37話 任命式(前半)
国のトップ層の人事が決まり、国名も決まった。
しかし両方とも内々に決めたことであり、正式なお触れは出していない。
周知についてはボードに任せてるし、なんとかしてくれるだろうと思っていた。そして実際にボードは準備をしてくれていた。ただし俺の予想とは違う形で。俺の期待と正反対の方向で。
「というわけで、任命式を開催いたします」
どういうわけ!?
「もちろん皆自分の役職に自覚をもち、すでに日々の職務に励んでおります。しかし、やはりお館様のお口から言っていただくのと言っていただかないのでは大きく違います。
どうか任命式でお館様御自ら皆にお授けください。お館様の勇姿をその目に焼き付けることで、皆より一層励むことができるでしょう!」
ボードにしては珍しく熱が入っているな。忙しすぎてハイになってるんじゃないだろうか。
第一、俺の姿なんて見てもみんな何も思わないと思いますよ。逆にがっかりされないか、それがとても心配です。
しかしまあ、すでに決まってしまったのなら仕方がない。
流れのままおとなしく参加することにしよう。
「ボード、ご苦労であった
俺も皆の顔を直接見られる機会ができて嬉しい。任命式、期待しているぞ」
「はっ!お任せください!」
喜色満面という感じで返事をしてくる。
ボードが喜んでるならいいか。気分転換になってればいいのだが。
これが朝の話である。
そして任命式はこの日の昼前には始まった。
これからは「全て任せる」の使い方を少し考えたほうがいいのかもしれない。
宮殿の謁見場にはすでに俺以外の集合は完了している。
俺が直接任命した五天将に左右大臣、そして彼らが任命したその下の人々。
さらには領主を始めとする貴族たちに大商人など平民の有力者。
皆着飾り、彼らの国王の出番を今か今かと待っている。
そんな彼らを隙間からこっそり見つめる俺。
「カルサカルサ、人がいっぱいいるよ。広場から溢れそうだよ」
「そりゃうちの国初の正式な式典なんだから、皆こぞって来るわよ。この広間に入れたってのはこの国で最も偉い人々の一員って証明なんだから
広間の外にもかなりの人数がいるわよ
そして都の広場では国民が集まってるし」
「なんで!?今日広場での催しなんて聞いてないよ!?」
「みんな兄様に期待しているの。そしてそれを皆で分かち合いたいの。下手すりゃ都以外でもみんな集会場や広場に集まって”今日は国王陛下のありがたいお言葉があるらしい”とか噂しあって期待しあってるわよ」
「マジか…」
「マジもマジ。大マジよ
だから早くみんなの前に出てあげましょうよ。みんな兄様のことを待ってるのよ
ほら、あそこにいるのは都に駐在してる他国の外交官たち。あの人達も兄様のお披露目式を楽しみにしているんだから
きっと終わったらすぐに本国に連絡するんでしょうね
新王がどんな人物かって」
「外国人もいるのか…。失敗したら世界的な恥じゃないか…」
「いや、いなくても国内的にすごい恥だから気をつけてよね兄様
さあ、そろそろ行きましょ」
俺はカルサに押し出されるように広間に出ていった。
万雷の拍手で迎えられる。
あんなに叩いて手が痛くならないかと心配になるぐらい、みんな必死に手を叩いている。
ちょっと驚いたが、外には出さず威厳のあるふりをして玉座に座った。やっぱ座るとちょっと安心するね。
俺が手を振りかざすと一斉に拍手が止む。
さあ、式典開始だ。
「まずはここに集まってくれた皆に礼を言おう」
式典の内容はボードに教えてもらってるけど、”お館様のお言葉を私ごときが考えるなど恐れ多く”と俺の言葉はほとんど決まってない。
だからまあ、適当にがんばろう。
俺らしく、まずはお礼。そしてお返しだ。
「その返礼として、我が言葉を耳に入れる栄光を与えよう
我が忠勇なる臣下たちの勇姿を目に焼き付ける栄誉を授けよう
これらを一生の誉れとすることを、皆に許そう」
ちょっと偉そうな気もするが、加減がわからない。
次は名乗りだ。
「我が名はリク・ルゥルゥ
イヅル国を引き継ぎ、さらなる栄光へと導くもの。このルゥルゥ国が王、リク・ルゥルゥである」
また拍手喝采である。この拍手の中言葉を続ける。
「我こそは偉大なる治癒魔法使いルゥルゥの唯一たる後継者!
伝説を受け継ぎ、新たなる伝説を生み出す者!
