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43話 街へお忍び

 最近、自分が王様にふさわしくないと思えてきた。


 もちろんふさわしいなんて思ったことはない。

 しかしみんなが望んでくれるなら、みんなに求められるなら、王様であるべきかと思っていた。


 しかし最近、俺ではダメなのでは?と思い始めたのだ。

 特にこの間のが出来事が決定打となった。


 人の話を聞き逃し、適当な言い訳して聞き直す。

 ましてや偉そうに命令する。名を名乗れとか。

 さらに自分の独断で貨幣のデザインを変えようとする。

 完全に奢ってしまっている。


 そんなことに気づいてしまったのだ。


 でも王様を辞めたからって行くあてもない。

 村に帰ろうにもみんな俺の顔は知られすぎてて無理だ。

 じゃあ国外?

 そもそも勝手がわからず行く途中で野垂れ死にそう。


 どうしたもんかなあ…と考えながら、もそもそと味がしない朝食を食べ終える。

 すると執務室へ向かう途中でカルサに呼び止められた。


「兄様、街へ行くわよ」


 へ?



 ---



 たくさんの店が軒を連ね、多くの買い物客で賑わう。

 子供は楽しそうな声で笑いながら駆け回り、大人はそれを温かい目で見守る。


 ここは都の大通り。

 本当に街へ来てしまった。


「兄様、王様になってから来るのは初めてだっけ?」


「あたしはもう何度か来てるの」と自慢げに笑うカルサ。

 それもあって案内役を買って出てくれたようだが、鮮やかすぎる手並みだった。


 まず俺が村で着てた服が準備されており、すぐに着替えさせられた。

 俺が着替え終わる頃にはカルサも準備を終えており、目立つ銀髪はフードで隠している。

 そのままいたるところに配備された宮殿の近衛兵、それを魔法でときに眠らせ、ときに惑わせ、あっという間に俺を街へ連れ出してしまったのだ。

「ま、あたしにかかればこんなものよ」とのこと。


 それにしても街である。

 一応今住んでる場所ではあるが、ずっと宮殿内で引きこもってるので街中の様子をちゃんと見るのは初めてだ。

 前回見たのは偽王と対決したとき。

 あのときのゴーストタウンのような街並みとは完全に別物だ


 まず店が開いてる。

 そこに人がたくさん来ている。

 そして何よりみんなが笑顔。

 ぜんぜん違う。


「なんか、いいな」

「でしょ?」


 見る人見る人みんな笑顔。

 俺の国。俺が王様の国。

 そこに住む人達が笑顔って、なんだかとても嬉しくなる。


「兄様、はい」


 カルサが屋台で買ってきた肉の塊を渡してくれた。

 焼き立てのでかい肉にたっぷりとタレがついている。

「こうやってかぶりつくの」とカルサが教えてくれた通りに食べてみる。

 うん、うまい。

 朝ごはんは味がしなかったが、この肉はちゃんと味がするな。


「兄様どう?美味しい?」


 不安そうなカルサ。

 心配してくれてたんだな。


「すごくうまいよ!ありがとうカルサ」

「ならよかった。じゃあもっと色々見てみましょ」


 不安そうな顔が一転して明るくなり、そのまま俺の手を引っ張ってあちこちの店や屋台を巡り始めた。


 おもちゃの店。

 手作りの風車や竹とんぼのようなおもちゃが売っている。

 こういうのってなんでこんなに心惹かれてしまうんだろうな。

 カルサはぬいぐるみが気になるらしい。

 あら、俺の視線に気づいてしまった。

「こんなの興味ないわ」って顔になったぞ。


 飴屋の屋台。

 大道芸のように次々作り出される飴細工たち。

 食欲よりもむしろ好奇心がそそられる。

 思わずおひねりを渡してしまったよ。


 食べ物の店と屋台。

 いろんな食べ物がいろんな店で売られている。

 焼き立ての焼き鳥、ケバブのようなパンの肉包、野菜スティックに果物、そして甘いお菓子。

 それらを色々買ってはカルサと分け合って食べた。

 どれも味がある。

 どれもうまい。


「お嬢ちゃん。たくさん買ってくれるいいお兄さん持って、幸せ者だね」

「ありがとう。とってもいい兄様なのよ」


 カルサと屋台のおじさんのやりとり。

 お世辞だろうが、それでも嬉しい。



 いろいろ巡って、いつの間にか広場にたどり着いた。

 俺が偽王と戦った広場。

 俺が王に即位した広場。

 そこは今、大通りよりもさらに活気で満ちていた。


 もちろん屋台はあるが、それよりも気になるのはあちらこちらで見られる寸劇だ。

 どれも同じような内容に見えるが、どこも多くの観客がいる。


「あの寸劇って、何?」

「さあ?あたしもよく知らないかも」


 カルサも知らないのか。

 ちょっと気になるからと見てみると、これはまさか…。


「讃えよ!新たなる時代を!

