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そしてそれから①(都の執務室)

完結の影響か、たくさん評価をいただきありがとうございます。

嬉しくてその後の話を一本書いてしまいました。

本当はいろんな人々のエピソードを書きたかったのですが、長くなったので分割しております。

 都


 この都市に、名前はない。

 都といえばここを指す。

 ゆえに、名前は必要ない。そんな都市だ。


 大魔王が世界を統治するために建設され、かつては世界の中心として繁栄を謳歌した。

 解放王ヒイラギ・イヅルによる大魔王討伐後はイヅル国の首都となった。それは人間界の中心と同義であり、引き続き繁栄は続く。

 だがイヅル国の権威失墜と同時に、人間界の中心ではなくなった。

 ただ文化の中心という地位だけは、他国が戦乱に呑まれる中も保ち続けていく。


 そして、ルゥルゥ国の誕生。

 一国の首都から東方の中心、そして東西南連合の中心、さらには人類統一国家の首都となったのだ。

 その成り上がりようは、その国の主がごときと噂された。


 ゆえに、人類統一国家の首都だけにはとどまらない。

 千年の時を超え、再び世界の中心となったのだ。

 人と魔族、全てを治める王が鎮座する場所へと。


「トルストイ。息災か?」

「ええ、もちろんですとも。あなたはいかがですか?アイスキュロス」

「もちろん、息災だとも」

「それは重畳」


 アイスキュロスがこの都に足を運ぶのは久しぶりだった。

 現在の彼は魔界、魔族のトップであった。

 魔界に秩序をもたらすため日々奔走しており、都に来る暇がなかったのである。


「まったく…。このような役目はワーズワースこそ適任だというのに…」

「仕方ありません。彼はあの御方と共に行ってしまったのですから。あなたに、止められましたか?」

「ふん。止められるはずなかろう」


 ワーズワースとは長い仲だ。

 それこそ天地創造の頃からの付き合いだ。

 だからこそわかる。一度決めたあいつの考えを変えることなど、不可能だということを。


「私は参謀でこそ力を発揮できるのだ。魔界を治めるなど、柄ではない」

「なら私の参謀だと考えを変えてみてはいかがですかね?それなら少しは、やりやすいのでは?」


 アイスキュロスは目を見開く。

 そのような考えは盲点だった。

 魔界側の最高責任者として、自分が統率者として働かねばならない。

 そんなふうに頭が凝り固まってしまっていたのだ。


「魔界の統治という言葉に惑わされていたようだ。いや私も、耄碌したものだ」

「まだ耄碌しないでくださいよ?私を助けてくださらないと」

「言われずとも」


 トルストイ

 彼こそ人と魔族の頂点に立つ、世界統一王である。


 人と魔族のハーフという点が功を奏した。

 人が王になっても、魔族が王になっても、どちらかに禍根が残る。

 唯一の例外たる存在は、遥か天上の存在となってしまった。

 ゆえにトルストイが、王へと選出されたのだ。


「トルストイ。お前ならできる。いや、お前にしかできない。頼まれて、くれるな?」


 天上の御方の言葉を反芻する。

 御自らそんなことをおっしゃられては、首を縦に振る他なかった。


 トルストイは己がその地位にふさわしいと思ったことなど一度もない。

 だが彼に命じた者が間違うはずはないと理解していた。

 ゆえに今日も、その職を全うすることに全力をつくしている。


「トルストーイ。ちょっといいかい?おや、先客がいるとは。また別にした方がいいかな?」


 人類側の最高責任者、柊伊弦が現れた。

 彼女はこの地上に残り、人類を守ることに決めた。

「今の人々はみんな、私の子供みたいなもんだからね」とは彼女の言だ。


 そして、人々も彼女を歓迎した。

 解放王ヒイラギ・イヅル

 彼女の統治ならばと、魔族と共生する時代を受け入れたのだ。


 彼女はこの都に住み、頻繁にトルストイに会っているらしい。


「いや、問題ない。もう用事は終わった」


 アイスキュロスは身を引く。

 実際、彼の用事は終わっていた。


 アイスキュロスは今日、トルストイに幾ばくかの報告を行った。

 だが、彼の今回の訪問の最大の目的は別にある。

 それは世界の統一王になったトルストイの、状態確認。


 統一王という地位の重さに押しつぶされてはいやしないか?

 周りを人間に囲まれ、負担に感じていないか?

 そもそも、うまくやれているだろうか?


 そんなことを考えて、心配して、会いに来たのだ。


 この調子なら大丈夫。

 そう思えた今、もう用事はない。

 むしろこれからは頼らせてもらおうとほくそ笑む。


「悪い顔してるねえ?アイスキュロス」

「地顔だ。相変わらず無礼なやつめ」

「元から悪いけど、さらに悪い顔してたってことだよ。あまりトルストイに迷惑かけたら、私が許さないよ?」


「そんな心配いただかなくても大丈夫ですよ」などとトルストイは笑っているが、アイスキュロスは内心ヒヤヒヤしていた。

 いまやこの世界において、一対一の戦いならば柊伊弦に勝てる者はいない。

 彼女を本気で怒らせたらと思うと、背筋がゾッとする。


 くわばらくわばらと、トルストイの部屋を辞す。


 会釈をしてくる者がいる。

 敬礼をしてくる者がいる。

 いろんな者たちがいる。

 だが、自分を恐れるような者は誰ひとりとしていない。


「我ら魔族が、人と生きる時代が来ようとはな…」


 かつて一人の王がいた。

 彼は即位した時、黄金の時代の始まりを宣言したという。


 多くの者は当時、それを笑った。

 信じる者は、かの王の国民だけだった。

 だが今、それを笑う者などどこにもいない。


 誰もが理解しているのだ。


 黄金の時代の、到来を



次回は都に住む人の話の予定です。

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