28話 選抜者たち
今日が三連休だと昨夜気づきました。
なんとか朝に間に合って良かったです…。
今までのあらすじ
リクの作戦で偽王を討つことになりました
作戦準備は急ピッチで進められた。
ジャイアントピーンは瞬く間に剥製に仕立て上げられ、中に人が入れるよう改造も完了した。
見上げるほどの大きさ。
そもそもが突然変異であるジャイアントピーンの中でもさらに特別な一体。
…異世界転移してすぐにこんなのに襲われるなんてなあ。
難易度設定高すぎですよ。
さあ、あとはこの中に入る人選だ。
まずアルカは確定。
治癒魔法使いとして俺が選抜者として決定した。
アルカのパワーを知ってるジェンガも積極的に推薦してくれたので、治癒魔法使いが必要なのだろうと周りもあっさり受け入れたのだ。
もちろん彼女のパワーはジョーカーだ。
こちらがどんなに不利だろうと、全てひっくり返してくれるだろう。
しかし何より一番は、本人の意思を尊重するために。
「リクさん、ありがとうございます。
約束を守ってくれて」
あの夜の話だろう。
まあ、これぐらい余裕ですとも。一応反乱軍のトップですし。
「リクさんのこと、私が絶対守りますからね」
ニコニコ笑いながら拳をえいえいと突き出す。
一見すると微笑ましい光景だ。
アルカのことをただの治癒魔法使いと思ってるメンバーはそれを見て笑ってる。
君たち、あれは神の拳だよ?
表に置いてある大の大人10人以上が軽く入れそうなあのジャイアントピーン
こいつを一撃で葬り去ったんだ。
次に選ばれたのはミサゴとハイロ。
そもそもこの反乱軍はこの二人の仇討ちから始まったのである。
なのにこの偽王との決着に着いてこなかったら話が締まらない。
当然二人とも参加する。
まあ、ハイロは仇討ちうんぬんよりミサゴが参加するからってのが大きいようだが。
「姉上は私がお守りいたしますので、ご安心ください」
「妾のことは気にせずともよい。叔父上を討つことに集中せよ」
「さすが姉上。大局を見据えておられますね」
「そんな褒めるでない。で、妾のことは気にせずとも良いからな?」
「では姉上、私は準備がありますのでまた後ほど」
何はともあれ二人共参加だ。
俺としてはハイロがいてくれないと色々困るので助かる。
兵士たちを統率する役目、指揮官として選ばれたのはジェンガ。
国一番の剣の使い手であり、個人戦闘力も折り紙つきだ。
「俺がリク様をお守りします!」
と意気揚々だ。
アルカも来ることが決まってからは
「俺もお役に立てるように頑張ります!」
と謙虚になった。
しかしアルカを除けば最も戦力的に信頼できる男だ。
戦場でのとっさの判断も的確である。
頼りにしてるよ。
しかし武官のトップが参加するってことは、残った兵たちの指揮は誰が執るんだろう?
できる男ジェンガはちゃんとそこらへんを解説してくれる。
「リク様、我々が不在の間軍を統率するナーランです」
「大役を仰せつかり、恐悦至極に存じます
このお役目に恥ずかしくない活躍ができるよう、全力を尽くしてまいります」
ギーマン砦攻略でがんばってくれたシスコ領主ナーラン・シスコである。
偽王に没収されてた北シスコ地方を俺が返してあげたことで、強い恩義を感じてくれちゃっている。
実際には間違って返してしまったのだが結果オーライというやつだ。
「君には期待しているよ。がんばってくれたまえ」
「…!我が忠誠、我が命、全てはリク様のために!!」
偉そうに肩に手を起きながら激励してみたところ、涙を流して喜ばれた。
…この人、俺の前では泣いてばっかだな。
でも美丈夫だからそんな姿も絵になる。すげえ。
さて残るは一般の兵士たちと思っていたら、ボードも来ることになったらしい。
我ら反乱軍の文官トップ。
これで文官武官両方のトップがこの作戦に参加することになる。
なぜ?と思っていたら本人の強い要望らしい。
「私も一歩間違えれば、お館様が私の目を覚ましてくださらなかったら、パトリと同じ立場だったかもしれません…
だから彼女たち、都の文官達、皆と会わなければならない
そう考えました」
なかなか思いつめてるなー。
まあ、それで本人の気が済むのならいいだろう。
しかし戦えない人間が増えるのは問題では?と思ったのだが
「ご安心ください
お館様の目の前にいる男はこの国で二番目の剣の使い手
まあ、一番との間にある差が非常に大きいのが困りものですが」
驚きの文武両道だった。
俺から何も言うことはないですね。ごめんなさい。
ではボードの代わりは誰がするのか?
