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そしてそれから②(都)

 そこは都で一番新しく、一番大きな道場だった。

 真新しい看板に書かれた文字は、「ルドルフ・ジェンガ流」

 かつて隆盛を誇ったジェンガ流、その派生流派だ。


 だがいまやジェンガ流は滅びて久しく、このルドルフ・ジェンガ流こそが本家本元同然である。

 しかもその流派の起こりが人の心をくすぐった。


 史上最強の魔王、ルドルフ

 彼が生み出し完成させた、ルドルフ・ジェンガ流

 その剣を受け継ぎ、ついにはその剣で彼を討ち果たした男

 それは史上最強の剣士、ジェンガ・ジェンガ

 

 英雄王の片腕として働き

 世界統一のため辣腕を振るった彼の名を知らない者はいない。


 彼が創建した道場とあっては、人目を引かないはずもなかった。

 設立と同時に入門者は増え続け、今や世界最大の流派になる勢いである。


 だがここに、ジェンガの姿はなかった。

 もはやこの世界のどこにも、彼の姿はない。


 代わりにこの道場を守る者

 その名はカルバナ

 長年ジェンガ元帥の副官を務め、ルゥルゥ国五天将の一人だった男である。


 いかに入門者が増えようと、それを指導できる人材がいなくては意味はない。

 散り散りになったかつてのジェンガ流の門徒を集めあげ、道場再興を成し得たのは彼の尽力のおかげである。


 五天将という地位も捨て、師範代に甘んじる彼を一部の人々は奇異の目で見つめた。

 だが彼はどこ吹く風でこう言ったという。

「俺は元々、辺境の村人だからな。今の地位も、正直身が重いよ」と。


 今日も活気に満ちた道場。

 だが、師範代の姿はない。

 誰かが口にした。


「師範代はどこに行かれたのだ?」

「何か、知人のお子さんの結婚式に出席されるとか何とか」

「師範代が出席されるとなると、よほど豪華な結婚式なんだろうな」

「いや、こじんまりとしてるらしい。ただ出席者ほぼ全員が、()()()の出身者だって」


 それを聞いた男は絶句する。

 今この世界であの村といえば、一つの村しかない。


 それは、伝説を生んだ村。



 ---



「おめでとう!」

「おめでとー!」

「嫁さん、幸せにしろよー!」

「二人とも、お幸せに!!」


 祝福の声が満ちる。

 その声を聞いてはにかむ男女がいる。


 男、新郎の名前はケアル。

 この世界の最高学府である学院、そこで最年少で教授になった俊才だ。


 女、新婦の名前はエスナ。

 ケアルの幼馴染であり、学院で学んだ才女。

 ルゥルゥ軍の鉄砲隊の一員として最前線で戦い、生き残った英傑でもある。


 魔王ガリバーによって部隊は壊滅したにも関わらず、彼女は生き残った。

 人類史上最強の剣士の手によって、彼女達は助けられた。

 だがその恩人は、ここにはいない。


 この幸せな光景を生んだ大恩人の不在。

 誰もが心のなかでは悲しんでいる。

 だがしそれを見せては、せっかくの結婚式が台無しだ。

 きっと、彼も悲しむだろう。

 だからみんなそれを忘れたかのように、気にもしていないように、笑っていた。


「いや、実にめでたい!!」


 どう見ても山賊のような男が、そんな内心を吹き飛ばすように笑い飛ばす。

 彼の名前はザド。

 人類の最高責任者たる柊伊弦直属の近衛、その副将である。


「おおおおおお!ケアル、良かったなあああ!!」

「父さん、そんな泣かないで…」


 その横で泣いている男の腕は、息子であるケアルの太ももよりも太かった。

 彼の名前はイガ。

 ザドと同じく、近衛の副将である。


 この場にいるのは大半が同じ村の出身。

 伝説の始まりの地である、一つの村の出身者である。


 彼らは一人の英傑に率いられ、立ち上がった。

 そして彼の傍らで戦い続け、戦乱の時代を走り抜き、黄金の時代を勝ち取った者たちだ。


 ただの村人であった彼らは、今や誰もが栄達を極めていた。

 だが誰も、その地位を笠に着ることなどはなかった。