 黄金の時代の始まりを!!」


 間違いない。


「我が名はリク!

 諸君らの新たな王である!!」


 ()()()()だ!!


 ---


 呆然とする俺を興味深そうに幾人かが取り囲む。


「兄ちゃん、もしかして都は初めてか?」

「国王陛下がご即位されるお姿、見たことないのかい?」


 確かに見たことはないけど


「寸劇とはいえ、あまりの偉大さにそんな呆然としちまって!」


 いや、全然そんなわけではないのですが


「「「しょうがねえ。俺達が教えてやろう!」」」


 はあ、ありがとうございます



 おっさんたちは意気揚々と俺が偽王と対決する場面や即位のときの話をしてくれた。

 聞いてると悶絶したくなるような絶賛の嵐なのだが、俺が国王本人と知らないおっさんたちはそれはもう嬉しそうに話し続ける。


「そして現れるは王者の結界!俺はもう終わったと思ったよ。あの伝説の盾の前には、もう手も足も出ない」

「でも国王陛下は違った!なんとあの王者の結界を蹴り飛ばしたんだ!」

「俺はあのとき直で見たんだよ、あのお姿を。もう今思い出しても全身が震えるよ!」

「王者の結界何するものぞ!ってな。やっぱあの御方は格が違うよ」


 とりあえず蹴ってみただけなのに、そんな捉え方されてたのか…。

 あのときは顔が青くなったが、今は真っ赤になってしまってるよ。


 おっさんたちは俺が即位宣言するところまで語り尽くし、さらには最近の話題にも話が広がっている。


「ボード様みたいな貴族でもなんでもない方を宰相様にされたんだ。本当に器が大きい方だよ」

「そのボード様はうちら庶民のことを考えた政治をしてくださる。全部陛下のおかげさ」

「最近銅貨の計算がわかりやすくなったのに気づいたかい?あれも国王陛下の発案なんだぞ。銅貨なんて使われたことなどないだろうに、本当にお優しい御方さ」


 貨幣のこと、喜んでもらえてるようで安心した。

 しかし話が俺と偽王の対決に戻りそうになる。

 さすがにループはきついので用事があると言って終わりにしてもらった。

 彼らはこんなに語っても満足できてないようで、これから居酒屋に繰り出して続きを語り合うらしい。


「兄様、どうだった?」


 どこに隠れていたのか、カルサが現れた。


「カルサ、寸劇の内容知ってただろ?」

「知らないかも、って言ったんだから嘘はついてないわよ?」

「やっぱり知ってたのか…」


 カルサが知ってて見せたということは、俺が見るべき話、俺が聞くべき話だったということなのだろう。

 しかし、どういうことだ?


「兄様、いい国の条件ってなんだと思う?」


 唐突な質問。

 とりあえずパッと思い浮かんだことを言う。


「国民が幸せな国、かな?」


 カルサが軽くうなづいてくれた。


「あたしもそう思う。じゃあ次。いい王様の条件ってなんだと思う?」


 考え込みそうになったが、ふと思い浮かんだ言葉をそのまま述べた。


「国民を幸せにできる王様、かな」


 カルサは満足げだ。

 さっきよりも深くうなづいてくれた。


「あたしもそう思う

 じゃあ兄様、この国の民は幸せそう?」

「うん」

「じゃあこの国はいい国?」

「そう、だと思う」

「じゃあこの国の王様はいい王様?」


 言葉に詰まってしまった。

 さっきの論法ではいい王様になるんだろうが、俺には素直に認めることはできなかった。

 カルサは「やれやれ」なんて言いながら、そんな俺を諭すように言ってくる。



「兄様、最近がんばりすぎなのよ」


 そうかな?


「そうなの。だって後宮のこと、三国のこと、貨幣のこと、色々意見言ってるでしょ?いい王様になろうって頑張ってくれてる」


 頑張ってるけど、空回りしてる


「そんなことない。みんないい方向に動いてる

 全部兄様のおかげ」


 たまたまだよ…


「そう、たまたまね」


 そこは認めちゃうの?


