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44話 本をつくろう

 カルサと街に出てから数日が経った。


 あれからは特に問題なく政務がこなせるようになった。

 もちろんほとんどボードとジェンガ任せだが、俺はこれでいいんだ。

 ぼちぼちやってこう。


 そういえばゲンシンが挨拶に来た。

 本国での即位式が終わり、今後は都に駐在するからとわざわざ来てくれたのだ。

 俺の態度に怒ってないか少し心配だったが、むしろキラキラした目で見つめてくれていた。

 挨拶のときに述べられた美辞麗句を本気にするつもりはないが、あの目は本当な気がする。

 俺が王に指名したことをあんなに恩に着てくれるとは。

 なんだかこそばゆい。


 こんなふうに前向きになれるのもカルサのおかげだなーと感謝しながら今日も仕事をこなす。

 そしてしばしの休憩時間。

 アルカとカルサとお茶をいただく。


「イマワガのお茶ですよ。あそこは茶の名産地だから、とってもいいお茶をいただきました」


 アルカが嬉しそうにそんなことを言ってくる。

 俺はお茶の味はよくわからないが、カルサが美味しいと喜んでるからきっといいものなのだろう。

 そう思うといつもより心なしかおいしい、気がする。


「昨日の練り物はホジョがくれたものだっけ?」

「あれも美味しかったですねえ」

「ホジョとイマワガ、よっぽど偽王の件が後ろめたいんでしょうね」


 この二国、偽王と手を組んで色々悪さをしていた。

 だからうちの国民からの評判はすこぶる悪い。

 タキダと違って戦争でも負けてるので立場も弱い。

 何とか心象を良くしようと贈り物合戦が行われているようだ。


 俺に賄賂贈られても、判断するのはボードだから意味ないのにね。

 そんなことを考えながらどちらにもらったものだろう、最中のようなお菓子を頬張る。

 うむ、うまい。

 これらを美味しくいただくためにも、やはり俺に判断権を与えられては困るな。

 できるだけ無関係でいよう。


 しかし最中か。

 高級和菓子は和紙に置かれたりしてたなと元の世界のことを思い出し、そういえばと口に出た。


「そういやカルサ、紙の件ってどうなったの?」

「もう量産に入って、ギドの販売網でバンバン売り出してるわよ」


 マジか。さすが仕事が早い。


「けっこう売れてる?」


 俺の問いにカルサはふふーん!とドヤる。

 あ、もうだいたいわかりました。


「売れるも何も、売り切れ続出よ。増産しても全然需要に追いつかないんだから」


 安いしかさばらないしけっこう丈夫だしと引く手数多らしい。


「これも兄様の手帳ってやつのおかげ。完璧な見本があるんだもの。そりゃ捗るってものよ」

「見本があるからって真似できるのも十分すごいよ」

「ううん。まだまだ。今の出来で満足なんかできっこない。もっといいものをもっと効率よく、もっと安くつくるんだから!」


 これから真似するやつらがどんどん現れるだろう。

 でもそんなやつらに絶対負けない!と鼻息荒い。


「本も売ってるの?」

「そりゃもちろん。付加価値つけたほうが儲かるもの」

「…カルサはすげえな」

「そんなの商人には常識よ。ギドも早く本を売りたがってるんだけど、量産がね」


 いちいち書き写さないといけないから人手も時間もかかると嘆いている。

 …え?わざわざ模写してんの?


「カルサって複製魔法使えるんじゃなかったっけ?」

「あれあたししか使えないし」

「もしかして複製魔法って、カルサオリジナル魔法なの?」

「…オリジナルって、何?」


 カタカナ語伝わないって地味に不便だ。


「あー、まあ、その人独自のものっていう意味かな」

「ふーん。じゃあそうね。あたしオリジナルの魔法になるわね」

「だからいちいち複製なんかしてらんないってわけか」


 なるほど。納得だ。


「じゃあさ、魔法使える人間集めて複製魔法教えれば大量生産できるんじゃない?」

「あー、確かにできるかも」

「やっぱあれ?…その、魔法使えるか判断する紙が貴重だから、才能を見出すのが難しいの?」

「「え」」


 アルカとカルサが同時に驚いてる。

 俺を無能力者と証明してくれてしまった式神のような紙のことを言ってるのだが、どうかしたのだろうか?


