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45話 ベガスへ行こう

 その日も俺はいつもどおりボードの話を聞いていた。

 ボードの意見を承認したり、ボードに判断を促したり、ボードを責任者にしたりと、いつもどおり仕事をこなしていたのだ。

 そして最後にベガスの近況報告があった。


 娯楽の街、ベガス。

 後宮の人々によってつくられた街。

 ベガスの共同領主オウランはボードの幼馴染。

 だからだろうか、ボードはあまりベガスに対して感情移入しないように気をつけているようだ。公私混同しないようにという注意なのだろう。やはりできる男はしっかりしている。


 しかしベガスが順調に発展し、多くの人々が訪れているというこの報告。口元の笑みは隠せていない。

 それを見てなんだか俺も嬉しくなってしまった。

 だからつい言ってしまったのだ。 


「いいねえ。今度みんなで見に行こうか」


 そんな何気ない一言を。


「承知いたしました。直ちに準備いたします」


 先程までの和やかな雰囲気は消え去り、ボードの表情は真剣だ。

 そのまま報告も終了し、ボードは忙しそうに去っていく。

 状況が飲み込めていない俺にカルサが一言。


「兄様、おおごとになるわよ」


 その意味を俺はすぐ理解することになる。



 ”リク王陛下初行幸”


 この指令はまたたく間に宮殿中に広がり、大規模な準備が開始されたのだ。

 リク王陛下が即位後初めて都を御出になられると国中がこの話題で持ち切りらしい。

 当然警備もたいへんだし色んな人が飛び回っている。


 えらいこっちゃ。


 ---


 みんなが大変頑張ってくれたおかげで、無事俺はベガスに出発することができた。

 大名行列のように長い行列に守られ、まるで部屋のように立派な荷台のついた馬車に乗って俺はベガスに向かっている。

 馬車でソファに座りながら足を伸ばせるってすごいことなのではないだろうか。

 少なくとも俺はそんな車に乗ったことはない。


「お館様、ご不快ではございませんか?」


 心配そうなボードに全く問題ないと回答した。

 むしろ快適すぎです。


 時折ミサゴが走ってる馬から馬車に飛び移り、こちらの様子を確認しに来たりする。

 すごい簡単そうにやってるけど、俺はそもそも走ってる馬からジャンプすること自体できないと思う。


「リクよ、問題はないか?」

「俺は全然問題ないよ。ミサゴこそ大丈夫?」

「妾の心配をするような余裕があるならば問題なさそうであるな。では妾はまた皆の元へ戻る。また会おうぞ」


 近衛大将であるミサゴはこの行列の警護責任者となっている。

 行列全体に注意を配って忙しいのに、俺の様子も見に来てくれているのだ。

 頭が下がる思いしかない。


 皆に守られた快適な馬車の旅が終わり、ベガスに到着する。

 立てた親指の数を数えるゲームをカルサに教えて馬車の中でやっていたのだが、かなり白熱した戦いになってしまったぜ。



 そして到着したベガス。

 馬車の窓から見てもすごいと思ったが、近くに来るともっとすごかった。

 まずは人の多さ。人口密度は都以上かもしれない。

 そして多くの立派な建物。どれも工夫が凝らしてあり、色んな細工や飾りがあって職人の腕が感じられる。

 しかも街の外周ではまだ工事が続いており、まだまだどんどん大きくなっていっている。

 宮殿はないが、大きな建物も色々ある。領主の館、カジノ、闘技場、そして広場の真ん中にはでっかい銅像もある。

 今はまだ都の方が大きい。だけどもしかしたらすぐに追い抜かれてしまうかもしれない。そんなことを感じてしまう勢いが、この街にはあるんだ。


 ワクワクしながら馬車を降りた俺たちを共同領主のオウランとベルサが出迎えてくれた。


「陛下、このたびはまことに…」

「王様、いらっしゃい!来てくれてありがとうね!」


 ベスラの挨拶を遮ってオウランが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「あちき達の街はどうだい?立派なもんじゃないかい?」


