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60話 魔王と魔法王+兄妹

「じゃああなたも狙われてたの?ジェンガ元帥に」

「元帥…?元帥とは人の軍の頂点ではないか。あの男が今、そのような地位に?」

「ええ」

「信じられん…。腕試しと称して、刀一本でこの我に襲いかかってきた凶戦士だぞ?」

「でもそれが厳然たる事実なの。さらに彼を元帥に就けた方こそ誰あろう、先輩よ」

「な!?あ、主様が!?」

「そ。先輩が王になって最初にしたことが彼を元帥、そして平民出身者を宰相に登用したこと。人の世界じゃ子供だって知ってる話なんだから」

「なんと…。確かに剣の腕は間違いないが…」

「まあ、あなたと聖王、この二人と戦って生き残ってる男なんて彼ぐらいだしね。でも彼は、剣の腕だけの男ではない」

「うむ。主様の御意志ならば間違いなかろう。我ごときには計り知れない裏がある、ということか。」

「そう。間違いなく、ね」


「最近、夕飯に肉が多くない?」

「あ、それあたしがお願いしたの」

「マジで!?俺は料理長の魚料理好きなのにー。カレイの煮付け最高なのにー」

「そんなの、兄様だってお願いすればいいじゃないの。きっと大喜びでつくってくれるでしょ」

「そのまま永遠に続く魚祭りになるってわかってて言ってるだろ…?」

「うん」

「やっぱり!変更してって言ったらきっと自分の料理に問題があったんだって誤解しちゃうんだよ…。俺は意見を言っちゃいけないんだ…。俺はもう、自分の料理の好みすら言ってはいけない人間になってしまったんだ…」

「はいはい。今度あたしから肉はもういいって言ってくわよ」

「やった!さすがカルサ!」


 馬路倉とワーズワース、そして俺とカルサ。

 ずっとこのペアで話をしている。


 そもそも共通の話題がないしね。

 俺と馬路倉は元の世界の話でいくらでも盛り上がれるだろうが、ワーズワースとカルサなんて接点ゼロだろ。

 今ようやく俺の知ってる人名が出てきたぐらいだし。


 しかしジェンガ…。色んなとこに喧嘩売り過ぎだろう。

 馬路倉からの使者ともバチバチやってたしな。

 そんなに戦うのが好きなのだろうか?

 そもそも


「ジェンガって、そんな強いの?」


 地味に気になっていたのだ。

 実際に戦った相手なら、あいつの実力知ってるだろ。


「はっ!あれほどの剣の使い手、我の知る限りヒイラギ・イヅルを措いて他にはおりません」


 突然話へ入ったのに即答してくれた。

 そして予想以上にすごい回答だった。


 ヒイラギ・イヅルとはミサゴのご先祖様。

 解放王と呼ばれるマジモンの英雄である。

 その人の次、もしくはそれ並というともはや伝説レベルだろ。

 第一印象、”気のいい田舎のお兄ちゃん”だったんだけどなあ…


「そういえば、その、砂漠の暮らしはどう?不便はない?」


 せっかくだしこのまま話の輪に加わってしまおう。

 まずは無難に生活環境の話題で。


「はっ!たいへん快適にございます!この部屋のようなぬるい環境では体がなまってしまいますが、魔界のような極寒はあれはあれでつらいものがございまして…。炎天下の砂漠こそ、我が元来好んだ地にございました。感謝してもしきれませぬ」

「そ、そうか。喜んでくれたならよかった」

「はっ!主様のご配慮、身に至る光栄にございます!」


 室内はぬるい環境…。

 インドア派の俺とは対極にいるようなやつだな。


「あとは…そうだ。魔力については、大丈夫?」

「はっ!まるで制御されておられないかのごとく供給いただいており、たいへんありがたく存じます。今この瞬間も主様の偉大な魔力を実感しているところです」

「制御、されてない…?」

「はい。これが主様でなければ魔力の扱いも知らぬ素人かと誤解してしまうところですね。無尽蔵なその魔力、恐れ入ります」


 素人も素人、ド素人ですとも。


「は、は、ははは…」

「お帰りになられてから突然魔力の供給が遮断されてしまいましたが、最初に大量の魔力をいただいておりますので問題はございませんでした。何か問題がございましたでしょうか?」


 寝込んでる間、首飾りを外してただけです。


「あ、あまり供給しすぎても問題あるかと思ってな。今後もそういう感じの魔力供給になるが、問題はあるか?」

「大河の隣に住んでいてなぜ渇きを心配しましょうか?恐れるのはむしろ洪水にございます。はっはっはっはっは!」

「な、ならよかった!」


 のか?

