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40話 後宮問題の解決

 男子禁制の後宮。

 しかしその唯一の例外が国王。

 すなわち俺。


 その特権を使わせてもらい、気にせずどんどん宮殿の奥深く後宮へと俺は突き進んでいく。


 男は入れないからと、俺についてくるのは女性陣のみ。

「兄様は変なところで行動力あるのよね」と呆れ気味なカルサ。

「後宮ってどんなところなんでしょう」と楽しげなアルカ。

「後宮に来るのは久しぶりであるな」と懐かしげなミサゴ。

「姉上、お気をつけください」と女装したハイロ。

 …一人変なのが混じってるが、女にしか見えないというか普通に美人なんでもう見なかったことにする。


「ここから先が後宮でございます」


 パトリが案内してくれたのは宮殿の奥。

 俺が即位した最初の夜に使おうとした寝室からほど近い渡り廊下の先。

 立派な門のついた建物だった。


 パトリをうながし、門を開く。

 香を炊いているのだろうか、独特な匂いが漏れてきた。

 ちょっとドキドキしてきたが、今さら後には引けない。

 俺は足を踏み出し、後宮の中へと入っていった。


---


 中では匂いがより一層濃くなっている。

 息をするだけで頭がクラクラしてしまいそうだ。


「兄様、これ」


 カルサがハンカチというか手ぬぐいのようなものを貸してくれた。

 これで口と鼻をおさえれば少しはマシになりそうだ。ありがとうカルサ。


 これで少し周りを見る余裕ができてきた。

 建物の作り、そして装飾品は豪華絢爛。

 しかし何より特徴的なのはその場にいるのが老いも若きも全て女性のみであること。

 そして誰もが俺を不安げに見つめている。

 何とかしてあげねばなるまい。


 パトリの案内でさらに奥へ奥へと進んでいく。

 綺羅びやかさはなくなり、上品な装飾になってきている。

 しかし、おそらくこちらの方がお金がかかっているだろう。そんな気がする。


 俺達の前に一つの扉が出てきた。

 今までの扉はどれも開いていたのに、これだけは閉じている。

 おそらくこの扉の向こうに俺が会うべき人物がいるのだ。


 後宮を裏切り、俺達に味方してくれた人。

 しかし後宮の外に帰る場所はなく、居場所を失った人。

 きっと俺を恨んでいるであろうその人。


 責められればそれを受け入れよう

 謝れと言われればおとなしく謝ろう

 代償をよこせと言われれば俺でできることならがんばろう

 俺の仲間たちの命とか言われたらさすがに断るが、俺の命で済むならそれはそれで話が早い

 俺は覚悟を決め、扉を開けた。


---


 扉の中は今までとは違っていた。

 匂いが薄まっており、ハンカチなしで呼吸ができる。

 部屋の中心には立派な椅子があり、きっとここに王が座るのだろう。

 そして周りにはステージやベッドやらがあり、ここで女性たちが踊りやらを披露するのを椅子から眺め、興が乗ったらベッドになだれ込むなどということをしてたのだろう。


 しかし現在、椅子は無人だ。

 それに対してステージとベッドには、そこが我が場所と主張するかのように人々が陣取っている。


 ステージにいるのは着飾ったお姫様方。

 中心にいるのはとりわけ豪華で気の強そうなお姫様。

 きっとこの人がお姫様方の取りまとめ。しかし実家が取り潰されちゃった人だろう。


 ベッドにいるのは蠱惑的なお姉さん方。

 目線の運び方から指先一つ動きまで全て魅力的だ。

 俺が悲鳴を上げて逃げちゃった三人もいる。きっとあの中の誰かが彼女たちの取りまとめなのだろう。


 すでに俺たちが後宮に入ってきているのは報告されているのか、姿を見ても何も動じていない。

