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51話 魔法王と英雄王

 魔法王

 それはこの世界最高の魔法使い

 数百年という長きを生き、虐げられていた魔法使いのために一つの国を作り上げた存在


 そんな存在の外見が少女だったことにまず驚いた。

 しかし相手は魔法王だ。魔法で見た目年齢をいじることだって出来ても全然おかしくない。


 だから、本当に驚くべきは彼女の発した言葉。

「安藤先輩」


 それは俺がリク・ルゥルゥと名乗る前の名字。

 俺が王となったときに決別した過去。


 そう、俺が()()()()()使()()()()()()()だ。



 ---


「弓道部の、後輩だな?」


 俺が先輩後輩なんて関係を作れた経験など、このときぐらいしかない。まあ、雑用係として頼られてただけなのだが。


「は、はい。一年四組の馬路倉(まじくら) 貝那(かいな)です。おひさしぶりです、先輩」


 その特徴的な名前を聞いて記憶が繋がった。

 俺が高校三年の春、突然行方不明になった後輩だ。部活のあと下校中にいなくなったらしく、最後に会ったということで俺は事情聴取を受けさせられたのだ。

 あの狭い取調室のことは忘れられない。

 俺を疑ってないって言うのに、どうして勝手に出られないようにドアの前で仁王立ちしてるんだよー。


「久しぶりだな、馬路倉。なかなか良くやってるようじゃないか」


 こんな立派な国を作り上げて君臨してるんだもんな。

 大したもんだよ。


「い、いえ。とんでもないです。むしろ先輩こそすごいじゃないですか。私は三百年かけて国をつくる準備をして、それから国をここまで発展させるのにさらに三百年かかりました」


 え?

 ってことは六百年も生きてるの?


「それに比べて先輩は全てがあっという間じゃないですか。瞬く間に王になり、今や次々と周辺国を傘下に収める英雄王。先輩の名前、大陸中に響き渡ってます」


 マジか。


「英雄王リク・ルゥルゥといえばうちみたいな閉鎖的な国の子供でもみんな知ってます。そしてみんな目を輝かせて親にせがむんですよ。その英雄譚を。世界で一番新しい神話を」


 他国にも俺の名前が伝わってるという話はボードから聞いていた。話半分というかお世辞だろうと思っていたが、完全に事実だったらしい。

 深く考えると頭痛がするからこの話はもうやめよう。

 おかしい。後輩の偉業を讃える話題だったのに。


 次の話題を何にしようか考えてると、馬路倉の方から話題を振ってくれた。


「先輩はこの世界に来た時、女神様からどんなものをいただいたんですか?」


 え?女神って何それ?


「私はこの魔法の杖をいただいたんです。これすごいんですよ。魔力を注ぎ込めばそれだけで攻撃ができて、しかも単純に魔力量だけで攻撃力が決まるんです。私って元々魔力がかなり多い体質だったらしくて、転移してすぐに大活躍できました」


「あ、もちろん今は色んな魔法使えますよ」なんて付け加えてるが、俺はそれどころではない。

 魔法王が神に会ったという話はミサゴから聞いている。だから馬路倉が女神とやらに会っていたということは問題ない。既知の情報だ。


 問題なのは会ったタイミング。

 この世界に来てから大冒険して会ったわけではなく、転移して来たときに会ったという。しかも馬路倉の言い方だと会ってからこの世界に来るのが当然のような感じだ。


 むしろ会わずに来た俺が異端?

 全然嬉しくないんですけど?


「俺は何ももらってないよ」


 これは事実だ


「俺は別に、女神から何かもらう必要がないからな」


 これは強がりだ。


 それぐらい言わないとやってられない。

 俺にもそんなすごい才能やアイテムがあればもっと大活躍できたのに!


「そ、そうなんですか。女神様から何もいただかずに英雄王と呼ばれる存在になるなんて、先輩はすごいですね」

「俺は何もしてないよ。ただ、俺が王にならないといけなかった。それだけさ」


 悲しい事実だ。

 俺は王にならないよう一生懸命抵抗したのに。


 しかしあれだな。

 新情報がてんこ盛りだ。

 まずこの世界には俺以外にも転移者がいる。

 さらに彼ら彼女らは転移するときに女神に会っている。


 そして次、これが一番重要だ。

 転移者は皆何かしら()()()を手にしている。


 わざわざ異世界から転移させ、しかも力を与えて世界に解き放つ。

 女神とやらはいったい何をしようとしているんだ?

 というか何で俺には何もくれなかったの?


