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幕間 トトカ視点(30~32話)

明朝、作戦は開始された。

偽王の返事がすぐに来るとリク様は読み切られていたのだろう。

最後の夜に我らを激励してくださったのだ。



選抜者は”木馬”の中に入り、準備を整えた。


木馬とはジャイアントピーンの剥製のことだ。

作戦名のトロイの木馬からとって、皆そう呼んでいる。

木馬という言葉からジャイアントピーンの剥製など連想するはずもない。

当然リク様の真意は我らごとき知るよしもないが、表層的にもこのように意味をもつ。

作戦名一つとってもこうだ。

さすがリク様。


リク様とともに木馬が門の前に立つ。

さあ、歴史的瞬間だ。


「反乱軍が総大将、リクが参った!

 門を開けられよ!!」


門が開く音が聞こえる。

たった一滴の血も流さずに都の門が開く。


歴史上、たった一人で攻め入る都市の門を開かせた人間がいただろうか?

いいや、そんな者はいやしない。

リク様はまた一つ、前人未到を成し遂げられたのだ。


私は伝説の目撃者となる。




リク様に続いて木馬も動き出す。

私の隣には同じ性別ということでミサゴ様とカルサ様、そしてアルカ様がいらっしゃる。

皆お美しく、私のような武骨な者は隣にいるだけで恐縮してしまう。


カルサ様が参加されることは作戦開始まで誰一人として知らなかった。

リク様の肝いりということらしいので、きっと深いお考えがあるのだろう。

私には計り知れないお考えが。


「トトカよ、緊張しているようであるな」


ミサゴ様が私を心配してくださっている。

お優しいミサゴ様。

一見すると豪快であらせられるが、人の機微に非常によくお気づきになる繊細なお方なのだ。


「そう褒めるでない。それよりそなただ

 この作戦の重要性を考えれば緊張して然るべきある

 しかし、今回に限ってはそれは無用というものだ

 何故か、わかるか?」


リク様の作戦だからです!


「そのとおりである!

 リクの作戦である以上、失敗などありえない

 やつこそは神話を生み出すもの、伝説の体現者、歩む道は全て栄光へと通じる奇跡の男なのだ

 我らは今、その伝説の目撃者となるのだ」


ミサゴ様が輝かしい笑顔でリク様のことを語られる。

私も全てにおいて同じ気持ちだ。

ああ、リク様。我らはあなた様にどこまでもついて参ります!


「あんたたち、もう作戦始まってるんだから静かにして」


カルサ様に叱られてしまった。



偽王配下の放った弓矢が我々の行動開始の合図となった。

ジェンガ様、ボード様、ミサゴ様、ハイロ様がリク様を守るように取り囲む。

それに続いて残りの我々も外に出た。

リク様の声が広場に響く。


「俺の名前はリク!」

「お前を倒す男の名だ!!」


リク様の雄々しいお姿。

まさにそれは悪逆非道の敵に立ち向かう勇者に他ならない。


広場の民もリク様のお姿に歓声を挙げている。

それが気に入らない偽王は部下を呼んだ。

その数はおよそ数百。我々だけで立ち向かうには少々骨が折れそうだ。


「一人十殺。やってやろうじぇねえか」


ジェンガ様の心強いお言葉を聞き、私も自らを奮い立たせる。

しかし次の瞬間、なんと偽王の兵たちは次々と倒れ、さらには同士討ちをし始めた。


なんということか!カルサ様の魔法のお力であった。

これがリク様の奥の手。

いったいリク様はどれほど奥の手を持たれているのだろうか。

私には想像すらできはしない。


「カルサ、ずいぶん調子いいじゃねえか

 自信満々だな?」

「あんたは自分の手柄でもないのにずいぶん嬉しそうね?ジェンガ」

「友達が活躍したら、誰だって嬉しいだろ?」

「…友達じゃなくて腐れ縁でしょ

 こんな戦場まで一緒に来てしまう、腐れ縁」

「ははっ!ちげえねえな!」


軽口を叩かれながらもジェンガ様の剣のキレはそのままだ。

我々は事前に計画していたとおり偽王の兵たちを制圧していった。




まもなく決着の時。リク様が偽王と話をされている。

そんな時間をかけてしまっていいのか?

やつに時間を与えてしまっていいのか?