 みんな理解しているのだ

 その地位は、自分たちだけの力ではないことを。

 自分たちだけでは、決して成し得なかったことを。


 あの御方の近くにいたから、たまたまこの地位についたのだと

 そう、理解していたのだ。


 とは言っても、はたから見れば彼らは国家の重鎮揃いである。

 出席者の一部、あの村の出身者以外の人間は気後れしてしまう。


「…なあザド。もう俺、帰っていい?」


 彼はヘイメス。

 元ヒュドラ連邦南方方面軍第一軍将軍にして、現在は大陸中南部警備隊司令長官だ。

 一時期とはいえザドの上官であった彼は、その誼を通じてイガやケアルと面識があった。

 それもあってこの結婚式に参列したのだが


「こんな場所だなんて、聞いてないんだけど…」


 戦後、軍は警備隊へと名を変えた。

 だが組織や人員が変わるわけではなく、ほぼ継承している。

 彼にとってここは上官のさらに上官だらけという、魔窟である。


「それに、そもそも近衛の副将ってことはお前がこの中だけでも一番偉いわけで…」

「がっはっはっは!お気になさらず!上官殿!」

「もう上官じゃないんだけど…」


 ザドは全く気にしていない。

 他のものも、誰も気にしていない。


「まあ、いいか」


 ヘイメスは独りごちて宴への参加を続ける。


「そういえば上官殿、つい先日南方と西方の境で怪しい魔術師をとらえたとか?」

「お、おう」


 よく知ってるなと驚いた。

 傭兵のように雇われで悪事を働く魔術師だ。

 人身売買組織などにも手を貸していたらしい。


「大陸中央警備隊の総司令殿がたいそうお喜びでしたぞ!国に帰れば何か褒美をいただけるかもしれません!いや、めでたい!」

「そ、そうか…」


 大将軍、もとい総司令に喜ばれるとは。

 ヘイメスはもはや静かに暮らしたいだけなので、褒美には別に興味はない。


「でもまあ、人に喜ばれるのは、嬉しいわな」

「ですな!!」


 豪快な声が響く中、新婦の顔だけは優れない。


「やっぱり、寂しいね」

「エスナ…」

「ううん。わかってるの。もうあの人は、こんなところに来るような存在じゃないってことは」


 思い出すのは子供時代の記憶

 だが一番鮮明なのは、大きな大きな彼の背中


「助けに来てくれなかったら、私は今生きていなかった。当然、ケアルと結婚なんて…。ちゃんと、お礼言いたかったな…」


 魔王との決戦が始まった後は、怒涛の展開だった。

 息をつく暇もなく次から次へと新たな魔王が登場し、大魔王との最終戦へとなだれ込んでいた。


 その中で、一兵士であった彼女が元帥たる声をかけることはおろか、姿を見ることすらできなかった。


 だから、仕方ない。

 そう思ったとき、声が聞こえてきた。


「おうおうおう!昔のメンツが勢揃いじゃねえか!」


 まさかと思って振り向くと、そこには一人の男の姿


「エスナ!ケアル!おめっとさん!いやあ、二人共でっかくなったなあ!」


 忘れもしないその姿

 でも、全然ちゃんと見えない


 だって目が潤んで、涙が止まらなくて、しょうがないから


「みんなで会うって約束果たすために、ちょっとだけ帰ってきたぞ!カルバナも、あとで道場少し寄るからよろしくな!」


 今度こそ、歓呼の声が響き渡る。

 心の底からの歓喜が、爆発した。



カルバナ :37話の任命式で登場してます。本編ではほぼ活躍してません。裏で頑張ってたのですが…。

ザド、イガ:06話でアルカに恐れ入っていた二人組です。

ヘイメス :番外編 副将で登場したヒュドラ連邦の軍人です。ザドとはここで知り合っています。

ケアル  :番外編 先生で登場した村出身の少年です。

エスナ  :幕間 辺境の村娘視点で登場した少女です。ケアルの幼馴染です。


マイナーキャラばっかりですいません。

完結ブーストとはわかっていますが、たくさんのブクマと評価、感想がとてもとても嬉しいです。ありがとうございます。

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