 お姫様は不機嫌そうに俺を見つめ、お姉さんは俺を魅了するかのように視線を送ってくる。

 まあ、色々意見はあるだろうがまずは話し合いだ。


「国王陛下がいったい何の御用でございましょうか?」


 口火を切ったのはお姫様だった。

 不満をぶつけるかのような口調で話してくる。

 何か言おうと思ったらベッドから笑い声が聞こえてきた。


「ははは!何言ってるんだいベルサ

 むしろ王様以外の誰がこんなところに来るっていうのさ?」


 あの三人の中の真ん中にいる、最も魅力的なお姉さんだ。


「オウラン、この後宮を廃止すると宣言されたのもその国王陛下ですわよ?そのような御方がこんなところにいらっしゃる必要なんてないでしょうに」


 お姫様、ベルサは吐き捨てるように呟く。


「まあしょせん、私達など見世物程度ということね」


 かなり追い込まれてるな。

 そしてお姉さん、オウランはそれを楽しそうに見つめている。

 それぞれ考え方は全然違うようだが、やはり話し合わなければ。


「いや、俺は君たちに会いに来たんだ。会って、話をするためにここまで来た」


 俺の言葉に怪訝そうな顔をするベルサと、やはり楽しそうに笑ってるオウラン。


「何を話し合う必要などあるのでございましょう?この後宮は廃止され、私達が散り散りになることはもう決まっていることですわ。私を含め一部の娘たちの実家はもうございませんが、帰るところがある娘たちについてはどうぞよろしくお願いいたします」

「あちきも帰るところがないんだけどねえ」

「あなた方は元々なかった方たちでしょう?今さら何か困ることがあるのですか?」

「ははは!おっしゃる通りだね。まあ、あちきとみんなは適当にやってくよ。今までも適当に生きてきたんだ。同じようにするだけさ」


 お姉さま!とベルサに何人かのお姫様がすがりつき、泣き始めた。

 それを優しく慰めるベルサ。

 対してオウランとその取り巻きは楽観的だ。


「姐さん、また昔みたいな生活になるんですかね?」

「そう。宮廷のごみ溜から街のごみ溜に帰るのさ。あちき達はにふさわしいじゃん?」

「はは!全くですね!まあ、姐さんと一緒なら怖いもんなしですよ!」


 全然違う二人。

 しかしやはりこの二人はどちらも帰る場所がないらしい。


「パトリ、この二人が俺たちを助けてくれた人物で間違いないんだな?」

「はい。ベルサとオウラン、彼女たち二名が後宮内の偽王派に対抗し、我らに手助けしてくれた人物となります」


「別にそんなんじゃないよ」


 口を挟んできたのはオウランだ。


「別にあちきは誰に味方するしないとかどうでも良かったんだ。ただね、後宮が取り潰されるのはあちきが王様に嫌われたせいってことになってね。それであいつらはあちきを縛り上げようとしやがったんだ。だからあちきは反抗した。ただそれだけさ」


 俺があの三人を追い返したせいだろう。

 俺のせいで彼女は後宮内での立場を失いかけ、それで俺たちに味方せざるを得なくなり、しかし結局自分の居場所を失いかけているわけだ。責任を感じる。


「姐さんは悪くないですよ!」

「そうです。姐さんの魅力がわからない王様が変なんです!」

「王様、実は勃たないんじゃないですかね!?」


 オウランの取り巻きが一生懸命フォローしている。

 そして俺は散々な言われよう。


「私も、別に国王陛下のお味方をするつもりなどございませんでしたわ」

「あんたはあちきを助けてくれたんだよね?」

「別にあなたを助けるつもりもありませんでしたわよ。単に、私は気に入らなかっただけです。後宮廃止の責任をあなた一人に押し付けて、自分たちだけはこれからも甘い汁を吸い続けようとするあの方たちが。だから結果的にたまたま、あなたを助けるような形になってしまっただけですわ」

