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52話 最強の魔法使い

「命を魔力に使うなんて、それ、禁呪です!!」


 カルサが叫ぶ。


「カルサちゃん、よく知ってるね」


 しかし、魔法王は動じない。


「魔法国に住んでないのに禁呪のことを知ってるなんて、ちゃんと勉強してくれてる証拠だよ。私が書いた魔法書も読んでくれてるのかな。やっぱりカルサちゃんを選んで正解だった。あなたなら、立派な魔法王になれるよ」


 むしろその表情は喜びに満ちている。


「でもカルサちゃん、禁呪を指定したのは誰だか知ってる?」


 年相応の少女のように、いたずらっぽく笑う。


「これって本には載ってないんだ。だからさすがのカルサちゃんでも知らないよね。でも、賢いカルサちゃんなら気づいているはず」


 一転してその表情が威厳に満ちる。


「禁呪、それらは全て魔法王によって選定されたもの。そして、魔法王だけが()()()使()()()()()()()


 彼女は見た目通りの少女ではなかった。


「私、魔法王ランシェル・マジクの名の下に宣告する。全ての禁呪の使用許可を。禁呪の力で以て魔物を殲滅することを」


 六百年の時を生き、虐げられてき魔法使い達を救った偉大な王。


「全ての魔法使いは私が救う。この命をかけてでも」


 魔法王が、そこにいる。


---


 揺るぎない覚悟を見せつけられ、カルサは何も言葉が出ない。

 ただポロポロと涙を流し、その場に座り込んでしまった。

 そんなカルサを魔法王は優しく抱きしめる。


「カルサちゃん、ごめんね。そしてありがとう心配してくれて。私なんかのために泣いてくれて」


 カルサは魔法王の胸元に顔を押し付け、ぶんぶんと顔を振る。


「ごめんなさい。何も出来なくて、ごめんなさい…」


 カルサは間違いなく魔法の天才だ。

 しかし、元来戦いを好む性格ではない。ゆえに彼女のつくってきた魔法に戦闘用魔法はほとんどない。相手を直接的に傷つける魔法に至っては、完全にゼロだ。

 だからこの戦いでカルサは何も役立てない。

 戦闘用補助魔法も、あの砂漠を覆い尽くすような大軍の前には焼け石に水だ。

 何も出来ない無力さに、謝罪の言葉が漏れ出る。


「カルサちゃんは何も悪くないよ」


 魔法王は否定する。


「むしろ私がごめんなさい。優しいカルサちゃんにそんなつらい思いをさせて」


 カルサの透き通るように美しい銀髪の頭をなでながら、優しく話す。


「カルサちゃん、これが私からの最初で最後のお願い。泣くのをやめて、私を見て。私の、魔法王の最後の戦いを見てほしい。そしてあなたに受け継いでほしい。私の杖を」


 魔法使いにとって杖とは何か。

 それは剣士にとっての愛刀。

 騎士にとっての愛馬。

 己の半身とも言える存在。

 さらにそれが魔法王のものとなれば、それはすなわち


「あなたになって欲しいの。私の次の、魔法王に」


 ()()()()()()()()()()



 絶句するカルサ。

 薄々感づいてはいただろう。

 しかし、直接言われるのとはわけが違う。

 そんなカルサを見て魔法王はさらに笑みを深くする。


「すぐには認められないと思う。だからまずは私の戦いを見て。その上で判断してくれるかな?」


 最後にぎゅっとカルサを抱きしめ、魔法王は魔物の大群へと向き直す。


「カルサちゃんが見てくれてるから、かっこ悪いとこは見せられないな。しかも、なんでか先輩までいるし」


 砂漠を飲み込むような大群に立ち向かうとは思えないほど、その表情は清々しい。


「魔法王の力、見せてあげる」


 その言葉と同時に魔法王の杖の先が輝きだす。

 光の柱が何本も放たれ、地平線の彼方までたどり着く。

 そして次の瞬間、魔物の大群は()()()()()()


