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54話 魔王と人の王

 後輩の前だからと、調子に乗りすぎたかもしれない。

 今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。


「俺が守ってやる」なんてかっこつけすぎだろう。

 自分の顔が真っ赤になってるのがわかる。

 ごめんなさい。俺の中身は安藤陸と何も変わってないです。


「先輩…」


 馬路倉が何か呟いている。

 しかしもうまともに顔を見れない。

 どうやって今の状況から逃げ出そうかと考えていると、魔軍に何か動きがあった。


 ここからだと豆粒以下の大きさにしか見れないが、群れから何かが出てきた。

 一人?だろうか。単体でこちらに向かってくる。

 さっきまでのおそるべき勢いはどこへやら。ゆっくりと歩いてきてる。

 俺がつくった崖をどうするのかと思ったら、その手前で止まってしまった。

 そしてそのまま待っているぞ。


 これはもしかして、誘ってる?

 それはつまり、この場を離れる理由ができた?

 チャンス!


「カルサ」

「は、はい。兄様」

「飛ぶぞ」

「う、うん」


 すぐにカルサは自分と俺にまとめて飛空魔法をかけてくれた。

 空中に浮くって何度やっても慣れないな。


「そ、そんな…。飛空魔法を二人、同時に?」


 馬路倉が何か驚いてる。

 確かに二人同時に飛ぶのは難しい。

 これはカルサの努力の賜物なのだ。

 国王就任直後、つまりカルサが飛空魔法を使えるとわかってから何度も何度も一緒に練習してきた結果なのだ。

 難しいのには理由があるとカルサが色々言っていたが、よく覚えていない。

 一番のコツは俺がカルサを信じて全てを委ねること。

「カルサがミスって死んだら、それはそれで仕方ない」

 そう達観したらもう、あっという間だったさ。


「俺たちにかかればこのぐらい何でもない。さあ行くぞ、カルサ」


 そんな事情を説明してる暇はないし、早く逃げ去りたいので話を打ち切ってカルサを急かす。以心伝心か勢いに負けたか、カルサは馬路倉に一礼するとすぐに崖の方へと向かってくれた。

 砂漠の飛行ってのも気持ちいいね!


 ---


 それは崖というより、もはや大地の境目であった。

 何も知らなければ、数刻前までここが陸続きであったなど笑い飛ばすだろう。

 それを自分がやったなど、全く現実感が湧かない。

 もしかして全て俺の妄想だったのではなかろうか。

 俺が魔法を使えるなんてやはり夢だったんじゃないだろうか。


 そんなことを考えていたら境目の真ん中に着いた。

 そのまま空中で静止し、魔軍から出てきた男を見つめる。


 そう、そいつは男だった。

 精悍な顔つきに筋骨隆々の身体を持った偉丈夫。

 そこだけ見ると人間だ。

 王たる威厳を備えた人間だ。

 しかし、彼が魔族ということは一目でわかる。

 なにせ頭の両側から立派なツノが生えてるのだ。

 このような人間はいない。

 ならば彼は王たる威厳を備えた魔族。

 つまり、魔王だ。


「我こそは、魔王ワーズワース!」


 漆黒の剣を地面に突き刺し、そこに両手を載せた格好で男が叫ぶ。

 とてつもない声量だ。

 まだそれなりに距離があるのに、ビリビリと衝撃波を感じる。


「そこなる御仁は人の王、リク・ルゥルゥとお見受けする!


 魔王が”人の王”って言うと、なんだか人類代表みたいで違和感あるな。

「いえ違います」なんて否定すると魔法の杖まで借りてつくった迫力が台無しだし、でも肯定すると明らかに嘘になるし、どうしよう。


 答えに窮しながら空中仁王立ちをしていると、向こうが勝手に何か納得してくれた。


「…承知した」


 いったい何を承知してくれたんだろう。

 よくわからんが結果オーライだな。


「汝に一騎打ちを申し込む!!」


 全然良くなかった!

 俺喧嘩なんてできないよ!?


 いやいや待て待てと冷静になる。

 今の俺には三種の神器がついている。よって負けるなどありえない。

 しかし逆に考えると、そんなことあの魔王だってわかっているはず。

 なのになぜ負ける勝負をしようとするのか?

 そこを問いただしてみようか。


「魔王ワーズワース、といったな」


 威厳があるようにがんばる。

 何度やってもなれない。


「眼の前の光景を見てもなお、我と戦い勝機があると考えるか?」


 少なくとも俺はこんなことできるやつと戦いたくない。


「もしもそのような妄言を吐くならば」


 輝く杖を高く掲げ、さらに光度をアップさせる。

 めっちゃ眩しい。


「我が”最強”というものを教えてやろう」


 杖で魔王をビシッ!と指す。


「貴様の命と引き換えにな!」


 決まった…!


 さあ、これでビビって一騎打ちなんて撤回するんだ。

 さっさと魔界に帰ってくれたまえ。


 そんなことを思っていたのに、魔王は涼しい顔をしている。

 あれ?もしかして全然迫力なかった?

