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35話 ミサゴの役目

 ミサゴとハイロ


 二人はただの姉弟ではない。

 何せハイロは俺の前の王様で、ミサゴはその前の王様だ。

 偽王は無視。


 俺が王になったことで二人は王族ではなくなった。

 しかし国民に人気のあるこの二人を粗末に扱うなどできはしない。

 俺だってそんなの許さない。


 だからこそジェンガもボードも悩んでいるのだろう。

 二人の処遇に。




「お館様、申し訳ございません

 ミサゴ様とハイロ様については我々も決めかねておりまして…」


 ほらね。

 俺だって少しはこういうことの難しさが理解できるようになったのだ。

 しかし俺が悩む程度の案件、ボードならさくさく答えを出しそうだけどな。解せぬ。


「お二人のお立場を考えると、私は恐れながら、ミサゴ様こそ元帥や宰相におなりになり、我々がその下に着くという形になると予想しておりました」


「妾に名誉職を与える、というわけだな」


「はっ。誠に恐れながら」


「かまわぬ。それが普通の考えであろ

 だがボードよ、妾たちの主が誰かを忘れたか?」


「とんでもございません

 我らが主君と仰ぐはただお一人

 尋常ならざる御方、奇跡を生み出される御方、民に敬愛され民に寄り添う慈悲深き御方、この世に比類なき偉大な御方にございます」


「いかにもである!

 かような大人物が、我ら只人と同じ考えに至るはずはなかろう

 まあ、だからこそ来たのであろ?

 我らには百年かかってもたどり着かぬ、その考えを聞きに」


「仰せの通りにございます

 お館様、愚鈍なる我らにご教示願います

 お館様のお考えを。お館様の意図を」


 俺とは別のすごい人の話をしてたはずなのに、俺に話が振られてしまった。


 しかしまずい。

 まさか俺がジェンガとボードを元帥や宰相にしたせいでミサゴ達につける役職がなくなってたなんて。

 只人すぎる俺にはそんなことも思い浮かばなかったぞ。


 期待に満ちた視線が痛い。

 とりあえず適当に話してみよう。

 きっと誰かが何かを拾ってくれる。


「あー、まあ、俺の直属とかどうかと思ってな」


「直属、ですか…?」


 ボードが怪訝そうな顔してる。

 キーワードが少なすぎただろうか。


「親衛隊ということでしょうか?」


「親衛隊となるとリク様の警護だけが任務になるだろう

 直属というからにはそれとは異なると考えるべきだ


「しかしジェンガ、それではまるで近衛ではないか」


「確かにそうなってしまうな

 しかしそれが違うとなると、いったい…」


 いやいや、近衛っていいアイディアじゃないかな。

 近衛兵とか近衛大将とか、いい感じだよ。


「いや、その近衛だ

 ミサゴを近衛大将とする」



「ほう…。さすがはリク

 前例にとらわれる気など毛頭ないということか」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはミサゴだった。

 そしてジェンガとボードも衝撃を受けた顔をしている。


 前例を知らないんです。

 許してください。


「近衛大将?

 お館様、真でございますか!?」


「落ち着けボード

 リク様は俺たち程度の常識に収まる方ではない」


「いや、それはそうだが…

 お前は驚かないのか?近衛大将だぞ?」


「お前こそ何を驚く

 リク様だぞ?俺たちには思いつかないようなお考えがあるに決まっている

 そうでしょうリク様?」


 話を振られてしまった。

 どうしよう。


 俺は慌てず騒がずカルサにチラチラ目線を送った。

 ハイロのお茶がおいしいのはわかる。

 でも堪能してないでこちらに気づいてくれ!


「ふう…

 兄様ー、近衛大将ってなんなのかしらー?」


 ものすごい棒読み。そして俺に聞いてくるというキラーパス。


 しかしカルサ、俺にはわかってるよ。

 あえて俺に聞いてきたということを。


 話の流れとして、今はジェンガが俺に質問している。

 そこにカルサがジェンガに質問しても、「さあ、答えてあげてください」と言われるだろう。

 しかしあえてカルサも俺に聞いてくることで、俺にチャンスをつくってくれたのだ。

 こう言うチャンスを


「ふっ、カルサは近衛大将について知らなかったか

 ミサゴ、教えてあげてくれないか?」


 華麗なるスルーパス!