そして恐れていたことは現実になる。

その壁を見た瞬間、私は理解した。

偽王が、”王者の結界”を使用したのだ。


王家に伝わる最強の矛と盾。

矛の名前は斬鉄剣。あらゆるものを切り裂く神殺しの剣。

盾の名前は王者の結界。あらやる危機から主を守る魔法の結界。

伝説でのみ聞いていたそれが今、私達の目の前に立ちふさがったのだ。


王者の結界を破る方法などない。

なぜリク様は偽王に時間を与えてしまわれたのか。

混乱する私の目に映ったのは、さらに衝撃的なものだった。


リク様が、結界を足蹴にしたのだ。


あの神聖なる王者の結界を

私なら恐れて触れることすらできないであろうそれを

リク様は無造作に蹴り飛ばされたのだ。


それを見て私は理解した。

リク様にとってこの結界など何の意味もないということを。

この結界程度でリク様を止めることはできはしないと。


偽王が何かを言っている。

皆も心配で声を上げている。

しかし、何を心配することがあろうか

見よ、あの自信に満ち溢れたリク様の背中を

あの背中についていけば、我らの勝利は揺るぎはしない!


皆にそのことを伝えようとしたら、私の前にミサゴ様が叫ばれた。


「皆安心するがよい!

 リクが手にするは我が国が宝剣、斬鉄剣!

 斬鉄剣こそ王者の結界への唯一の対抗策である!」


さすがミサゴ様!

リク様にとって王者の結界など恐るるに足らないのだ!


ミサゴ様の言葉を合図にしたかのごとく、リク様の手で結界は切り裂かれた。



幼い頃に聞かされた王者の結界の伝説が今終わった。

そして斬鉄剣の伝説に新たな行が追加される。

それらはただ一人の人物の手によるもの。

伝説をつくり出す、その神話の主人公


それがリク様。

偉大なる我らが主。

我が忠誠は永遠にあなたとともに。


リク様の剣が振り下ろされ、また新たな神話が紡がれる。




偽王の死とともに、状況は目まぐるしく変わっていく。


ミサゴ様の復位とその直後の退位。

ミサゴ様からハイロ様への禅譲。

そしてハイロ様の即位と廃位。


皆混乱している。

しかし私にはわかった。

ミサゴ様もハイロ様も、舞台を整えられているのだと。

新たなる王の即位のため、道を作り上げられているのだと。


私は新しい王となられる方を見つめる。

偉大なるリク様。


達観し、ここではない遠いどこかを見つめられている。

王となるのに、全く動じておられない。

もしや王など、この方には通過点でしかないのだろうか。



「さあ諸君!

 新たなる王の名を呼ぼう!

 我らを導く者!我らの偉大なる主の名前を!」


ハイロ様の掛け声。

ミサゴ様を皮切りに、次々とリク様の大合唱が始まる。

そしてその大合唱の中、ミサゴ様を引き連れリク様が壇上へと上がっていく。



「古より続く王朝が今、幕を閉じた」


リク様が口を開くと同時に、都全体が水を打ったように静かになった。

一言一句たりとも聞き逃がせない。

これより数百年、数千年語り継がれる伝説の瞬間の目撃者となるために。


「これは終わりか?

 否!始まりだ!!」


耳が裂けんばかりの大歓声が都全体に響き渡る。

最も古き王朝が終わり、最も新しい王朝が今始まる!


「これより始まるは新たなる時代!

 このリクにより幕開ける、大いなる時代である!

 私は約束しよう!

 諸君らに栄光をもたらすことを!」


いつの間にか隣りにいた父が私を持ち上げ、幼い頃のように肩に載せてくれた。

そして私もまるで幼子のように手を振り上げ、興奮している。


「讃えよ!新たなる時代を!

 黄金の時代の始まりを!!」


偉大なる時代。

リク様の時代。


「我が名はリク!

 諸君らの新たな王である!!」


私達はこれから証人となる。

史上最も偉大な時代を過ごす生き証人に。

トトカ視点での二章後半でした。

リクの主観とはずいぶん異なりますが、これが周りから見たリクとなります。


次は都の一般市民目線の幕間、もしくは三章が始まります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところ面白い。 大変満足です。 [気になる点] 誤字見かけたので報告メール入れときますね。 [一言] いや、カッコ良過ぎやん、リク先生ぃぃぃぃ (^ω^)/ それにしてもギャップが凄…
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