 褒めて褒めてと、振ってるしっぽが見えるような勢いで迫ってくる。

 周りは慌てた顔をしているが、実に微笑ましい。


「立派なもんだよ。オウランもベルサもよくやってくれたな。ありがとう」


 頭をなでて欲しい感じだったのでなでてやった。

 オウランは俺と同じで周りに祭り上げられてしまった人間だから、不思議と親近感があって自然に対応できていいね。

 でもさすがに人前で頭を撫でられたのは恥ずかしかったらしく、すぐ逃げてしまった。

 さらさらの髪で触り心地良かったのに。


「おおおお王様、じゃあ、そろそろ行こうか!?」

「どこに?」

「えっと、えっと、ベルサ、どこ行くの!?」

「…街の案内ですわよ、オウラン」


 偽王側の領主の娘。でも後宮の争いで俺達に味方してくれたベルサ。

 今はオウランと二人でこのベガスの街の領主をしてくれている。

 二人支え合って頑張ってくれているようだ。


 そのまま二人の案内で街を見る。

 まずは歓楽街。この街は後宮がなくなって路頭に迷う人々のためというのがそもそもの目的なので、やはりここはメインだろう。

 他の街とは違って女性が安心して働け、しかも税金もちゃんと徴収できて、働いてる女性も国も儲かる素敵な場所になったのだ。反社会的勢力の中抜きは許しません。

 各建物からきれいに着飾ったお姉さん方に手を振られて恥ずかしかった。

 しかしまるで俺を神様みたいに拝む人もいるのはなぜだろう?


 次はカジノ。

 元の世界と同じようなものもあれば、見たこともないものもある。

 でもどこも白熱しているようで楽しそうだ。

 俺は絶対負ける自信があるからやらないけど。

 郊外にレース場をつくり、競馬のようなものも始めるらしい。

 大規模でいいねえ。


 そして闘技場。

 腕自慢の男たちが集まって日々戦いが行われている。

 これほど大規模なものを常設するのは世界初らしく、かなり人気があるらしい。

 ご婦人方が目当ての戦士を見てキャーキャー言ってたりする。

 基本的に奴隷と戦わせるということはなく、自分の意志で参加した人間同士の戦いをするのだ。

 ただときたま行われる、捕まえた魔物たちと戦士たちが共同で戦うエキシビジョンマッチ。本当の命のやり取りとなるためめちゃくちゃ人気らしい。

 ちなみに治療のために治癒魔法使いも専任で数名いる。

 アルカは憧れの対象らしく、挨拶に来ていた。

 村長のことも尊敬してるらしく、カルサも交えて話が弾んだようだ。


 そして広場によってから領主の館で休ませてもらおうと思ったのだが、とんでもないことが発覚した。


「王様、あの銅像はどう?そっくりだと思わない?」


 広場のバカでかい銅像のことらしい。

 端正な顔立ちに筋肉質だが均整がとれてスマートな体。その眼差しは慈悲深くそれでいて力強い。けっこうな大作ということはわかる。

 ミサゴのご先祖様かな?と思ってミサゴを見てみた。

 するとミサゴは笑顔でうなづく。


「うむ。リクにうり二つであるな」


 どこが!?

 ってか俺の銅像なんてつくっちゃったの!?


「やっぱりそっくりでしょ!都の職人さんたちに頑張ってもらったんだからー」


 オウランが嬉しそうに言うには、俺と偽王の対決を直で見た都の職人を集め、彼らに作らせたらしい。それはもう気合が入り、何度も作り直しが行われた結果がこれということだ。

 銅像の素晴らしさについて語り合うオウラン、ベスラ、ミサゴ、ジェンガ、ボード。

 皆異口同音に言う「俺にそっくり」と。


「…カルサ、これって俺に似てる?」

「あたしからはなんとも言えないけど、まあ、あたしが見てる兄様は、兄様が鏡で見てる顔と一緒だと思う」


 少し安心した。



 夕飯の時間ということで領主の館では歓迎の宴会が行われた。

 俺はあまり酒が飲めないのに、みんなが注ぎに来るから困ってしまう。

 酒はほどほどにして山海の珍味なるものをいただきたいのだが、なかなか難しい。


「リクよ、楽しんでおるか?」

「王様、楽しんでくれてるかい?」


 おお、助け舟。

 元王と共同領主が来てくれたので他の人が下がってくれた。

 これはチャンスとご飯を食べ始める。うむ、うまい!


