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統一王の悩み(物語完結後)

 トルストイはこの世界の統一王だ。

 彼のもとには世界中からあらゆる問題が集まってくる。

 当然悩みはあるが、もはや彼にとってそれらは日常。

 悩み抜くようなことはほとんどない。


 だが、今のトルストイは悩んでいた。

 一冊の雑誌の表紙を見つめながら。

 特大のため息を付いていた。


 その雑誌には


【統一王・トルストイ陛下特集。”最強の魔王”伝説に迫る!】


 そんな煽り文句が、でかでかと書かれていた。


「この前の取材で否定しきらなかったのが、問題のようですね…」


 あの取材の目的は別に最強の魔王うんぬんではなかった。

 話の流れでその話題がでて、完全には否定しなかった。

 最強の存在は別にいるということでお茶を濁し、その場は終わった。


「終わったと、思ったんですが…」


 それからしばらくは世界最強の存在としてエキドナの話題で世間は盛り上がっていた。

 エキドナ自身もまんざらではなかったようで、これで一安心。

 そう思っていたのに


「いやー、やっぱみんな統一王陛下にみんな興味津々だね」


 魔法王ランシェル・マジク

 何が嬉しいのか、笑顔でその雑誌を読んでいる。


「えーっと、なんだって。「世界中の民から敬愛される統一王陛下。優しさと強さを兼ね揃え、”最強の魔王・トルストイ”の名を知らぬ者は誰もいない」?あはははははははは!」

「笑いすぎですよ、ランシェル…」


 なんでこんなに魔法王は嬉しそうなのか。

 息ができなくなるほど笑っている。


「あーお腹痛い。でもしょうがないでしょ?こんな面白いの読んだら、笑うしかないでしょ」


 魔法王はトルストイの実力を知っている。

 かつて戦った時は魔法王が勝利した。

 今はトルストイもさらに力をつけ、ほぼ互角。


 自分とほぼ互角の者がここまで過大評価された記事を読むのだ。

 もはや笑うしかない。


「そもそも、私はあなたこそ統一王にふさわしいと思っているのですよ?」


 まだ笑っている魔法王に、トルストイはそんな言葉を投げかける。

 さすがにこの言葉は聞き捨てならない。


 魔法王は涙を拭き、居住まいを少し正した。

 そして口を開く。


「まだそんなこと言ってるの?どう考えても、あなたが適任でしょうに」


 このことはトルストイが統一王になる以前から二人の間で問題になっていた。

 いや、魔法王は問題になど一度もしていない。

 トルストイが一方的に、ここにこだわっているのだ。


 だがトルストイにもちゃんと理由がある。


「英雄王陛下がこの世界の統一王を指名したあの時、陛下が見つめられたのはあなたです」


 それは事実だ。


 英雄王リク・ルゥルゥ

 この世界を憎しみの連鎖から解き放ち、人と魔ををつなぎ合わせ、ついには神をも導こうとする存在。

 彼がこの世界を去る時、統一王を指名した。


 そのときリク・ルゥルゥの視線の先にいたのは、間違いなく魔法王ランシェル・マジクであった。

 だがそのときランシェルがとった行動が、二人の運命を変える。


「先輩は、私の後ろにいたあなたを見たの。だから私は振り向いて、あなたを見た。そしてみんなもあなたを見て、認めた。先輩も何も言わなかった。先輩に選ばれたのは私じゃなくて、あなた。OK?」


 OKとは同意の意味だ。

 魔法王ランシェル・マジク、解放王ヒイラギ・イヅル、そしてエキドナ・カーンの三人がよく使っている。


「OKではありませんね。英雄王陛下は押し付けがましい方ではないと聞き及んでおります。この世界に残るものが私を選んだと判断し、あえて声を上げなかった。それが真相では?」

「だったら、結局のところそれが先輩の最終判断だってことでしょ?結局先輩が否定しなかった以上、あなたが統一王な事実は変わらないの。そしてあれからずーっと、世界はうまくいっている。何の文句があるの?」

「別に、文句などは…」


 文句などはない。

 これは本当だ。


 ただ自分ではなくもっとふさわしい王がいるということが常に頭の片隅にある。

 これは、あまり気持ちの良いものではない。


「それにね」


 そんなトルストイに気づいてか、魔法王は付け加えてくる。


「私は、どうしても魔法使いに肩入れしちゃう。魔法使いのみんなのことを一番に考えちゃう。そんなのが王様になっちゃダメなの。統一王は魔法使いどころか、人間全部、そして魔族も魔物もみーんな同列に考えてあげなきゃいけない。愛してあげられなきゃいけない。そんなの、あなた以外に誰かいる?」


