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26話 偽王からの使者

昨日は更新がなかったにも関わらず多くの方に訪れていただけました。

ブックマークしていただけた方もおり、ありがとうございます。

皆さんに楽しんでいただけるよう頑張ります!


今までのあらすじ

アルカから王様にならないのかと聞かれました

 都はこの首都である。


 建国前は小さな町だったらしいが、首都となってからどんどん発展した。

 歴史的な建造物もたくさんある。

 貴重な美術品や財宝もある。

 そして当然多くの人々が住んでいる。


 そしてその人の中には当然あいつも含まれる。

 偽王。やつがここにいる。




 俺たちは今、都を包囲している。

 広い広い都をぐるりと取り囲む多くの兵士たち。

 高台から見るとなかなかに壮観だ。


 国ほぼ全土を平定した我らが反乱軍。

 正規軍もほぼ全てうちに帰順済だ。

 だからこの都包囲軍は国の軍隊と各領主の軍隊で構成されており、一般の人々はすでに自分たちの村や町に帰って元の生活に戻っている。

 ようやくあるべき姿が取り返せ始めている。


 おや、俺に気づいたのか手を振ってくる部隊がいる。

 手を振り返すとみんな喜んでくれた。

 なんか嬉しいぞ。


「兄様ってこういうのが好きだったのね」


 カルサが意外そうに言う。

 そりゃあ男の子ですからね。ロマンだよ。

 そう言うカルサは別なことに興奮している。


「あの奥のが宮殿?

 ということは、もしかして噂に聞いた都の図書室もあそこにあるのかな?

 お姉ちゃんなら見えるんじゃない?どう?どう?」


「カルサもあんまりはしゃがないの

 図書館があっても、これからの戦いでどうなるかわからないんだから

 今からそんなに喜んでると、あとから落ち込んじゃうわよ?」


「…はーい

 でもそうよね。もしかしたら全部燃えちゃうかもしれないんだよね

 あーあ もったいない」


 そうなのだ。

 実にもったいない。

 都を包囲したけどそのままにしている理由もそこにある。


 すでに偽王側に兵力はほぼない。

 都に残ったやつ直属の部隊だけだ。


 そして都の防衛力は申し訳程度。

 防衛をギーマン砦に任せきりだったからだろう。

 一応城壁があるにはあるが、ギーマン砦を見た後ではもはや何とも感じない程度。

 この大軍の前では吹けば飛ぶようなものでしかない。


 だが、だからこそ困っている。

 攻めれば圧勝なのはわかっている。

 同時に被害が甚大なのも想像がつく。


 別に都に住んでいる人々が皆偽王側の人間というわけではない。

 ただ単に都で生まれて育って住んでいる人たちが大多数だ。

 そんな一般の人々がたくさん犠牲になるのは当然避けたい。


 そしてさらに欲を言えば今後のためにもできれば政治の中心である宮殿は無傷で抑えられればベストだ。

 それに金銀財宝もある。

 戦後は当然色々入り用になるから、それらが散逸するのは嬉しくない。


 当然カルサが興味津々な図書館のような文化財だって守りたい。

 カルサが喜ぶってのはあるけど、やっぱり国ってのは文化がないとね。

 他国になめられちゃうよ。



 というわけでもはや勝利がほぼ確実になった今、戦後のことを考えて都を攻めあぐねている状態なのだ。


「色々物事がめんどくなるねえ…」


 そんなことをしみじみと呟いてしまう。

 ギーマン砦攻略の勢いのまま都を攻め滅ぼせという意見もあったが、ジェンガやボードが抑えてくれてよかった。

 どう考えても都の被害を抑えたほうが後々のためになる。


 ここから見える都の城門。

 これはとても立派で大きい。

 これをどかーんと開けて中に突撃するのは簡単だけど、平和裏に開けて穏便に都を占領する方法はないんだろうか。


 そんなことを考えてると、城門が開き始めた。

 こちらは何もしてないので中から開けられてる。

 いったいどうした?と思ったら使者らしき一団が出てきたぞ。


「兄様、本陣へ戻りましょ」


 都の使者が会いに来るのは誰か?

 反乱軍だ。

 じゃあ反乱軍の誰に会いに来るのか?