我は約束しよう!諸君らに黄金時代がもたらされんことを!!」
とりあえる開会の挨拶はこのへんかな。
みんなまだ拍手をしてる。ボードとかすげえ感激した顔してるし、とりあえず問題なさそうでよかった。
でもそろそろ司会にちゃんと仕事してもらわないとね。
「さて、皆に我が両腕を紹介しよう
ジェンガ元帥とボード宰相だ。彼らには格別の期待をしている」
ジェンガとボードが前に出てきて挨拶する。
そしてそのまま二人が場を仕切り始めた。はー、疲れた。
ジェンガが五天将について話を始めた。
ではそろそろ俺が五天将の一人ひとりに声をかけねばならないわけね。
まずはナーラン。緊張しながら俺の前に出てくる。
「ナーラン。ギーマン砦攻略戦を始めとし、お前の力は我らに大いに役立ってくれた
これからもその突破力、期待している」
「はっ!我が身命をとしてでも陛下のご期待にお答えいたします!」
相変わらずのいい返事だ。肩をぽんぽん叩いたらさらに感激してくれた。
今日は男泣きはせず、ひたすら感動しているようだ。
次はカルバナ。一応顔だけは知ってるな。何してた人かは記憶にない。
「カルバナ。ジェンガの副官としての役目、まことに大儀であった
やつは我が片腕。これからも支えてやってくれ」
「はっ!陛下、そして元帥にお役に立てることこそ我が至上の喜びにございます!」
そんなことよりもっと楽しいことあると思うんだけど…。
でもまあ、そう言われるとなんだかんだで嬉しい。彼にも肩ぽんしたら感激してくれた。
次はえーと、ズダイスだ。偽王に捕まって半死半生になってた人。
完全に初めて会うが、おじいちゃんだった。
「ズダイス。国に忠節を誓い、偽王の下で耐え忍んだその姿勢、全兵卒の見本となるものである
これからはその忠義、我が為に使ってくれると期待しているぞ」
「恐悦至極に存じます。陛下、そしてアルカ様は我が命の恩人
老い先短い身ではございますが、我が命尽きるその日まで我が忠節は陛下とともに」
人生の半分以上を国に捧げてきた人の言葉だ。重い。
どうやればいいかはわからないが、彼らの期待に答えられるようがんばろう。
さあ、最後はイスターだ。死に急いでた人。
手紙を送ったときにどんな人かは情報を得ていたが、一点抜けていたことがあったようだ。
「陛下、陛下こそ我が希望の光。陛下こそ私の道標
どうかこの命、陛下のために使い捨てる喜びを私にお授けください」
俺が語りかける前に話をしだした彼女こそ、イスターその人である。
影のある美人だ。泣きぼくろがいい感じ。
「イスター。お前の活躍に派手さはなかった。しかし、お前がいなければ我らの作戦は大いに遅れを取っていただろう
その功、大である。そしてこれからも我が為にその力を使い続けろ
命を使い捨てるなど、この私が許さぬ」
死に急ぐのはいけませんという気持ちで言ったのだが、その反応は予想外であった。
涙をはらはらと流しながら俺の前で平伏したのだ。
「私は父と母、弟や妹たちを全て偽王めに殺されました。その後を追うことだけを考えていた私に、生きる希望を与えてくれたのは陛下でございます。このお手紙をいただき、偽王が滅ぶその日までは生き続けることを誓いました」
懐から俺の手紙を取り出す。
いったい何回読み直したのか、ボロボロだ。しかし一生懸命繕われている。
「その偽王が陛下により誅殺された今、また私は生きる理由を失いました。そして、この命を陛下のために捨てることこそ恩返しと考えたのです。
しかし!しかし陛下!あなたは私にまたも生きろとおっしゃってくださるのですね!?」
美人は泣いてても絵になるな。ナーランと同じタイプか。
「我が命、そしてこの身体は髪の毛一本にいたるまで全て陛下のものにございます
陛下が生きろとおっしゃってくだされば生きましょう
もちろん死ねとおっしゃれば喜んで死にましょう
どうか我が忠義、我が忠節、お受け取りください」
重さは圧倒的にイスターの勝ちだな。
でもまあ、俺の手紙や言葉でこんなに感謝してくれてるんだ。式典だからあまり砕けた感じはできないけど、精一杯お返しをしよう。
俺はイスターの手を取って立ち上がらせ、あまり触れないように気をつけつつハグした。
「イスター、お前の忠義、お前の忠節、確かに受け取った
お前の今後の活躍にも期待している。我らが栄光にたどり着くその日まで、私のそばにいることを許す」
ハグをといて肩をぽんぽんする。
ミサゴと同じで、美人はやっぱいい匂いするね。すごい。
より一層感激してくれたようで、涙は止まってないが晴れがましい感じなってくれた。
殺された家族の分もちゃんと生きるんだよ。
「イスター・ロブズ。ロブズ地方領主ロブズ家の当代当主
ロブズ地方は国一の穀倉地帯で、そこに目をつけた偽王により家族を誅殺された。彼女はミサゴの下にいたため難を逃れ、ロブズ家唯一の生き残りになった、と
用兵の手腕は天才的。本人は死に急ぐ傾向があるけど、部下の被害は常に最小限
兄様に嫁げば、用兵の才なんて全くない兄様の補佐ができるわけね…。しかも外戚の心配は一切なし。正室、または側室候補として考えておきましょう」
なんかカルサが俺の後ろでぶつぶつ言っている。
「兄様の結婚相手はあたしがちゃんと吟味するから安心するのよ。変なのに捕まったらたいへんだし、あたしがふさわしい相手を選んであげるからね」
…おかしい。なんで王様が妹に自分の結婚相手を選ばれているんだろう。そういうのって、普通逆じゃね?
「兄様があたしの結婚相手選ぶなんて、百年早いわよ」
ごもっとも
後半部分まで書くと今日明日には投稿できないかもと思ったので、前半のみですが更新です。
あとタイトルの副題をちょっと変えてみました。わかりやすく内容を表せないか検討中です。