 溺れさせないように気をつけよう。


「それで主様、我らはいつ戦に加わればよろしいでしょうか?」


 ん?大魔王とはまだ戦う予定ではないのだが。


「連邦とやらと戦争が始まったと、ランシェルより聞き及んでおります。我らもその一端に加えていただけるのでございましょう?」


 連邦との戦争の話か。

 よほど戦いが好きなのだろう、闘気がビリビリ伝わってくる。

 俺みたいな鈍感じゃなければ倒れてるとこですよ?


 ただ、気持ちは嬉しいけど今回は…。


「いや、この戦いへの参加は不要だ」


 心を鬼にして断る。


「お前たちは来るべき大魔王との戦いに力を蓄えておくんだ」


 拍子抜けしたような、残念なような顔。

 うう。心が痛い。


「お前の気持ちは痛いほどわかる。だが、それは今だけ。そのときが来れば、お前たちにはたっぷりと戦ってもらうことになるさ。それこそ、嫌になるほどな」


 ニヤリとできるだけ悪そうな顔で笑ってみる。

 するとワーズワースは立ち上がり、最敬礼で答えてきた。


「恐悦至極!!!」


 ものすごい大声でびっくりした。

 カルサはめざとく耳を抑えてるが、俺はまともにくらってしまった。

 意識が完全に吹き飛ばなかったのは奇跡だと思う。


「では早速、我が配下の者共を鍛え直して参ります!いつでも参上仕りますので、お好きなときにお呼びください!!」


 朦朧とする意識の中、なんとか手を挙げて見送った。

 俺、がんばった。


「あいつが好き勝手に出入りできるようじゃ、ここの結界も張り直さないとね…」

「あれはガラスではなく、結界だったのですか?」

「そうよ、カルサちゃん。なみの攻撃じゃびくともしないし、マジックミラーみたいな…って言ってもわからないよね。中からは外が見えるけど外からは中が見えないようになってるの。けっこう頑張ってつくったんだけどなあ」

「張り直し、あたしもお手伝いいたします!」

「あら嬉しい。先輩は何か考え事されてるみたいだし、その間にちょっと相談しようか」


 馬路倉とカルサが楽しそうに何か始めている。

 これが二人の初めての共同作業になるわけか。


 少し時間が経ち、ようやく意識がはっきりしてきた。

 すると眼の前には嬉しそうに結界を張り直しているカルサと、驚愕の表情を浮かべる馬路倉がいる。


「先輩。カルサちゃんって、その、天才、じゃないですか?」

「俺もそう思う」

「私がつくった結界魔法を一回聞いただけで理解し、すぐに欠点を複数あげてきました。しかも欠点を話しながら、その改善策をすぐに思いついて今ああやってすぐに形にしています。尋常じゃありません」

「やっぱ、そうだよな…」


 姉がすごすぎるから自己評価が低いが、実は普通にすごいんだよなあ。


「先輩ほどの御方がカルサちゃんを妹と認められた理由、理解できた気がします」


 俺が兄にしてもらったんだけどね。


「ジェンガ元帥も、すごい方なんでしょうね…」


 それはどうなんだろう…。

 とてもいいやつだと俺は思うんだけど…。


「できました!」


 結界を張り終えたカルサが意気揚々と帰ってくる。

 馬路倉に褒められて、すごい照れてるけどすごい嬉しそうだ。

 よかったな、カルサ。


「じゃあぼちぼち、帰ろうか」


 魔法国の状況確認及び連絡手段の確保という当初の目的は達成されたわけだし、そろそろいいだろう。

 帰ったら本格的に戦争の始まりだ。

 ああ、胃が痛い。


「はい。では向かいましょう」


 そんなことを言いつつ馬路倉も準備をしている。


「西方代表として、皆様に挨拶をさせていただきますね」


 笑顔でそんなことを言うのでそんなものかと思って一緒に帰る。


 結果、全然そんなものではなかった。

ようやく少し体調がよくなってきました。次はインフルに気をつけます。

自分こそ世界最強と武者修行の旅で喧嘩を売りまくっていたジェンガは、大魔王を倒した村長へ挑戦しに来てアルカに返り討ちにあいました。

生まれて初めて惨敗した彼はその鼻っ柱を粉々にへし折られ、今の性格に落ち着いたのです。

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