 俺だ。

 その俺が高台でサボってては話にならない。早く戻ろう。




「国王陛下のお言葉を伝えます」


 使者の代表はなかなかの美人さんだ。

 優しい感じだけど真面目で実直そうな雰囲気。

 でもたいそう疲れているらしく、全身から疲労が感じられる。

 あ、目の下がクマ牧場だ。


「反乱軍が首魁、リクに告げる

 貴様の行為は万死に値し、本来なら極刑に処するしかない

 しかし寛大なるマロは貴様の罪を許そう

 今すぐ我が前で跪き、頭をたれよ

 さすればその罪を許し、副王の地位を授けよう」


 要するに俺に降伏しろと。

 そうすれば国のN0.2にしてやろう。

 そんな内容だ。

 あほか。


 当然みんな激高している。

 口汚く偽王を罵っている面々もいる。

 気持ちはわかるが、あまり熱くなるのはよくない。

 絶対違うだろうけど、そういう策かもしれないからね。


「以上が陛下のお言葉です

 なお、何を血迷られたか本当に陛下の御前に行く場合、一人で来るように、とのことです」


 使者のお姉さんも来るわけないと思っているようだ。

 まあ、そりゃそうだわね。



「パトリ、あなたはなぜいまだに偽王に仕えているのですか?」


 おや、ボードは彼女と知り合いだったらしい。


「ボード様、お久しゅうございます

 お言葉ですが、我ら文官が陛下に仕えるのは当然のことでございます」


「あなたは()()が王にふさわしいと思っているのですか?」


 苦々しい、歯がゆい、理解できない、いろんな思いが混ざった表情をしている。

 それに対し、美人な使者のお姉さんことパトリは涼しげに答える。


「私が仕えるのは国王陛下ただ一人。ただそれだけでございます」


「あなたはあれを王と認めるのですか!?」


「認める認めないなど、そのような権限は私ごときにございません

 ボード様、逆に私が問いたいです

 なぜ我らに王を決める権限があるとお思いですか?」


 彼女にとっては、王とはただ仕えるものなのだろう。

 ”王に逆らう”という選択肢そのものがないのだ。


 まあ、ボードも最初はそんな感じだったもんな。


「それに、都には多くの民草がおります

 彼らの生活を支えるためにも我ら文官の力は必要でございます

 我々は粛々と自らの責務を果たすだけでございます」


 彼女には彼女なりの信念があるのだろう。

 それをとやかく言っても仕方ない。

 少なくとも、今はそのときではないだろう。


「了解した。ご苦労さまでした 使者さん

 とりあえず偽王の要請は受け取ったよ

 返事はまあ、みんなでよく考えてみるよ

 決まったら回答するんで、そう伝えておいて」


 俺の返事にパトリは驚いた表情をする。

 というか俺以外の全員が驚いてる。

 色々言いたいことはありそうだが、俺の発言とあってみな口をだすのを躊躇しているようだ。


「…承知いたしました

 陛下にはそのようにお伝えいたします

 それでは、これにて失礼いたします」


 驚いた表情を立て直し、パトリは去っていった。



 そして去ると同時に我慢できなくなったのだろう、ジェンガが口を出してきた。


「リク様、返事なんて決まっているでしょう!?

 なぜあの場で言ってやらなかったんですか!?

 「ふざけるな!」と!!」


「お館様 言い方は異なりますが、あのような提案を受け入れることができないという点では私も同意見でございます

 なぜあのようなご返答をされたのか、教えていただけないでしょうか?」


「妾も同意見である

 あのようなもの、一顧だに値しないであろう

 なにゆえそなたはあの場で回答せなんだのだ?」


「兄様、別に使者への言葉だってボードに任せてもいいんだからね?」


 ジェンガに便乗して他のメンツも口を出してきたぞ。

 しかし、たまには俺にだって考えがあるのだ。


「みんなの考えはよくわかる

 だがな、これはチャンスだと思うんだよ

 みんなが悩んでる都の穏便な解放につながるチャンスさ」


 チャンスってのは機会のことね、と補足する。


「せっかく偽王から誘ってくれたんだ。そのチャンスを活かそうじゃないか

 あの大きな門をやつらが開けてくれる

 そして偽王の目の前に何の障害もなく行くことができる

 こんないいチャンスが転がり込んでくるなんて、たぶんこの先ないよ」


「しかしお館様、偽王めが指名したのはお館様ただ一人

 門を入った瞬間に襲われる可能性もあります

 警護もつけられず、危険すぎます」


「もちろんそれはそうさ

 でも、俺は思うんだ

 偽王は絶対俺のことをものすごい憎んでる

 だからもし俺が跪きに来たんなら、殺す前に絶対跪かせる

 その前に殺したりはしない

 そういう意味で、俺はやつの目の前に行く前は安全ってわけさ」


 あいつは小物だからな。きっとそうする。

 俺も小物だから、同じような立場ならきっとそうする。

 そしてきっと何か罠をかけられてやられてしまうだろう。

 小物の最後なんてそんなもんだ。


 小物であるやつの最期なんて、そんなもんにしてやるんだ。


「偽王の目の前に行けるというこの好機、逃す手はない

 逃すつもりもない

 明朝の会議で策について話し合おう

 皆も今夜はいい案を考えておいてくれ」


 これで今日の会議は終了だ。

 俺は自室に帰り、ベッドに倒れ込む。


 最近は腰に刀を差しているので、倒れ込むとそれが当たって痛い。

 しかし、この刀を寝る時以外外すことはない。

 この刀をくれたあの人の想いと共に、この刀は四六時中俺とともにいる。




 決着の時は近い。


 危険?とんでもない。

 俺みたいな小物の命一つで偽王を倒せるならお釣りが来るというものだ。


 でもそれはしてはいけない。

 あの人はそんなことを望んでいないだろう。


 それに、今の俺には家族ができた。

 俺に何かあって彼女を悲しませるわけにはいかない。

 家族のためにも、俺は策を考えなければならない。

 みんなで幸せになれる、そんな策を。



 …悲しんでくれるよね?

パトリはバリバリのキャリアウーマンです。

こういう真面目に愚直に仕事をしているお役人さんが都にはたくさん残っているため、ボードは攻めるのに躊躇しています。

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