 これで俺はこの質問から解放された!


「任せるが良い

 カルサよ、近衛大将について知らなんでも恥じることはないぞ

 むしろ知っておるそなたの兄が規格外なのだ」


 兄妹の連携プレー大成功。

 そしてごめんなさい。俺も知らないです。


「近衛大将とはこの国の最も古い称号の一つである

 最初は王の身辺警護隊の隊長という名誉職であった

 しかしそれは王の最も側にいる者。すなわち側近中の側近ということである

 次第にその地位は上がっていき、いつしか近衛大将とは武官の最高位となっていた」


「元帥が一番偉いんじゃなかったの?」


 カルサの素直な質問。

 俺も同じこと思った。


「そのとおりだよカルサ

 この話はまさにそこにつながるんだ」


「そう、近衛大将は力を持ちすぎたのだ

 武官の最高位で王の側近中の側近、それはもはや臣下の域を超えかかっている

 いつしか邪な考えを持つ者が近衛大将になったとき、止められる者はいない」


「だから武官の最高位は元帥、王の身辺警護は親衛隊とに役職が分かれたんだよ

 さらに元帥はそもそも任命されることが稀な特別職になった。複数の将軍により合議制となれば、必然的に兵権は王へと集中する

 そして親衛隊は純粋に王の警護のみ任務とされ、権力とは切り離されたんだ」


「だが今、リクはその近衛大将を復活させるという

 武官の最高位である近衛大将と軍の総帥である元帥

 これらが同時に存在するという前代未聞の事態を起こそうというわけだ」


 はー。そんなことになっていたのか。


「さあリクよ、教えてくれ

 元帥と近衛大将、その二つを両立させる意味を

 そなたの考える意図を、妾たちに教えてくれ」




 なにもない、とは言えない雰囲気だ。

 そして俺の意図と限定されてしまったため誰かに投げることもできない。


 仕方ない。諦めて自分で答えよう。

 今の俺の本音を正直に伝えるんだ。

 それでがっかりされたら、それが俺の実力なんだから仕方ない。


「ジェンガ、お前は俺の最も古い部下であり最も信頼する男だ」


「…!ありがとうございます!

 光栄です!!」


「それなりに長い付き合いだしな

 気心もしれてるし、お前なら軍の全てを安心して任せられる」


 ジェンガに裏切られるなんて想像もできない。

 それにそんな日がきたら、きっと俺が何か間違ってしまったんだろう。

 そのときはおとなしく討たれてあげないとな。


「そしてミサゴ、俺はお前も信用しているんだ」


「ほう」


「最初に会った時のこと覚えてるか?

