表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/191

リクと女性陣(物語完結後)

 それはジェンガとボードが神になってしばらくしてのことだった。


「神になったらなったで、リク様がさらに遠くに感じますよ」

「全くです。お館様の偉大さは神であろうと測りかねるということ、身にしみて理解いたしました」


 などというとんでもないことを言われて胃がキリキリした。

「そりゃ、俺ってただの人間だからね」と言えたらどんなに楽か。


 笑ってごまかして二人の元から逃げ去ってから、しばらくしてのことだ。


 ---


「リク!!」


 扉が盛大に開かれる。

 誰かと問うまでもない。

 俺を呼び捨てにするのは今まで二人だけ。

 一人目の恩人はすでに鬼籍に入っているため、残りの一人。


 ミサゴ・イヅル


 俺が転移した世界

 そこで最も古く歴史ある国家、イヅル

 その実質的な最後の国王


 彼女は実の叔父、偽王に王位を簒奪された。

 それが俺がこうして成り上がる遠因となったのだから不思議なものだ。


 もともと元気いっぱいな彼女だが、最近は遠慮というものを覚えたと思っていた。

 こんなふうに鼻息荒く猪突猛進してくるのは珍しい。


「ミサゴ、何かあったの?」


 俺の素朴な疑問

 ミサゴは待ってましたとばかりに、それに答えてくる。


「うむ!」


 元気よくうなづいた。

 ニコニコ笑っている。


 だが俺には全く意味がわからない。


 これはあれか。

 女性がたまにやるという「私イメチェンしたの。もちろん気づくわよね?」ってやつか。


 もしかして髪型を変えたのだろうか?

 いつもどおりにしか見えん。


 もしかして香水?

 ミサゴはいつもいい匂いだ。


 それとも化粧?

 いつもどおり美人だな。


 結論、わからん。


 混乱する俺を見て、さすがにミサゴもいぶかしんでくる。


「…リク。もしやそなた、妾の変化がわからんのか?」


 やっぱり!

 でもそんなこと、俺に気づけと言うほうが無茶ってもんだよ!?


「やはり、ジェンガとボードが言っていたことは真であったか…」


 なぜここでジェンガとボードが?

 さらに混乱する俺

 今度はミサゴは面白そうな顔をしてくる


「別に気にするほどのことではない。妾もジェンガと共にいくつか世界を救ってな。その礼にと神へと昇華しただけのことよ」


 ミサゴも神になったのか…

 人間と神の違いなんて、俺にわかるわけないだろうに…


 違いがでかすぎて逆に気づかない典型例。

 近くで見たら富士山もそこらの山もただの地面でしかないみたいな。


 納得する俺。

 そしてなぜかミサゴも納得している。


「たしかに同じ神になったというのに、リクの偉大さは測り知れんな。いや恐ろしい男よ。さすがは神王と呼ばれるだけはある」


 神王!

 最近あの女神が俺につけたとんでもないあだ名!


 さっさと消し去りたいのに、俺の努力もむなしくこうして広まってきている。

 早くなんとかしないと。

 神王の定着化など、考えるだけでも恐ろしい。


「ところでさ!」


 なので急いで話題を変える。


「神になったからって来ただけなの?他にも用事があるんじゃない?」


 これでもし神になったのを見せに来ただけだったら完全アウトだな。

 だが虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 話題を変えるためなら手段は選ばん。


「おお、もちろんだとも!」


 ミサゴが笑顔になる。

 俺は賭けに勝った!


 だが直後に俺は気付かされる。


「妾も神となったことで、そなたと妾の仲を遮っていた障害はなくなった!安心して、契れるぞ!」


 虎子だろうと、虎は虎なのだ。


 ---


 ミサゴの主張は単純だ。


 俺は神だ。

 実際はただの人間だが、ミサゴは以前から俺が神だと思っていたらしい。


 それに対してミサゴは人間だ。

 だから神である俺とは結ばれえない。

 神と人が結ばれることなど、ありえない。


 そういう論法である。


 それならむしろ今のほうが神と人で障害ができてしまっている。

 だが、事実なんてものは勘違いの前には無力だ。

 だから、俺がここにいるのだ。


 動揺する俺をよそに、ミサゴは遠い目をして語りだす。


「妾がそなたに惹かれたきっかけがいつかは、もう自分でもわからぬ。だが間違いなく言えるのは、ギーマン砦に二人で侵入したあのとき、妾は明確に自覚したのだ」


 ギーマン砦

 イヅルの首都を守る鉄壁の防備


 王位継承者だけが知る砦の弱点

 そこへ一緒に侵入したときのことを言っているのだろう。


 覚えてるのは俺が一方的にミサゴにドキドキし、最後は抱えて走ってもらったことぐらいだ。

 どこに惚れる要素があったのだろう。


「王となったそなたとならば早々に結ばれ得ると思ったが。だからこ、そなたが神と知ったときはつらかったぞ…。叶わぬ恋のつらさ、神であるそなたは知る由もないであろうの?」


