129話 女神の真意
「大魔王様、お久しゅうございます!!」
何から聞こう
何と話しかけよう
そんなことを考えていたら、先を越されてしまった。
感激で涙ぐんでる声の主
ワーズワースだ。
ってか、大魔王?
「久しぶりですね。ワーズワース。でも私はもうその名は譲り渡しましたよ?今呼ばれるとしたら、それはそこで眠っている方です」
「おお、これは失礼をば。感激のあまり、ついつい先走ってしまいました。お許しください」
何でもこの女神さまこそ誰あろう、初代大魔王なのだという。
世界を創り上げ、大魔王として世界に君臨した。
そしてある日突然、地上を去ったのだ。
「残ってる子供たちは、もう3人だけになってしまいましたね。アイスキュロス、あなたも壮健で何よりです」
「お言葉を賜り、恐悦至極に存じます」
アイスキュロスは緊張で凝り固まっている。
ワーズワース興奮もしているが同時に緊張もしている。
どれほどぶりなのかはわからないが、二人にとっては親のような存在なのだろう。
嬉しくて仕方ないのが伝わってくる。
「ギドは、相変わらず聡い子でしてね。私が地上に降り立ったらすぐに会いに来てくれたのですよ」
「あやつ!」
「我らを差し置いて!」
ギドとは、あの商人のギドか。
大陸一の大商人。
あんな大物がわざわざ辺境の村に来ていた理由はそうだったのか。
村長やアルカに会うためだと思っていたが、微妙に違っていた。
真の目的は、その中にいた女神だったのだ。
じゃあそもそもどうして村長と一体化していたのか?
その疑問を口にする前に、またも先を越される。
「私達のことは、覚えてるのかな?女神様」
柊。
そして馬路倉、エキドナ。
柊だけは堂々と。
他の二人は珍しく腰が引けた様子だ。
彼女たちでも女神は緊張するらしい。
「もちろん覚えてますよ、異界よりの客人たち。私の世界のために尽力いただき、本当に感謝しています」
「い、いえ…。どういたしまして」
さすがの柊も怯んでいる。
まあ、神にお礼を言われては仕方あるまい。
「どうして、魔法王陛下や皆さんを、私達の世界に呼んだんですか?わざわざ、異世界から」
怯む三人をよそに、今度口を開いたのは我が妹カルサ
尊敬し、敬愛する魔法王
彼女のために、代わりに質問したという感じだろうか。
「もちろん、世界を正しく導いてもらうためです」
女神は断言する。
だが、さっぱり意味がわからない。
「わ、私、覚えてます。その言葉。でもそれって、具体的にはどういう意味だったのでしょうか?」
さすがに疑問に思ったのだろう。
勇気を振り絞って馬路倉が口を開いた。
「?皆さんにお会いした際、一番最初に説明していますよ?」
女神は不思議そうにしている。
そして馬路倉たちは全員気まずそうだ。
「最初だと、間違いなく気が動転してて、何も耳に入っていなかったと思います…」
「なるほど。そういうことでしたか」
納得できたらしく、女神は説明を始める。
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まず私は大地を創りました。
そして次に、人を生み出しました。
でも彼らは弱々しく、世界を導くためには少し頼りない。
そう考えた私は、人よりも少し力が強く、少し寿命が長い者たちも新しく生み出した。
それが、魔族です。
魔族と人が似ているのを疑問に思っていた者もいるようですね。
似ているのがむしろ当然なのです。
みんな同じ、私の子どもたちなのですから。
最初、世界は平和で豊かでした。
人と魔族が大地に満ちていく。
魔族も人も手を取り合い、世界は繁栄していったのです。
だから私はもういいと思いました。
神、当時私は大魔王と呼ばれていましたが、そんな絶対者が世界を導く時代は終わり、子どもたちだけで世界を導いていく時代になったと考えたのです。
ですが、それは間違いでした。
私の次の大魔王は、導く者ではなく支配する者だったのです。
魔王たちとの主従関係を確立し、人を奴隷とする魔族による専制統治。
そのような世界に、なってしまったのです。
私の想いを、考えを、唯一理解してくれていたのはトルストイ
あなたの父親だけだったかもしれません。
そんな世界は延々と続きました。
魔族が支配者で人が奴隷であること
それが当たり前の世界になってしまったのです。
また私が地上に降り立てば、全ては解決したかもしれません。
でも、それをしては意味がない。
子どもたちはいつまでもいつまでも自立できない。
だから私は考えたのです。
異界からの客人に、世界を導いてもらおうと。
異界と繋がることは容易なことではありません。