 まあ、わかる範囲で馬路倉に聞いてみるか。


「馬路倉、いくつか質問があるんだが」

「は、はい。私に答えられることでしたらいくらでも」


 なんていい後輩なんだ。

 別に交流なんてほとんどなかったのに。


「ありがとう。じゃあまずは一つ目。お前は今までに何人もの転移者に会って来てるな?」

「それは、はい。一番最近だと前回出現した大魔王を倒した子ですね。橘 晃くんです」


 村長やミサゴとハイロの父親ともに旅をしたという男か。


「他にも何人もいますが、全部説明した方がいいでしょうか?」

「いや、大丈夫だ」


 会ったという事実さえ確認できればそれでいい。


「では次の質問だ。そいつらはみんな転移して来たときに女神と会ってるな?」

「はい。みんな女神様とお会いし、力やアイテムを頂いてます。私だったら魔法の杖、橘くんは勇者の力ですね。使命達成の手助けのため、女神様も大盤振る舞いです」


 使命!

 女神には何かしら目的があるわけか。


「馬路倉の使命は何だったんだ?」

「私の使命は虐げられている魔法使いたちを救うことです」


 ほうほう。

 それはこの国を建国することである程度達成されてるな。

 優秀な転移者だ。


「あ、もちろん共通の使命も言われてますよ」


 共通の使命?


「この世界を正しい方向へ導く、これがみんな共通で一番大事な使命ですね」


 正しい方向へ導く


「でも先輩は使命をいただいてないのに民を救われているんですよね。すごいです」


 正しい方向って、どこだ??


 ---


「ずっと立たせてしまってすいません」という馬路倉の言葉で問答は終了した。

 俺たちはベッドの近くに用意された椅子に勧められるまま腰掛ける。

 たくさん歩いてたくさん話して疲れてしまった。お茶もいただき、ようやく一息つける。


「近くで見るとやはり以前とは違いますね」


 さっきまでの緊張した感じとは違っている。

 面白そうな顔をしてる。


「そりゃそうだ。最後に会ってからずいぶん時間が経ってるからな。年だってとるさ」

「でも目とか表情とかは全然変わってません。さっきはすごい驚きました。あの日会った先輩がそのまま現れたように見えたんです」


 俺も転移直前にぶつかってきたトラックがいきなり現れたらビビるだろうな。

 …ちょっと違うか。


「そういや、どうしてランシェル・マジクなんて名乗ってるんだ?」


 俺と違って名前も名字も変えてしまってることをふと疑問に思ったのだが、俺の問いに馬路倉は固まってしまった。

 いったいどうしたんだろう?と思ったが、俺は気づいてしまった。


 馬路倉 貝那、マジクラ 貝那、マジクラ シェル那、マジク ランシェル


「自分の名前、改造したの?」

「いやあああああああああああああああああああ」


 枕に顔を押し付けてバタバタしてる。

 こっちに来たときは高1だったしな。若気の至りで自分の名前を横文字に改造してしまったのだろう。いつしか恥ずかしさを感じるようになっても、由来がわからない他の転移者たちはいくらでも言いくるめることができたわけだ。


 長い年月、彼女はある秘密を隠していた。

 多くの者がその秘密を問いただすが、彼女は言葉巧みにかわしていく。

 しかし、ある日一人の男が現れた。

 彼は彼女の古い知り合い。

 彼女の真実につながる者。

 かくして彼はたどり着く。

 彼女が隠し続けたその真実に。


「悲しい事件だった…」

「終わってません!エンドロールには早すぎます!」


 さすが長い時間生きてきただけあって立ち直りは早い。

 いや、若干涙目だからあまり立ち直ってはいなかった。


「先輩、あまりいじめないでください。カルサちゃんにまでこんな恥ずかしい姿を見られちゃったじゃないですか」


 馬路倉に名前を呼ばれてカルサがビクッとした。


「妹さんって聞いていましたけど、義理ってことですよね?」

「俺とカルサの間に血縁とか細かいことは関係ないんだよ」


 完璧な答えのつもりだったが、あまり納得はしてもらえなかったようだ。

 よくわかったないようだがそれ以上深掘りせずカルサに話しかけている。


「はじめまして、カルサちゃん。私が魔法王・ランシェル・マジクです。馬路倉って呼んでもいいのよ」

「は、は、は、はじめまして。あたしは、カルサです。カルサ・ルゥルゥって、いいます」


 カルサは緊張でガチガチだ。

 王族だろうがなんだろうが動じないのに、憧れの人には弱いらしい。


「魔法王陛下に、お会いできて、とっても光栄です。ずっと、子供の頃から、会いたいと思ってました!」


 なんとか最後まで言い切った。

 がんばったな、カルサ。


「私に会いたいと思ってくれてありがとう。そして私もカルサちゃんには会いたいと思ってたから、来てくれてとっても嬉しい。聞いていた通り、とっても素敵な魔法使いで良かった」