 もしかして俺めっちゃ恥ずかしい一人芝居してた?

 思わず顔が真っ赤になるが、魔王の次の言葉でそれなりに意味が通じていたことがわかる。


「人の王よ、人類最強たるリク・ルゥルゥよ、我が汝に敵わぬことは自明の理」


 あーよかった。安心した。

 恥ずかしくて逃げ帰るとこだったよ。


「我が望みは二つ

 一つは戦士として戦って死ぬこと

 人類最強たる汝に討たれ、我が武勇の誉れとしたい!」


 マジか。死ぬ前提の戦いか。


「そして二つは我が配下の安寧

 我が死んだ後、どうか後方に控える魔族、魔物達の命は助けていただきたい!!」


 …これってもしかして、「自分が死ぬ代わりに部下は助けてくれ」ってやつ?

 勘弁してよー。俺こういうの弱いんだよー。

 なんかよく見たら魔軍の前方に魔族っぽい人たちが集まってる。

 おそらくこの魔王の家族と部下達だろう。

 明らかに子供が泣き叫んでるし、それを母親っぽい人が抱きしめてる。

 肩を震わせて下を向いて男泣きしてる人たちもいて、見てるだけでつらい。

 しかも魔物たちもなんか葬式みたいな雰囲気だ。

 主人を亡くした犬みたいに悲しそうに頭をたれて意気消沈してる。


 こんな状況で俺にこの魔王を討てと?

 あの子達の親殺しになれと?

 あの魔物たちのご主人様を殺せと?

 魔法国に実際に攻め込んで犠牲が出てたなら話は別だが、まだ被害は何もなし。

 偽王を討ったときとは状況が違う。


 でも魔族や魔物なんてどうやって養えばいいんだ?

 そもそもあんな大量の魔物がうちの国に来たらあっという間に食料がなくなってしまう。

 いくらボードが優秀だからって破産する未来しか見えない。

 ほいほいと受け入れることなんて論外だ。


 どうしようかと悩んでいるというかどうしようもないと天を仰いでいると、魔王が何か話してきた。


「どうかこれからはその偉大なる魔力で我が配下の魔族と魔物を導いていただきたい!」


 ん?

 魔力で導く?


「我が魔力でもって魔軍を導けと?」


 我が意を得たりと魔王の顔が輝く。


「然り!その偉大なる御力をもって、どうか我が一族に安寧を!」


 カルサに目で問いかける。


「カルサ、もしかして魔物や魔族って魔力で生きてるの?」

「そんなことを文献で読んだことはあるけど、眉唾かと…」

「じゃあその眉唾っぽい文献が真実だった可能性が出てきたわけか」

「ってことになるわねえ」


 いつかカルサに魔物の生態で一冊本を書いてもらおうかな。

 そのためにも一応確かめておこう。


「貴様の配下に人を食う不届き者はおるか?」


 俺の問いを魔王は笑い飛ばす。


「はっはっは!人の王よ、冗談にも程がある。汝ほどの魔力があれば、飢えを覚えるものなど出ようはずもない。人を食らうものなど未来永劫でないことを我が保証しよう」


 なら安心だな。


「汝が望み、受け入れよう!」


 魔王が今度こそ満面の笑みを浮かべる。


「人間の王よ、礼を言う!」


 そして地面に突き刺していた剣を引き抜き、こちらに向かえて構えをとった。


「では、いざ…」


 しかしその続きは言わせない。


「これ以上の戦いは不要!!」


 俺の精一杯の大声で魔王の動きが止まった。


「我はこれ以上の血が流れることを望まぬ!」


 まだ一滴も流れてないけどね。


 ---


 カルサに目配せし、魔王の近くまで移動させてもらう。

 近くでみるとやはりめちゃくちゃすごい迫力だ。

 一騎打ちなんて冗談ではない。


 正直今すぐにでも一刀両断されそうで怖いが、勇気を振り絞って手を出す。


「我が手を取れ、ワーズワースよ」


 魔王が信じられないものを見る目で俺を見つめる。


「なぜ貴様だけが死ぬ必要がある?貴様も生きよ。そしてその目に焼き付けるのだ、自らの一族の繁栄を。我に導かれる新たなる時代を」

「しかし、我は魔王…」

「そのようなこと、このリク・ルゥルゥの前では些事にすぎん」


 まるで憑き物が落ちたかのような顔をしている。

 魔王だから人間に従うわけにはいけないとか考えていたのだろう。

 考えが硬いね。


「人も魔も、我は等しく全てを受け入れる」


 魔王が俺の手を優しく、しかし力強く握りしめた。

 そしてそのまま跪く。


 それは、この世界で初めて、人と魔が手を取り合った瞬間だった。

ブックマーク500突破いたしました!

初レビューもいただきとても嬉しいです。皆様ありがとうございます。

お礼の気持ちは表現するには続きを書く以外にないと考え、更新をいたしました。

リクが初めて魔族と邂逅しました。元の世界には魔族なんていなかったので本人はあまり実感がないです。


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