46話 魔界と聖王国
「魔族の動きが活発になってきます」
今日は珍しくジェンガから報告を聞いていた。
「詳細は不明ですが、魔界で何かが起きているようです。人間界への侵攻はいつものように聖王国が防いでいるため、現在我が国への影響はございません」
魔界、人間界、聖王国。
初耳のことばかりで混乱する。
魔族は以前誰かがちらっと口にしてたっけ…。
「ああ、そういえばリク様は記憶喪失でしたっけ。魔界とかの知識をお持ちじゃないんですね」
俺の混乱にボードが気づいてくれた。記憶喪失という俺ですら忘れかかっていた設定も覚えてくれている。
「リク様とお話していると記憶喪失なんて嘘じゃないかと思ってしまいますよ」
まあ、嘘ですし
「知識などなくとも、リク様はいつも一を聞いて十どころか百も千も理解されてしまいますからね」
いえ、全然理解できてないです
「しかし今回はさすがに知識0の話ですからね。言葉足らずで申し訳ありません。説明させていただきます!」
むしろこれからも解説お願いします
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俺の心の声は通じていないようだが、ジェンガは魔界とかについて教えてくれた。
まず、この世界は一つの大きな大陸である。
その大陸の北半分が魔界。魔族や魔物が住む世界。
残りの南半分が人間界。俺達の住む世界。
そして人間界側で魔界と境界を防衛しているのが聖王国というわけだ。
「魔族や魔物は定期的に攻めてくるわけじゃないの?」
「やつらはたいてい仲間内で争っていますからね。散発的な侵攻はもちろんありますが、大規模侵攻は魔界を統一する大魔王のような存在が現れたときだけです」
大魔王!すげえファンタジーっぽい。
「大魔王ってのはいつもいるわけじゃないの?」
「魔王を名乗る魔族はたくさんいますが、魔界を統一する大魔王が出現するのは数百年、数千年に一度あるかないかです。そして前回の大魔王は先王、ミサゴ様とハイロ様のお父上、そして村長たちに倒されましたからね。当分現れることはないかと考えられます」
…村長ってガチで勇者のパーティーメンバーだったのか。
「じゃあ大規模侵攻はないけど、嫌がらせみたいに攻めてくるのを止めてくれてるのが聖王国?」
「さすがリク様。その通りです。魔界での勢力争いに負けて一か八か人間界に攻めてくる魔王もいますからね。そういったやつらを境界で食い止めるのが聖王国です。まあ、以前村を襲った魔物の群れのように討ち漏らしもありますが」
村でやった魔物退治だな。
あのときは突然変異ってのもいてたいへんだった。
具体的には俺が死にかけた。
「じゃあ基本的に聖王国は人間同士の争いには関与しないの?」
「そうですね。聖王国は魔界側に全軍を貼り付けており、人間同士の戦いに関与する余力はありません。そして聖王国の背中を刺すような国があれば、それは人類の裏切り者となります」
ジェンガの目がギラリと光る。
「大義名分を得た各国はこぞってその国へ攻め入ります。そして裏切り者の国は引き裂かれてしまうのです」
実際にそのような国があったのだろう。
聖王国を敵に回してはいけなさそうだ。
「今の聖王は妾の叔母上である」
いつの間にかミサゴがいた。
「体の弱かった母上とは違い、叔母上は父上とともに大魔王討伐に向かったほどの使い手。聖王国国王にして聖王国最強の聖騎士、それが聖王アオバ・オウルである」
かなりの女傑らしい。
会ってみたいような怖いような複雑な気分だ。
「私が武者修行で大陸を放浪していた時、どうしても勝てなかった相手が二人います」
ジェンガの武者修行時代。
先王がなくなってから、村に辿り着くまで世界中を見て回ってたらしい。
「一人はもちろん我らが五天将筆頭。そして残る一人が、聖王です」
ジェンガも勝てない女性。
しかしそれより驚いたことがある。
「ジェンガ、国王に喧嘩売ったの?」
勝てなかったということは戦ったわけで、戦ったということは勝負をふっかけたということだ。そして将軍でもない旅の武芸者が国王と戦うなど、何かしら喧嘩でも売らなければ無理だろう。
ジェンガはよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに目を輝かせている。
「その通りです!しかし聖王に近づくのは至難の技。だからわざわざ聖王国で名のある騎士を一人一人一騎打ちで倒して周り、相手から出てくるのを待ったんです」
完全に挑発である。
「いやー、苦労しました!」なんて笑ってるが、これって国際問題じゃね?俺が土下座すれば聖王はジェンガを許してやってくれるだろうか?