 あのときのお前は、俺みたいなどこの馬の骨ともわからないようなやつの意見をちゃんと聞いてくれた

 そして自分の間違いを認めた

 元王様がだぞ?これってすごいことだと思うんだ

 ちゃんと人の話を聞いてそれを尊重する、言うは易く行うは難しってやつだ

 それがちゃんとできるお前を、俺は信用してるんだ」


「あまり褒めるでない。照れるではないか」


「そして俺はお前のその裏表がなく明るい性格が好きだ

 一緒にいて楽しい。だからお前にはこれからも俺の側で活躍してほしい

 そのために近衛大将という地位を用意した

 お前なら、その地位にふさわしいと考えて」


 まあ、用意したというか流れでそうなっただけなのだが。

 直属にしたいと思ったのは本当だしね。


「元帥と近衛大将、両方共が軍の最高位となるのを懸念してるようだが、それは無用の心配ってやつだ

 俺はジェンガはミサゴに敬意を持っていることを知っている

 ジェンガはミサゴの意見を尊重しつつ、かつ自分の考えも主張できる男だ」


「もちろんです!」


「ああ、お前はそういうやつさ

 そしてミサゴ、お前についても俺は知っている

 お前は決してジェンガの言うことをないがしろにしたりはしない

 二人で協力してやっていけるだろ?」


「無論である!」


「ありがとう」


 二人共素直で俺はとても嬉しいよ。


「まあ、実際は軍はジェンガが仕切る

 ミサゴは俺の直属として直属部隊だけを仕切る

 だから二人が争うことなんてありえないが、世間からはどっちが上と混乱をまねく可能性もあるだろう

 だから今ここではっきりさせよう

 軍の指揮権についてはジェンガ、お前に全権を委ねる

 それは揺るぎない」


「はっ!全身全霊を尽くします!」


「期待しているよ

 そしてミサゴ、お前は俺の直属のみに命令権を有し、軍については一切の指揮権を認めない」


「うむ。了解した」


「しかし、お前は特別だ」


「どういうことであるか?」


「お前は俺に対してのみ責任を負う

 逆に言うなら、俺以外の誰にも責任を負わない

 まあ、要は自分の部下を使って好き勝手やれということだ

 そして何かあった時のケツ持ちは俺だ。誰かに迷惑をかけたら一緒に謝ってやるよ」


 きっと「許すが良い!」って謝るから、俺がちゃんと頭を下げよう。


「だから、好きにやれ

 もちろん期待してるぞ」


 ふー、一気に話をして疲れた。

 そして二人も納得してるようでよかった。



 いや、二人は納得していなかった。

 感激していた。


「リク様!俺は今猛烈に感動しております!

 まさか俺を、俺を、そこまで信頼していただいていたなんて!!!」


 なんか手を握られてぶんぶん上下に振られている。

 すごく腕が痛い。具体的に言うと千切れそう。


 そしてその姿を羨ましそうに見つめるボード。

 もちろん君のことも信頼しているよ。

 でもやっぱりニート時代に優しくしてもらった恩は忘れがたいんだ。


「リクよ、そなたはやはり妾の翼だ

 妾を大空へと羽ばたかせてくれる、翼である」


 ジェンガを押しのけてミサゴが俺の目の前に現れた。

 俺の両腕は激痛から解放されたが、視線が痛い。


 だいたいこいつ美人すぎなんですよ。

 アルカやカルサは美少女だけど、ミサゴは普通におっぱいの大きい美人だから困る。

 顔を見つめるとなんか照れちゃうし、目線下げるとおっぱいがあるし、だからといってミサゴから目線外すのもおかしいし、ミサゴの後ろではハイロがすげえ目で睨んでるし、困るんだ。


 しかしそんなことは次の言葉に比べれば全然困っていなかった。




「てっきり妾の役目はそなたの子を孕むことと思っておったぞ

 当分後宮から出られぬと覚悟していたのだ」


「はあ!!??」


 俺も驚いたが、誰かが俺の心の声を代弁してくれた。


「あ、あ、あ、あんた!いったい何言ってんの!?

 正気なの!?」


 我が妹、カルサである。


「当然正気である。そなたこそ何をそんなに驚いておるのだ?」


「驚くに決まってるでしょう!

 何が孕むよ!あんた自分が何言ってるのか理解してんの!?」


「当然理解しておる

 リクが妾を抱き、妾が孕む。ただそれだけのことだ」


「それだけ、じゃないでしょう!

 兄様はあんたの一族みたいな破廉恥なのとは違うの!

 後宮だって解散させるような、とても立派な兄様なの!」


 やはり後宮復活は無理だな


「その件は妾も驚いた

 しかし逆に納得もした。リクは己の価値をわかっている男だ。みだりに種をまかず、厳選した女子(おなご)のみを孕ませるのだろう

 後継者争いなど無益なことこの上ないからな」


「種をまくとか、孕ませるとか、変なこと言うのはやめなさい!

 あんたいったい何考えてんの!?」


「そなたこそいったい何を言っているのだ?

 英雄色を好むと言うであろうに

 ましてやそなたの兄は英雄の中の英雄、英雄王である

 当然人一倍色を好むが必然である」


「兄様はね、そんな普通の英雄じゃないの!

 品行方正でとーーーーーっても立派な兄様なの!

 そんないやらしくて破廉恥な人たちと一緒にしないで!」


 カルサの評価が上がってるのは嬉しいが、これも勘違いだから困る。

 まあ、これは俺が意図して勘違いさせてるから自業自得か。俺だって妹には無理してでもかっこつけたいのだ。


「まあ、そなたの兄への気持ちはわかった

 しかしカルサよ、よく考えてみよ

 リクは王である。すなわち政略結婚ということもありうる

 そのとき、誰を正室にするかで揉めるとは思わぬか?」


「う…。それは確かに…」


「そのとき妾がすでに正室となっていれば、側室もとりやすいであろう?

