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幕間 ベイジー視点(47-48話)

かつて大陸を制覇した古の大国、イヅル。

大陸東端の一国家となった現在においても、姻戚関係等巧みな外交術で世界に隠然たる影響力を持った国。

永遠に続くと謳われたかの国に現れた一人の暴君。

このままこの世の地獄が生まれ、朽ちてゆくと誰しもが思った。

しかし、一人の男がその予想を覆す。


それは民のために立ち上がり、民のために戦う男。

ただの一度も負けたことがない"不敗の男"

瞬く間に国土の大半を制圧した"百戦百勝の知将"

不敗神話を誇るギーマン砦を陥とした"神々の黄昏"


戦うだけが能の男ではない。

あのルゥルゥ老に認められた"伝説の後継者"

刃を交えた者すらその胸に抱きしめる"救いの導き手"

怒りではなく愛で人を裁く"慈愛の裁定者"


その男の手により幕を閉じたイヅルは、より強大な国家として生まれ変わる。


生まれも育ちも関係なく、才のある物は取り立てる。

過去のしがらみを打ち破り、国のため民のためと最善を尽くす。

王は宣下する。

「失敗を恐れるなかれ。手柄は皆の者、過ちは己の物」

そう言われて奮わぬ者がいるだろうか?

いいや、いるはずがない。

現に今やかの国ではどんな僻地の一官吏であろうと、日夜嬉々として励んでいるという。


自らを律し、民には慈悲を。

贅を尽くした料理を嘆き、民と同じ食を望む。

さらには明日をも知れぬ貧しき子供達のため、己が外套を売り払う。

即位したその日に浪費と淫蕩の象徴たる後宮を廃す。

しかし後宮でしか暮らせぬ者達のため、一つの街さえ作り上げた。


当然その威光は周辺諸国にまで及び、それら民草は請い願った。

慈悲深き王の統治を。

偉大なる王の統治を。

自らも新たなる伝説に加わることを。


高まる民の声に諸国の王は震え上がった。

そしてついには徒党を組んで襲いかかる。

しかし英雄王に死角なし。

瞬く間に返り討ちにし、さらには滅ぼすことなく自らの支配下に置いた。

その慈悲深さと偉大さに感銘を受けた王達は次々とこうべを垂れたという。

今や周辺の小国は我先にとその支配下に入っている。


一代で王にまで登りつけた稀代の英雄。

あまねく民を愛する慈悲深き統治者。

王すら従える、王の中の王。

今やこの世界でその名を知らぬ者はいない。


その男の名は、リク。


ルゥルゥ王国国王、リク・ルゥルゥ。


---


お師様から私も共にルゥルゥ国へ行くと聞いた時、真っ先にこの、かの国の王の話を思い出した。

そして何というべきか…いや、正直に言おう。

私の心は踊った。

生ける伝説に会えるかもしれないと、私はワクワクしてしまったのだ。


何せお師様は宮廷魔術師筆頭。

魔法王陛下の右腕。

お師様が動かれるならば、王に会うような大事な話に違いないとそう思ったのだ。


しかし残念ながら私の期待は外れた。

お師様の狙いは王の妹。

新たな魔法を次々と生み出し、民の暮らしを改善する若き天才魔法使いと評判のカルサ・ルゥルゥであった。


今私が手にしている本、これも王妹の発明品という。

植物でできた紙と魔法が何の関係があるのかわからないし、もしかしたら全然関係ないかもしれない。

ただこれが恐るべき発明であることに変わりはない。

このように手軽に、しかも安価に本を手にできるなど想像だにしたことがなかった。

魔法の何たるかを知らない只人にすれば、魔法にも等しい行為であろう。

その恐るべき発明を行った者、恐るべき才能を持った魔法使いがルゥルゥ国にいる。

だから会いに行かれる。

