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36話 国名と名字

 王様になって三日目。

 国造りというか国家再建は着々と進んでいる。


 元帥ジェンガと宰相ボードの下で大規模な組織再編が始まっているようだ。

 武官と文官のトップ。その二人が車の両輪となってどんどん物事を進めてくれている。むしろ俺が寝ている間もみんな仕事してくれているようで、実に頭が下がる思いだ。


 俺の気持ちを伝えようとお役所の現場に行ってお礼を言いに行ったらものすごい恐縮されてしまった。

 立場が上になりすぎると、こういうことを気軽にしてはいけないんだな。気をつけよう。


 これらと並行して偽王側についた貴族や官僚の処罰も行われている。やつらの財産は没収され、それはかなりの額になっているようだ。不正蓄財だから大半は国庫に返される。そして罪もないのに奪われた人たちにも返却される。

 とてもいいことだ。


 そんな中、俺はふと気づいてしまった。


「うちの国って、なんて国名なんだろう?」





「兄様って本当に基本的なこと知らないわよね」


 すみません


「別の世界から来たんだから仕方ないけど、もう少し疑問を持ちながら生活したほうがいいんじゃない?」


 おっしゃる通りでございます


「まず前提として、お偉い人たちにだけ名字があるっていうのは気づいてた?」


 それはまあ、なんとなく…。領主だけ名字があって、領地の名前と名字が一致してるよね

 シスコ領主、ナーラン・シスコみたいな感じ


「気づいてたみたいね。それが国の場合も当てはまるってわけ」


 つまりミサゴとハイロの名字がこの国の名前ってわけか!


「じゃあ兄様、ミサゴとハイロの名字は知ってる?」


 知りません!




「妾の姓が知りたい?イヅルであるぞ。妾はミサゴ・イヅルである」


 ここは近衛大将となったミサゴの執務室。近衛を管轄する近衛府という組織が結成され、宮殿の一角がその近衛府のお役所となった。

 ジェンガが選抜したのであろう、近衛府所属となった人々が忙しそうに働いている。

 その中にはトトカの姿もあった。トトカは俺の直属部隊の一員になったわけか。これからもきっと俺を影から支えてくれるのだろう。頼りにさせてもらおう。


 そしてその近衛府を統括する近衛大将ミサゴは、自らの執務室でお茶を片手に多くの資料に囲まれている。一応ハイロが秘書的な役割を担っているようだ。


「そなたのことだ。おおかた自分の国の国名を知らなかったという話であろう?

 自らが滅ぼそうとする国の名前すら知らずに反乱を起こしたとは、まことに器が違うのう」


 穴だらけの器なもので


「実際、知らずとも成し遂げてしまったのだ。そのような些事などそなたにとってはどうでも良かったのであろ

 しかしまあ、さすがに自らが王となったのに国名を知らぬのはまずいかと思ったか。それでもまず国の根幹を決め、物事が軌道に乗ってから確認しに来たというのはまこと立派である。

 やはりそなたは優先順位というものがわかっておるな」


 気づいていなかっただけです


「そろそろ皆も気づく時期であろうし、ちょうど良いであろうな。おそらくまだ我が国の名前はイヅルとして新しい資料にも記載されているであろうよ」


「それって、まずくないの?」


「些事であるよ。王朝が変わったことなど我が国の歴史上初のことである。誰も知らぬから誰も気付かぬ

 ただ手間だけはかかるであろうから、いの一番に決めては国名変更という無駄な作業に時間を取られたであろうな

 しかし所詮国内向けのこと。そのようなもの後からどうとでも訂正できる」


「じゃあこれから国外の皆さんがいらっしゃったら問題になる、ということですね」


「いかにもである。だから国内のことが軌道に乗った今になってこの話題を持ち出したのであろう?リクよ」


 …気づいていなかっただけなんです。



 今日はアルカも一緒だ。昨日で治癒魔法が必要な人の治療は終わったらしく、今日は俺の仕事の見学をするらしい。

 一見すると俺がお供に美少女二人を連れて歩き回ってるだけだが、その実は国王と五天将筆頭による巡回である。我が国の最高権力と最高武力による視察。裏設定を知ってる俺とジェンガは少しテンション上がってしまった。


 なお、ジェンガと話し合って五天将の残り四人は同列だがアルカは五天将筆頭ということにした。

 五天将筆頭にして最強、しかしてその正体は謎のベールに包まれている。いいね!


「でも今まではミサゴさんのおうちの名字が国名だったわけですけど、これからはリクさんの名字が国名になるわけですよね?」


「難しい問題であるな。一般的な領主は自らの治める土地の名前を姓としておる

 しかし王となると自ら姓を作り出し、その姓を自らが治める国につける

 妾の一族はそうであったし、他国の多くもこれにあてはまる」


 反乱を起こして王になった者は、反乱中に姓を名乗ってそのままそれを国名にしてしまうそうだ。


「ルゥルゥ老から聞いた話では、そなたは姓を持っているのではなかったか?

