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41話 行商人再び

 俺の中では終わっていた後宮問題。

 しかし実はあれからもたいへんだったと、少し経ってから報告で知らされた。


 パトリ達、そしてベルサとオウラン達の間で何度も何度も会談が行われた。

 街の場所はどこにするのか、どのような街のつくりにするのか、そしてどのような制度にするのか、お互いが納得するまで徹底的に話し合われたのだ。

 主張が平行線をたどり、頓挫しそうなときざ何度もあった。

 しかしその度に皆で国王陛下の言葉を思い出して冷静さを取り戻す。

 話し合いを再開し、なぜ平行線となるかの原因、そしてお互いの妥協点を見出した。

 そうやって築き上げられる信頼関係で、どんどん話し合いはスムーズになっていく。


 ゴールの見えなかった話し合いだが、ついに最後の議題も結論が出た。

 お互いが納得した結論。

 敗北者はおらず、皆が勝者となる結論。

 全ての議題でそれは達成され、ついに新しい街ができる。

 我らが偉大なる国王陛下の理想のもとに。


 …俺、なんかしたっけ?

 色々と疑問は残るが、解決したのならよかった。


 街は都の近くにある温泉の出る場所に作られることになったようだ。

 湯治だけ楽しむこともできるし、色々と夜の遊びを楽しむこともできる。

 そんな場所にするらしい。

 すでに開発はスタートし、急ピッチで街づくりが始まっている。

 大工さんたちもこの街の概要を知らされたことで気合が入り、予定をはるかに上回るスピードと品質でどんどん完成に近づいているらしい。

 まあ、気持ちはわかる。


 そして驚いたのは後宮からその街に行く人々のことだ。

 実家が残ってるお姫様方以外はほぼ全員がその街に移住することを決めたのだ。

 つまり後宮内でも普通の仕事をし、いくらでも再就職先がある人々もみんなと一緒に行く。

 城を欲しがるような姫もいない。

 俺の予想以上に彼女たちの結束力は強かったようで、問題を拗らせることなくうまく解決できてよかった。



 ---



 後宮の報告を聞いたあとは謁見の間で客を迎えることとなった。

 俺の顔見知りと名乗って現れたのはこの男。


「お久しゅうございますリク王陛下。あの日貴方様とつながりを持てたこと、私の一生の宝にございます」


 その笑顔からは全く心の内が読めない。

 久々に会う行商人。いや、世界を股にかける大商人・ギド。


「あの時点では、むしろ俺のほうが幸運だったんじゃないか?」


 国すら買えると噂される大商人との出会い。

 あんな片田舎の村でこんな大物と出会えることがおかしい。


「とんでもございません。確かにあの日の私の目的はルゥルゥ老、今は陛下がお名前を受け継いでおられるあの御方でした。わざわざ毎年訪れる商隊を買収までいたしましたのに、お話させていただくことすらかないませんでした」


 笑顔が一転悲しそうな表情に。

 一見すると本気で悲しんでるようだが、こいつの表情は全く信用できない。

 ほら、今度は笑顔になった。


「しかしあのとき、私は陛下にお会いすることができました。私は人生の幸運というものはどこから転がり込んでくるかわからないと、思い知らされたのでございます」


 どこまで本気なのやら…。


「そして、貴方様はあのとき数多の商品の中から私の秘蔵の逸品を迷わず選びぬかれました。あの目利き、おみそれいたします」


 何のことだろう?


「高価な毛皮や宝石、それらに目もくれず魔法書を選ばれる。さらにはその魔法書の中でも原書を選びぬかれる。さすがの私も度肝を抜かれました」


 マジか。

 あの本、そんな高価なものだったのか。

 カルサも「あれ、原書だったの…?」って隣で驚いている。


「本など安いものだと言い放ち、私に断らせまいとされたあの手際も感服いたしました。ああまで言われては、もう私は何も言えません。何か言えば私の商人としての沽券に関わっていたでしょう。嘘つきのケチ商人などと言われては、もう商売などできません」


