幕間 ボード視点(第二章)
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今回はボード視点になります。
いつもと違う視点を楽しんでいただければ幸いです。
あの方の存在を最初に知ったのは部下からの報告だった。
曰く
あのルゥルゥ老が一目置く男
村人たちからの尊敬を集める先生
魔物の群れを退治した優秀な指導者
魔物の突然変異体に胆力のみで立ち向かう英雄
そのときは田舎者のほら話と一笑に付した。
しかし今ならわかる。
あれらは誇張ではない。
むしろあの方の片鱗しか表していなかったと。
あの方と初めて出会った時、私は虜囚の身であった。
反乱軍によって最初に捕らえられた代官であり、生贄であった。
いや、生贄になるはずであった。
早く殺せと嘯く私を、あの方は何も言わずもただただじっと見つめていた。
その視線に耐えられず私は目を閉じ、ほんの少しだけだが柄にもなく自分語りなどしてしまった。
死を覚悟して後悔が漏れたのかと当時は思ったが、今は確信がもてる。
あの方の偉大さが、私の心の内をさらけ出したのだと。
その後の沈黙。
処刑命令を躊躇していた?いや、そんなことはない。
あの方は待っていたのだ。
私の、かつての友がやってくるのを。
かつての我が盟友、ジェンガ。
共に先王陛下に忠誠を誓い、切磋琢磨した男。
そして先王陛下がお隠れになった後、道を違えた相手。
当時の私は官位を投げ捨て野に下ったあいつを罵った。
宮仕えするからこそできることがあるのだと、お前の行為はただの逃避だと面罵した。
しかし結果としてやつは正しかった。
野に下り、あの男は見つけ出したのだ。
仕えるべき新たな主君を。
かつて友だった者として、やつが私の下手人を買って出てくれた。
あの方がジェンガに呼びかけたとき、ついに処刑命令が下されると私は身構えた。
しかし話す内容は全く予想と違っていた。
私を仲間に迎え入れると、ジェンガが後見人になれと、命令が下された。
全く理解ができない。
ジェンガが私を優秀と言った
私を信頼できると言った
ただそれだけでなんの保証となるのか?
私が裏切らないと、本気で思っているのか?
理由を問いただす私への回答はたった一言
「ジェンガがやると言った。それで充分さ」
私は眼の前が真っ白になった。
正直に言おう。
ジェンガに嫉妬してしまったのだ。
それほどまでに、この無条件なまでの信頼関係が羨ましかったのである。
呆然とする私の前に、畳み掛けるようにミサゴ様がおいでになった。
そしてミサゴ様やハイロ様もあの方の下で働いているという事実を知らされたのである。
私にできることはただひたすら平伏し、乞い願うことだけであった。
私も貴方様のために働かせてください、と
私に再び忠義を尽くす機会をお与えくださいと、お願いするだけだった。
そんな私をあの方は快く迎え入れてくださった。
あのときの慈悲深いお顔を、私は生涯忘れることはないであろう。
その後は言うまでもない。
私は身命を賭してひたすら働いた。
敬意を込めてお館様とお呼びしたところ、自然に受け答えてくださった。
私の忠誠が少しだけでも受け入れていただけたように感じ、嬉しかった。
仕事についてお館様に判断を仰ぐと、毎回必ず「全て任せる」と言ってくださった。
おそらく私への試練であったのであろう。
私は奮い立ち、いつか私を真に信頼した上でそう言っていただけるよう必死で結果を出した。
その成果もあってか、ついにお館様はおっしゃってくださったのだ。
「いちいち俺に判断仰がなくていいよ
よしなにやっといて」
私は感激した。
ついに私はお館様の信頼を勝ち得ることができたのだと。
ジェンガとの関係も良好だ。
もちろん以前通りとはいかないが、協力し支え合うことができている。
しかし、やつは会うといつもいつもお館様の自慢話ばかりしてくる。
まるで自分のことのように嬉しそうに語るのだ。
…羨ましくて仕方がない。
最近、カルサ様がリク様のことを兄様と呼ばれるようになった。
祖母を亡くされたカルサ様の保護者を買って出られたのだろう。
お優しい方だ。
しかし、それが私の悩みの種となった。
私の前には偽王側についた領主の処遇案の資料が山と積まれている。
例えばこのナーランなどは本人には全く責任がないのに、偽王に送り込まれた部下のせいで反乱に楯突くことになったのだ。
私とジェンガの昔からの知己であり、間違いなく今後も頼りになる人物である。
しかし客観的な事実として、カルサ様の祖母、ルゥルゥ老の仇である偽王の側についた領地の領主であることには変わりない。
アルカ様には内々にこういった領主の処遇について情状酌量をする許可はいただいている。
しかしカルサ様はどうか?
領主たちの処遇というこの国の行く末を決めかねない案件であり、当然これはお館様に直接ご判断いただくつもりであった。
僭越ではあるが、本来のお館様ならば今の我々と同じような回答になられるだろう。
しかし慈悲深くお優しいお館様のことだ。
カルサ様の祖母の仇ということで、より厳しい処分を望まれる可能性もあるのでは?
私は悩んだ。
お館様にこの件をご報告した際、やはり苦しいお顔をされていた。
反乱軍の指導者であるお立場と、カルサ様の保護者としてのお立場に思い悩まれているのだろう。
飛んでいくようにカルサ様の部屋へと向かわれた。
しばしの後、戻られたお館様は我々が想定したとおりの指示を出してくださった。
カルサ様を説得してくださったのだろう。
お館様は資料の山から先程のナーランのような特殊な事情がある者たちの束を選んで抜き取られ、一瞬で内容を確認された。
そしていつものようにおっしゃってくださったのだ。
「全て任せる」
私の仕事が認められ、天に昇るかのごとく嬉しくなった。
反乱は最終段階へと進みかけている。
すでに偽王側の勢力はギーマン砦の向こう側、都周辺だけとなっている。
しかし春になれば山々の雪は溶け、他国の干渉が始まるだろう。
すでに冬は終わりかけており、残された時間は少ない。
だが、私は決して悲観していない。
むしろ希望に満ち溢れていると感じている。
偉大なる我らが主、お館様。
この方について行けば、例え地の果て海の底であろうと恐れるものなどありはしない。
お館様の背中を追いかけ、いつか支えて差し上げるため、私は今日も励む。
全ては、お館様のために。
ボード視点で書くとリクが素晴らしい指導者に見えてきて困ります。
ジェンガ視点の時もそうでしたが、この後はなかなかいつもの調子に戻るのが大変です。
次回は砦に乗り込みます。