「自分の配下の手練れの騎士達が何者かに次々と倒されていく…」
ミサゴが呟いてる。
自分の叔母が受けた仕打ちに一言あるのだろうか。
「叔母上はさぞ喜んでおられたであろうな!」
俺の予想に反し、その顔は喜びで満ちていた。
「それはもう!"騎士の誰かに倒されるのではないかと心配した、よくぞ我が元まで辿り着いた"とたいへん嬉しそうでした」
「そうであろうそうであろう。叔母上の笑顔が眼に浮かぶようである!」
「まさに喜色満面でいらっしゃいましたよ。戦いも白熱しました!最後は力及ばず負けてしまいましたが、"強くなってまた来るがよい"とお言葉まで頂いちゃいました」
「叔母上に気に入られる者などなかなかおらぬ。さすがはジェンガである!」
二人は嬉しそうに語り合っている。
そして聖王も喜んでいたようだ。
俺には理解できない世界だが、問題ないのなら良かった。
「ずいぶん強いお方なんですね」
ニコニコしたアルカが会話に入ってきた。
ミサゴもそうだが、気配を消して部屋に入って来るのはやめて欲しい。
「五天将筆頭を除けば、世界最強の一角でしょうね」
ジェンガの言葉にその五天将筆頭、アルカは残念そうだ。
「そうですか…。五天将筆頭さんに勝てる人はなかなかいないんですね」
「そんなのいるわけありませんよ!五天将筆頭ならきっと大魔王も敵じゃありません!」
嬉しそうに笑うジェンガと珍しくしょぼんとするアルカ。
自分が世界最強ではいたくないという乙女心だろうか?
「謎の五天将筆頭は置いておくにしても、今世界最強というならば叔母上を含めた四人が挙げられる。聖王国聖王アオバ・オウル、ヒュドラ連邦大将軍エキドナ・カーン、魔法国魔法王ランシェル・マジク、そしてルゥルゥ国元帥ジェンガ・ジェンガ。この四人である」
魔法国だけは存在知ってた。
聖王国は今日聞いた。
連邦って何だろう?
まあ、今度聞けばいいか。
それよりも…
「ジェンガ、世界最強の一角とはすごいじゃん」
「いやいや、俺なんてとてもとても…。実際聖王陛下には敗北してますし、その中じゃ俺が一段下って感じですね」
謙遜するジェンガ。
そこにミサゴがニヤリと笑いかける。
「しかしジェンガよ、叔母上と戦ったときそなたは万全の状態であったか?」
「戦いはいつ始まるかわからないもの。万全であろうとなかろうと、それは言い訳にすぎませんよ」
「その潔さ、アッパレである。しかし妾は見てみたいのだ。聖騎士達との一騎打ちで疲弊しておらぬ状態、かつ宝具で身を包んだそなたを。そんなそなたと叔母上の戦いがな」
痛い所というか自分の隠してた願望を見事指摘されてしまったのだろう。ジェンガは観念したようだ。
「完全にバレてますね…。俺もそんな状態で再戦したいですよ。次は負けません!」
ジェンガとミサゴは強いやつ談義に花を咲かせ始め、アルカはその話を興味深そうに聞いている。自分より強いやつがいる可能性をまだ諦めていないのだろうか。
こうしてなし崩し的に今日の報告は終了したのである。
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夕食時、今日の報告にいなかったカルサへこの話をふってみた。
「ジェンガってそんな強かったんだ…」
やはり驚くところはそこか。俺もビックリした
「魔界で動きがあるのは怖いけど、詳細わからないと動きようがないわね」
そうなんだよね
「まあ、あたし達は聖王国が討ち漏らした魔物退治を頑張りましょう。たとえ一匹だろうと、戦士でも魔法使いでもない人々にとっては驚異なんだから」
おう!
魔界で色々動きがあるが、詳細は不明。ただ前回の大魔王出現がつい最近だから、大魔王が現れたということはなさそう。そして散発的な侵攻はあるけど人間界と魔界の境界を守る聖王国が踏ん張ってくれてるからとりあえず我が国は漏れ出た魔物に注意すべし、と。
まあ、とりあえず大きな問題はなさそうだ。
数百年に一度しか大魔王が出現しないのなら、次の出現は俺が死んだ後だろう。
頑張ってくれ、未来の人々!!
最初はジェンガの解説だけだったのですが、ミサゴを登場させたらどんどん話し出してくれて賑やかになりました。そしてその勢いで一気に書けたので更新いたします。
ようやく魔界や聖王国、連邦を話題に出すことができました。これらは最初の構想段階からあった存在ですが、書けるかどうか不安でした。
ここまで辿り着かせていただき、ありがとうございます。ブクマ、評価、とても嬉しいです。
次回は週末更新を予定しております。またよろしくお願いいたします。




