔だった。

前話の更新後、一晩でブクマが10くらい増えました。

奴隷ができるような展開を望んでた方が多かったのかもしれませんが、ご期待とは違っていたらすいません…。

リクは奴隷を受け入れられる男ではなく、こういう展開となります…。


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― 新着の感想 ―
[一言] 正直受け入れてたら憑依かと疑うわw
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