 本音なのか嫌味なのかわからない。

 そしてカルサは顔から血の気が引いている。


「に、兄様、今からでもあの本返したほうがいいと思う?」

「俺にはわからん。というか、原書って何?」

「原書は魔法の根源について書かれた、この世界に10冊もない本のこと。それのために戦争も起きたっていう代物なの」

「そんなのをタダでもらっちゃったってこと!?」

「そうなの!やっぱ返したほうがいいよね?」


 やばいな。俺はとんでもない借りをつくってしまっていたようだ。

 何とか何も気づいていないふりをがんばろう。


「”どれでも”と言われたから俺は欲しいものを選んだだけさ。何か問題でもあったか?」

「いえ、もちろんございませんとも。あの本はもう陛下のものにございます。陛下が腰にさされた宝剣にも劣らぬ逸品かと自負しておりますので、どうぞこれからも大切になさってください」


 おお…この切れぬものなき斬鉄剣と同等というのか…。

 とんでもないものもらっちゃったよ…。


「才能のある魔法使いならば、原書を読めば新しい魔法の開発すらできるようになるとか。きっとこれからも陛下のお役に立つかと思われます。私の差し上げたものが陛下のお役に立つならば、望外の喜びにございます」


 カルサが新魔法の開発とかできてたのはあの本のおかげというわけか。

 ますます借りがでかくなってしまった。

 カルサは才能ある認定されてちょっと嬉しそうにしてる。


「ギド。お前にはもらってばかりだな」

「とんでもございません。そうやって我々の縁は強く結ばれ、このような形で再会させていただくことができました。今後もこのようにいいお付き合いができれば、それで私は充分でございます」


 これでどんどん搾り取られてはたまったものではない。

 何かもらってもらおう。

 何がいいかな…と思ってると、カルサが懐から何か出してきた。


「兄様、これ、試作品なんだけどどうかな?売り物になるかな?」


 それはカルサがパータリと共同で制作した紙だった。

 こちらの世界で多く使われている獣の皮からつくられた羊皮紙ではなく、植物からできた紙。

 俺の手帳を参考にカルサが開発したもの。

 最近になってようやく形になった。

「植物から作れるのなら、大量生産し放題じゃない!」と興奮してた姿が懐かしい。


 販売ルートを探してたとこだし、ちょうどいい。

 ギドの反応で売り物になるかわかるかもしれないし、試してみよう。


「ギド、これを見てみろ」

「?これは…?」

「我が国で開発した新しい紙だ。今大量生産しようとしているところだ」

「これを、大量生産、でございますか…?」

「そうだ。それの他国への販売権をお前にやろう」

「まことでございますか!?」


 おお、あのギドが驚いてる。

 これはけっこういい売り物になりそうだ。

 一気に文明化が進んじゃうかも?


「お前もたくさん儲けて、俺達もたくさん儲けさせてくれ。期待しているぞ」

「…陛下のご高配を賜り、感謝の言葉も」


 そこまで言って一旦止め、改めて言い直した。


「私は商人です。感謝の気持ちは言葉ではなく、数字にてご覧にいれましょう。我が名にかけて、お約束いたします」


 初めてギドが俺と向き合ってくれた気がする。

 三度目でようやく本心を引き出せたかな。

 カルサのおかげだ。ありがとう。


 カルサも自分の紙が売り物になりそうで嬉しそうだ。


 ---


 その後は色々おすすめ商品を紹介されたが、どれも高級すぎた。

 俺には必要のないものばかり。

 なにせ最近は高級なものに嫌気が指して、少し売っぱらって恵まれない子どもたちに寄付しようとしているぐらいだ。

 だって俺の服一着でスラムの子どもたちが一年間食っていけるんだよ?

 どう考えてもそっちに使うべきだろう。


 むしろベルサとオウランの新しい街について力を借りれるかもしれないと、紹介してみた。


「それはそれは。興味を持たれる方が世界中にいらっしゃるかと存じ上げます」


 そう言いつつ、本人が一番興味を持っている雰囲気を隠さない。

 大きな商売の匂いを感じ取ってくれたらしい。

 パトリが色々と詳細を解説してくれ、さらに期待が高まっているようだ。


「その街に必要なものの準備についてはぜひ私もお手伝いさせてください。そして他国からのお客様方についても私にお任せを。ご期待以上の成果をお約束いたしましょう」


 こいつがのってくるということはやはり大儲けできそうだ。

 みんなが幸せになってお金も儲かる。

 素晴らしいね。

久々のギドでした。

次回は週末にオウラン視点の話を予定しております。

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