「もちろん。だって兄様、反乱のこと思い出してみなさいな

 なんか意見とか言ってた?」


 特に言ってないかな…

 だいたい流されてた


「でしょ?でもすごいうまくいった」


 俺、何もしてなかったのになあ


「兄様はそれでいいの

 どーんと構えてれば下の皆が頑張ってくれるの

 もちろん今みたいに頑張ってくれるのもいいけど、兄様が疲れちゃったら意味ないの」


 やっぱ俺、疲れてるかなあ


「間違いなく疲れてる

 もっと前みたいに気楽になりましょ?」


 でも、王様だし…


「兄様はお気楽だからいいの

 最近気を張りすぎて変なことしてる

 この前の「我が前で名乗ることを許す」も、単に名前聞き逃しただけでしょ?」


 バレてた


「ふふーん。あたしにはお見通しなの

 色々悩んじゃって話を聞き逃す

 でも”王様だから間違っちゃいけない””王様だから偉そうにしなきゃ”

 そんな風に考えて変なことしちゃったんでしょ?」


 完全にバレてるなあ


「兄様は兄様のままでいいの」


 最近、その自分ってやつがわからなくなってきたよ


「それならあたしが教えてあげる」



 カルサは俺の手をギュッと握り、真っ直ぐに俺を見つめてきた。


「兄様はいつも周りに流されてばかり

 流されるままみんなのために立ち上がり、国まで救っちゃった優しい人」


「なんでも他人に任せちゃう

 でもそれは人を信じるという強い心を持っているから」


「敵でもすぐに信用しちゃうお人好し

 これは敵も味方にしちゃうぐらい度量が大きいってこと」


 俺のことをべた褒めしてくれる。


「王様にふさわしいかって悩んじゃうような人

 王様だから自分勝手でいいなんて決して思わない人」


「子どもたちが飢えてると知って食事も喉を通らなくなるような人

 ちゃんと解決して嬉しそうにご飯を食べる人」


「悩んで落ち込んで、ご飯に味がしなくなっちゃう人

 でも悩みを解決してくれようとする、とってもいい妹をもってる人」


 そのとおりだ。


「ありがとうカルサ」

「いいのよ。あたしは兄様の妹なんだから」


 そんなことを言って、少しだけ笑ってくれた。


「俺、いい王様になれるかな?」

「あたしに聞かなくてもわかるでしょ

 この広場のみんなの笑顔をちゃんと見て」


 すれ違う人みんな笑顔。

 そこにいる人々はみんな楽しそうで笑顔が絶えない。


「どう?みんな幸せそう?」

「幸せそうだなあ」

「じゃあこの国の王様は?」

「いい王様なのかなあ」

「でしょ。兄様はすでにいい王様なの

 自信もてなんて言わないけど、そんな落ち込むことないの」


 王様である自信なんて一生持てる気がしない。

 でも落ち込まないでいることぐらいはできそうな気がする。

 だって、俺にはこうやって支えてくれる妹がいるから。

 だからもう少し、頑張ってみよう。

 そう思えた。


「ありがとうカルサ」

「どういたしまして

 じゃあ兄様、そろそろ帰りましょ?

 そろそろ宮殿の中で大騒ぎになってるかもしれないし」

「だなあ」



 ---



 結果、何も騒ぎにはなっていなかった。

 俺がいないことに気づいたボードは何か事情があるのだろうと考え、俺の不在を伏せてくれたらしい。


「お早いお戻りで一安心いたしました」


 ボードは心底ホッとしたような顔をしている。


「ごめんな。そしていつもありがとう」


 感謝の言葉。

 本当にいつも頼りにさせてもらってる。


「とんでもございません

 お館様のお力になることこそ、我が喜びにございます」


 先ほどとは一転、とても嬉しそうな顔になった。

 こういう感謝の一言だけでも喜んでくれる人がいる。


「今日は特に問題は?」

「全てつつがなく。ただ何点かお耳に入れたい案件がございまして」

「わかった。すぐ聞かせてもらうよ」


 俺はボードの報告を聞く。

 正直よくわからない内容ばかりだ。

 でも余計なことは考えず、ちゃんと話に集中する。


 報告が終わったボードは俺の言葉を待っている。

 だから俺は言うんだ。いつもの言葉を。


「よしわかった。すべて任せる!」

「はっ!」


 こうして、俺の日常は再開された。

街へのお忍びの話です。また書きたいです。

風邪をひいてしまいました…。なんとか一話書き終えましたが、週末中にもう一話は難しいかもしれません。

皆さんも体調にはどうかお気をつけください。


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