02話 能力が何もなし。略して能なし
読んでいただき本当にありがとうございます!
この話はちょっとイラっときてしまうかもしれません。
でもカルサは村思い、家族思いのいい子で、みんなの代わりに疑ってあげてるだけなんです。
どうか許してあげてください。
今までのあらすじ
異世界で目覚めて、居候になりました
この世界に来て数日が経った。
記憶喪失の件はアルカからはたいそう同情を買ったが、カルサには疑われまくっている。
俺だって怪しむだろうから仕方ない。
「おばあちゃん!こんなやつ記憶喪失だなんて絶対嘘だよ!
そうやって村に入って、悪さしようとしてるに決まってる!!」
「カルサ、どうしてそんなひどいことばかり言うの!?
記憶喪失なんてかわいそうよ。生活できるまで助けてあげないと
冬の辺境なんて、一晩だって耐えられない」
「お姉ちゃんはどうしてこいつにそんな甘いの!
こんな怪しいやつ、氷漬けにしてやればいいんだよ!
なんで簡単に家に連れてきて、しかも世話までしちゃうの?!
これから冬をこすんだよ?村に余分な備蓄なんてないんだよ!」
姉妹一瞬即発状態である。
カルサの言ってることは正しい。
だからと言って追い出されては死ぬだけなのでヒヤヒヤものだった。
「カルサ」
そんな姉妹の喧嘩を止めれるのはこの家でたった一人。
「あたしの診察の結果が、信用できないってのかい?」
「お、おばあちゃん…。でも…」
「カルサ?」
「はい…」
カルサは不承不承うなずき、俺を睨んでくる。
「あんた、本当に記憶喪失なの?」
「あ、ああ。本当だ」
「ふーーーーーーーーーーーーーーーん!」
絶対信じてないことが伝わってきた。
カルサに無視されたり虫扱いされたりしながら一つ屋根の下で暮らす生活が始まった。
しかし俺の面倒はほぼ全て姉のアルカが見てくれてたので何も問題はない。
献身的に世話をしてくれ、本当にいい子だ。まさに女神
無事起き上がることができるようになり、リハビリを開始していくつかわかったことがある。
一つ目、俺の身体は健康的になっている。
不摂生な生活でついた贅肉が落ち、いわゆる細マッチョな体つきになっている。
鏡で全身を見たとき、一瞬別人かと思ってしまった。
人間体型でもずいぶん印象が変わるもんなんだなあ。
目指せ雰囲気イケメン
そして二つ目、パワーアップはしてない。
細マッチョな肉体を見てパワーアップしたかと調子にのったらえらい目にあった…。
薪割りすればあっという間に腰をやられるし、重い荷物を運べば数往復でヘトヘト。
隣でアルカが俺の数倍の荷物を鼻歌交じりで運んでいるのを見ていては、男のプライドも何もあったものではない。
そして最後の三つ目、魔法は使えない
この世界には魔法がある。
村長とアルカは治癒魔法が使え、それで俺を助けてくれたらしい。
カルサは治癒魔法こそ使えないが火をつけるとか色んな魔法が使え、村で重宝されているらしい。
特に魔力が人並みはずれて多いのが自慢らしく、俺に見せつけてきた。
「虫、あんたまだいたの?もう動けるようになったんだからさっさと出ていけば?
それとも何?薪も割れない運べないくせに自分は役立つとでも言うつもり?
私はこーんなに色々魔法が使えて役に立ってるけど、あんたは何か役に立てるのかしらねえ」
虫とは俺のことである。慣れすぎて虫と呼ばれても違和感なく自分のことと認識するようになってしまった。
こんな罵倒は日常茶飯事である。
そしてこんなときアルカがいたら止めてくれるが、俺の女神は山へ仕事しに行ってしまっている。
だからカルサはどんどん調子にのる。
「あんたみたいに貧弱で魔法も使えないようなのを拾っちゃって、姉さんもかわいそう…
姉さんは優しいから責任を感じて世話してるんだろうけど…
なーんの役にも立たない無駄飯ぐらいなんてうちには置いておけないよ?
冬越す邪魔だから自分から出てくぐらいの気概はないの?」
言われ放題でさすがにカチンときた。
「…なんで魔法が使えないって言い切るんだよ」
「あんた、魔法使えんの?」
「き、記憶ないからわかんないけど、使えないとは限らないだろ」
「ふーん。じゃあ、テスト、してみよっか」
そう言ってカルサは自分の部屋から何か箱を持ってきた。
フタを開けると式神みたいな形をした紙切れがちょこんといくつか入ってる。
「これに触って、色がついたら魔力あり。
色によって魔力の種類が異なって、色の変化が大きいほど魔力が強いのよ」
そう言ってカルサが一枚ぺらりと持つと、一瞬で色が真っ黒に変わってしまった。
「私みたいに色んな魔法が使える人間は色んな色が混ざって真っ黒になるの。
そして力が強いからこーんなに深い深い黒になるのよ」
どやあ!というのが聞こえてきそうな自慢っぷりである。
鼻高々ってのはこんな感じなのだろう。
「まったく魔力がない無能力者が触ると、色がつかないと思うじゃない?でも違うの
白は治癒魔法の証。おばあちゃんやお姉ちゃんが触ると一見何も起こらない。純白のまま
でもそれこそが治癒魔法の使い手、神に選ばれた者の証明なの」
誇らしげに、でも少し寂しげに話す横顔が印象的だった。
しかし、次の瞬間ニヤリと笑う。
「本当の無能力者が触るとどうなると思う?
紙はバラバラになっちゃうの。
色がついた場合、それは魔法で、ほらこんな風に色抜きできるけど、バラバラなったらそうはいかない
貴重な貴重な、とーってもお高いこの紙が使えなくなっちゃうの
タダ飯ぐらいでうちに無駄金使わせてるあんたが、大事な紙をダメにしちゃったり、しないわよねえ?」
簡単に式神を元の白色に戻し、それを見せびらかせながらカルサは続ける。
「役立たずじゃないって証明できるのよねえ?
自分は無能力者なんかじゃない、能なしじゃないって自信あるのよね?
役に立つ男ですって私に教えてくれるのよねえ?」
ここまで言われては、俺も後には引けない。
そしてこのときの俺には自信があった。
俺は異世界に来た。
異世界に来たんだから俺は何かに選ばれたはず。
そして何か不思議な力を与えられてるんじゃなかろうか。
そんな根拠のない自信が。
「やってやろうじゃないか!
貸してみな!!」
そこからのことは詳しく説明するまでまないだろう。
打ちひしがれ、虫呼ばわりされ大笑いされてる俺は帰って来たアルカに助けられた。
よしよしと子供のように慰められ、母性を感じて元気を出した俺は確信したのである。
ヒモになるしかない、と。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次からは少しずつ主人公が活躍します。
お待たせしてしまい、申し訳ありません。