まあそういうこともあるかと思っていた。

このときは。


出発直前となり、私はようやく目的を知らされた。

魔法王陛下にお時間がないこと、ゆえに次期魔法王選抜を急がねばならないこと、そしてかの王妹はその有力候補となったこと。


魔法王陛下がお隠れになる。

その言葉が持つ世界がひっくり返るような衝撃に、私はなんとか踏み止まった。

私は宮廷魔術師筆頭エド・クレディの弟子。こんなときこそ私は魔法国のために働かなければならないのだ。


お師様と共に転移魔法でルゥルゥ国に向かった。

世界各地に隠された魔法陣。

転移先とルゥルゥ国の首都、都は目と鼻の先。

長旅をしてきたような偽装をし、我々は魔法国からの非公式な使者として王妹への謁見を申し込んだのだ。


---


我々が案内されたのはとある執務室だった。

豪勢すぎず、しかし洗練された内装や家具が揃えられた部屋だ。

そこで複数の男女が待っていた。


まず身体中から闘気が溢れ出る男。

おそらくこの男がルゥルゥ国元帥、ジェンガ。

剣の腕なら間違いなく世界最高峰。

魔法王陛下と同じく世界最強の一角に数えられる戦士。


次に知的で冷徹な雰囲気を纏う男。

この国でジェンガと並び立つ男などただ一人。それは宰相ボード。

その才だけで貧民街から国のトップまで登りつめた天才。

腰に吊るした剣は飾りなどではなく、並みの戦士十人を軽々と叩き伏せるという。


そして女神の化身のごとき美少女姉妹。

金髪がおそらく姉のアルカ。

ルゥルゥ老の治癒魔法を受け継ぐ者。

そして銀髪が妹のカルサ。

我々が連れ帰るべき使命を帯びた者。


四人が持つ圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。

身じろぎもしないお師様の背中を見つめ、必死で己を奮い立たせる。

そして気づいた。

もう一人男がいることに。


この場でただ一人椅子に腰掛ける男。

顎杖をつき、のほほんとした顔をしている。

最初に湧いたのは「いったい誰?」という疑問だ。

しかしその場違いな表情に段々と腹が立ってきた。

私は四人の重圧に耐えるのに精一杯なのに、いったいこいつは何なのだ!?


「我々がお目通りを願ったのは、カルサ王妹殿下()()だったはずですが?」


さあ、どこかへ行ってしまえと思う私に帰ってきたのは衝撃的な言葉だった。


「俺はカルサの兄だ。同席して何か問題あるか?」


その言葉に私もお師様も凍りついた。

この男が、王?

あの生ける伝説と言われる?

自らに刃を向けた者にすら慈悲を与え、全ての民を救おうとする英雄?

王が自らこうべを垂れる、王の中の王?

私が内心憧れた?

あの、リク王?


あまりの衝撃に一瞬だが意識が飛んでしまった。

その間にお師様とリク王?は会話を始めてしまっていた。

状況がわからず少しオロオロしてしまう。

しかもこの男は反論するのだ。魔物すら恐れをなして動きを止めるお師様の殺気のこもった眼差しを受けているにもかかわらず。


「我らがお伝えする内容、万が一にでも漏れるようなことがあれば魔法国への宣戦布告と捉えます。国王陛下ご自身ではなく、この場のどなたが漏らしても同様です。そのお覚悟はございますか?」

「もちろんだ。この場の誰の過失だろうと、それは全て俺の責任だ。戦争するまでもない。俺の首をさし出そう」


再び私は衝撃を受けた。

王が部下のために命を差し出す?

そんな話は聞いたことがない。

いや、たった一人だけいた。

そんなことをしかねない男が。

それは部下のため、民のため、命を投げ出すことを躊躇しない男。


やはりこの男が、リク王…?