「と、とんでもないです。あたしなんてようやく一人前になりかかってる程度です」

「そんなことないよ。私はね、ひと目見ればわかっちゃうの。その人がどれだけの力を持ってるかって。だからカルサちゃんがすごい力を持ってるって、もうわかっちゃってるの」


 カルサがすごい褒められてる。

 元々褒められるのに弱いのに、それが憧れの人となれば効果てきめんだ。

 頬は紅潮してるし目がめっちゃ泳いでる。


「すごいのは先輩だって聞いてましたけど、先輩からは何も読み取れないんですよね」


 すげえ。魔法の首飾りで偽装してるのも見抜けるのか。

 入国審査を馬路倉にやられてたら俺はアウトだったな。


「カルサちゃんが来てくれて、本当に良かった。あなたなら安心して託すことができる」


 馬路倉は心から嬉しそうに笑っている。


「これで、安心して逝ける」


 ---


「私がお二人を呼んだ理由はご存知ですよね?」


 先程までの和やかな空気はさっきの一言で吹き飛んだ。


「まあな。お前の寿命がないため次代の魔法王を選ぶためと聞いている」

「はい。その通りです」


 自分の死が話題になっているというのに、眉一つ動かさず平然としている。

 外見は以前の馬路倉のままだが、やはり今俺の目の前にいるのは魔法王なのだ。


「今まで話をした感じ、そして今のお前を見てるととてもそうは思えないんだがな」


 元の世界では何度か親類を寿命で失うことを経験してきた。

 みんなもっと衰弱し、死の気配というものを見え隠れしていたものだ。

 しかし今の馬路倉からは少しもそんなものは感じられない。


「そうですね。実は今の私、とっても元気なんです」


 思わずズッコケそうになる。

 そんな俺を見て馬路倉は少し笑った後、また真剣な顔に戻った。


「今はまだ、元気です。でももうすぐ、私は寿命も魔力も全てを失い、死ぬことになります」


 未来予知?

 馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばしたかったが、馬路倉の真剣な瞳がそれを許さない。


 馬路倉はベッドから起き上がり、ガラスでできた部屋の端へと向かった。

 この部屋は四方がガラスで囲まれている。それだけだと外から覗き放題に聞こえるが、それは不可能だろう。

 なにせここは魔法国が一望できる場所なのだから。

 魔法国で一番高い建物のてっぺんに、この部屋は位置しているのだ。


「絶景でしょう?ここにいれば私はいつでも民を見ることができるのです。民も見上げればいつでも私を見ることができるのです」


 慈愛に満ちた笑顔だ。

 そしてここがずいぶんとご自慢らしい。


 しかし実際ここからの景色はすごい。

 360度どこからでも外を眺めることができ、魔法国の街並み、そしてその外側に広がる砂漠が見える。


「こちら側が北です。そしてこの北の果てには魔界があります」


 地平線の彼方まで続く砂漠。

 この砂漠の果ては人間の住む世界ではない場所がある。

 そこは魔界。魔族の住む世界。


「今、魔界には大魔王が出現しました」


 魔王の中の魔王、それが大魔王。

 しかし数百年に一度しか現れない存在だったはず。

 なのに前回からわずか数十年で次が現れたというのか?


「今回の大魔王は我々と同じ転移者です。おそらく歴代の大魔王の中でも最も強大でしょう。まだ魔界の統一は完成していませんが、時間の問題です」


 まさかここで転移者が出てくるとは。

 女神様よ、あんたの考える正しい方向っていったい何なんだ?


「その戦いで、陛下が…?」


 心配そうに問いかけるカルサに、馬路倉は悲しそうな顔で首を振る。


「いいえ、もう()()()()()()



 その声を合図にするかのように、地平線の彼方に何かが現れた。


「大魔王は急激に領土を広げています」


 馬路倉はそれを意に介さず説明を続けている。


「その残忍さは魔族すら震え上がるほどで、敵対した勢力は例外なく殲滅されています」


 地平線が覆い尽くされた。


「一度大魔王と敵対したら逃げるしかありません」


 砂漠全体が覆い尽くされようとしている。


「大魔王から逃げるため、人間界、その中でも最も防衛戦の薄いこの砂漠が逃げ道として選ばれます」


 砂漠全体を覆い尽くすような量の魔物が攻めてきている。


「私、魔法王ランシェル・マジクは、この魔物の大群勢から民を守るために戦います」


 その瞳には覚悟があった。



「我が命の灯が燃え尽きるまで、戦い続けるのです」

魔法王の耳にもリクの名前は当然届いてます。

そして魔法王は魔界のことも調査済みでした。

次の更新は少し時間がかかるかもしれません。お待たせして申し訳ありませんが、次回もよろしくお願いいたします。

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