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最終話 神

 異界の神って誰だよ!?


 取り敢えず後ろを振り向く。

 声をかけてる相手は俺ではなく、俺の後ろに立つ人物。

 その可能性にかけて。


 だがそんな一縷の望みは一瞬で切り捨てられた。

 そこにいたのは驚愕した顔で俺を見つめる面々だけ。

 いや、一部納得したというか当然だという顔をしてるやつらがいるぞ。

 何に納得してるんだ、何に。


「ま、まさか先輩が…。私達の世界の、神…?」


 いやいやいやいや

 馬路倉、むしろ君は真っ先に疑うべきだろう。

 弓道部時代、俺が神なんて片鱗あったか?

 絶対ないだろ。


「私が転移したあの日、私が弓道場に行ったのは、偶然じゃなかったんですね…。旅立つ私へ言葉を授けてくださるために、あえて…。導いてくださっていた…。昔も、今も…!」


 涙をポロポロ流しながら何か言っている。

 馬路倉にとっては何か思い当たることがあったらしい。

 だが俺には全くない。


 馬路倉が転移した日のことは、教師や警察に散々聞かれたからよく覚えている。

 単に弓道場で的の張り替え一緒にやっただけだ。

 それだけ。

 授けた言葉って、何?

 むしろ見送ってやれば良かったと申し訳なさでいっぱいなのだが。


「も、申し訳ございません」


 だが何故か謝罪は俺の前方から聞こえてくる。


「ご挨拶が遅れたこと、やはりご立腹なのでしょうか?そのようにわざわざ、首を背けられて…」


 女神が俺に謝罪している。

 俺が後ろを振り向いたことを、俺が機嫌を害したせいだと勘違いしたらしい。


 今さらそんな勘違いはどうでもいい。

 もっと重要で遥かにやばい勘違いの方が最重要事項だ。

 最優先で対処しなければ。


 でもいったい何をどうしろと?


 俺が神ではないというのは揺るぎない事実。

 だがその証明はどうやればいいんだろう?

 これって悪魔の証明では?


 そんな悩みに打ちひしがれる俺に助け舟が!


「あの、女神様。その、兄様のことを、どうして、その、神だと…?」


 さすがカルサ!

 女神が俺のことを神だと勘違いした理由を聞いて、それを否定すればいいわけだな!


 さあ来いと、鼻息荒く女神の言葉に耳を傾ける。



 ---



 申し訳ございません。異界の神。

 説明を省いてしまったことで、我が子たちを混乱させてしまったことにご立腹されていたのですね。

 もちろん私から、説明いたしますとも。


 そしてカルサ、良い質問です。

 ええ。当然あなたのことは存じていますとも、我が最初の宿主の孫娘よ。

 あなたには格別な魔力の才能を与えましたしね。

 しかし異界の神から妹の称号を拝命するとは望外の栄達。

 誇りに思いますよ。


 では私が異界の神に気づいた件について、話をしましょうか。


 その御方が顕現させた奇跡の数々

 それは皆もよく存じているでしょう。

 注目すべきは、その中でも数点。


 それが、神たる証明です。



 ---



 女神が自信満々に語ったその奇跡とは、三つ。


 一つ

 一切己の力を使わず、他者を導くことで世界統一を果たしたこと。

 人々を導いていくという、神の模範を示した。


 二つ

 神より与えられし力、偽王の王者の結界と大魔王の能力。

 人の手では破り得ないその二つ()()にだけ、あえて力を奮ったこと。

 神の力が必要な時と場所を見極め、最小限の力のみ奮ったというこの事実こそ、神たる所以。


 三つ

 己の化身、神の力を宿したアルカ

 彼女の力を理解しつつ、一切使わずに世界統一を成しえたこと。

 神の力という、誰もが羨み、誰もが求めるその力。それを、知っているのに使わなかった。

 なんという胆力。なんという気高さ。まさに、神。


 神の力を拒否し、しかし神しか成し得ないときだけ力を貸し、人々に範を示し導くことで世界統一を成し遂げた。

 これを神と言わずして、何と言いましょう?

 などと力説してくれた。


 当然、全てが勘違いである。


 一つ目は、そもそも俺に何の力も才能もないから。

 なのに旗頭になってしまったので、結果的に周囲の力で世界統一してしまっただけである。

 使う使わないではない、そもそも使えるものがなかったのだ。。


 二つ目は、たまたま偶然だ。

 たまたま俺が直接手を下したのがその二回だけ。

 そして偽王の時は武器が特別で、大魔王のときは俺が最弱だったから。

 単に、それだけなのだ。


 最後の三つ目、これは単に使えなかったのだ。

 命の恩人である村長に託された、大事な大事な孫娘。

 そんな彼女の力を利用することなど俺にはできない。

 使いたくても使えない、そんな力。

 ってか、実は少し借りてるし。魔法国とかで。


 そもそも穴だらけの理論だ。

 いったいこの女神は何を見ていたのだ?