 なんという姓かまでは聞いておらなんだが、それが国名になると考えておったぞ」


 確かに俺には姓がある。姓というか名字。違いはよくわからん。

 元の世界ではいつも名字で呼ばれてた。

 安藤、と。


 安藤陸。それが俺の本名だ。



「兄様、名字あったの?だったらそれが国名で決まりじゃない」

「リクさんは立派なお生まれだったんですね。もしかしたらどこかの王子様だったりするんでしょうか?」

「妾の知る限りそれはないが、リクほどの男だ。姓を持っていたとしても何の疑問もあるまい」


 順当ならこの国の国名は「アンドー」となるわけだ。

 しかし、何か違う気がする。

 俺は確かにこの国の王になった。でもだからといって、俺の名字を国名にするのは話が違うと思うんだ。


 だってこの国の名前を俺の名字にしてしまったら、それはまるで、俺がこの国を私物化してるように思えてしまうから。

 みんなが望んでくれた俺の即位を、俺が汚してしまう気がするから。

 だから俺は、それを受け入れることができなかった。


 別に「ここに異世界転移者がいます!」と喧伝するつもりもないんだ。

 俺はみんなが幸せになるために、とりあえず王冠をかぶってるだけなんだから。




「いや、俺の名字は使わない」


 珍しく俺がはっきり自分の意見を言ったせいだろうか。

 俺の端的な回答に、みんなは何も言わずに納得してくれた。


「アルカ、カルサ、俺達の村の名前って何ていうんだ?」


 どうせならあの始まりの村の名前を借りようか。


「名前なんてないわよ?」


 と思ったら衝撃の回答が。


「え。名前ないなんてことあるの?」


「そりゃあるわよ兄様。あのへんの村なんて災害起きて村ごと消えちゃうなんてよくあることだし、逆に開墾して新しい村が起きることもよくあるし、いちいち名前なんてつけてらんないの」


 知らなかった。そんな激動の地域だったのか。


「あたしが生まれてからも二つ新しい村できてるわよ

 そしてだいたい村長の名前で呼ばれるの。だからうちの村は”ルゥルゥの村”って呼ばれてたわけ」


 なるほど。


「そういえば村長の名前、ルゥルゥってけっこう一般的なの?」


「あたしはおばあちゃん以外でその名前聞いたことないかな

 第一おばあちゃんって本名は別に持ってたけど旅の途中でその名前を使い始めたらしいの。だからけっこう珍しい名前なんじゃない?」


「妾も知らぬな。ルゥルゥ老のことだから深い意味があるのであろうが

 ハイロは何か知っておるか?」


「いえ、私も存じ上げません

 もしかしたら魔法の意味や魔族の言語かもしれませんが、浅学な我が身には知るよしもございません」


 この二人も知らないのなら、そんな一般的じゃないんだろうな。

 じゃあいいだろ。


「それじゃあ俺は今からリク・ルゥルゥと名乗ることにするよ

 だから国名はルゥルゥとなるわけだ

 伝説の治癒魔法使いルゥルゥの意思を継ぐものって呼ばれる俺が治める国として、ふさわしい国名じゃん?」


 四人とも一瞬キョトンとし、四者四様の反応を見せてくれた。


「兄様…。安直ねえ。でもまあ、おばあちゃんの名前を使ってくれてありがとう

 おばあちゃんのことを覚えてる人がいなくなっても、おばあちゃんの名前はこの国が続く限りずっと残るのね」

「私も嬉しいです。ありがとうございます

 おばあちゃんの名前ってあまり意識したことないので違和感ありませんし、響きも可愛らしいですよね」

「リクよ、妾は嬉しいぞ!ついにお前も伝説の後継者たる気構えができたのだな

 二つ名を嫌がってるように素振りを見せておったのに、やはり演技であったか!愛いやつめ!

 今宵、我が臥所に来ることを許す!」

「姉上、今夜もよく眠れますよう温かいお飲み物をご準備いたしますね」


 好意的な反応で一安心だ。

 一歩間違えるとリク○ートと聞こえそうなのがちょっとあれだが、この世界じゃ誰も知らないし俺ももうニートじゃないからへっちゃらだ。



 タイミングよくボードが来たので国名が決まったことを伝えたら、そんな大事なことを失念してたと反省しきりだった。


「申し訳ございませんお館様!

 お館様がご指摘いただく前に、むしろ私が気付くべきでございました

 申し開きのしようもございません…」


 大丈夫。俺も気づいてなかったんだから。


「ボード、お前は本当によくやってくれてるよ

 お前には国名を決めるよりも大事でたいへんな仕事がたくさんあるんだ

 気にせず、これからも頑張ってくれ。俺は今ね、お前を宰相にして良かったと心から思っているんだ」


 本心である。ボードを見てると俺も頑張らねばと思えてくる。

 そして俺の言葉に感激してさらに奮い立ってくれた。なんて頑張り屋さんなんだろう。


「ではこれより我が国の名前はルゥルゥとする!

 周知の時期、方法はボードに一任する!良きに計らえ!」


「はっ!承知いたしました!」



 こうして国名と俺の新しい名前が決まった。

 ルゥルゥって呼ばれても返事できる自信ないが、名字で呼ばれることなんてほぼないから大丈夫だろう。


 村長、あんたはみんなの中で生き続けてるよ。




「ねえ兄様、あたしはカルサ・ルゥルゥになるの?」


「まあ、確かにそうなるよな」


「はー、名字持つなんてあたしも出世したわねえ

 しかも国名と同じ名字!びっくりよ」


「すごいわね、カルサ」


「何他人事みたいに言ってるの?お姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんなんだからアルカ・ルゥルゥになるのよ」


「えええ!?あたしは名字なんていらないわよ?

 やめてよカルサ!」


「ダメよ。あたしたちは姉妹なんだから、あたしに名字ついたんならお姉ちゃんも名字つけるの

 そうでしょ?兄様」


「リクさん、私は別に名字つけなくてもいいですよね!?」


 美少女二人に迫られる俺。

 こんなふうに迫られても嬉しくない。


 アルカはお姉ちゃんなんだからと、どうにかカルサの意見で納得してもらった。

 五天将筆頭がちょっぴり不機嫌。恐ろしい。

ようやくリクのこの世界でのフルネームと国名をご紹介できました。

深夜に時間がとれたので、二日連続の更新ができました。

書きたいエピソードは高いんあるのですが、時間がとれず更新不定期で申し訳ありません。

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