 はい、知りません。

 神じゃないけど、知りません。


「だが、ついに妾も神となった!そなたと妾を阻む障害はなくなったのである!」


 お日様のような笑顔

 やはりミサゴには笑顔が似合う


「ゆえに、妾とそなたが結ばれるは必然!さあ、契りを交わそうぞ!」


 何故そうなる!?


 だが抵抗虚しく抱きかかえられる。

 どうして俺がお姫様抱っこされてるんだろう?


 ここは俺の私的空間。

 隣の部屋にはベッドがある。

 それはミサゴも当然知っている。

 ベッドに連れ込まれる!?

 こんな強引に!?


 普通、こういうのって男女逆じゃない!?


「行くぞリク!!」


 それはまるで宣戦布告のようだった。


 ---


「お待ち下さい!!」


 まるで悲鳴のような叫び声

 声の主は、全身に鎧を着込んだ女性


 俺の周りでこんな格好をしているのはただ一人


 イスター・ロブズ


 家族を偽王に殺され、復讐を誓った女騎士

 ルゥルゥ国が誇る五天将が紅一点

 巧みな用兵により反乱時代から人類統一、果ては魔軍との決戦まで戦い抜いた女将軍


 常在戦場にしていつも死んでもよいと、彼女はいつも鎧を身にまとっている。

 華奢な彼女が鎧を着込むと、むしろ儚げさが増してしまう。

 妖艶とも言えるかもしれない。


 そんなイスターが突然現れた。

 基本的に奥ゆかしい彼女が、こんな強引に俺の部屋に入ってくるなんて珍しい。


「何事だ?イスター」


 ミサゴは全く動じていない。

 いつもの態度でいつものように問いかけている。


 対するイスターはかなり動揺している。

 自分がとった行動にも、変わらぬミサゴの態度にも驚いているようだ。


「どうした?何も言わぬということは、何も用事はないということか?」


 ミサゴの問い

 イスターは深呼吸をした後、それに答える。


「わ、私も、神になりました!」


 イスターも!?


「そういえばそなたはボードと共に世界を救っておったな。ついに神への昇華を果たしたとなると、それはそなたの活躍の成果である。まことにめでたい」


 イスターに向けられるお日様のような笑顔

 怯むイスター

 完全に予想外な反応だったっぽい


「あとで皆で祝おうではないか。妾からも祝わせてくれ。そなたが活躍したこと、我がことのように嬉しいぞ」


 なんてイケメン。

 俺をお姫様抱っこしてるから完全に王子様じゃないか。


 イスターは完全に最初の勢いを失ってしまった。

 オロオロしてかわいそうに。


 ミサゴを相手にすると自分のペース崩されるよね。

 わかるよ。


「では祝いの席はまた後ほど手配しておこう。では妾とリクは用があるゆえ、しばし失礼するぞ」


 そう言って再度寝室へと向き直る。

 これで万事休す!


 だがさすがはルゥルゥ五天将が一角。

 己を奮い立たせて再度声を上げる。


「わ、私も神になりました!だから私にも、陛下と結ばれる権利があるはずです!」


 えー


 まさかの、俺を巡っての争いだった。

 モテることに憧れたことはあるが、こんな修羅場は望んでいない。


 今からどんな争いが起きてしまうのだろう。

 それを俺に止めることができるのだろうか?


 ドキドキしながら事態を見守る。

 だが次の瞬間、とんでもないことが起きた。


「おお、そうであったか!ならば確かにそなたもリクと契る権利を持っておるな。妾は順番にはこだわらぬゆえ、先に結ばれたいのならば譲るぞ。いかがする?」


 あっさりと、俺は譲られてしまったのである。



 ---



 これには今度こそイスターも度肝を抜かれた。


「み、ミサゴ様はそれでよろしいのでしょうか?」


 それを問うのが精一杯だったという感じだ。


「?良いも悪いもなかろう?リクは神王。王者たるもの女の一人や二人を侍らせて当然であろうに。妾とそなたが同時にリクの寵愛を受けるのに、なんの問題もないであろうに」


 いや、あるだろ


「た、確かに」


 納得しないで!