紹介されたのは意外な人物だった。
「本日もご機嫌麗しゅうございます」
俺たちに甘味をくれた人、サスコ領主パータリ・サスコその人である。
武の名門シスコと並ぶ文の名門サスコ当代当主。
そう聞くとこの媚びた表情や話し方も裏があるのだろうと怖くなってくる。
「妹御のカルサ様からは紙や本について様々なご協力をさせていただいております
これからはリク様御本人とも大いにご協力させていただければ光栄でございます」
「パータリ、今日はその話ではないはずだ」
「おお、そうでしたなボード
それではリク様、どうかボード不在の間は万事私めにおまかせくださいませ」
そのまま下がるサスコ領主の背中を見てボードが嘆息する。
「悪い男ではないのです。ただ自分の欲にたいへん正直で、そのことばかりに色々と知恵を働かせて他人に迷惑をかける傾向があるのですが…」
それって、悪いやつじゃね?
では今後こそ一般の兵士たちだ。
各部隊から選抜された精鋭10名。
屈強なおっさんばかりかと思って覗いて見たら、なんとスレンダー美女がいるではないか。
あの俺を射殺さんかのごとく睨みつけてくる瞳は間違いない、トトカだ。
彼女は目付きが非常に鋭く、かつ無口なため誤解を受けやすい。
しかし俺は知っている。
本当の彼女は、とってもいい子なのだ。
最初に出会ったのはミサゴたちが義賊時代にアジトにしてた村。
寝床を教えてとお願いする俺をガン無視して立ち去ったと思ったら、実は客間の準備をしてくれていた。
口下手だから一瞬誤解してしまったが、ちゃんと行動で示してくれる不器用な優しい子である。
次に出会ったのはギーマン砦陥落後。
本陣に戻ってきてすぐ、ミサゴは「妾は皆のとこに行ってるぞ!」と俺を置いていってしまった。
俺を背負いながら走って戻ってきたのに、あの元気はどこから湧いてくるのだろう?
水をくれの一言が言えず、喉がカラカラで困り果ててるときにまた彼女は現れた。
このときも彼女は何も言わず行動で示してくれた。
俺に水筒を差し出してくれたのだ。
間接キスになるから恥ずかしかったのだろう、複雑な表情をしていたのを思い出す。
外見は美女だが、実はまだ十代の多感な年頃らしい。
思春期の少女が、そんな恥ずかしさを乗り越え俺に自分の水筒を渡してくれたのだ。
君の温かい心、俺にはちゃんと伝わってるよ。
トトカに声をかけようと近づくと、突然クマが現れた。
いや、鎧を着てるからクマじゃなくて人間だ。
「リク様!本来ならば私めが御身の盾となるところですが、重量制限なるものに引っかかり…
誠に遺憾ながら断念せざるを得ませぬ
我が娘をおつけいたしますので、どうかよろしくお願いいたします!」
この鎧を着たクマさんはトトカの父親。
先王時代に親衛隊の副隊長まで勤め上げた男だ。
どうやったらこんなでかいクマからあんなスレンダーな子が生まれるんだろう?
お母さんの遺伝子しか受け継いでないんじゃないか
二人が父娘の会話を始めた。
会話といっても俺には父親が一方的に話しかけているようにしか見えないが、
「むむ。確かにお前の言う通り…」
「なんと!父はまことに誇らしいぞ!」
などと返事をしてるのでどうやら父親は娘の言ってることがわかるらしい。
親子の絆ってやつか。
「トトカ!リク様に何かあったときは、お前の命にかけてでもお守り申し上げるのだぞ!」
これに力強く、かつ当然という感じで頷くトトカ。
そのまま今生の別れのごとく抱き合う二人。
あんなに力いっぱい抱きしめたら、その細い体が折れてしまうんじゃないかと心配になる。
しかも俺のために命をかけようとするなんて、とても申し訳ない。
「大丈夫だよ、二人とも
これは犠牲を出さないための作戦。みんな無事に戻ってくるよ
そして次に会う時は、この国の新しい時代が始まってる」
とりあえずそんなふうに声をかけておいた。
時間がないため他の選抜者の方へ移動する。
みんなの覚悟が感じられ頼もしい。そして同時に責任を感じる。
以上総勢16名。これが本作戦への参加者だ。
人数的にもこれが限界。
すでに偽王には回答を送っており、それに対する返事が届き次第作戦開始だ。
もう夜も更けたし休息をとろうと思ったら、声がかかった。
「兄様、話があるんだけど」
剣呑な雰囲気をただよわせるのは我が妹。
本作線から外された、カルサである。
トトカ本編初登場です。
本当はギーマン砦で登場の予定でしたが、少し遅れました。すみません。
誤解されてばかりのリクですが、彼女についてはリクも誤解しています。
フルネームはトトカ・タント。
都の名門タント家のご令嬢です。
お母さんそっくりと評判で、お父さんも内心ホッとしています。