 結婚話を断ってばかりいては、相手も気分が良いものではない。無用な誤解を生む恐れがあるのだ

 そして妾が世継ぎを産んでおけば、後継者争いも不要である」


「まあ、効率的って点では、そうね…」


 さすがカルサ。

 男女のドロドロな関係は嫌いでも、ドロドロした政治の話になると簡単に納得した。

 物分り良すぎだろう。


「それになカルサよ、リクが妾を娶れば色々と都合が良いのだ」


 そうなの?


「事実として、妾もハイロも自ら退位し、リクは民に望まれて王となった

 しかし口さがない連中は言うであろうよ

 ”あの男は王位を簒奪した”とな

 それに対し、妾を娶っておけば形式上は我が王朝の後継者を名乗ることができる」


「それは確かに好都合ね

 でも逆に王位を簒奪するためにあんたを無理やり手篭めにしたとか言われるんじゃないの?」


「まあ、そういう輩もいるであろうな

 しかし形式というものは重要である。妾を娶れば、とりあえず言い訳はできるであろ?」


 だがな、と続ける。


「リクはそのような妾の考え、吹き飛ばしてくれた

 妾に近衛大将という地位を与え、近衛という翼を与えてくれた

 妾は思う存分好きにさせてもらおう」


 喜んでもらえたようでよかった。


「その妾の姿を見、話を聞いた者たちは理解するであろうよ

 リクは王位を簒奪などしておらぬと

 望まれて王になった男である、とな」


 突然引き寄せられ、そのままミサゴに抱きしめられた。

 すごい柔らかい。


「感謝するぞ、リク

 覚悟はしていたが、望んでいたわけではない

 そなたの与えてくれた翼で、妾はどこまでも羽ばたいてみせようぞ」


 ハグ終了。

 だからハイロ、早くその目を止めてくれ。


「では妾はこれからの準備のため行ってくるぞ!

 近衛についてはジェンガ、人選は任せる!」


「おまかせください!」


「うむ!頼んだ!」


 ミサゴは勢いよく部屋を出ていき、そのまますぐに戻ってきた。


「リクよ、伝え忘れておった

 妾が望んでおらぬは、後宮での飼い殺しである

 妾を抱きたくなったらいつでも来るが良い!」


 そしてまた勢いよく出ていった。



「ハイロ」


「なんでしょうカルサ殿」


「あんた、ちゃんと自分の姉見張ってなさいよ」


「王妹殿下のご命令とはあって従う他ありませんね

 お任せください、カルサ様」


 丁重に頭を下げた後、ハイロはミサゴを追いかけて飛び出していった。

 嵐のような姉弟だな。


「兄様も、さっさと正室迎えたほうが都合良さそうね」


 物分り良すぎでしょう。




 この日、仕事始めの日、夜になってからようやくアルカに会えた。

 治癒の魔法が引く手あまたで大忙しらしい。


「アルカ、お疲れ様」


「リクさんこそ王様のお仕事、お疲れ様です

 あ、陛下って呼んだほうがいいですか?」


「勘弁してくれ…。リクさんでいいよ。呼び捨てでもいいぐらいだ」


「ふふっ。じゃあこれからもリクさんってお呼びしますね」


「助かるよ。あーそれで、事後報告になって申し訳ないんだが…」


 俺はアルカが五天将という存在になったこと、他の四人は公表されてるがアルカだけは非公表であること、そしてこの五天将は我が国で元帥に次ぐ存在であることを簡単に説明した。


 アルカは特に不満も言わず、いつものようにニコニコと話を聞いている。


「えーっと、特にご意見とかは?」


「ありませんよ?」


「勝手に五天将にしちゃって不満とかない?」


「ありませんよ?むしろ頼られて、私嬉しいです

 本当に困った時が来たら、私がみんなを守りますからね!」


 えいえいと山をも砕く拳を突き出してる。


「あ、そうだ」


 やっぱり何か不満が?


「お給金は将軍さんの分だけいただけるんでしょうか?」


 もちろんですとも。

今回も途中で分けて投稿しようかと思いましたが、本日中に書ききれました。

二話でようやく一日経過です。

まだできたばかりの国なので歩みが遅いですが、どうかお付き合いください。

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