06話 戦えないけど魔物退治
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今までのあらすじ
村に馴染んできました。
この日は近隣の村々の寄り合いということで、村長とアルカが出かけていった。
少々雪が強く村長が心配だが、まあアルカがいれば大丈夫だろう。
寄り合いの内容によっては一週間は帰ってこないらしい。
村長もアルカも治癒能力が重宝されて頼られまくっているようだ。
つまり一週間もカルサと2人きりで留守番ということでドキドキする。
俺の分のごはんはどうやって調達したらいいんだろう?と不安でいっぱいだ。
そんな平和なことを考えていたはずなのに、なぜか今俺は村の集会所で男たちに囲まれている。
「先生、今の話に何か質問はあるかい」
まずなんで俺がここにいるか聞きたいが、それは飲み込む。
話自体は簡単だ。
魔物の群れが現れたのだ。
冬で山に食料がなく、飢えている魔物の群れが。
飢えた魔物はえさのある場所、つまりこの村に近づいて来ている。
すでに村の外の畑が荒らされた。
まだ人の被害はないが、時間の問題だろう。
一応アルカを呼び戻しに人をやってはいるが、帰りがいつになるかはわからない。
治癒のためと、寄り合いの村からどこか別の村々を点々と移動している可能性もあるのだ。
アルカ達が帰ってくるのを待っている猶予はない。待っていれば最悪村がつぶされる。
今村にいるメンバーだけでなんとかしなければならないのだ。
「くそっ!こんなときアルカさんがいれば…」
「アルカさんがいない今、俺達だけでやらないと…!」
どう見ても村人っていうより山賊なおっさんが、俺の太ももより太い腕のおっさんを励ましている。
こんなおっさん達に頼られまくってるアルカ、ぱないっす。
「みんな落ち着くんだ」
おお、さすが自警団のリーダー・ジェンガ。
落ち着いてて頼りがいがあるぅ!
「心配することは何もないさ
だって俺たちには先生がついている。だろ、先生?」
先生ってのはそんなにすごい人なのか!これで村も安心だー
「さあ先生、もうとっくに考えついてるんだろう?
みんなに教えてやってくれ
この状況を打開する、策ってやつをさ」
策?策ってなんだよ。
「柵をつくって村を守りましょう」とか冗談言える雰囲気じゃねえ。
ジェンガは完全に俺を信じきってる目で見つめてくる。
それにつられてかあちこち「そうだ。俺たちには先生がいる」「アルカさんがいなくても先生が!」「先生なら、先生なら何とかしてくれる…!」なんて期待の声が聞こえてくるじゃないか。
屈強なおっさんたちの期待を一身に受け、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
俺の付き添いで来て、横で眠そうにしてるカルサが羨ましい。
ん?カルサ?
「カルサ、あの本で覚えた魔法の調子はどうだ?」
「え?あの本?」
「行商人のギドからもらったあの魔法の本さ
いい魔法、あっただろう?」
あってくれ!お願いだからあってくれ!
「え?え?えっと、えっと…
ああ、確かに幻惑の魔法なら魔物たちにはよく効くかも…」
あったーーーー!
「幻惑ってのはあれだな?
魔物が仲間を敵として認識して同士討ちをしたりするようにするんだな?」
「う、うん。そんな感じ」
きたきたきたーーーー!!
「ジェンガ、村の近くに追い詰められるような袋小路はあるか?」
「先生、絶好の場所があるぜ」
ジェンガがにやりと笑い返してくる。
俺も心から笑い返す。
「じゃあ、あとはわかるな?」
「もちろんさ!
野郎ども!崖下の広場に罠を仕掛けるぞ!
やつらへの冥土の土産だ遠慮はいらねえ。血肉がたっぷりついた匂いの強い餌をぶちまけてやれ!」
ふむふむ。
魔物はやっぱ新鮮な肉を好むのか。
「やつらが集まってきたら、頼むぜカルサ?
お前の魔法でやつらを同士討ちさせるんだ
広場から出てくるやつらがいれば、俺らが始末する」
「わ、わかった!」
カルサが力強く頷く。
自分が村に貢献できる、活躍できる機会が来たと興奮しているようだ。
「じゃあ、カルサは崖の上で待機し、魔物が集まったら魔法をかけてくれ
ジェンガ、カルサへの合図、頼んだぜ?」
「先生、任しといてくれ!最高の合図をしてやるぜ!」
カルサがこちらを見ていないのを確かめると、ジェンガは俺の耳元で囁いてきた。
「先生、本当はカルサがどんな魔法を覚えてるのか知らなかっただろ?」
バレてた。
「どの魔法を覚えていたとしてもカルサに活躍を機会を与えようだなんて、いったいどんだけの策を持ってたんだ?」
一つも持ってませんでした。
「知ってるだろうが、カルサは治癒魔法が使えないからって村長やアルカさんに引け目を感じている」
それは少し気づいてた。
「だからカルサに魔法で活躍させる機会を与えようって、ずっと考えてくれたんだろ?」
あればいいなと思ってただけです。
「これが成功すれば、きっとカルサはもっと自分に自信が持てる。
アルカさんとカルサの姉妹が協力できればうちの村は怖いもんなしさ。
ありがとな、先生」
色々と誤解されてるが訂正している時間はない。
ジェンガの指示で男たちが準備を始め、カルサは魔法の本を家に取りに帰った。
作戦開始だ。
正直、怖くないといえば嘘になる。
なにせ俺は戦うこともできない一般人なのだ。
しかし、この世界は非戦闘員だなんていう概念はない。
やらなければやられる。
なら、俺は俺にできることを全力をやるだけだ。
と言いつつ俺にできることなんて作戦の推移を見守るぐらい。
カルサと一緒に広場上の崖、魔物との戦闘がない安全地帯に来た。
名目上は作戦指揮官として全体を把握するため、およびカルサの護衛である。
むしろ俺が護衛されたいぐらいなのだが。
下の広場には肉につられてどんどん魔物が集まっている。
そしてついに魔物が全て集まったのだろう、赤い狼煙が上がった。
「カルサ!ジェンガの合図だ!」
「わかってるわよ!」
カルサの魔法が発動する。魔物たちは一瞬動きが止まったかと思うと、次々と同士討ちを始めた。
「おー、カルサの魔法、たいしたもんじゃないか」
「ふふーん!これぐらい余裕なんだから!」
ない胸をそらして自慢してくる。
少しは自信ついたかね?