「リクよ、そんなに慌てると喉につまらせてしまうぞ。水はいらぬか?」

「そんなに食べてくれてありがとうね。頑張って準備したかいがあるってもんだよ」


 二人に心配されたり喜ばれたりしながら食事が進んだ。

 しかし酒をたくさん飲まされたせいでだんだん頭がくらくらするな。

 変なこと口走らないよう、適当なこと話題にしよう。


「オウラン、ずいぶん化粧薄くなったよね?」

「え?ああ、もうあちきは裏方だからね。そんな化粧する必要もないんだよ」


 そう。オウランの化粧は薄くなった。

 前は悪く言えばけばけばしかったが、今は薄っすらとしか化粧していないっぽい。


「俺的には今のほうが全然いいよ。清楚系美人って感じ」


 以前はthe後宮って感じの雰囲気だったが、今は貴族の女当主と言われても全く違和感がない。元がいいから何やっても美人なんだろうな。


「リクよ、妾はどう思う?」


 ミサゴが突然迫ってきた。

 いや、ミサゴが迫ってくるのはいつものことか。

 ミサゴがいつものように迫ってきた。


「ミサゴはそもそも化粧してなくない?」

「うむ。しておらぬ」

「だけどいつも美人だからすげーよな」


 ミサゴは化粧っ気がない。

 でもおっぱい大きいし、目は凛々しくて見つめられるとドキッとするし、笑顔は太陽のようだし、おっぱい大きくてとても美人だ。

 でもでかすぎるわけじゃなくて、なんというかとてもいい感じなんだよ。

 誰かと熱く語りたいのだが、残念ながら相手がいなくて無理だ。

 ハイロにしたら〆られそう。


 そのまま二人は嬉しそうに御酌してくれたり料理を口に運んでくれたりした。

 どんどん意識が朦朧とする中、会話が聞こえてくてる。


「リクは眠そうであるな。妾が寝所に連れて行こう」

「いやいや、宴会の主人としてあちきが連れてくよ。どうかミサゴさまはお休みしておくれ」

「いやいや、リクの世話は近衛大将である妾の仕事である」

「いやいや、お客様にお仕事させたとあってはあちきの顔をが立たないよ」

「いやいや…」


 どうも二人が何かを取り合っているらしい。

 いけないな。ちゃんと分けっこしないと。


「ふたりともいいから。兄様の世話はあたしがします」


 カルサが俺の世話をしてくれるらしい。

 小さな肩に俺の腕をかけて一生懸命寝所まで連れてってくれた。


「兄様、ちゃんと寝られる?」


 ああ。大丈夫だよ


「お酒弱いんなら、次からはほどほどにね」


 わかった。気をつける


「じゃあおやすみなさい」


 おやすみ


 ---


 翌朝、二日酔いで頭が痛い。

 なんか夜中に誰かがベッドに入ってきた感じがあったけど気のせいだろう。


 オウランたちに見送られ、都へと帰っていく。

 アルカの治癒魔法で二日酔いはだいぶよくなった。魔法ってすごい。


「お館様、いかがでしたか?」

「これてよかったよ。色々準備してくれてありがとう、ボード」

「とんでもございません。お館様にご満足いただけたのならば、それが何よりでございます」


 こうして俺の初行幸は成功裏に終わった。


「兄様、寝相悪すぎ」


 しかしカルサが不機嫌そうなのは何故なんだろう?

長らく更新できず、申し訳ありませんでした。

咳と鼻がまだつらいですが、体調はだいぶよくなりました。

また来週からはコンスタントに更新できるかと思います。

そろそろ話も進んでいく予定です。

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