 ミサゴはその後も俺の偉大さを延々と語りだす。

 そして偉大なる俺はハーレムなどつくって当然、なかった今までがおかしかったという演説をぶったのである。


 イスターにとっては渡りに船の理論だったのだろう。

 ミサゴの意見に熱烈に賛成し始めた。


「さすがミサゴ様!そのとおりでございます!陛下のような偉大な御方を一人で独占するなんてとんでもない!むしろ陛下は全てを手に入れて当然です!」

「そうであろう、そうであろう」


 全然そんなことはない。


「順番なんてとんでもございません。陛下ならば二人同時に愛してくださいます!」

「そうであろう、そうであろう」


 全然そんなことないのよ!?


 お姫様抱っこは変わらず。

 逆にイスターというお供がついた。


 ついに寝室の扉の前へたどり着き

 イスターが扉を開ける。


 そこには俺のベッド


 そして


「黙って聞いていれば、好き勝手なこと言って…!」


 怒りが闘気がまるで目に見えるような


「そんなことあるはず、ないでしょうに!!」


 カルサが、そこにいた。



 ---



 ちなみに、トトカもいた。

 カルサとおしゃべりしながらベッドメイキングをしてくれていたらしい。


 なおトトカと”おしゃべり”ができるのはカルサとミサゴだけだ。

 そしてミサゴは今必死にトトカに言い訳をしている。


 曰く

「そなたの気持ちはよく理解しておる」

「妾は抜け駆けのつもりはなかったのだ」

「そなたがそんな順番にこだわるとは知らなかったのだ」

「問題はそこではない?ならばいったい何なのだ?」


 内容はよくわからんが、トトカがあんな怒るとは珍しい。

 ミサゴも自分の強引さを少し反省したほうがいいからちょうどいいな。


 ちなみにイスターはさっきミサゴと一緒にカルサにこってり絞られて倒れ込んでいる。

 カルサに絞られても元気にしているミサゴがおかしいのだ。

 普通はイスターのようになってしまうものなのだ。


「ミサゴは後でもう少しお灸をすえる必要があるわね…」


 カルサさんが手ぐすね引いて待ってらっしゃる。


「兄様も兄様よ」


 俺!?


「いつもボケッとしてるから、あんな寝室に無理やり連れてかれそうになるんだからね?もっと緊張しておくこと!」


 いや、でも自分の部屋にいたのよ?

 少し緩んでもいいと思わない?


「何か言った?」


 カルサの目がギラリと光る。

 反論を許さない瞳。

 我が家の絶対権力者に逆らえるはずもなく


「いえ、何も」


 俺に言えるのは、それだけだった。



「リクさん」


 今度こそ救いの手!

 カルサに勝てるのは君しかいない!


 だが振り返るとそこにいたのはいつもの慈母のような笑顔ではなく

 不思議な迫力をもった笑みを浮かべた、アルカさんだった


「カルサの言う通り、もっと注意していただかないと困りますよ?」

「は、はい…」


 その迫力に完全に萎縮し

 それからしばらくの間、俺は寝るとき以外気が休まることはなかった。



 ---



「カルサ様」

「ハイロ。ご苦労だったわね」

「とんでもございません。姉上を止められるのはカルサ様だけ。お力をお貸しいただき、感謝申し上げます」

「お礼なんていいのよ。これからもあなたのお姉さんが暴走しそうになったら教えてくれれば、それでいいの」

「もちろんです。今後も姉上の暴走を止めていただきますよう、お願いいたします」

「ええ、それこそもちろんよ」


「姉上を」

「兄様を」


「「毒牙にかけさせるなんて、私が許さない」」



感想で女性陣についてご意見いただきましたので、ショートストーリー追加いたします。

どこかで入れたかったのに書く機会がなく完結してしまったエピソードです。


イヅルは王が後宮をもってるだけあって上流階級は一夫多妻制です。

だからミサゴもイスターもハーレムに違和感はありません。

トトカはそんなイヅル貴族の中では珍しい、両親が仲睦まじい家に生まれました。

だからハーレムに拒否感があります。

でもミサゴやイスターとは仲がいいし、リクを独占なんておこがましいと困ってます。


時期的には真・エピローグの前となります。

楽しんでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 恋愛面結局どうなったんだ?と思って感想書いたけどまさかSS書いてくれるとは思わなかった。楽しめました。ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