 時間にして5秒ほど。

 わずかそれだけの時間で、眼の前の景色は一変した。


 砂漠を埋め尽くした魔物の大半が動きを止めている。

 ちらちらと動く影があるが、どれもすぐに動きを止めて地面へと倒れ込んでいく。

 光の柱が届かなかったところにいた魔物たちも動揺したのか突撃をやめた。

 あと数時間もしないうちに魔法国に襲いかかるはずだった魔物の大軍勢。

 それが、一瞬の内に壊滅したのだ。


 大歓声が聞こえる。

 魔法国、全国民の歓喜の声が轟く。

 老若男女問わずあらゆる国民が家を飛び出し、街に繰り出している。

 そして彼らは叫ぶのだ。

 魔物の恐怖から開放された喜びを。

 彼らを救った偉大な王への感謝を。

 彼ら彼女らが生まれたときからずっと、いや生まれる前からずっとずっと魔法使いたちを守り続けてきた魔法王。

 頭上に君臨する自分達の守護者を、力の限り讃えている。


 そんな国民たちに笑みを浮かべて手を振り答える魔法王。

 おそらく豆粒程度の大きさでしか見えないだろうに、民は大歓声で答える。

 魔法王は全国民に自分の姿が見えるようにと、部屋の外周をぐるりと回る。


 回り終えると彼女は少しだけ部屋の中央に移動した。

 そして、膝から崩れ落ちた。


「魔法王陛下!」


 倒れ込む魔法王の両肩を支える。

 そして言葉を失った。

 魔法王の体はまるで氷のように冷たかったのだ。

 その顔も、血の気を一切感じさせないほど、白かった。


「へ、陛下…?」

「大丈夫です。魔力を、使い切った、だけですから」


 魔法王をベッドに連れて行く。

 その体は、驚くほど軽かった。


---


「ありがとうございます。お手間かけさせちゃって、すいません」


 過ごし慣れたベッドで横になったおかげか、少しだけ顔に血の気が戻った。


「あれで少しだけ時間稼ぎが出来ました。やつらが態勢を立て直したらもう一度さっきのあれを放ち、今度こそ壊滅させます」

「もう一度なんて、さっき魔力を使い切ったっておっしゃったじゃないですか!」

「そう。だから今度こそ私の命を使うの」


 自分が死ぬと宣言する。

 しかし、そんなことを言ってるとは思えないほど優しく微笑んでいる。


「まずは私の生命維持に使っている魔力を使い、それから私自身の命を使う。そうすれば、残った魔物の数は激減しているでしょう。あとは我が魔法国が誇る魔法兵団がやってくれます。この国を、民を、守ってくれます」


 微笑みながらカルサの手を握った。


「それが達成されたとき、私はもうこの世にはいないでしょう。だからこれからは、あなたが皆を導いてあげてください」

「わ、私にそんなこと…」

「最初は自信がないかもしれない。でも大丈夫。あなたならきっとできます」

「ど、どうして、あたしなんですか…?」

「あなたならきっと私を超える魔法使いになれます。だってあなたは、私みたいに攻撃魔法のことばかり考えてた人間とは違う。あなたは人の役に立つ魔法、人々の生活を楽にする魔法をたくさん考えてあげる優しい優しい魔法使い。これからは、あなたのような人こそが魔法王となるべきなんです」

「陛下…」


 カルサが魔法王の手を握り返した。

 それに気づいた魔法王は、嬉しそうに両手でその手を包む。


「あなたは魔法の才能があるし、魔力もとってもたくさん持っているの。私も魔力は多い方だったけど、それと同じくらい。私の杖があれば、あなたもさっきの私と同じように魔物と戦える。この国の民を守ってあげられる力があるの」

「あたし、攻撃魔法なんて、使ったことないです…」

「大丈夫。魔法の杖はすごいんだよ。才能がまったくない人だって持てばすぐに使えるようになっちゃうんだから」


 ほほう?


「魔力さえあれば、誰でも攻撃魔法を使えるようになる。そして魔力の量に比例して威力が増える。それが、私が女神様からいただいた、魔法の杖の力なの」


 つまり、俺でも使えると?


---


「馬路倉」

「へ?な、なんでしょうか?」


 今までずっと黙ってた俺の呼びかけに、馬路倉が驚きながら反応する。


「お前、この世界に六百年いたんだっけ?」

「はあ…。それ、ぐらいですね」


 話の腰を折られて混乱しているようだ。


「六百年ぶりに会った俺をお前は”先輩”と呼んでくれた。つまりお前は俺を六百年間も覚えててくれていたわけだ」

「先輩は私が元の世界で会った最後の人でしたし、忘れられないです」

「お前は俺のことを、六百年間も先輩だと思っていてくれてたわけだ」

「は、はい」


 ならば、その思いに答えよう。


「六百年分、先輩らしいことしてやろうじゃないか」

「先輩…?」


 俺は馬路倉の杖へと手を伸ばす。


「全て、俺に任せろ」


 俺が杖を手にとると同時に、その先端がまるで太陽のように輝き出す。

 カルサは眩しそうに目をそらし、馬路倉は呆然とその輝きを見つめる。


「そんな、これはまるで…」


 誰に語るでもなく、ただ絞り出すように声を出す。


「これは、まるで、女神様の御力…」


 信じられないものを見る目で、その輝きを凝視し続ける。


「さあ、やつらに教えてやろうじゃないか」


 輝く杖とともに俺は態勢を立て直しつつある魔物たちへと向き直る。


「史上最強の魔法使いが、ここにいるとな」

視点をどうしようとか色々悩んだ結果、時間がかかってすいませんでした。

結局いつもどおりのリク視点です。やはりこれが一番しっくりきますね。

次は来週末の更新を予定しております。評価・ブクマをいただけており、それに答えられるようがんばらせていただきます。

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