 だが、現実というものは恐ろしい。

 周囲から「おおー」とか「確かに」とか納得する声が聞こえてくる。

 幻聴だと思いたい。

 うちの優秀な皆がこんな世迷い言を信じるなんて、それこそ信じられない。


「当たり前だ」「自明の理です」なんて言ってる声は無視。

 あいつらは俺のことを盲目的に信じすぎる。


「主様…。魔力をお持ちでないというのは、まさか、そういう…?」


 ワーズワース!君、気づいていたのかい!?

 正解に限りなく近づいていた人物が、まさかいたとは!

 さすが最古の魔王だね!


 と喜んだのがもつかの間。

 彼の生みの親が間髪入れずに上書きする。


「ワーズワース。異界の神が力を封印されていることに気づいたのは実に聡かったですね。ですがその先までは、気づかなかったようですね?」

「ぎょ、御意。想像を、遥かに超える、事実で…」

「無理もありません。私も気づいた時は、衝撃的でした」


 せっかく正解に近づいてたのに、そのまま遙か先へ連れて行かれてしまった。


 恐ろしきは、勘違いの伝染か。



 今日一番のため息をつく。


 女神の言葉を否定するのは簡単だ。

 だが、それで女神が納得するかどうかは別問題である。

 思い込みが激しいこの女神さまを説得できる自信は、正直ない。


 そしてそれは他の皆も同様だ。

 女神という超常の存在が俺のことを神だと断言してしまった。

 今さら否定しても、正体を隠しているとか謙遜しているとか思われてしまうだけだろう。


 俺はすでに、退路を断たれているのだ。


 周りを見回すと、皆が俺を見つめる目が違った。

 まさに神の如き存在を見る目で見つめている。

 ジェンガやボードは変わってないが、まあ、彼らは元からおかしかったので仕方ない。


 王位を宣言したときのことを思い出す。

 あのときも、俺は今みたいに一人ぼっちだった。


 いや、あのときは一人ぼっちではなかった。

 そして今も、一人ぼっちではなかった。


 カルサ


 カルサだけは今も、「兄様、大丈夫?」という視線を送ってくれている。

 カルサだけが昔も今も、俺を俺と見てくれる。


 そのおかげで俺は、がんばってこられた。

 だからもう少しだけ、がんばってみようか。



 ---



「神とは、人より崇められるものだ。ならば神に崇められる存在とは、いったい何なのだろうな?」


 俺が口を開くと、女神が身震いした。

 まるで神から直接声をかけられたかのごとく。


「お前が俺を神と呼ぶならば、俺は、そのような存在なのだろう」


 女神の顔が紅潮する。

 まるでずっと会いたかった存在にようやく会えたかのように。


「俺は人を導き、魔を導き、ここまでたどり着いた。理由は、わかるな?」

「も、申し訳ございません。ぞ、存じ上げません」


 女神は答える。

 申し訳無さそうに


「俺は、あらゆる者たちを導いてきた。ここにも迷える者がいる。だから、来た」


 だが、期待に胸を膨らませながら。


「今度はお前を、導いてやろう」


 期待して期待して、それが実現したとき

 人は喜びを爆発させるだろう。


 神も、同じらしい。


「あ、ありがたき幸せにございます!か、感謝の言葉も、ございません!!」


 女神が俺にすがりつく。

 歓喜にむせび泣きながら。


 大歓声が聞こえる。

 俺と女神を称える大歓声が。


 それとは対照的に俺の頭は冷静だった。

 女神の包容を受けたことがある人間なんて、どれほどいるのだろうか?なんて考えが浮かんでくるぐらいに。


 だが、もう取り返しはつかない。

 俺は言ってしまった。やってしまった。


 今度は国や人類どころではない。


「異界の神。いえ、神の中の神、リク・ルゥルゥ様!どうか私を、私の世界を、お導きください!」


 文字通り世界を、神を、導いていかねばならないのだ。


 俺にできることなど何もないだろう。

 だが、他の誰でもなく俺を頼られたのなら


「やるしかないじゃないか」


 何ができるかはわからないが


「やってやろうじゃないか」


 神だろうと、導いてやろうじゃないか


 それが、勘違いだろうとな!



勘違いの英雄譚。以上で、本編完結となります。

今まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

予定よりも時間がかかってしまいましたが、完結まで楽しんでいただけたのなら幸いです。


なおあと二話、その後のエピソード集とエピローグを追加できればと考えております。

完結設定はしておりますが、更新できた際はそちらもチェック頂ますようお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女神まで勘違いしてやがった! これにはさしものリクも苦笑い
[一言] 今日、今年一番の抱腹絶倒してますwwwwww わははははははははーーーーーーー まさか、神様もヨイショさせるとわ〜 ある意味、伝説の誕生をこの目(活字)で目の当たりにしてます。 このままエ…
[良い点] 完結お疲れ様でした。初期から追いかけていましたが、ついぞリク君はチート貰えませんでしたね。それでも諦めずに進めるのがリク君の良い所! [気になる点] 最後の駆け足感。本編読めて有り難かった…
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