ですが私は幸運にも、ある時期ある地域の異界と繋がりを持つことができました。
その世界で人は、繁栄を謳歌していました。
大地は人の手によって生み出したもので覆い尽くされ、建造物は天を衝く。
人は大地に満ちるどころか溢れ出す勢いで、空も海をも支配する。
そのような世界に生きる者ならば、こんな世界で生まれ育った者ならば、私の世界を導くことができる。
そう考え、私はその世界に住む人々を呼び出したのです。
ただその世界の人々には、一つ問題がありました。
それは、弱いこと。
私の世界でも人は弱いものですが
それよりもさらに、弱かったのです。
だから私は彼ら彼女たちを呼び出した際、力を与えました。
才能と力、その二つがあれば世界を導くことができる。
そう、考えたのです。
そして現実に、そこにいる三名は全員この世界の人を導いてくれています。
本当に、感謝していますよ。
そこに倒れている方は、その方の考えで魔族を導き人を導こうとしていました。
あともう少し、でしたね。
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この大魔王のことをそんなふうに言うとは。
神の考えはやはり人間とは違うらしい。
それもかなり。
彼女が君臨していた時代も、彼女の口からだと王道楽土だったかのように聞こえる。
だがワーズワースに聞くところによると、魔族による統治はすでに行われていたという。
ただ人が召使いか奴隷だったかの違いだ。
偉すぎて下のことが見えていない典型と言ったところか。
社長だったら首をすげ替えればいいが、それが神ではどうしようもないな。
柊、馬路倉、エキドナ
三人とも初めて知ったかのような顔をしている。
彼女たちが文字通り、「世界を正しく導く」ことを求められていたことを。
そして、あまりの話の重さに絶句している。
当然だ。
世界を正しく導くなんざ、一般市民に求めないでもらいたい。
俺たちの世界が繁栄したのは、過去の偉人から一般人までの努力の積み重ねの成果。
一人の力や才能じゃ、どうしようもなかったというのに。
「あ、あの…。では、どうして、おばあちゃんや私の、中に…?」
問い詰めてやろうかと思ったが、さすがに女神を問い詰めるのは躊躇する。
するとまた先を越されてしまった。
質問の主はアルカ
内容はまあ、当然のものだ。
「あなたの祖母、ルゥルゥ。彼女に今のことを伝えたら言われたのです。”あんたは馬鹿で世間知らずだ。あたしと一緒に地上に降りてきな。現実ってもんを見せてやるよ”と」
…さすが村長。
相手が女神だろうと、全く躊躇がない。
「大魔王様に何たることを!」とワーズワースが怒っているが放置。
ちなみにエキドナは小さくガッツポーズをとっている。
女神に対して思うところがあるらしい。
「その願いを叶え、私は地上に降り立つことにしました。そして彼女は私を宿すことで神の力の一端を手にしました。しかしその力を振るわれては意味がない。なので一つだけ約束をしました。それは、自衛以外では自分の意志で他者を傷つけないこと、です」
「あなたに力が受け継がれたときも、当然その約束は受け継がれましたよ」とアルカに告げる。
本来ならありえなかった、力の受け継ぎ。
だが村長は女神を説得した。
「孫を救うのは娘の願い。あんたに謁見した時あたしのお腹の中にいた、娘の願いだよ」と。
その願いは受け入れられた。
そしてアルカは神の力を得、命を救われた。
村長が力の使い所を俺に託したのも納得だ。
そもそもアルカは、自分のために力を使うことはできなかったのである。
ゆえに、俺に託した。
だが理由が何であろうと、それが俺への信頼だということに変わりない。
俺は村長の信頼を裏切らなかった。
その事実に、安堵する。
話したい人間はもういないだろうか?
ここまで来たら俺は一番最後でいい。
そう思って周りを見るが、みんな満足したのか黙っている。
いや違う。
俺の番だとでも言うように、俺へと視線が集まっている。
この場の全員の視線。
そう、全員。
女神までもが、俺を注視している。
いったい何故?と思うが、より強い疑問が襲いかかる。
「お目にかかれて、光栄です。すぐにご挨拶すべきところにもかかわらず、我が子達との会話を優先させたご無礼、お許しください。そして我が子達との時間をお与えいただき、心より御礼申し上げます」
女神が、頭を下げた。
意味がわからない。
「我が子達を導いていただき、感謝の言葉もございません。異界の神よ」
異界の神って、誰??
ついに女神の考えが明かされました。
リクのことまでは一話に収まらなかったため、次回に持ち越しとなります。申し訳ありません。




