19話 虫、あんた、〇〇
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今までのあらすじ
異世界から来たことがカルサにバレてました。
俺はこの世界に転移してきた、異世界転移者である。
異世界転移者の仲間を持っていた村長、彼女だけがそれを知っていた。
そして村長が亡くなった今、その秘密は俺だけのもの
だったはずなのだが…。
「あんた元の世界に家族いたんでしょ?
その人達と別れちゃって寂しくないわけ?」
カルサにバレていた。
頭が混乱する。
いや、別にバレてたからどうという話ではないのだが。
「い、いつから気づいてた?」
そんな間抜けな質問をしてしまう。
質問に質問で返してしまったわけだが、カルサは答えてくれた。
「あんたが計算できるってわかったときからよ
そもそもおばあちゃんが素性もしれないやつを迎え入れたことが怪しすぎ
絶対なにか裏があるって思ってた
そしてあんた間抜けそうなのにあの計算力
あのときにピンと来たのよ」
「間抜けそうって…」
「実際に抜けてるんだから黙ってなさい
それで、あんたの世界の人間って皆ちゃんと教育受けてるんでしょ?
”義務教育”ってやつ」
義務教育を知っているのか。
「大賢者様が書き残してらっしゃったのよ」
なるほど。異世界転移の偉大な先駆者、大賢者先輩はそこらへんオープンだったのね
「あのときに気づいたの
あんたは大賢者様と同じ、別の世界から来た人だって
おばあちゃんは昔の仲間と重ね合わせて、守ってあげてるんだって」
「…村長から、仲間のこと聞いてたのか?」
「その様子だとあんたも少しだけ聞いたみたいね
たぶんあんたと似たり寄ったりの情報しかないわよ
おばあちゃん、そのことはすっごい口が重かったから」
村長の仲間だったという異世界転移者は悲劇的な死を迎えたらしい。
そのことを村長はずっと悔やんでいる様子だった。
「あたしも小さい頃聞いた話を覚えてただけ
お姉ちゃんはそもそも聞いてないかもしれない」
村長自身は話した自覚はなかったのだろう。
しかし優秀な孫は聞き漏らさず、かつしっかりと記憶していたわけだ。
これで俺のことがバレてた理由はわかった。
で、だ。
「で、あんた元の世界に家族全員残してきたわけでしょ?
寂しくないの?」
話は最初の質問に戻るわけだ。
「いや、別に…って感じかな
寂しいなんて、むしろ今言われるまで考えたこともなかったよ」
事実である。
何せ一人暮らししてからは年単位で親とは連絡をとっていない。
向こうも俺のことなど気にもせず、連絡してこなかった。
関係が希薄なのだ。
だから寂しいなんて感じようもない。
俺の答えを聞いたカルサは、また黙り込んでしまう。
また小一時間沈黙を続けるのは勘弁してほしいと思っていたが、今度の沈黙は比較的短かった。
「あたしはね。おばあちゃんがいなくなっちゃって、すっごい寂しいよ」
「ああ、それは俺も同じだよ」
「違う」
声は小さいが、意志のこもった否定だった。
カルサは強い眼差しで、俺に語りかける。
「あたしはね、自分のおばあちゃんがいなくなっちゃったことが寂しいの
あんたは、自分の恩人がいなくなっちゃったことが寂しいの
これはね、同じ寂しいでも全然違うの」
家族のことを寂しがってるか否かって話、なのか?
混乱する俺をよそにカルサは続ける。
「あたしは、父様と母様のこと覚えてないの
二人ともちっちゃいときに死んじゃったから
それでも、覚えてないけど、父様と母様がいなくて寂しいなっていつも思ってる」
カルサの両目から涙が溢れてきている。
「あたしはおばあちゃんとお姉ちゃんに育ててもらったの
そしてそのおばあちゃんが死んじゃって、いなくなっちゃって、すっごい寂しいの
寂しいけど、おばあちゃんはあたしの笑顔が好きって言ってくれたから、笑うのは難しいけど、もう泣かないって決めたの」
両頬から涙がこぼれ落ちる。
「わかる。わかるよ
だからもうそんな泣くなよ」
涙を拭こうとする俺に浴びせられたのは、意外な言葉だった。
「違うの!
あたしはあんたのために泣いてるの!」
俺のため?
どういうこと?
「家族ってね、すごくいいものなの
周りにいてくれると心があったかくなって、いるだけで幸せになれるの
勇気だってくれるし、家族のためにがんばろうってお力も湧いてくる
だからいなくなると反動ですごい寂しいよ?
でも、それ以上に大事なものをたくさんくれる、とってもいいものなの」
涙をぬぐい、俺の目を真摯に見つめながら続ける。
「だからね、思ったの
あんたは家族を全部失って寂しくないのかなって
もしかしてすごい我慢させてるんじゃないかって
家族全員を失ったあんたに比べたら、あたしなんて全然かわいいものなんじゃないかって」
「いや、そんなことはないが…」
「うん。それは理解した
だから、涙が出てきたの
家族ってあんなにいいものなのに、その良さを知らなかったあんたのために泣いちゃったの」
それで俺のためというわけか。
「俺のためにそんな泣いてくれて、すまんな」
お礼を言いたいのだが、俺の語彙力ではこの程度が限界だ。
「いいのよ
感謝してもらいたくて泣いてるわけじゃないし
むしろ突然泣いちゃって驚かせちゃったわね
ごめんなさい」
お、なんかしおらしい。
「まあ、あんたが家族と関係が薄い、すっっっっごい薄情者ってのはよくわかったわ
もう少し人生反省したほうがいいわよ」
と思ったらいつものカルサだ。
すでに涙は止まり、俺を見つめる目つきも普段の感じになってる。
「あんたは家族の良さを知らなかったから、いなくなっても寂しくなかった
でもね、おばあちゃんがいなくなったら寂しかった
そこはいいわね?」
「はい」
「つまりあんたは寂しいって感情がないわけじゃない
ただ家族の良さを知らなかっただけ
そうね?」
「そうですね」
何が言いたいんだろう
「あんたに寂しいって感情を植え付けたおばあちゃんは偉大なわけよ」
「そうですね」
ああ、いつものおばあちゃん自慢か
「だから、その偉大なおばあちゃんの孫であるあたしが、今度は家族の良さってものをあんたに教えてあげる」
「ありがとうございます」
ん?
「本当はあたしが上だけど、年齢的に違和感あるから特別にあんたを上にしてあげる」
「ありがとうございます?」
なんかおかしいぞ
「今日からあたしがあんたの家族よ
兄様って呼んであげる
喜びなさい!家族ができたわよ!」
薄い胸を反り返しながら、ものすごいドヤ顔でカルサは宣言する。
この日、俺に妹ができました。
夕食時、普通に俺のことを兄様呼びするカルサ。
アルカがキョトンとした顔をしている。
そういえば俺が兄ってことは、これって、アルカとまるで夫婦みたいな感じなんじゃ…
「リクさんがカルサの兄になったということは、私はリクさんの姉になるのでしょうか?
それとも妹?」
ニコニコとそんなことを言われた。
がっくりと肩を落とす俺。
「兄様は私の兄様なのであって、お姉ちゃんとは関係ないわよ」
カルサがしれっと回答する。
「あらそうなの」とアルカが受け、それでこの話題は終了。
俺の春は遠い。
サブタイトルの○○には「兄様」が入ります。
ネタバレなので隠させていただきました。
カルサからの呼び名、虫からずいぶんと出世しましたね。
夕方更新が難しそうなので、早朝に書いて何とか更新いたしました。
時間不定期で申し訳ありません。
 