「カルサ、もしかして…」

「兄様、まだ信じてたの…」


 アルカは珍しく眉間にシワを寄せ、カルサは申し訳なさそうにしてる。


「兄様、ごめんなさい」


 突然頭を下げられた。

 どんなことだろうと無条件で許しますとも。


「あの紙、確かに貴重品なのは本当。でも魔法使いなら簡単にたくさんつくれるの。あたしが内職で作ってたものの一部で、実際はうちの家計に影響なんてなかったの」


 おお、そうだったのか。

 地味に申し訳ないと思ってたけど大丈夫だったようでよかった。


「だからごめんなさい、兄様。ずっと責任感じてたのよね?」


 本当に申し訳なさそうにして謝ってくれる。

 逆に俺が申し訳なくなってしまうよ。


「大丈夫大丈夫。俺は気にしてないから」


 そう、俺は。


「カ~ル~サ~」


 アルカは怒っているようだ。


 そのままアルカのお説教タイムが始まる。

 いつもニコニコのアルカだが、カルサといるとこうやって笑顔以外の色んな表情を見せてくれる。

 やっぱそれだけ妹のことが好きってことなんだろうな。

 叱られてションボリしてるカルサにはすまないが、何だか微笑ましい。


 さて話を元に戻そう。


「あの紙を大量生産できるなら、国中にバラまいて魔法の才能ある人物を探しまくればいいんじゃないか?」

「うん。羊皮紙じゃなくて新しい紙でも作れるかも試してみる。そうすればもっと安くつくれるし」


 原材料費の低減ですね。


「でも才能ある人探して、教育して魔法使いにして、それからさらに複製魔法教えてってなるといつになるやら…」


 確かに時間がかかるな。


「才能探しはやるとして、本に関しては木版印刷でもいいんじゃない?」

「もくはんいんさつ?」


 印刷を知らなのか。

 まあ、紙が大量につくれないなら印刷なんてそもそも必要ないしねと思い、簡単にやり方を説明してみた。


「はー、リクさんはすごいこと思いつかれますねえ」


 アルカは俺を称賛してくれる。

 照れくさいね。


「兄様が考えたわけじゃないだろうけど、すっごいいい考え。彫刻ならいくらでも職人入るし、すぐに始められる!」


 カルサは俺のことをよくわかってる。

 現実に引き戻されたよ。


 休憩を切り上げてカルサはいそいそと出かけていった。

 印刷を行うための準備を行うのだろう。


「リクさん、ありがとうございます」


 アルカがニコニコではなく、真面目な顔でお礼を言ってくれる。


「いや、むしろ俺の方こそありがとうなんだけど、どうかした?」


 俺の返事に少しだけ笑ってくれた。


「そんなリクさんだから、なんでしょうね。カルサ、リクさんと出会ってからとっても感情が豊かになったんですよ」

「そうなの?」

「そうなんです。以前のカルサはいつもムスッとしてて、家族と村人の一部にしか心を開きませんでした」


 出会った頃のカルサを思い出す。 

 確かにいつも怒ってる感じだった。


「でも今はああやって笑ったり申し訳なさそうにしたり、そして自慢げにしたり。たくさんの顔を見せてくれるようになりました。…おばあちゃんにも見せてあげたいです」


 村長…。

 俺はあんたに少しだけ恩返しできたんだろうか。


「だからあたし、やっぱり思うんです。リクさんと会えてよかったって」


 え。

 胸がドキドキしてきた。


「リクさんとあえて色んな発見ができて、想像もしなかったような体験ができました。きっとこれからも、すごいことばっかだと思うと、ワクワクしちゃいます」


 あ、俺個人のことではないのね。


「リクさん、さっき国中から魔法の才能ある人を集めようって言ってましたけど、あれってすごいことじゃないですか?」


 そんなすごいことだろうか?

 性能ある人間を国が大々的に探したほうが効率的だろう。


「だってそれは、貴族とかの血筋に関係なく才能ある人物を取り立てるってことですよね?」


 ようやく気づけた。

 この世界は階級社会なのだ。

 ここでは生まれでほぼ全てが決まる。

 才能ある人間でも平民であれば一生平民のまま。

 逆に才能がなくても王族というだけで王になってしまうこともある。

 偽王のように。


 ボードやパトリはごくごく一部の例外なのだ。


「でもまあ、俺だって王族でもなんでもないのに王様になっちゃったし」

「リクさんのことと一般国民のことは別じゃないですか。でもリクさんは今から示されようとしてるんです。”才能あるものは取り立てる”って」

「そう、なるのかな」

「そうなります。きっとたくさんの人が手を上げますよ。自分の才能を見てくれって」


 色んな才能が現れ、色んな可能性に満ちた国。

 それはきっと素晴らしいものだろう。

 だけどそこから取り残される人もいるだろうから、そんな人々のことも考えてあげないと。


「…何だかやることが次から次へと現れるよ」

「そうやってみんなを幸せにしようとするところも、リクさんのすごいところですよね」


 アルカは今日一番の笑顔で俺に笑いかけてくれた。

 何度見ても、アルカの笑顔には慣れないなあ。



 ---



 魔法使いの才能を探すという案について、ボードは大賛成してくれた。

 貴族の反対があるかと心配してたが、大貴族の左大臣パータリも賛同してくれたので一安心だ。

 むしろパータリはすでに案を作成していて、俺に提出予定だったらしい。


「さすが陛下、我が浅知恵などとうにお見通しでございましたか。より良い才能を集め、より富みましょう」


 目的は俺とは違うようだが、魔法以外でも色んな才能を探して育てることになった。

 この政策から取り残されそうな人についてはボードが対策をしてくれるし、そこには後宮の人々の街・ベガスも一役買ってくれそうだ。

 国に役立つ才能だけが才能じゃないからね。

 娯楽で役立つ才能はそこで大いに発揮してもらおうじゃないか。



 そういえば本作り。

 試作品はすでに完成し、量産もすぐできるとカルサはホクホクだ。

 俺の「魔法の原書も印刷したらバカ売れするんじゃないか?」という意見は


「兄様、戦争になるわよ」


 と真顔で一蹴された。

 この世界の常識は難しい。

リクはいい大人ですが女性に免疫がなく、美女や美少女に囲まれていつもドキドキです。


全然風邪が治りませんが、なんとか更新できました。次は週末、の予定です。

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