魔物たちの同士討ちはあらかた終了し、ジェンガたちが掃討戦を始めた。
一対一なら余裕なのだろう。数を減らした魔物はあっという間に最後の一匹になった。
そしてその一匹が一気に広場を囲っていた壁、崖を駆け上ってきたのである。
誰だよ崖の上が安全って言ったやつ!?
俺だよ!
掃討戦を終わらせたジェンガたちがこっちに向かっているだろうが、当然間に合わない。
俺は喧嘩すらしたことないような男だ。
カルサは魔物を倒せるような攻撃魔法は使えず、身体能力は見た目通り。
なのに眼前には手負いの飢えた魔物が一匹。
絶体絶命である。
考える間もなく、魔物が襲いかかってきた。
襲った相手は俺ではなくカルサ。
カルサの怯えた表情、俺に向けられるすがるような目を見たとき、俺の体は勝手に動いていた。
腹が熱い。
なんかお腹から血とかその他とかいろいろ漏れてる気がする。
魔物の攻撃を正面から受け止めたのだ。人生で初めて受ける衝撃である。
痛いなんて軽く通り越して普通に死にそう。
眼の前に魔物の顔があり、瞳を睨みつけた。
自分を殺すやつになめられたままで死ぬのはちょっと悔しいので、せめて目はそらさずに死んでやろう。
カルサはちゃんと逃げているだろうか?
俺が命がけで助けたのだから、ちゃんと助かって欲しい。
ジェンガ、頼んだぞ
村長、もっと話聞かせて欲しかった
カルサ、勉強がんばれ
アルカ、いつも本当にありがとう
ああ、俺は人生の最後にお礼を言える男なんだな。
そんなことを思いながら意識が薄れていく。
魔物が一撃で粉砕される幻覚を見ながら。
幻覚ではなかった。
次に気づいたのはベッドの上。俺はまた助けられたのだ。
とりあえず隣でカルサが寝ててびびる。
でも全身に力が入らずうごけない。
「血が抜けて冷えたあんたの体を温めるためって、一緒に寝たんだよ
狭いだろうけど許してあげてくれないかい」
村長だ。
俺の治療をしてくれてたらしい。
「アルカは後始末で席を外してるよ
何よりあんたはあと瞬き数回分でも助けるのが遅れてたら死んでたんだ
不満かもしれないが、あたしが治させてもらったよ」
「…かなり危なかった感じ?」
「治癒魔法の使い手、それも瀕死の人間を治した経験が豊富なあたしみたいなやつがいなかったら、間違いなく死んでたね
自慢じゃないがあたしぐらいの使い手は都にだっていやしないよ
奇跡みたいな偶然さね」
「なんかいつも助けられてばかりだなあ」
「お礼を言うのはこちらのほうさ。あんたがいなけりゃうちの孫は死んでたよ
それに睨みつけて魔物の動きを止めてたそうじゃないかい?
もう一回攻撃を受けてたらもう完全に手遅れ。それを止めたのはあんた自身さ
さっき奇跡と言ったが、あんたが起こした奇跡なんだよ」
「そりゃいい。奇跡を起こす男って呼んでくれ」
はははと笑おうとするが、腹が痛い。
「まだ無理しなさんな」と村長に注意されてしまった。
「ただ、自覚しておくんだね」
村長は忠告する。
「今回の件で、あんたへの村人の信頼はとどまるところを知らずに上がり続けている
有能な作戦指揮官、命を顧みず子供を助ける英雄、魔物をも尻込みさせる勇者、それらを兼ね備える偉大な男だってね
近隣の村々にも噂はどんどん広がってる
あんたに頼ればなんとかなる、なんとかしたければあんたがいるってね」
少しぞっとする。
俺はそんな偉大な男ではない。
異世界に来たけどスキルも能力ももらえず、むしろ助けてもらってばかりの一般人なのだ。
「昔、そうやって期待されて全て背負い込み、その期待の重さでつぶされたやつがいたんだよ
本人は悔いはないと言ってたけど、あたしはあれを止められなかったのが一生の心残りさ
あんたはあいつみたいにならないよう願ってるよ」
遠い目をしながら、少しだけ昔のことを話をしてくれた。
もしかしたらこの相手が、俺の前に出会ったという異世界人なのかもしれない。
「とりあえず怪我が完治するまではおとなしくしておきな
そしてカルサのこと、本当に感謝するよ
あたしにできることは、さっきのあいつの話以外ならたいてい協力させてもらうよ」
本当なら一生誰にも、家族にも言わなかったであろう話だったのだろう。
それを少しだけでもしてくれたのだ。贅沢は言えない。
「じゃあ、とりあえず居候生活を続けさせてもらおうかな」
俺は軽口で返し、そのまま眠りについた。
「お安いごようさ」と優しい返事が聞こえた気がする。
なんか村長ルートに入りかねないような展開ですね。
若い頃はすごい美人だった村長ですが、残念ながら本作のヒロインではありません。
次はまた日常話を予定しております。