03話 算数ぐらいはできます
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今回は主人公が少しだけ活躍(?)します。
今までのあらすじ
異世界転移したのに何の能力もありませんでした
自分に何も能力がないとわかってからさらに数日が経った。
家にいてもすることかないため、最近は村を散歩してることが多い。
「ゲームもネットも漫画もないもんなあ」
仕事以外引きこもりだった俺だが、家に何もなくては過ごすこともできない。
「一般人は異世界でも一般人か…」
ため息ばかりついている。
そしてそんな俺のため息を聞きつけて、男が現れた。
「なんだいなんだい兄ちゃん!
今日もため息なんかついて、景気が悪いじゃないか!
やる気!元気!ジェンガ!
俺と一緒に元気出そうぜ!」
元気が人型になったらこんな男になるんだろうか。
こいつは村の自警団団長のジェンガ。
俺のなんちゃって細マッチョとは違う引き締まった本当の細マッチョにさわやかな笑顔を持つナイスガイである。
なにせなんの能力もない俺に優しく、村長の家の備蓄だけでは困るだろうからと自分の食糧を分け与えてくれるような男である。
顔もイケメンぎみなのに性格までイケメン。
眩しすぎる。
ただ、若干、かなり、暑苦しいのが欠点だ。
「そんなこと言われてもなあ…
やることなくて村をさまよってるだけでどう元気を出せと?」
「今日みたいな冬の合間の晴れ間を見るとまるで夏のようじゃないか!
お日様との出会いを喜ぼうぜ!」
「めっちゃ雪積もってる
寒い」
「小鳥のさえずり!
まるで歌を歌ってるようじゃないか!」
「あ、鷹に捕まった」
「元気にはしゃぐ子どもたち!
見てるだけで元気が出るねえ!」
「お使いだーって言ってるぞ
はしゃいでるけど、結局仕事させられてるじゃねえか」
「兄ちゃんは後ろ向きの天才だな!
そいつも一つの才能だ!
あーはっはっはっはっは!!」
俺のネガテイブ発言を全て受け止めて笑い飛ばすこの男、やはりただ者じゃねえ。
ってかお使い?
物々交換ばかりで貨幣経済って何?なこの村でお使い?
「もしかして、なんか誰か店でも始めたの?」
「なんだい兄ちゃん、気づいていなかったのかい?
今日は村に行商人の一団が来てるのさ
内職したものを売ったり、冬の備蓄を買ったりと、村中大騒ぎだよ
それなのにのんきにしてる兄ちゃんは大物だねえ!」
バンバンと背中を叩かれながら笑ってる。
正直結構痛い。
しかし行商人か。俺も少し覗いてみよう。
村の中央の広場が人と物で埋め尽くされている。
こんなのは俺が村に来て初めてだ。まだ全然日がたってないけど。
ある人は物を買い、ある人は物を売り、その売ったお金でまた物を買い
そんな活発なやりとりがあちらこちらで見受けられる。
市場が、そこにできていた。
「兄ちゃんは見てるだけで満足なのかい?
うーん、こいつぁうめえ!」
いつの間にか屋台で肉を買ったらしく、うまそうにほおばってる。
なんで俺はこんなお祭りみたいな状況で男と一緒にいるんだろう。
「満足も何も、俺は金を持ってないよ」
厳密には元の世界のお金は持ってるし、服と一緒に村長から返してもらってる。
しかし当然そんなのが使えるはずもない。
実際、周りでやりとりされているお金は見たこともないものばかりだ。
「そういや兄ちゃんは素寒貧だったな!すまんすまん!はっはっは!」
全然謝られてる気がしない。
「大丈夫ですよ。なにか欲しいものがあれば買って差し上げますから」
「お姉ちゃん、こんな虫なんかに何も買ってあげなくてもいいよ
もったいないよ。お金を捨てるようなもんだよ」
この女神と悪魔の声は…。
後ろを振り返るとニコニコといつもどおり笑顔のアルカと、いつもどおり苦虫を噛み潰したようなカルサが並んで立っていた。
村中の人が集まってるんだから、当然この二人もいるか。
しかも居候がいて備蓄も少なくなってるし、補充は必要だな。
俺のせいですごめんなさい。
「アルカ!せっかく行商人さんが来てくれてるありがたい日に、そんなこと言わない!
悪口ばっかり言うと幸せが逃げちゃうよ!
ごめんなさいね。リクさん。
私達もちょうど買い物に来たとこだったんです。よかったら一緒にまわりませんか?」
やった!男二人が一気に華やかに!
カルサはジェンガにはなついており、俺はアルカと話をしていればいいので実に素晴らしい展開だ。
一緒に買食いしたり、買いもしないきれいな服でキャッキャ言ったりと幸せすぎる。
カルサは本が高いとぶちぶち文句を言い、ジェンガはまた肉を食べている。
アルカはきれいな宝石を見て目を輝かせ、その値段を見て肩を落とす。
このときが永遠に続けばいいのに。
何度か会計の様子を見てるが、お釣りが硬貨10枚以上あったりと全然わからない。
どうせ金持ってないしと思っていたが、どうも気になる。
我慢できず聞いてみると、めちゃくたわかりづらい…
まずこの村で流通している貨幣は四種類。小銅貨、中銅貨、大銅貨、銀貨だ。
小銅貨25枚で中銅貨1枚
中銅貨8枚で大銅貨1枚
大銅貨5枚で銀貨1枚
十進法使えよ!と心から思う。
こんなんじゃ数え間違いが多発するんじゃね?と思ったら案の定…
「この毛皮なら中銅貨20枚で買い取るよ。ありがとさん
なにか買う?その木の実の包なら一袋小銅貨24枚だよ。
20も買ってくれる?毎度あり!
じゃあ、お釣りは小銅貨10枚だね。また買っとくれ!」
「いやいやおじさん、釣りは小銅貨20枚だろ」
行商人のおじさんと買い物をしていたアルカがぽかんとした顔で俺を見つめる。
「い、いや、だって、中銅貨20枚って小銅貨500枚じゃん?
そんで小銅貨24枚に20かけたら小銅貨480枚じゃん?
だからその差は、小銅貨20枚じゃん?
それがお釣りじゃん?
お、俺、あってる、じゃん…?」
テンパって語尾が変になってしまった。
「リクさん!」
「虫!」
「兄ちゃん!」
「お客さん!」
「「「「計算できるの!!??」」」」
なんかすごい驚かれた。
何の能力もない俺ですが、算数ぐらいなら余裕ですとも。
辺境の小さな村。
日本の義務教育がここでは運良く大きな力になってくれそうです。
大きな都ではこうはいかなかったでしょう。
成り上がりへの小さな一歩を踏み出した主人公でした。
そしてすみません。
本当は一話で終わらせるつもりが、意外と長引いてしまったので次に続かせていただきます。
行商人の口から、少しだけこの村以外の話題が出てくる予定です。
次話も読んでいただけますよう、よろしくお願いいたします。