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29話 兄として

ブックマークが150いきました!

評価もいただいておりありがとうございます。

ポイントが増えると楽しんでいただけてるのか思え、嬉しいです。

今日はちょっと長いですが、お読みください。


今までのあらすじ

選抜者から漏れたカルサがご機嫌斜めです

 偽王討伐の最終作戦、トロイの木馬。

 本作戦に参加するのはごく少数の選抜者のみ。


 そしてその中にカルサは含まれなかった。


 危ないから?

 いいや、むしろアルカの近くの方が安全だろう。

 戦闘で役に立たないから?

 いいや、彼女は戦闘補助の魔法だって使える。


 理由は色々挙げられるけど、カルサはそれを上回る能力を持っている。

 でも選ばれなかった理由

 参加させたくなかった理由

 それはただ単純な俺のわがまま


 カルサに血を見せたくなかった、ただそれだけだ




「兄様のことだから、どうせあたしに血を見せたくないとかそういう理由で外したんでしょ?」


 そしてそんな俺の考え、カルサにはお見通しである。

 さすがだ。


「いや、別に人数制限じゃん?

 それに俺、選抜にそんな関わってないし?」


 とりあえずしらばっくれてみる。


「兄様、あたしの足元見てみて」


 なんだろう?跪けというならいくらでもやりますとも

 最近よくみんなが跪いてくれるから、俺も見よう見まねでうまくなったよ?


 そんな俺のあほな考えはカルサの足元を見ると吹き飛んだ。

 カルサが、浮いてる!


「最近、飛行魔法を開発してるの

 まだ自由に飛んだりはできないけど、浮かぶ程度ならこんなものよ」


 ストンと地面に降りる。


「だからあたしは人数制限には引っかからないの

 浮いてればいいんだもの」


 どや!とカルサが言ってくる。

 いや、飛行魔法の開発とか本当にすごいぞ。

 異世界転移してきた俺より、カルサのほうがよっぽどチートじゃないですか。


「選抜についても、もう裏はとれてるの

 ジェンガにカマかけたらあっさり吐いたんだから

 ”ごめんなカルサ。リク様から絶対カルサは参加させないよう厳命されてるんだ”って」


 ジェンガー!