 トルストイは何も言うことができなかった。


 自分という、人と魔王の間に生まれた奇跡の存在。

 人のことも魔のことも同列に考えられる存在。

 そんなものは、この世界に己だけ。


 魔族だったら、魔族のことを優先的に考えるだろう。

 人間だったら、人間のことを大事にしてしまうだろう。

 自分なら、それがない。

 そんな偏りから解き放たれてるのが、この世界で自分だけ。


「先輩は、そんなあなただから選んだんだと思うよ?」


 そんなことを言いながら、魔法王が笑いかけてくる。

 かつては殺し合い、睨み合った間柄。


 なのに今自分に向けられる笑顔は、とてもとても優しいものだった。


「でもやっぱこの特集いいね!一応全部事実に基づいて書いてあるのに、解釈が斜め上にぶっ飛んでる!すごい!」


 優しいものだと、思う。



 ---



「って、トルストイが悩んでるって魔法王陛下が教えてくださったわ」


 マジか。


 色んな意味で驚いた。

 そもそもカルサ、馬路倉と連絡取り合っていたのか。

 ずるい。俺も会いたい。


「兄様はもう神の中の神なんだから、軽々しく人に会っちゃダメでしょ。我慢して」


 カルサまでが俺にそんな二つの名を使ってくる。

 悲しい。

 全部あの女神が悪い。


「まあでもトルストイの悩みももっともよね」


 うん


「だって兄様、あのとき普通に魔法王陛下を統一王にしようって思ってたでしょ?」


 うん


「でも陛下がなぜか後ろ振り向いちゃって、そこにいたトルストイが選ばれた雰囲気になっちゃった」


 うん


「で、反論することもなくその流れのままに任せちゃった。でしょ?」


 そうなんだよねえ。


 俺は馬路倉がいいかな?って思ったのに、なんでかトルストイが選ばれちゃって。

 俺が一番驚いたんだよね。

 だからまあ、トルストイが違和感ありありなのは当然な気がする。

 実際、選ばれてないし。


「でもまあ、あたしはこれでいいと思うけどね」


 そうなの?


「うん。大事なのは兄様の意志じゃないもの」


 そうなの?


「当たり前でしょ。兄様の判断でうまくいく自信なんて、あるの?」


 全く無いです。


「でしょ?だから大事なのは、兄様の判断じゃないの。兄様が動いたことで周りがどう動くかが、重要なの」


 なる、ほど?


「兄様は陛下を見つめた。その行動で陛下と周りの人々はトルストイを統一王だと勘違いした。そしてうまくいっている。これでいいの」


 そうなのかなあ…


「そうなの。兄様の行動をみんなが勘違いした。そしてうまくいった。これぞいつもどおり!」


 また、勘違い…


「そうゆうこと。兄様お得意の、勘違い。勘違いされた兄様は無敵なんだから。知ってるでしょ?」


 知っている。

 というか今も身を持って思い知らされている。

 これ以上はもう、勘弁して欲しい。


「まあ、そこはさっさと諦めたほうがいいと思うけどね?知ってる?あの女神、最近は兄様のこと”神王陛下”なんて呼び始めてるって」


 うわあ…

 さすがにそれは、ないわ…


「あたしもそう思うけどね。未来のことは、誰にもわからないから、もしかして…」


 カルサが嬉しそうに笑っている。

 だがまあ、さすがにそれはないだろう。

 俺が神王?神の王?さすがにそれは、ありえなさすぎだ。


 しかしトルストイには同情すると同時に親近感が湧いてくるな。

 勘違いして王に祭り上げられるなんて、俺とあいつぐらいじゃないか。

 いつかじっくり話し合いたい。

 そして感想を聞いてみたい。


「神王陛下!どちらにいらっしゃいますか!?」

「あら?噂をすれば女神じゃない。しかも早速例の呼び名、使ってるみたい」


 …あの女神とは、別の意味で一度じっくり話し合わないといけないな。




新作のほうが一区切りついたので、勘違いの英雄譚のショートストーリー更新いたしました。

統一王にトルストイが選ばれた真相になります。

トルストイ以外のメンバーだと色々問題起きそうなので、やはりこれが最善の選択だったのではないかと思います。


新作の影響か、今でも新しく読み始めてくださっている方がいらっしゃって嬉しいです。

ありがとうございます。


新しく読み終えられた方も、感想いただけますと作者はとても喜びます!

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