32話 新たなる時代
偽王は逝った。
国民の前で、国民の剣で、やつは討たれたのだ。
旗頭を失ったやつの腹心は次々と降伏し、すでに取り押さえられた。
文官たちはボードの指示の下、後処理を始めたようだ。
警備兵など一般の兵士たちは広場に集まった国民と同様に大歓声をあげている。
そしてその歓声が合図だったのかそれとも何か別に連絡をしたのか、反乱軍の本体も都に流れ込んできた。
全ては、終わったのだ。
そして、ここからとても大事な時間が始まる。
俺にとっても正念場だ。
「リクよ、見事であった!
何を悠長に叔父上へ話しかけておるのかと思っていたが、まさか斬鉄剣を持っていようとはな
あの宝剣を持っているのならば、そなたの余裕も納得である」
「その宝剣を刀身を見ただけでおわかりになるとは、さすが姉上」
「鞘や柄は別物になっておったので刀身を見るまでわからなんだぞ
しかしそなたもわかっておらなんだか?」
「お見事でございます姉上!」
この二人に活躍してもらわないといけないのだ。
「さあリク様、勝ちどきを挙げましょう!」
ジェンガが嬉しそうに言ってくる。
ボードはもう忙しそうに仕事をしているが、こいつはやることなさそうだな。
いや、むしろ勝ちどきを挙げるまでがジェンガの仕事なのか。
「みんな待ってますよ、リク様のお言葉を!
偽王の時代が終わり、リク様の時代が始まることを教えてあげてください!」
やはりそう来たか。
しかしそんなの冗談ではない。
ジェンガの後ろではアルカがニコニコと見守ってる。
もう観念しなさいと言っているようだ。
そしてカルサもあわれな目つきで俺を見つめてる。
これが兄様の運命なのよと語りかけてくるようだ。
だが、俺はその運命に反逆する!
「ミサゴ、ハイロ、お前たちの出番だ」
二人が驚いたように俺を見つめる。
「何を言っているのだリクよ、妾たちの出番などない
そなたの言葉を、皆待っているのだ」
「リク殿、姉上のおっしゃる通りかと」
まあ、そう言うだろうと思ったよ。
でもちゃんと俺の側にも理屈はあるのだ。
「いや、違う
この戦いはこの国をあるべき姿に戻す戦いだった
だから偽王を討った今、偽王が現れた前の姿にまずは戻さなけれればならない
全ては、そこから始まるんだ」
そう、この”戻す”というのがポイントだ。
ミサゴが王だった時代。
そこに戻すのだ。
「ミサゴ、お前が自らに王という資格が無いと言っていたな
だが、これは元王だったお前がとるべきけじめだ
この戦いに終止符を打った今、そのけじめをつけてくれ」
ハッとするミサゴ。
「これが妾のけじめ、か…」
そう。いい感じだよ!
「そしてハイロ、お前はミサゴから王位を継ぐんだ
正統な王たるミサゴに王位を戻す
しかしミサゴは自らを王とは認められないからすぐに退位する
その王位を継承できるのは、唯一の正当な王位継承者であるお前だけだ」
「なるほど。それが私のけじめ
我が王家の最後に連なる者としてのけじめ、というわけですね」
さすが!よくわかってらっしゃる!
「リクの想い、妾は全て理解した」
ハイロ、そなたはどうだ?」
「もちろんでございます姉上
姉上のお気持ちも、理解致してございます」
「あっぱれであるハイロ!
ではゆくぞ、我ら姉弟の舞台へ!」
大・成・功!
俺が王にならないようにする大作戦は見事成功だ!
ジェンガは不満そうな、でもしょうがなさそうな複雑な雰囲気だ。
まあ、これが順当ってものだよジェンガ君!
アルカが残念そうに俺を見つめてる。
大丈夫!ハイロはきっといい王様になるよ!
カルサは…なんかまだ俺をあわれんでるな。
俺は王にならなくてすんで、嬉しくてたまらないよ?
「皆のもの、見るが良い!
偽王は死んだ!
王冠は再び、正統なる王位継承者たる妾の手に舞い戻った!」
王冠を掲げ、高らかに宣言するミサゴ。
実に絵になり、大歓声が彼女を包む。
「されど妾には偽王の専横を許した罪がある
ゆえに、我が弟、唯一の王位継承者たるハイロに、王位を譲ることを今ここに宣言する!」
また大歓声だ。
新たなる王、新たなる時代、そんなものへの期待だろう。
王冠がミサゴからハイロに渡される。
美男美女だ。黄色い歓声も聞こえてくるぞ。
次に壇上に立つのはハイロ。
さあ、即位の宣言だ。
「禅譲は成った!
このハイロが新たなる王に即位したことを宣言しよう!
そして私は宣告する!