これはすぐに確信に変わる。

お師様の名を聞いて殺気をむき出しにするジェンガ元帥とボード宰相。

それに負けじと殺気を増す師様。

一人で一軍にも匹敵する戦士たちの闘気を前に私は指1本動かせない。

呼吸すらできないそんな雰囲気の中、あの男は平然としている。

そして咳払い一つで雰囲気を一変させたのだ。

尋常な男ではないことに、私は今更ながら気付かされたのだ。


その後も驚くことが続いた。

あの圧倒的な存在感を持つ四人から全幅の信頼を受け、それを当然のものと受け止めている。

魔法王陛下が身罷られるという世界秩序の崩壊につながる話を聞いて眉一つ動かさない。

いったいこの男はどれほど大きいのか?この男に衝撃を与える方法は存在するのか?私は内心震え上がっていた。


話は進み、話題は魔法国への移動手段に移っていく。

お師様が転移魔法の魔法陣が書かれた布を広げる。

我が魔法国の知と技術の結晶。

並みの魔法使いでは意味すら把握できない魔法芸術の粋。


それを、あの男はひと目で見抜いた。

王妹がなにか言っていたが関係ない。

あの男自身が転移魔法の原理を一瞬で読み取っていたのだ。


この男は魔法が使えないはずではは、なかったのか…?


---


我々はあの男の前から逃げるようにして転移魔法で国に帰った。


「ベイジー」

「は、はい!」


お師様の顔は脂汗でいっぱいだ。

こんなお師様は初めて見る。


「我々はとんでもない勘違いをしていた」

「な、何をでしょう?」

「王妹カルサが生み出したと言われる魔法の数々。あれは全てリク王の手によるものだ」

「え!?」

「我々はまんまと罠にかかったのだ。そもそも類まれなる魔法使いがリク王であれば、いかに才能があろうと後継者候補からは外されていただろう。それを避けるため、あえてやつは手柄を妹に譲っていたのだ」

「そんな…」

「転移魔法を読み解くことでやつは自らに魔法の力があることを証明した。さらに新たな転移魔法の可能性まで示し、魔法の才能を誇示してきた!魔法国は只人は絶対に拒否するが、魔法使いは望めばいかなる者でも受け入れる。我々は自らの魔法芸術の粋を披露するどころか、やつの術中にはまりにいったのだ!!」


ダンッ!とお師様が殴りつけた壁にヒビが入った。


「そして、やつはあの中で最も強かった」

「あ、あそこにはジェンガ元帥がおりましたが?」


大陸最強と言われる四人。その一人であるジェンガ元帥。

あの男が、彼より強いと?


「確かにジェンガは強い。あのときやつがその気になっていれば、私は間違いなく死んでいた」

「お師様が負けるなんて!」

「事実だ。さすがは魔法王陛下に匹敵すると言われる男なだけはある。しかし、それよりもリク王だ。あのジェンガを飼いならしていた」


リク王に叱られ、まるで子供のように謝っていたジェンガ元帥の姿が思い出される。


「ただの忠誠ではああはなるまい。ジェンガはリク王に完全なる敗北を認めている。…おそらく、一度敗北したのだろう。それも圧倒的な力の差で」

「ジェンガ元帥よりも、強い…」


絶句するしか無い。

大陸最強の一角と言われる男より圧倒的に強いとなれば、それは…。


「あの男こそ、真なる大陸最強」


この大陸であの男を止められる者などいないということだ。


「ただちに魔法王陛下にご報告へ向かう。ベイジー、お前からも魔法王陛下に伝えるのだ。あの男の強大さを。あの男の恐ろしさを」

「は、はい!!」


魔法王陛下のもとへ向かう間、私は考えていた。

もしや今我々が考えていること、やろうとしていることすらあの男、リク王の手のひらの上ではないのかと。

万が一それが事実だとすれば…。

それはもはや人の領域ではない。


神の御業だ。

三連休ということを昨夜知り、急いで今朝書き上げました。

今回は魔法使いの少女デイジー視点の話題でした。一般民衆からリクは大人気ですね。

次回は魔法国に行く話になるかと思います。

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