「はいはい。ありがとうございました」

「別にお礼を言われるようなことはしておりませんわ。…結局は同じような結果になってしまいましたし」


 オウランは俺のせいで、ベルサはオウランを助けるために、それぞれ俺たちの味方をしてくれた。そして二人共自分たちの居場所を失おうとしている。

 やはり、何とかしてあげたい。


「兄様、とりあえず二人に要望を聞いてみたら?何かして欲しいことはないのかとか」


 カルサも二人に何かしてあげたくなったのだろう。

 俺の裾を引っ張って主張してくる。

 俺も同じ気持ちだよ。


「二人の状況と貢献については理解した。だから俺は君たちに提案したい。何か俺に望みはないのか、と。俺にできることならなんでもしようじゃないか」


 俺の言葉に二人はギョッとする。

 というかカルサ、パトリ、ミサゴも驚いた顔をしている。

 …いったいどうしたんだろう。

 なお、アルカは道中はぐれてしまった。


「王様、なんでもって本当かい?」


 オウランが真剣な眼差しで念押ししてくる。

 すごい疑ってるようだが、俺の答えは変わらない。


「ああ、俺にできることならって条件付きだが、なんでもだ」


 俺の返答に息を呑む二人。

 そしてほぼ同時に回答してきた。


「あちきは、自分たちの街が欲しい!あちきらみたいな女たちでも自由に暮らせ、自分たちで生活できるような街が!」

「私は、私達の城を所望いたします!行き場のなくなった私達が安心して暮らせるような、そんなお城が欲しいのです!」

「わかった。街と城をあげよう」


 はーよかった。俺の命よこせとか偽王派についた貴族たち復帰させろとか言われたらどうしようかと思ったよ。

 もので解決できるのならそんな簡単なことはない。

 偽王側の領主達の城や街をたんまり没収したからどれかをあげよう。

 俺の回答に二人共喜んでくれているのか、言葉も出ないようだ。

 しかし街や城と言われても、もっと具体性がないと困るな。

 もう少し詳しい話を聞いてみよう。

 街より城が小さいから、まずは城だな。


「ベルサ、どんな城が欲しいんだ?」

「へ?い、いえ、私達が安心して住めるのなら、あとは別に…」


 欲のないやつだ。なら城はどこでもいいと。


「じゃあ城の細かい話はあとで考えよう。オウラン、お前は具体的にどんな街がいいんだ?」

「あ、あちきは、あちきはね、あちきらみたいな体を売るしかできない女たちでも安心して暮らせるような街が欲しいんだ。みんないつもビクビクしてる。自分たちがいつ捕まっちまうっじゃないかってね」


 そうか。うちの国で売春は違法なのか。

 内情はこんなにただれてるのに。


「わかった。じゃあお前の街では売春は合法にしよう」

「陛下!?」

「パトリ。彼女たちは俺達の恩人だ。恩には恩で返す。それは当然のことだ」

「は、はい。しかし売春を合法化とは…」

「じゃあ、実際に国内でそういったことは行われていないと断言できるか?」

「い、いえ。そのようなことは…」

「むしろ、やくざ者の資金源になってるんじゃないか?」

「現実は、その通りにございます…」

「じゃあちょうどいい。法律を現実に合わせようじゃないか。もちろんどこでも合法化したら風紀の乱れが甚だしいので、まずはオウランの街でだけ合法化だ。ここではやくざ者になんか手出しさせない。ケツ持ちは国がやるんだ。できるか?」

「は、はい。もちろんでございます」

「さすがパトリだ。じゃあ、それでいこう」


「これが、前例に縛られないということ…」とパトリが呟いている。

 何の話かは知らないが、前例守るだけっていうのはよくないよね。


「オウラン、それでいいな?」

「え?は、はい。あちきは自分たちが堂々と仕事できる街に住めるのならそれで充分だよ」


 あれ?認識に齟齬がある?


「オウラン、お前の街だからお前がそこを統治するんだぞ?」

「へ!!??あ、あちきが統治!?」

「もちろんだ。お前は自分の街が欲しいって言ったんだから、そこはお前が統治する街なんだぞ」


 ここにきて初めて狼狽するオウラン。

 ちょっと新鮮でかわいいな。


「で、でも、王様!あたい統治なんてしたことないよ!?」

「大丈夫。何とかなる。きっと周りのみんなが助けてくれる」


 俺も統治なんてしたことないのに王様やってるからね。

 自信持って言えるよ。


「あ、姐さん!あたいらもお手伝いしますよ!」

「そうですよ!たぶん大丈夫ですよ!」

「だ、ダメだったらみんなで逃げましょう!」


 取り巻きがまた一生懸命フォローしている。こういう仲間がいればきっと大丈夫さ。たぶん。


「しょうがない人たちですわね…。私が手伝ってあげますわ」

「べ、ベルサ?あちきらを助けてくれるのかい?」

「別に、あなたを助けるんじゃありません。そんなあなた達に統治される街や住民がかわいそうなので、私が手伝ってあげるだけですわ。陛下、よろしいでしょうか?」


 おお、なんと美しき助け合いの精神。


「もちろんだとも。何も問題はない。でもそうすると街つきの城が必要になるわけか」


 街は一から作ってもいいかと思ってたけど、城付きとなると探さないといけないな。


「いえ、もうお城はいりません」


 と思ったら城はいらないらしい。


「私は安心して暮らせる場所が欲しかっただけですので、そこが城だろうと街だろうと変わりはありません。彼女たちの街で、みんなと一緒に暮らします。でも城に住みたいという娘がいれば、その娘たちは住まわせていただけますでしょうか?」