古き時代の終わりを!新たなる時代の幕開けを!」
そうそう。いい調子だね。
村に帰ったら年金もらえるかな。
「今日この日この時、古き王朝は終わりを告げる!
この新王ハイロの名において、廃位を宣言するものである!」
え?マジで?
うろたえる俺。
聞いてた人々もざわついているが、誰かが俺を指差して言う。
きっとあの方だと。
あの方こそ王にふさわしいお方だと。
それは波のようにどんどん広がっていく。
そして今、全ての人々の注目が俺に集まった。
ざわめきは歓声へと変わっている。
ジェンガとアルカが期待に満ちた眼差しで向けてくる。
あ、トトカとナーランも同じような目をしてる。
おおカルサ、君だけは変わらない。
君だけはずっと俺をあわれんでくれていたんだね。
大歓声の中ハイロが続ける。
「さあ諸君!
新たなる王の名を呼ぼう!
我らを導く者!我らの偉大なる主の名前を!」
「リク!!
妾が認めた男!
神々の寵愛を受け、さらにその神々をも超えていく者!
その名は、リク!!!」
ミサゴが率先して叫んでる。
もう文句のつけようがないくらい満面の笑みだ。
これにつられるように俺の名前の大合唱が始まった。
「偉大なる我らが指導者、リク様!」
「百戦百勝の智将、リク様!」
「お館様こそ我らが主君!」
「我らが救世主、リク様!」
「兄様はまあ、それなりにすごい人よね」
「リクさんが王様の国、とっても楽しみ」
「リク様、我らをお導きください!」
「リク様は我らに富をもたらしてくれるでしょう」
「不敗神話はリク様、あなたと共に!」
「リク様!」「リク様!「リク様!」「リク様!」
その声に押されるように、物理的にミサゴに背中を押され、俺は壇上に立った。
多くの人々、広場いっぱいどころか都いっぱいの人々が俺に注目する。
広場は溢れかえり、大通りも人で埋まってる。
家々の屋根にまで登ってる人が大勢いる。
彼らの期待に満ちた視線が集まっている。
彼らは待ち望んでいるんだ、俺の言葉を。
そして俺は理解している、彼らが望む言葉を。
別に俺は望んでないけど、彼らが望む言葉を言わないといけない気がしてくる。
ああ、俺はこの場で一人ぼっちなのか。
いや、違った。
カルサだけは俺の気持ちをわかってくれている。
今も俺に「兄様、大丈夫?」の視線を送ってくれている。
ああ、俺は一人じゃない。
俺には心強い味方がいる。
じゃあ、まだもうちょっと、がんばってみようか。
「古より続く王朝が今、幕を閉じた」
俺が話し始めると、あれだけ騒がしかった人々が一斉に静かになった。
皆、俺の一言一句を聞き逃さまいと集中している。
「これは終わりか?
否!始まりだ!!」
おおおおおおおおおおお!と、まるで地響きのような歓声だ。
音が衝撃波だということを実感する。
「これより始まるは新たなる時代!
このリクにより幕開ける、大いなる時代である!
私は約束しよう!
諸君らに栄光をもたらすことを!」
もはや俺の声などかき消されているだろう。
とてつもない大歓声が都全体に響き渡っている。
偽王が倒れたことによる解放感。
今までの時代が終わることへの不安。
しかし何より、新しい時代への大きな期待。
それらを含んだ大歓声に、都は包まれた。
ジェンガ、率先して歓声を上げている。
ボード、書類の束を抱えながら涙を流している。
パトリ、ボードの裾にすがりつきながらやはり泣いている。
ナーラン、いつも通りの男泣きだ。
パータリ、嬉しそうに笑ってる。
トトカ、親父の肩に乗って手を振り上げてる。
アルカ、嬉しそうにはしゃいでる。
カルサ、アルカと俺を眺めて苦笑いしてる。
「讃えよ!新たなる時代を!
黄金の時代の始まりを!!」
村長、見てるか?
「我が名はリク!
諸君らの新たな王である!!」
とりあえず二人とも、幸せそうだよ。
以上で第二章の本編完結となります。
お読みいただき、ありがとうございました。
ブックマーク100件を目標にしていましたが、その1.6倍以上も登録していただきました。
本当にありがとうございました。
皆さんの与えてくださったポイントが私の背中を押してくださり、ここまで書くことができたと思います。
あと数話、もしかしたら一話かもしれませんが幕間を書き、第三章に入ります。
今後は今までのようにほぼ毎日更新ができず、不定期になるかと思います。
今日もこんな日付変わった直後の更新ですいません。
時間が取れず、睡眠時間削って生活に支障をきたし始めたので不定期にする決断となりました。
せっかくブックマークしていただいたのに申し訳ありません。
ただ、今後も楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いします。