 まあ、この二人は村でも仲良しだったから仕方ないか。

 これは人選をミスったな。

 ボードにでも頼んでおくべきだった。


「だから兄様、もう全部バレてるの

 兄様があたしのこと参加させないようにしてたって

 それでどうせ兄様のことだから、あたしに血を見せたくないとか甘っちょろい考えでそうしたって」


 甘っちょろいって…。

 兄様は可愛い妹が心配なのですよ。


「第一、あたしは血なんて見慣れてるんだから

 これでも村にいた頃は肉をさばくお手伝いしてたの

 むしろ兄様こそそんなところ見たら卒倒しちゃうんじゃないの?」


 否定できないから困る。

 俺が見る肉は加工されたものか調理されたものだけなのだ。

 それは元の世界でも、この世界でも変わらない。



 せっかく剣と魔法のファンタジー世界に来たのに、俺は何にも変わってない。

 非力なままだし、魔法も使えないし、体力もない。

 ただ異世界に来ただけの一般人。

 それが俺だ。


 でも俺本人は変わらなくても、色々変わったこともある。

 たくさんの心強い仲間ができた。

 こんな俺を主と慕ってくれる人々ができた。

 今一つの目標のために、俺を中心として国中が一つになった。


 そして、俺を家族だと言ってくれる人ができた。

 血はつながってないけど、俺には大事な妹ができたんだ。




「そうだな。認めよう

 むしろ俺のほうが血には弱い

 実際に偽王が斬られる場面になったとき、卒倒するのはカルサではなく俺かもしれない」


「素直に認めて偉いわよ、兄様

 当然、あたしが参加するのを邪魔したのも認めるのね?」


「ああ、そちらも認める

 間違いなく俺がジェンガに命令した

 カルサを作戦に参加させないようにって」


 ほらごらんなさい!とばかりにカルサが胸を張る。

 魔法は成長してるようだが体は全然だな。


「これはまあ、ご指摘の通り完全に俺のエゴだな

 カルサに偽王が討たれる姿を見て欲しくなかったからだ

 そんな生臭いところを、お前に見せたくなかった」


「エゴ…?」


「あー、すまん。エゴってのが利己的とかわがままってそういう意味だ

 俺のわがままでお前を作戦から除外したんだ

 ごめんな」


 いかんいかん。

 カルサは俺の事情知ってるし頭もいいからついつい地が出てしまうが、さすがにカタカナ語はわからんな。


「兄様、あたしは兄様の方が心配

 本気で偽王のとこに行くの?

 今までずっと安全な後方で待ってた兄様が?

 ギーマン砦でうまくいったからって調子に乗っちゃった?」


 散々な言われようである。


「それに今回の作戦だっておかしい

 今までずーっと口出しして来なかったのに、突然意見出してきたじゃない

 偽王への回答も、そしてこの"トロイの木馬"も

 そもそも兄様がこんな奇抜な案を出せるとは思えないし」


「やっぱカルサには見抜かれるなあ

 このトロイの木馬ってのは俺の世界の伝説なんだ

 10年近く戦い続けても落ちなかった都市を陥落させた伝説的作戦

 それをまあ、お借りしたわけだ」


「そんなとこだろうと思った」


 カルサはあきれたような安心したような顔をする。

 そして一点いたずらを見つけたような表情に。


「この作戦が成功したらこっちの世界でも伝説になるんじゃない?

 兄様伝説に新たな一ページ!ってとこね」


「あー、そうなるかもなあ

 そしたら都のジャイアントピーンとかになるのか?」


「そこらへんは噂好きな人たちが勝手に考えてくれるでしょ

 それこそ詩になって歌われるかもね」


 マジか。また俺の変なあだな増えるのか。


「そんなことより兄様のこと

 どうしてそんなに前のめりなの?

 何を焦ってるの?」


 焦ってる。

 カルサからはそう見えるのか。

 たしかに言われてみるとそうかもしれない。


「たしかに焦ってるのかもな」


「でしょ?

 妹のあたしにはぜーんぶお見通しなんだから」


 自慢げに語るカルサ。

 こいつは俺のことを本当によくわかっているな。


「本当に自慢の妹だ」


 だからだ


「俺はそんなカルサの兄だから、俺が偽王を討たなきゃいけないんだ」




「兄様どうしたの?

 兄様はじゅうぶんやってくれた

 もう偽王は風前の灯。あとはほっといてもあたしたちの勝ち」


「確かに俺たちの勝ちはほぼ確定だ

 でも、俺は別に何もしてないよ

 みんなががんばってくれただけだ」


「だから、それは前にも言ったでしょ

 みんなの手柄、それはもう兄様の手柄なんだって

 兄様がそうやってみんなが自由にのびのびと働けるようにしたからこそ、この勝利があるんだって」


 そう。カルサは前にもそう言ってくれた。

 でも、違うんだ。


「ありがとうなカルサ

 でも、俺にはそれがまだ受け入れられない

 俺はこの自分の手で、この村長から受け継いだこの刀でそれをやらなきゃ、自分を認めることができないんだ」


 刀の柄をぎゅっと握りしめる。


「カルサの兄として、カルサのおばあちゃんの仇を討ったって、認められないんだ」


「兄様…」


 俺の決意が伝わっているのだろう。

 止めたいけど止められない、そんな複雑な表情をしている。


「ごめんなカルサ、そんな困らせちゃって

 お前の兄はな、お前のためにかっこつけたいんだ

 これでも一応、男なんだよ」


「兄様も、男の子なのね…」


 ちょっと笑ってくれた。

 でも男()()ってのは、ちょっと…。



「兄様の決意はわかった

 そしてそれがあたしのためってのなら、もう止めない

 ありがとう兄様

 一緒におばあちゃんの仇を討ちましょう!」


「ああ!」


 って、一緒に?