「もちろんだとも」


 この子は世話焼き屋さんなんだな。

 優しいね。


「ベルサ、大きくなったな。身体はもちろん人としても。妾は嬉しいぞ」

「お姉さま!?ミサゴお姉さまですね!ああ、お懐かしゅうございます!!」


 突然ミサゴが発言したと思ったら、二人は知り合いだったらしく抱擁しだした。


「お前のことが心配でな。リクについてきたのだ。だが、無用だったようだ」

「お姉さま!心配して頂きとても光栄ですわ!そしてお姉さまがお元気そうで、私とても嬉しいです!」

「無論だ。妾はいつでも元気であるぞ。父上にも褒められたからな!」


 はっはっはとミサゴはいつものように豪快に笑い、さすがですとベルサが褒めたたえている。

 なお、俺の後ろでもう一人褒めてるやつもいる。


「ベルサ、リクは妾が認めた男。頼りになる男だ。あやつを信じ、あやつについて行け。そうすれば必ず道は開ける」

「お姉さまがそうおっしゃるのなら私、国王陛下を信じます。ついて参ります」

「それでいい。そなたは必ずや幸せになるだろう」


 ミサゴが男前な表情と口調でベルサを魅了している。

 こいつ美人だしかっこいいしで本当にすごいな。

 本来は百合百合んな光景のはずなのに、全然そう感じない。

 しかしベルサ、俺と向き合ってるときとは表情違いすぎだろう。


 なおオウランはオウランで気を取り直し、新しい生活に向けて皆と気合を入れている。


「みんな、あちきらのやることは変わりないさ。体を売って、お金をもらって、生活する。昔はいつ捕まるかとビクビクしてたけど、もうそんな心配は必要ない。それだけでも充分じゃないか」


 お、また誤解があるようだ。


「それは違うぞオウラン」

「王様?何が違うんだい?」

「お前たちは体を売るんじゃない。お前たちに男たちが金を払いに来るんだ。立場はお前たちが上なんだから、それをちゃんと肝に銘じておくんだぞ」

「あちきらが、上…?」

「そう。お前たちの仕事はすごい儲かる仕事なんだ。今まで二束三文で商売してたのならそれが間違ってる。これからは適正な価格で適正に商売し、たんまり儲けてたんまり税金払ってもらうんだからな」

「陛下!そうゆうことですね!」


 パトリの目が現金マークになってる。

 オウランはよくわからない風だ。


「そこらへんはベルサも交えて、よく話し合ってくれ。お前たちの街はこれから都中どころか国中、果ては他の国からも人々が訪れる大人気スポットになるさ。楽しみにしてるといい」


「スポットって場所の意味ね」とちゃんと付け加えておいた。

 

 ではそろそろ〆のセリフと行こうか。


「では以上で方針は決まった。パトリ、あとは任せる!」

「はっ!お任せください!」


 後宮問題、これにて一件落着である。



---



 はぐれたアルカは後宮内で病気になっていた女性たちを治癒魔法で治していたらしい。

 まるで女神のように崇められながら一緒に後宮を後にする。


「リクさん、皆さんに新しい居場所を提供してあげたんですね」

「まあ、みんなが望んでるようだからね」

「私はそういう仕事あまりいいこととは思いませんが、そうじゃない人もたくさんいるみたいです。だからそういった人たちのことも考えられるリクさん、やっぱりすごいと思います」


「リクさんが王様になってやっぱり良かったですね」と微笑んでくれた。


 これに対し、カルサは呆れ顔だ。

 売春合法化についてかと思ったら、そうでもないらしい。


「まあ、それについては別にいいの。禁止にしたってどうせ男ってのはそういうことするんだから、むしろ税収上がっていいことだと思う」


 さすがカルサさん。物事を冷静に判断する。


「私が呆れてるのは兄様の”なんでもしよう”って発言のこと。兄様は王様なんだからね?なんでもできちゃう存在なのよ?」

「でもまあ、実際できることを言ってくれたしいいんじゃないか?」

「普通は街なんてあげないの!城もあげたりしないの!なんて断るのかと思ったらあっさり了承しちゃって、びっくりしたんだから」

「いや、没収した領地とかたくさんあるからいいかなって」

「子供のおもちゃじゃないんだから、普通はそんな簡単にあげたりできないものなのよ。今回はパトリが張り切ってるからなんとかしてくれるだろうけど、今後は気をつけてね。約束よ?」

「はい。わかりました」


 兄様は素直でいい子ね、と褒められた。

 嬉しいんだが、なんだか立場がおかしい気がする。

なんとかお約束どおり、土日中に更新できました。

更新のない日も読んでくださる方がおり、評価・ブックマーク共に増えてとても嬉しいです。

次回はまた週中に更新できるようがんばります。

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