「もちろんあたしも行く

 駄目っても行っても無理やりついてくからね

 おとなしく連れてったほうが身のためよ」


 なんか脅迫されてる?


「打倒偽王!

 あたしたち兄妹の力、見せてやりましょう!」


 お姉ちゃんは強すぎるから見せる必要もないわね、とのこと。





 選抜者が一人追加されることを伝えようとジェンガとボードのところに向かうと、ナーランとパータリもいた。

 四人とも揃ってるとはちょうどいい。

 カルサが入ったことを伝えてさっさと寝よう。


「リク様、カルサは参加させないはずだったのでは…?」


 ジェンガが不思議そうにしている。

 まあ、さっきまではそうだったけど事情が変わったのだ。

 説明しようと俺が口を開く前に、パータリが語りだす。

 なんだろう?


「なるほど。敵を欺くにはまず味方から、ということですか…」


「パータリ、どういうことだ?」


「ジェンガ将軍、私は不思議だったのです

 なぜ頭脳明晰でかつ卓越した魔法使いであるカルサ様が選抜されなかったのか

 しかし、今その謎は解けました」


 なんと。そんな謎があったのか。


「極秘作戦といえどあの巨大な剥製は隠せません

 まして人の口に戸は立てられぬもの、本作戦のことは噂として少しずつ広まっております」


「つまり、カルサ様が参加されることを徹底的なまでに秘しておきたかった、ということですね」


「その通りですボード

 だからリク様は己が腹心中の腹心、かつ誠実な人柄が知れ渡っているジェンガ将軍の口から言わせたのです

 ”カルサ様は絶対に選抜させない”と

 当然皆それを信用します


「ジェンガは嘘が苦手だから、腹芸なんてできません

 これが私だったら、さぞや疑われていたでしょうね?」


「ボードが言ってれば私はむしろ確信しましたよ、裏があると

 しかしジェンガ将軍がおっしゃるということは裏などありえない

 リク様の名を出してはいけないと言われてたのにあっさり白状してるし、むしろ微笑ましいとすら思っていましたよ」


 なんか俺がジェンガに言わせたことを褒められてる。

 俺は人選ミスだと思ったのに。


「しかし、実際はそのジェンガ将軍すら知らされていない裏があったのです

 まさに敵を欺くには味方から

 そして今回は味方を欺くため、腹心中の腹心をも欺かれたのです

 見事その策にはまりましたよ…

 現に今この瞬間までカルサ様が参加されるなどとは考えておりませんでした」


 おおー!とジェンガとナーランが感嘆する。

 俺も仲間に入れてくれ。


「カルサ様という切り札を手元に置くため

 しかしそれを誰にも悟らせないため、リク様は策を用いられました

 そしてその策は完璧なまでに働いたわけです」


 パータリが俺に頭を下げる。


「このパータリ、ここまで見事に他人の術中にはまったのは初めてでございます

 さすがは百戦百勝の智将と謳われるお方

 感服いたしました」


「お館様、私も全く気づいておりませんでした

 カルサ様に血を見せたくないのだろうなどと考えていた自分の浅慮さを恥ずかしく思います」


「さすがリク様!俺を信頼し、そのように利用していただけて光栄です!

 リク様の策は、天下一ですよ!!」


「このナーラン、リク様にお仕えできる幸運を今改めて噛み締めております

 リク様の足手まといとならぬよう、全力を尽くして参ります!」


 パータリに続きボード、そしてジェンガとナーランと次々に俺を褒めてくれる。

 全くそんな意図はなかったわけであるが…。


「ナーラン、カルサを参加させるの一言で私の考えを読み取ったお前もまた見事である

 留守居役、安心して任せられるな

 存分に励め!」



 そしていつもどおり「後は任せる」と付け加えて寝所へ向かう俺。

 後ろでは俺が見えなくなるまで四人が頭を下げていた。

最初スマホで書いていたのですが、PCで全て書き直しました。

予定より書くのが遅れてしまい、今週はもしかしたら更新できない日が発生するかもしれません。

すみません。


もしかしたらまた幕間を書くかも…。

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